Episode63 "蛇と大地母神"
蝮女の塔へと張られる結界へと辿り着いた蛇と大地母神。
「ほらぁ、堕蛇、はよぉ石化を使うぇ。」
「はぁ、我は貴様に隷属をしている訳では無いこと忘れるな。」
エウリュアレーはため息を吐きながら目を閉じる。
「(石化の魔眼)」
そして再び瞳を開眼させると黄色の眼光に紅蓮の色が混ざり結界の一部を石化させる。キュベレーはしたり顔で一歩を踏み出みだすと大地の一部が盛りあがり石化した部位を破壊した。
「くく、妾が入ればこのような結界なぞ造作もないぇ。」
「我がやったのだが.....」
結界の一部が破壊された事により塔への侵入が可能となった今、キュベレーはそくそくとその足を前へと運ばせる。エウリュアレーはやれやれと首を横に振りキュベレーの後を追った。
「ほぇ〜高いぇ、欲しいぇ!その星へと届かせる傲慢な姿、オリュンポスの神々が見ればさぞ羨ましいがろうなぁ、なぁ堕蛇ぃ?」
「ふん、オリュンポスの事だ、直ぐに略奪戦争が起きるぞ。」
塔の真下へと辿り着いた二人の女神。キュベレーは目を輝かせ塔を物欲しそうに見る。エウリュアレーはそのキュベレーの姿を横目にオリュンポスへの怒りを思い出していた。
「上等じゃあ無いかぇ。ジョンを取り戻せればオリュンポスへの勝機は見えて来るぅ。」
「ジョンはまだ未熟だ。神の実であるアムブロシアを食し不死になったとてギリシア随一の実力を持つオリュンポスとでは拮抗すら出来ぬまま無惨に殺される。」
人が不死、神になると言うことは寿命と言う概念、そして人が抗えぬ程の力を手にする事を意味する。そして神血を身に宿した人間は神同様、人の攻撃は肌を通らぬと言う事になるが、同じ神同士ならば話しは違ってくる。仮にアンブロシアを食し神血を身に宿す者と生死を賭け戦えば経験値が低く権能も備えていない瀬名では瞬殺されるのは言われるまでもないだろう。
「ふ、ジョンは妾のモチベーションぇ。プリギュアの最大戦力であった堕ちたる神々は総勢で12対はいた。だが先のニュンペー共の襲撃で6対は堕とされたぇ。だが、幸運な事にぃ、落とされた六対よりも優れた木精、そして忌々しくはあるがぁ妾の永遠の妻夫となるジョンに纏わりつくぅ蜚蠊がプリギュアの戦力に加われば、くくく、ギリシアの覇権は妾の物となるぇ。」
キュベレーは塔の眼前で手を広げエウリュアレーへと自身の野望を口にした。その姿にエウリュアレーは鋭い目つきで返し先に塔へと足を踏み出す。ちなみに蜚蠊とはゴキブリの事である。
「オリュンポスの神々を殺せるのであれば、我に反論の意思は無い。だがジョンと妻夫となるのは我を置いて他におらず。」
「なっ!?」
キュベレーはきぃぃぃぃ!と腕を上げエウリュアレーの後を追うのだった。
「それにしても、何処をどう進めばいいのだ。我は余りこう言った地形、建物の概要を余り知らぬ。」
暫く塔の中を徘徊していると二人は道に迷った。
「デュスノミアー、ポノス、レーテー、アルゴス、レートー、アーテー、此奴らをどうにかせねばな。」
キュベレーは話しを聞いておらず唯、エウリュアレの隣に立ち何も考えず歩いていた。
「おい、聞いているのか、能面!」
「まずはアーテーをオリュンポスへと送り込「いい加減にしろ、卑しい事ばかり考えおって。我らはジョンの為に動いているのだぞ。」分かぁておるぇ。妾の第一はジョンぇ、そして妻である妾がこれからの夫である王を支える為にギリシアの覇権を握らなければならぬえ。その為の戦略を練って何が悪い。」
(能面め、その野望がいくつの命を奪うのか理解をしておらぬな。ジョンと自分以外を全て駒として考えギリシアを掌握するつもりでいるのであろうが無駄だ。ジョンを捉え次第、妾はジョンと共に身を眩ますのだからなぁ。)
キュベレーは淡々とそう口にするがエウリュアレーは怒った自分が馬鹿だったと一人でこの塔の攻略を考える事にする。
「この入り組んだ先の道を進むには余りにも視覚による情報が足りぬな。一度、この道を戻り.....」
エウリュアレーは来た道を一度戻ろうとするのだが既にそこに道は無く壁により塞がれていた。
「なぁ、能面。」
二人の女神はお互いの視線を合わせコンタクトを送るがキュベレーは首を横に振りそれを否定した。
「あぁ、分かぁあておるぇ。だがしてはならぬ。」
「は?」
「この巨塔は妾の城となる。余り壊されたのでは修復が大変ぇ。」
