Episode2 "プロローグ2"
学校の鐘が鳴りホームルームが始まる。教壇に立つ教師の姿を見るのもこれが最後だ。周りの生徒も浮かれた顔で近くの友人と雑談しながら教師の話に耳を傾けている。自分は他とは違いしっかりと教師の話を聞き最後まで模範生でいようとしていた。
(やりすぎたかなぁ後で謝れば、いや、止めておこう。)
今朝の出来事を思い出し罪悪感を感じる。仮にも自分に恋慕をする女性を押し倒してしまったのだ。これ以上は関わるまいと宣言したばかりなのだが心の良心が痛む。
「ーってわけで先生からは以上だ。最後の高校生活だ、今の内にたくさん友達と喋っておけ!先生は一旦職員室に戻りこれからの段取りの確認を取ってくる。30分たったら体育館に行けよお前ら!」
クラスルームから退出する先生を見届けるとクラスの生徒達は立ち上がり仲の良い友人の方へと各々集まる。自分は悲しいかな1人ポツンと自分の席に着席し窓の外を眺めていた。
(こう言うときは本当に困る。一人はやっぱりキツいけど周りに合わせるのも怠いし。だからこそのサス系高校ライフだった訳だがね、まぁ後少しの辛抱だし気にする事はないか。)
そう、推薦と実力で一流大学への切符を得た瀬名に死角はない。卒業後はサス系から脱っするのだ。と考えていると周りでたむろをするカップルの声が聞こえくる。
「大学は違う大学だけどオレ達の愛は永久不滅だ!」
「うん!たっくんの事大好き!ずっと一緒にいようね!」
そのやり取りを見て周りの奴らがひゅうひゅうと騒ぎ、たっくんと呼ばれる男子生徒はやめろよ〜と言いながら照れて笑っていた。
(リア充を見るとイラつくなぁ。いや、モテない訳じゃぁないけど見せびらかすように男女の関係を見せつけてくる事が妬ましよね?そして何よりもウザイのが周りだな。別にこのカップルがどう仲良くしようと何とも思ってない癖に騒ぎ弄ることだよ。うるせぇーんだよ、別にウケねぇよ。)
瀬名はそんなことを思いつつカップルの方へと顔を向けていると彼女さんの方と目が合う。
(ヤバイなぁ目が合っちゃったよ。どうする、視線を逸らすか?いや、何かそれだと負けた気がする。そうだ最近NTR系の二次同人誌にはまってるんだよねぇ。最後だしいいよね?)
瀬名ジョンと言う男は成績優秀で何よりもハーフということもあり眉目秀麗なのだが一度も学園内で笑顔を見せたこともない笑顔を彼女だけの為に向けられればどうなるのか。
「うぅぅっ....!?」
簡単だ、惚れるのだ。彼女さんとやらは目を下に向け俯いてしまった。顔はトマトのように赤くなっている。あわあわした顔でもう一度こちらを見てきた。何で私?みたいな表情を浮かべる。
_か・わ・い・い・ね
口パクでそう伝えると彼女は力が抜けたように自分の椅子に座った。
「おい、大丈夫か英美里?」
どうやら彼女の名前はエミリのようだ。そして彼氏さんは彼女に熱があるのか確認しようと額に触れようとするが彼氏さんの手を叩いてしまった。
「あっ、ごめん...たっくん...」
「いや、オレの方こそ悪かった、いきなりは嫌だよな。」
彼氏さんの方はしょんぼりとしてしまう。気分を良くした瀬名は片手で口元を隠す。
(ミッションコンプリート!あぁ〜気持ちいいいいぃぃ!!愛には本物があるぅ?んな訳ないでしょ!!!!所詮顔ですよ!!顔ぉっ!)
(考えても見ろよ!ラノベの主人公がヒロインに惚れられるのは何でだ?顔だろうが!少女漫画も然りっ!9割方男の方はイケメンだろぉ!中の下とか言う設定は鼻くそでもつけとけよ!それが世の中の心理なんだよ!)
「くふっ...」
抑えていた笑いが口から漏れる。
(あぁ、抑えろオレぇ。表情を表に出すなぁ。笑いを堪えろ。)
そんな姿を横目で見る英美里は筋違いな事を考えていた。
(あぁ、瀬名君やっぱりかっこいいなぁ。口元に手を置く姿も絵になるしぃ。さっきのは何だったんだろう?もし、こ、告白でもされたらどうしよう!わ、私にはたっくんがいる、いるけど...別れれば..ダメダメ!私は何をかんがえているの....でも...)
