Episode62 "スフィンクスの最後"
「アルセイド!ネーレイスちゃん!」
瀬名の顔からは希望が満ちた様に綻んでいた。その表情を眼にしたアルセイドとネーレイスは赤面し乙女の表情を見せる。
「あぁ、セナがアルセイドの事を熱い眼で見てくれてる。」
「ジョン君風に言うなら、まさしく物語のヒロインが危機に陥った時に姿を現しドヤ顔を決めている主人公の気持ちが物凄く分かりましたね、ふふ。」
クルンクルンと嬉しそうに踊り狂う二人にオルトロスはスフィンクスの瀕死体を越え眼前へと立ち塞がる。
「あら、子犬さん、どうしました?」
ネーレイスは無機質な笑みを浮かべオルトロスへと触れようとするが身体を噛み裂かれ喰われてしまった。
「ネーレイスちゃん!」
瀬名は叫ぶ。アルセイドはその様子をオルトロスへと指を指しながら嗤っていた。
「ネーレイスを食べたの?お馬鹿さんだなぁ、クスクス。」
オルトロスはその言動、行動に怒りを感じ飛び掛かるがアルセイドはパチンと指を鳴らした。するとオルトロスはその場へと着地し静かに待ての姿勢を取った。オルトロスの両目はぐるぐると黒い渦が回っており如何やらアルセイドの権能に囚われた様だ。
「.....はぁ......はぁ......何者だ、其方は......」
獅子の下半身をオルトロスへと食い千切られ上半身だけとなったスフィンクスは血を流しながらもアルセイドへと尋ねた。
「早く開門しろ。お前自身がこの階層の鍵なのだろ?」
アルセイドは冷たく言い放つ。
「くく、通すと認めたのはそこにいる人の子だ.......はぁ.......はぁ......限界が近い様だ.....今...門への....」
話す事すらも限界に近い様で瞳が虚となって行く。だがアルセイドがパチンと指を鳴らすとスフィンクスの身体は裂かれる以前の元の姿へと戻る。
「一体......何が......」
スフィンクスは驚いた表情で自身の身体を見る。そして元の様に動ける事を確認するとアルセイドへと膝を着き感謝の言葉を述べた。
「其方のお陰か......死に体の身体を奇跡が如し技で治し、延命が出来た。感謝をしても仕切れぬ。」
だがすかさず頭を上げ殺意をアルセイドへと向け放った。
「だが、妾はそう容易く此処を通す訳には行かぬ。母より授かった新たな命、そして使命を果たすためにも。」
オルトロスもワンっと可愛らしい鳴き声を上げるが姿が姿だけに可愛くはなかった。
「セナの教育に貢献したご褒美に助けて上げたのに、死にたいんだね?」
「果たしてそれは如何であろうな、くく。」
嗤う様に言うスフィンクスの言葉と同時にアルセイドの身体には呪印が広がって行った。
「妾の問いに正解が出来たのであれば。其方の呪印「人でしょ?」おほん、妾の問いに正解が出来たのであれ「人でしょ?」...........」
質問を聞く前にアルセイドの身体からは呪印が消え失せた。スフィンクスは何処か拗ねた様にオルトロスを引き連れようと向き直る。が、オルトロスの身体は宙へと浮き苦しそうに暴れる。
「「グルルルルゥゥ!!」」
涎や鼻水を涙などを垂れ流しながら助けをスフィンクスに求める様に視線を投げるがスフィンクスはただその姿を傍観するだけだった。そしてオルトロスは最後にクゥと弱々しい声を出し息を引き取る。そしてオルトロスの穴という穴から大量の水が溢れ鯨の腹を裂く時と同じく大量の内臓が外界へと飛び出すと身体全てが肉塊と化す様に綺麗に弾けた。
「ふふ、初めてして見ましたが、存外、簡単に行きました。」
血の霧が晴れると、女神が降誕した様に裸のネーレイスの姿が現れる。周りには水で出来た数々の花々が海洋の楽園を描く様に咲き誇り此処がエジプト神殿に似た場所である事を忘れる程に衝撃を与えた。
「オルトロス.....」
スフィンクスは小さくそう口にすると自分の胸に手を当て天を仰いだ。そして彼女を中心とし魔法陣が精製され雷の様に天井を破壊しこの階層の宙へと光の柱を作り繋がれた。瀬名はその姿を見ながらコートをネーレイスへと掛ける。
「ジョン君に包まれいますぅ//」
壮絶な光景が広がる眼下でネーレイスは瀬名の温もりを感じ悶える。アルセイドは恨めしくそのネーレイスの姿を移すがすぐにスフィンクスへと戻し問う。
「この塔を統辞しているのは誰?」
「答えずとも、答えは知り得ているのであろう、其方は。」
スフィンクスは苦笑いを浮かべアルセイドへと答えるとアルセイドはやはりと光の柱を見上げた。
「それで、この光の柱に触れれば階層を降りれ」
瀬名はネーレイスの元から離れスフィンクスの元へと駆け寄りその光の柱へと触れると身体が粒子の様に光へと混ざり消えた。
「会話も出来ぬ内に消えたか。面白き人の子よな......出来ることならば共に語り合いたくも合ったな。」