「貴様の大地の権能を使用すれば即座に修復は可能だろう、此処は敵の罠に乗らず敢えて道を破壊しながら進むべきだ。」
エウリュアレーはイライラとした様子でキュベレーへと告げるがキュベレーはイヤンイヤンと駄々をこねる。それに見かねたエウリュアレーはキュベレーの意見を無視して先の入り組んだ道を器用に破壊しながら進んで行く。時折罠の為に仕掛けたであろう斧や矢、食人種の類などが襲ってきたが全てを倒し先へ先へと進んだ。
「堕蛇ぃー!ヤメぇー!妾の城ぉー!」
後ろでぎゃぎゃ騒ぐキュベレーを無視して敵をなぎ倒していく。なぎ倒していくと言っても神圧を与えすりつぶしているだけなのだが。
「....何だ、此処は。よおやくふざけた罠の巣から抜け出したかと思えば広い間に出おったぞ、能面。」
後ろを振り向くと自分の声には耳を貸さず破壊して来たであろう道を修復しているキュベレーの姿があった。
「おい!聞かぬか、たわけ!」
「黙れぇ!そちの所為でどれほど、妾の新たな城に傷が出来たと思うておるぇ!」
涙目になりながらそう叫ぶキュベレーに内心、知るか、と思うエウリュアレーはキュベレーを置き、間へと先行する事にする。
(あの馬鹿めが、目先の宝に浮かれよって。)
毒を吐きながら先を歩いていると視える世界が唐突に変化する。その間の変化に動じず口元を緩ませ上を見上げると一本の大樹が天井から生えていた。周りは林檎園の様になっており、全ての林檎が黄金色となっていた。
「ラードーン。其方は口の中に蜂の巣を投げ込まれ、蜂に口の中を刺されて倒された。はたまたヒュドラーの毒のついた矢によって倒されたとも噂では聞いていたが生きていたのだな。」
林檎園は黄金色に輝き間全体を明るく照らす。そしてそのエウリュアレーの発言に答える様に天井に植えられた一本の大樹の穴からラードーンが姿を現した。
「(此処は其方らが足を踏み入れていい場所ではない。)」
100の頭を持つ茶色いドラゴン、蛇はその大樹を蛇の様に身体を巻きつけエウリュアレーを見下ろす。そしてエウリュアレーがその返事を返そうと口を開くと後ろからスキップをしながらかけよって来たキュベレーにより遮ぎられた。
「堕蛇ぃ!堕蛇ぃ!堕蛇ぃー!見よ!黄金の林檎だ!この果実がこのような場所で見つけられるとはなぁ。これでジョンへの貢物は確保出来たぇ。くく、あの忌々しきニュンペーの悔しがる表情が容易に想像出来るぅ。」
両腕いっぱいに黄金の林檎を抱えるキュベレーは嬉しそうにそう口にするとラードーンの姿を目にする。
「......なぁ、堕蛇ぃ「何だ。」あやつ、確かアルケイデースの試練の際、「あぁ、その《くだり》なら既に終えておる。」....そうかぇ。」
同情する眼差しでラードーンを見る二人。その同情の視線にラードーンの百を越える瞳は涙曇った。
「(もぅ、あれ程の痛みを背負いたくは無い。願わくばこの地を去って欲しい。神族達よ。)」
争いをすればラードーンは敗北をすると本能が告げていた。だからこそ、この二対の女神とは争わず静かに事を得たかったのだがその願いは虚しく無へと帰した。
「この塔の支配者の所まで案内せぇ、百頭ぁ。さすれば命までは取らぬぇ。」
速高で脅しを掛けるキュベレー。
「(母より授かりし階層。再び私に命を吹き込んで下さったのだ。使命を遂行する為に私はその願いを拒絶する。)」
その発言と共に百の口からは火炎が吐き出され間全体へと降り注ごうとするがエウリュアレーの手により防がれる。火炎そのものが石化し塵となり空気へと散って行ったのだ。
「そうかぇ。ではその忠義に免じて痛み無く其方の鼓動を止めようぞ。」
キュベレーのその発現と共にエウリュアレーは再び権能を発動した。
「(石化の魔眼)」
ラードーンとその身を絡ませる大樹は徐々に石化をして行きラードーンはその身を悲観しながら石となった。
「蜂に口内を蹂躙されるよりはマシな死だろうよ、ラードーン。」
エウリュアレーは同情した瞳で石化をしたラードーンを見ているとラードーンと大樹は石化した影響で地上へと落下し砕けた。
「な!?黄金の林檎が!!」
するとキュベレーが騒ぎ出した。どうやら、其処ら中に生えていた黄金の果実が萎んだようだ。その姿を見てエウリュアレーは何かを理解したように笑みを浮かべた。
「分かったぞ、能面。この塔の真意がなぁ。」




