Episode64 "メッシーナ海峡"
「真意となぁ?」
キュベレーは眉をひそめエウリュアレーへと目を移すとエウリュアレーは一本の木が崩れた事により出来た天井の大穴を見つめていた。
「あぁ、簡潔に言う。ラードーンは生き返った訳ではない。」
「生き返った訳ではない?何を言いよるぅ、妾たちは目にしたではないかぇ。」
「なにゆえ、このような低層に林檎園を築く。本来ならば果実は聖域にてこの塔以上の警戒が敷かれている筈だ。ラードーンは慎重で責任を強固に持つ者と聞く。ならば答えは簡単だ、あやつは黄色の果実の護りではなく守護を目的に活動していたと推測出来る。何よりもあやつが口にした母という言葉から導き出される人物は一人しかなかろう?」
鼻を鳴らし枯れた林檎を手に取りキュベレーへと嗤う。
「.....蝮の女かぇ。」
キュベレーは苦虫を潰したような表情を取る。
「そう、そしてこの塔の支配下が奴の手にあると言う事は目的は一つしかない。」
そのエウリュアレーの一言にキュベレーは大穴へと跳躍しエウリュアレーへと叫ぶ。
「はよぉせい、堕蛇ぃ!それが確かならば、密度の高い神血を流す、森精の近くにいるジョンは安全ではない!」
そして大穴の闇へと消えるキュベレーを鋭く睨み一人呟く。
「焦りすぎだ、脳筋めが。我らが事を急げば.....いや、其方の言うとおり合流しこの塔を後にした方がよいのかもしれん。何よりも、ジョンに迫る蝮の血族の中には神血を流す者もいる。急がねば。」
エウリュアレーはキュベレーに続き大穴へと入るが。
「なっ!?」
穴を抜けたと動じに世界は逆転し逆さに地へと落ちていく。強く豪雨が身体へと当たり、下は酷く波打つ海洋だった。
「馬鹿な、このような大禁術!ちっ、石化の魔眼!!」
自身の身体をひねり視界一面に広がる海面を石化せさる。そして無事、着地をすると膝をつけた。
「ぐっ.....使い過ぎたか....」
両目からは血が流れ両手で抑えるエウリュアレー。
「ほぅ、このような物まで、石化が出来るのかぇ。」
大樹が石化をした海面からいくつも生え上がりその枝にびしょ濡れになりながら座るキュベレー。エウリュアレーはすぐに血を拭いキュベレーを見上げる。
「能面......そなたは芸道の才能でもあるのではないか、くく。」
びしょ濡れの姿を確認しあざ笑う様に嗤うエウリュアレーに苛立ちを感じるキュベレー。
「五月蝿いわぇ、妾の権能は大地に在り、海洋に無いだけぇ。」
キュベレーはイライラした様に一つの大樹を空高く成長させ周りを見渡す。エウリュアレーはその大樹へと飛び乗りキュベレーの隣へと立つ。
「此処は.....」
「まったく面倒な所へ繋げるぇ。」
豪雨は強く二人へと叩きつけるが太陽の光が同時に二人の立つ陸もどきを指していた。
「......メッシーナ海峡」
エウリュアレーは小さく呟くとキュベレーは木へと持たれかかった。
「妾はこの地では力の1/10程の力も出せぬ。「神気を解放すればよかろうが。」そなたはアホかぇ?妾は堕蛇と違い女神の盟約が世界と成されている。解放などしてみろ、権能の剥奪で済めばよかろうが、妾の処分の為、数多の神々が総じて襲って来るではないかぇ。」
神気の解放とはすなわち生来の姿に回帰すると言う事だ。その姿を持ち人里に降れば、人は姿を目視出来ず灰へと帰す。例外として半神や聖の獣などは影響は出ない。
「そちの石化の魔眼を用いてぇ、海面を硬化させ足を進めれば言いと考えついたがぁ......別の方法を考えるぇ。」
エウリュアレーの目の下の血の後を確認し海峡を見つめ直すキュベレー。