スフィンクスの下半身は徐々に先程負った傷の様に血まみれになって行く。
「.....権能の限界。お前も神血を流す者、信仰されし者だったか。神血の命を繋げるには盟約に従いアルセイドの加護を受けるか、すなわち、お前の支配権をアルセイドに全て委ねるしか助かる道はない。」
人に対し神の権能は十全に機能する。だが神気を纏う者同士の命の助け合いに置いては世界の理によりかなりの制約を交わさなければならないのだ。
人を助けたとて人の寿命は短い。しかし人間を救う様に神同士が寿命の助力をすれば世界の均衡が取れなくなると言う盟約が世界と結ばれていた。
「だからこそ皆は何かしらの再生術、不死と言った超越をした権能を兼ね備えている。」
アルセイドはそう言うとスフィンクスの額を触り問うた。
「お前はセナの教育に貢献した。特別に加護を授けてもいい。」
受けるか否かを目で問うアルセイドにスフィンクスは驚いた表情を取るとすぐに目を閉じ笑った。
「感謝はする....だが妾とて母の娘....血を裏切る事は出来ぬ。二度与えられた命だが.....まっこと面白き経験であった。行け、森の精よ。」
ゆっくりと身体を倒し息をする音が小さくなって行く。アルセイドは彼女のその姿を後に光に触れ消えて行った。
「アルセイドちゃんも素直じゃないですねぇ。私達なら盟約なしで治して上げれるのですが、本人の意思を組んで権能の効果を解いたんですね。」
安らかに眠るスフィンクスの後にネーレイスも光の柱へと触れその階層を去るのだった。
「はぁ....はぁ....あの嬢ちゃん、オレを殺すつもりかよ、クソ、まだ、追いつくよな!」
ボロボロになる身体を引きずりながら螺旋んの階段を掛ける男の姿がそこにはあった。
「なぁあ、堕蛇ぃ、いつになればぁ、ジョンぅのいる場所に辿り着けるぇ?妾は疲れたぇ。」
「神の車を牽くヒッポメネ-ス、そしてアタランテーを失ったのは仕方はない。そして代わりの使い馬を足に連れて行こうとした所、置いて行くと提案したのが能面、貴様であろう!何が“大地の加護を使い移動した方が早ぇ”だ!プリギュアで運動もせずダラけておるからそうなるのだ!」
深い森の中でキュベレーを背に背負うエウリュアレーは怒りを上げ怒鳴る。
「だってぇ、「だってではない!」ジョンに逢いたいぇ、「我も逢いたいわ!」でも妾の足は限界ぇ、「権能を使わんか、たわけ。」領域外だと疲れるぇ「我の方が貴様より疲労しておるわー!文句を垂れるのであれば我の背から降りよ能面!」やぇ!」
駄々をこねながら暴れるキュベレーに苛つきが積もるエウリュアレー。
「痛っい!」
キュベレーが叫ぶ。エウリュアレーがキュベレーの太ももを抓ったのだ。涙目になりながら睨むキュベレを横目に意地悪く笑う。
「もうよい!妾は降りるえ。」
キュベレーはエウリュアレーの背から下り身体を伸ばす。
「赤子の様に我の背に張り付いおうたのは貴様の方だろうが。」
小言を漏らしながら歩くエウリュアレーだがキュベレーは聞いていなかった。
「はぁ、まずはどの様にあのニュンペーを殺すかぇ....そうだ、堕蛇!」
キュベレーは何かを思い出したようにエウリュアレーへと顔を近づける。
「離れぬか、気色が悪い。」
「妾が気色悪いとな!?蛇の分際が人の皮を取り戻したからと調子に乗るなぇ!」
激高する様に両手を上げ怒鳴る。
(此奴、本当に煽りに対する耐性が皆無だな。)
エウリュアレーは何処か同情する様な目でキュベレーを見る。そのエウリュアレーの反応を見てかキュベレーは首を傾げ不思議な表情をとった。
「まぁ、いいぇ。其方の大権能である石化の能力をあのニュンペーへと使うぇ!あの下賎な下級神さえいなくなれば妾がジョンを独り占めに出来るぇ.....くくく。」
まだ使うとは言っていないエウリュアレーはそのキュベレーの姿を見てため息をつく。そして暫くそのような欲望丸出しの会話を聞いていると此処より抜けた森の先からある違和感を感じ表情を改める二人。
「これは.....」
森を抜け視界が鮮明になるとそこには天をも貫く巨塔が姿を現した。人の身では到底創りえない代物に二人は息を呑む。
「これ程の巨塔、何故我らは認知しえなかった。いや、オリュンポスでさえも存在を知り得なかったのか。」
「神による結界が展開されておるぇ。余程、この塔を隠蔽させたいらしぃ。さて、いずれの神がこの塔を設計し建造したのかジョンを助けた後、ゆるりと調べるぇ、くくく。」
支配者の眼光を覗かせるキュベレーにエウリュアレーは冷や汗を見せる。
(この巨塔を征服し我が物とするつもりか、能面。)
二人は巨塔を目指し歩き出すのだった。
次話からは四章下篇となります。