と邪なことを脳内で考えるエミリは彼氏の視線がどこに向いているのかを気づかずにいた。その彼氏は彼女の視線の方へと眼を移すとそこには瀬名がいることに気づく。
(何で瀬名の方を、)
気まずそうな顔を作り英美里へと話をかけようとするが授業終了の鐘がなる。
「体育館ですよー皆さん!」
クラス委員が大きな声を上げ指示を知らせる。クラスの生徒は廊下へと出て体育館へと向かい始めた。
「あぁ、本当に最後なんだなぁ。」
「やべぇおれ泣きそう。」
「やべ、勃ちそう。」
「「ギャハハ、何だよぉ下ネタかよ最後まで!」」
別のクラスの生徒の姿も見え始め廊下では男子達が騒ぎながら歩いていた。クラスには瀬名を含め残り数名の生徒だけになり瀬名も体育館に向かう準備を始める。
「たっくん!私トイレ行くから、先に行ってていいよ!」
「女子がそんな大きな声で用を足しに行くなんて言わないの。」
と英美里の顔に軽いチョップをぶつけるたっくん。
「じゃ、先に行ってるぜぇ!」
そう言うと教室を後にした。瀬名もそろそろ行かなければなと思い机の中、自分のロッカーを確認し教室を出ようとするが英美里の手が自分の腕を掴んで来た。
「....」
無言で英美里と呼ばれる同級生の顔を見る。彼女の顔は赤く染まっていた。
(マジか、アレで来ちゃうのか?この子の永遠不滅は何処へやらだよ。)
と考えていると彼女が口を開く。
「瀬名君!....私のこと....好きなの?」
「...別に」
いきなりの物言いに唖然とした表情を見せる瀬名。
(はぁ?何だこいつ、自意識過剰なのか?)
「嘘!だってさっき私のこと好きって言ったじゃん!!」
「言ってないけど...」
「カワイイっで言ったじゃん!私に気があるってことでしょ!」
「いや、」
(カワイイ=好きは可笑しい。ほら日本人の若い女って何でもかんでも可愛いって言うじゃん?それと同じ容量で言ったんだよお馬鹿さん。)
「ないから、行っていいかな?」
瀬名は教室のドアを開けようとするが思いきり叩きつけられ閉められる。残ってる生徒は驚きその一人が此方へと近づいて来た。
「大丈夫?何かあったのか?」
元委員長が訪ねてくるがそれを無視して英美里が話しを続ける。
「ねぇ私別れるよたっくんと....付き合おうよ私たち!」
(尻軽すぎるなぁ、結婚したら絶対に不倫するタイプの女だよこいつ。)
「そこをどけ。....いや、どかなくていい。」
教壇に近いもう一つの扉へと足を進めることにする。
「ねぇ!絶対私達うまくいくって!私何でもするよ!瀬名君が喜ぶこと何でもしてあげれる!」
英美里がまた自分の前へと身を乗り出してきた。
「....」
無言で彼女の瞳を捉えた後、一言残し教室を出た。
「なら、たっくんって奴の幸せを考えてやれ。」
英美里と言う少女はその場で立ち尽くつくすことしか出来なかった。それから体育館に着き自分の席へと着席する。校長の話と言うのは本当に長い。何度眠りにつきそうになったことか。これからの将来の可能性、健康管理、過去の出来事の振り返りなどなど色んな事をぺちゃくちゃと話を続けている。
後少しで校歌を歌い卒業証を校長の手から受け取るのだが未だに校長の話は終わらない。暇なので演壇の真上にある時計をずっと眺めていた。針はすでにに12の刻に差し掛かっており欠伸をする生徒も増えている。後ろの大人達(保護者)の一部には目を閉じている者までもいた。
「え〜ですから皆さんには元気よくこの学校を卒業して欲しいのです。私が高校生活であった頃などでは~」
などと話は過去編へと突入しようとしていたが教頭先生が演壇へと上がり校長へ耳うちをする。
「校長先生、時間の方が押しております、」
校長は顔をムっとさせ教頭を下がらせる。周りの生徒はその光景を見て苦笑するが次の校長の一言で顔を引き締める。
「それではこれより卒業証書授与を行いたいと思います。」
かれこれ約一時間に近い校長の世間話をされ心身共に参っていたのだが、待ちわびた卒業証書授与に心を踊らせる瀬名なのである。