「心配はいらぬ.....メデューサの強大過ぎる力を制御しきれていないだけだ。....姉の偉大さを今一度、理解をした。直にこの権能も我が身体へと馴染むだろぅ。」
ステンノーとエウリュアレーの権能を譲り受けたエウリュアレーはその余りにも巨大な力を支配しきれてはいなかった。本来、権能を馴染ませるには幾十年もの月日を得てようやく自身の身体の一部となるのだ。
「其方かて、プリギュアにて結んだ神の盟約、権能の譲渡、すなわち、我ら堕ちたる12神が死すれば権能はその身体へと回帰しようが。先の戦で死したスキュラの権能、使えばこの海域では無双を誇るのではないか。もっとも使わぬと言うことは我の様に権能への負担はある、が使えぬ訳ではあるまい?」
「使えぬ。」
「.....スキュラは死しただろう?「見えぬか?この海峡を見渡して見よ。」......この神気は「そう、スキュラが死したの確かだが、プリギュアに存在したスキュラはメッシーナ海峡から逃れた乙女ぇ」
海峡の広がる渦を見渡し目を瞑るキュベレー。
「魔女キルケーにより姿を変えられたスキュラはこの海峡に未だに存在するぇ。呪いが全身に広がる前に奴は己を二つの個へと別たれたぇ。」
「だが、それでも尚、其方はその半個を取り込んだのであろう、ならば「.....忌々しい乙女めが先に取り込んだぇ。スキュラは海精の一種、プリギュアを襲撃したニュンペーは六体、そしてその一人一人がニュンペーの各属性を司っていたぇ。それを意味するのは奴ら自身が仲間を取り込んでいるからぇ。」
エウリュアレーは目を見開きその事実に驚愕する。
「そちが石化した乙女を覚えてはおるかぇ?アレは山精ぇ。本来の在るべき姿であれば忌々しいオリュンポス神の一人、狩猟の女神であるアルテミスと共に山野を駆け回る野兎よぉ。」
「能面、貴様、あの石化した山精の亡骸を回収したのか?」
「亡骸ではない、奴は生きてるぇ。「何!?それは」黙って聞くぇ。アレは砕き全ての塵を跡形も無く消しされば復活、再生するぇ。妾はその石像を城の奥深くへと封印したがすぐにあの山精に気づかれであろうな。」
「な!?貴様、正気か!あの者を野に戻すのは危険過ぎる!」
「プリギュアにいない事を利用してオレイアスめが封印を破壊するのは確かでであろうなぁ。だがそれで良いぇ。新たな戦力となる、くく。」
鋭い眼光で静かに嗤うキュベレーにエウリュアレーは不安を感じる。
(.....この者は真にギリシアの覇権を握るつもりでいる。先に待つのは戦火のみ。常に死が隣り合わせとなる。)
「....ジョン。」
エウリュアレーは小さく瀬名の名前を口にする。
「能面、貴様は戦火の渦にジョンを巻き込むつもりか。」
「あぁ、巻き込むぇ。妾の隣に相応しい夫にはこの世界の王となって貰うぇ。そして妾はその妃である女王としてこの世界に君臨するぇ。」
「ジョンがそれを望まなくてもか。」
「望むさ。妾には分かるぇ。ジョンはあぁ見えて欲深い人間であるとなぁ。」
その表情に曇り無く堂々と宣言をするキュベレー。エウリュアレーはその宣言に何も返す事が出来なかった。
「さて、長話も良いがぁ、そろそろ、行くぇ。そちの瞳力も回復したであろう?」
キュベレーは先に大樹を下り石化した海面のギリギリの位置まで先行する。
「欲深い...か。その道は修羅の道だ。ジョン、其方がもし、その道を進むと望むのならば我は全霊を持って其方の助けとなり刃を世界に振るおう。死なせはしない、我がいる限りはな。」
エウリュアレーも大樹の大枝から飛び降りキュベレーの後を追った。




