Episode57 "植物と植物"
「セナ、霧が晴れた。」
遺跡、廃墟に潜伏してから数時間の時が過ぎる。相変わらずくつろぐ二人を横目にネーレイスに出して貰った椅子に腰掛けネストールと共に話をしていると何かを感知したのかアルセイドはぴょこんと瀬名の元へと顔を出した。ネーレイスはくつろぎながらも何かを作業している様で此方へとは来なかった。
「.......そろそろ動き出すか。」
瀬名がそう口に出すとネストールは立ち上がり大剣を背にかける。その威風堂々とした姿に痺れるが気をとりなおし瀬名自身も立ち上がる。
「霧の中じゃあ常に命の危険を感じてたが晴れたんじゃあこっちのもんよ。」
「動ける時に動く事こそがベスト。ネーレイスちゃ〜ん!行くよー!」
ソファにて空を天井を見上げながら手を動かす動作を辞め瀬名の元へと直ぐさま駆け寄る。数々の物資は空気に溶け込む様に消えていった。
「ジョ、ジョン君、ぶ、武器無いよね?ふふ、これを使って下さい。以前渡したレイピアよりも神聖を込めましたので強度も鋭さも天下一品です、ですよ、ふふ。それと加護を付与して、お、起きましたので、ふふ、楽しみにして置いて下さい、ね?」
ネーレイスは手を胸元へと当てると一振りの輝くレイピアが現れる。大海の様に美しい装飾がなされ素人目から見てもとても神聖で尊い物に見えた。空中に浮くそれを瀬名が掴み上げると水飛沫を上げた。
(付与ってのはこれの事か。)
「こ、此方が鞘になります。あぁ、もちろん、私もジョン君の鞘、ふふ、そう、鞘なんですけどね。」
「ありがとうネーレイスちゃん!」
鞘もとても美しく白と蒼のコントラストが瀬名の厨二心に火を付ける。アルセイドは何故かネーレイスへとジト目を向けていた。その視線を感じとったネーレイスは勝ち誇った顔でアルセイドへとドヤ顔を決めていた。
(か、かっけぇ......これが異世界ならでは醍醐味だよなぁ。これまでは必死過ぎてあんまし考えてなかったけど剣を持つってだけでもかなり希少な体験なんだよなぁ。)
「セナ、その剣は大切にしな。かなりの名刀だ。神聖がそれ程濃いとなりゃあ、ある国じゃあ国宝にもなる。いや、その剣巡って戦争が起きる可能性もあるかぁ。下手すりゃあ俺みたいな英雄派にも目をつけられちまうかもな。」
瀬名の考えは180度回転しネーレイスへとその名刀を返そうとするがネストールに阻まれる。
「おいおい、手ぶらじゃあこの先危険だろうが。」
至極正論。瀬名はこの塔を出た暁には剣をネーレイスへと返上しようと心に決めアルセイドへと視線を向けた。
「じゃあ、開けるね。」
その台詞と共に壁一面が弾け飛んだ。
「ははは、豪胆な事だ。」
ネストールは笑いながら外へと先に出る。その後を追う様に瀬名も後を追うとネーレイスとアルセイドも後を追って来た。
(霧が出てないって事は敵が動き出さないって信じたいけど.......)
瀬名達一行は廃墟を後に先にある巨大な古代都市へと向かう為、再び森林の中へと入るのであった。
「気をつけろよ、お前達!この森林は霧が出てなくてもかなりの数の....ちっ、出やがった。数がかなり多いな。」
ネストールの視線の先には森林を埋め尽くす程に植物の異形の者達が自分達を囲んでいた。マンドラゴラ、グリーンマン、ハエトリグサに牙が生え巨大化した物まで数多の種類の植物種が瀬名達一行を襲わんと牙を覗かせる。その光景に地獄絵図を沸騰させ瀬名の額には冷や汗が流れていた。
「ネーレイス、瀬名の周りに結界を張って。」
ネーレイスへと向け一言そう言うと結界が自分の周りへと展開される。ネストールも何かを察したのか自身の経つ場に足で魔法陣を描き防御を固めた。
「少し......神性の力を解くから、セナはあまり、見ない方がいいよ?」
アルセイドは前へと出るといくつもの蔦がアルセイドへを縛り殺さんと迫るが全てはアルセイドへと辿り着く前に塵と化した。
「'貴方達'_'アルセイドが'_'誰だか'_'分からない'」
一つ一つの言葉が重くのし掛かる錯覚に囚われる。結界内にいるとはいえ瀬名は膝をつく。両横を見るとネーレイスは笑い、ネストールは大量の汗を流しながら大剣を地面に刺し何とか立てている状態だった。全ての植物種達も同様、地へと身を重力に縛られる様に押し付けられていた。
「「「ギギギギ」」」
森林は震撼する。何かに恐る様に、従う様に。
「'森の'_'緑の支配者であるアルセイドに'_'その傲慢な態度'_'衰退を覚悟'_'しているんだよね'」
空気が軋み森に大きな爪痕が出来始める。異形の植物種達は本能から恐怖、畏怖、崇拝、と様々な意識が植え付けられていく。
「「「ギギギギ」」」
「アルセイドに逆らうって事は森の、緑の全てを敵に回す事だから、邪魔をしないでね?」
そうアルセイドが言葉に出すと異形の者達は直ぐさま元いた影へと戻って行った。
(これが.........神.....)