「一同起立!」
現生徒会の号令により卒業生は席を立ち今か今かと自分の名前を待ちわびる。
「相田聡_前へ」
「はい!」
あ行順に始まる卒業証書授与、自分の番になるまでには少し時間がかかる。周りの生徒は緊張のせいかソワソワする者涙を流す者など多種多様な表現を見せる生徒で溢れていた。自分は保護者席へと目を移し母がいる事を確認するがこういうのは大概見つけられないのだ。
「須川里奈_前へ」
「はい!」
自分の前へと並ぶ女生徒は大きく声を上げ返事を返す。次は自分の番なので覚悟を決めると前の女生徒の卒業証書授与が終わり演壇を下り自分の席へと戻ろうとしていた。
「瀬名ジョン_前へ」
「はい!!」
自分も声を上げ壇上への階段を上がって行く。前には校長が立ちその手には自分の卒業証を握っていた。
「卒業おめでとう。勉学共に良く頑張ってくれた。これからの人生も悔いが無い様に頑張りたまえ。」
「はい、ありがとうございます。」
卒業証を受け取り一礼をする。その後、自身は階段へと向かうのだが。
「ジョーーーーーン!卒業おめでとう!!!!!」
保護者席から大きな声が聞こえて来た。周りの保護者も彼女の声につられ笑い声を上げる。
(恥ずかしいからヤメテクレエえええええ!!!!)
それに便乗するかのように二年生の座る席付近からも声がかけられた。
「センパーイ!ファイトでーす!!」
その声は今朝自分へ抱きついて来た少女の声だった。この学校の男子生徒の間で秘密裏に行われた女子ランキングなるもので見事に一位にランクインを果たした女性だ。何故友達がいないオレがこの事実を知る事が出来たのかは簡単だ、クラスメイトの女生徒がオレへ話をかけてきたのだ。あれは確か夏休みに差し掛かる七月下旬のことだった。
「あの〜瀬名くん、ちょっと良いかな?」
当時瀬名の隣に座っていた女子が昼食中に話をかけてきたのだ。
「......何だ」
サス系は健在でムスっとした顔で女子生徒へと答えると女生徒はポケットから折りたたまれた紙を取り出し自分の机へと置いてきた。
「これは何だ?」
そこには番号と名前が書かれていた。しかもすべてが女性の名前。
「うーん!良かったぁ!ありがとう!」
と言いその場から女子の集団へと走り去ってしまった。数秒するとその集団は歓喜の声を上げ此方をちらちらと見てきたがオレは無視して昼食を再開した。すると一人の男子生徒が何かを探すように此方の机の方へと近づいてきた。
「やばいっ、女子ランキング表落としちまった、女共に見られたらオレたち男子の立場がなくなっちまう!」
と模索している男子生徒の独り言を聞きさっきの紙の真相を知る事になるのだがランキング表は女子生徒の間でも行われていた事に男子生徒たちは気づいていない。もちろん男子一位に咲き誇るのは瀬名なのだが。
話は戻り彼女は男子生徒から猛烈な支持を得ている彼女が瀬名にだけ周りとは違う態度で接すると言うことは強烈な嫉妬が瀬名へと向くのだ。虐めが起きない理由としては女子生徒が楔として機能してるのだがもちろんその真実に瀬名は気づいていない。
(何で奏さんがぁあんな男にぃ!)
(やはり顔なのか、いや顔なのかあああ!!)
(あいつを殺してオレも死のう)
殺意がもの凄い勢いで瀬名を襲うがすぐさまそれは収まることになる。何故なら保護者から異様な覇気を醸し出す母親が無言のプレッシャーを送っていたからだ。親指でグーを作り舌を出す母親が此方へ視線を送って来たがそれを無視して自分の席へと戻る。こうしてオレの高校生活最後の卒業式を終えるのだった。
「あ、母さん、上履き忘れたから取りに行って来る。すぐに追いつくから先に行っててよ。」
「あ、ジョン、待っ」
(もう、早く帰って続きしたいのにぃ、ジョンのバカ!)
そう言うと瀬名は校舎へと走り去ってしまった。母は悔しそうな顔を浮かべるが瀬名に言われたように先に歩くことにする。
「あれ?オレの上履きがない。ん?何だこれ、手紙?」
下駄箱には自分の上履きの変わりに綺麗に包まれた手紙が置いてあった。