瀬名はアルセイドに釘付けになっていた。ネーレイスはそんな瀬名の姿を見てか張った結界を解き首を無理やり動かし唇を奪う。
「むちゅ、ちゅ、私にもあれくらい出来るんですよーだっ!」
見とれている意識を自分へと向けたいネーレイスに苦笑いを浮かべ息を荒げ座り込むネストールの元へと駆け寄り肩を貸した。
「はぁ.....はぁ.......あの嬢ちゃんら.....何もんなんだ.....たかだか一花嫁がどうこう出来る力を超えてる.......」
下級神、または大精霊と呼ばれる単体のニュンペーなら確かにそうだろう。
「まぁ、確かに規格外の力を持ってるのは確かだな。」
軽く相槌を打つと何食わぬ顔でアルセイドが戻って来た。
「凄えなぁ嬢ちゃ「セナ、大丈夫?神気をなるべく後ろに漏らさない様にしたつもりだけど」
「俺はピンピンしてるぞ〜、アルセイド、偉い!」
ネストールを担ぐ反対側の手を使いアルセイドの頭をヨシヨシすると子犬が尻尾を振る様に腰をくねくねさせた。
「それにしてもアルセイド凄いなぁ、本当に神様みたいだった。」
「アルセイドは神様だよ?」
「はは、そうだった。まぁ、これで植物種からの被害は無くなるって事だよね。心配すべき点が霧だけになったのは不幸中の幸いだ。」
瀬名は安堵した表情をとるとネストールが自分の肩を叩き支える必要はないと言って来たので腕をネストールから離し距離を取る。
「俺はもう大丈夫だ、感謝するぜ!」
大剣を背へと戻したネストールを見て先へと進もうとするとアルセイドが自分達の前へと立ち綺麗な歌声を奏でながら行くべき道へと進んでいく。何事かと思いアルセイドの進む道をついて行くとアルセイドが通る道がガーデンにあるトンネルの様に形成され美しい花々が咲きながら道を形取って行く。
(アルセイド.......まさか、ディ○ニー特有の能力も持っているとは.....恐ろしい子!)
しかも森林の動物や昆虫などもアルセイドに釣られ歌い始めているのだ。
「わ、私だって.....う、歌えますよ、ジョ、ジョンくん....うぅ」
ネーレイスは負けず嫌いにそう言うが涙目になり瀬名の背中へと抱きついた。
「う、海が、水場が次の階層にあれば、そ、そう、次の階層に、き、期待を.....いえ、いっそ、此処を海にしてしまえば......」
ネーレイスは呪符の様にそんな事を淡々と言うのだが終いにはこの階層を海にしてしまえばいいなどと言って来たので流石に止めた。
「それにしてもお前らと一緒に居て本当に俺はツいてるぜ。此処まで来るのに戦いっぱなしだからなぁ、あの迷宮路では危うく出れねぇんじゃあねぇかとも思ったし、無限に湧く植物どもやヤバそうな触手が襲って来た時には流石に死を覚悟したぜ。」
(大方、この人、隠れて俺たちをつける予定だったけど環境が危険と分かるや否や直ぐさま接触して来た訳ね。)
そんな事を考えているとアルセイドはトンネルの先で仁王立ちをしながらエッヘンという表情を取り待って居た。恐らくこの木や花、草、土で出来た綺麗なトンネルを抜ければ目的地である古代都市なのだろう。
(ちょっと弄りたいなぁ、あのアルセイドの自慢気な顔。)
眼を瞑りドヤ顔を決め込むアルセイドの近くへと強化を使い静かに寄ると瀬名はアルセイドの鼻をつまんだ。
「ぷはぁ、何するの、瀬名?」
可愛らしく首を傾げるアルセイドの頭を撫で歌が綺麗だった事を褒めると、嬉しそうに自分へと抱きついて来た。背中に抱きつくネーレイスもすかさず抱きつく力に力を入れる。後ろを振り向けばトンネルだった物は土へと還り元の景色へと戻って行った。
「さて、此処が階層の鍵だ.......古代都市へ殴り込みに行こうぜ!」
瀬名は物語の主人公の様に歩みを進める。そして一行は古びた古代都市の巨門を通るのだった。




