Episode55 "薄い霧"
「ねぇ、オデュセウス....アレって」
テーセウスは森林内から見えた空を浮く三人の影を視認しオデュセウスへと声をかける。
「あぁ、奴らが行く方向がそうなのだろう。」
「じゃぁ、僕たちも行こうか。こんな事になるなら彼から鞠を外すんじゃぁなかったなぁ。」
二人は木の枝を足場に目的地を目指す瀬名達の方角へと歩を開始した。
「おぉ、そろそろ見えて来たね!」
二人に抱えられ飛ぶ瀬名は嬉しそうに言葉を出す。かれこれ既に30分以上は飛んでおり身体はのあちこちは悲鳴を上げていた。
「うん、そろそろ降りるね。」
アルセイドはそう口にするとネーレイスにアイコンタクトを送る。そしてそれを受け取ったネーレイスは頷き静かに下降していくのであった。
「到着!」
瀬名は二人から解放され身体を伸ばす。あたりは少し霧が掛かってはいるが視界に支障はない。古代遺跡の跡地の様に空虚な雰囲気を放ち何処か寂しさを感じさせる場となっていた。
「瀬名、あまりアルセイド達から離れないで。此処の害虫達はさっきの迷宮程、知性を持ち合わせていないから。」
その言葉を聞きすぐさま二人の元へと駆け足で戻る。
「ネーレイス。」
「承知しております。ふふ、いけない方々だ事。.......此処を海上にして、して、して、さし上げます。」
ネーレイスの隈が更に濃くなり瞳の色が海の様に青色へと変わっていく。それと同時にアルセイドに首ねっこを掴まれ上空へと上昇する。
「あれ、ネーレイスは?」
ネーレイスがいない事に気づき下を覗き込むと降り立った場所を起点に大津波が広範囲に引き起こされていた。遺跡は流され綺麗な平野と化す。そしてそれを可能とするのがネーレイスなのだが、彼女は津波の渦の中心に立ちあたりを傍観していた。
「遺跡を流しちゃって大丈夫なの?」
そう疑問を口にするが返事は返って来ない。
「何故、あの汚物の残骸がこんな所に....」
アルセイドはネーレイスの様子を伺いながらそう口に漏らす。瀬名はそんな彼女の表情を伺いながら疑問の表情を浮かべているとネーレイスが地上から声を掛けてきた。
「ジョン君ー降りて来ても大丈夫ですよぉー!」
その台詞を聞くとアルセイドはネーレイスの元へと降りて行った。
「それでさっきのは何なの、二人ともちょっと様子が可笑しいよ?」
「いえ、この遺跡の付近に嫌な雰囲気を感じた物で、じょ、ジョン君は心配しなくてもい、いいんですよぉ!私達が絶対に守りマスから!」
「そうだよ。」
「いや、説明になってないのですが.....それに、」
あたりは津波を起こした所為で更地と化してはいたがボロボロになった触手のような残骸がいくらか落ちていたのだ。
「セナ、安心、アルセイドが近くにいる。」
「じょ、浄化をしておきましたから、何も気にせずに私達だけを、み、見てくださっていれば良いのですよぉ、ふふ。」
「安心ねぇ.......そこら中に怪しさ万点の物が落ちてるんだが?二人の態度を見る感じだと相当ヤバイのが関わるってるってことじゃないのか?」
瀬名の言葉に二人は顔を背ける。触手の残骸へと今一度顔を向けると深淵の泥のような物が止まる事なく流れ出ていた。それが気になり触ろうとすると二人は神速の速度で自分を拘束した。
「メだよ、セナ。アレに触れたらセナは死んでも冥界で苦しみ続ける。」
アルセイドの瞳が緑色となりその触手の残骸を空間ごと抉りとりもみ消した。
「もうちょっと先に行けば安全な場所があるのでそこで説明しますね。行きましょう。」
ネーレイスは瀬名の手を引き瓦礫の中を進んで行く。アルセイドは自分の背後へと付き歩く。
「ネーレイス、後ろは任せて。「分かりました。」
どうやら連携を取りながら移動をするようなのだが瀬名はますます恐怖に駆られていく。すると後ろから爆発音が聞こえて来た。
「セナ、後ろを向いちゃダメ!ネーレイス!」
後ろを向こうとした瞬間、ネーレイスにより瀬名は意識を失った。
「ん.....此処は......」
瀬名が眼を覚ますとそこは何処かの遺跡、廃墟の内部のようだった。そして頭の柔らかい感触を感じ顔をずらすとネーレイスの姿がそこにはあった。
「あ、ジョン君、置きましたかぁ!」
ぱぁと顔に光が指すように元気な笑顔を見せるネーレイスに瀬名も釣られて笑みが漏れる。
「.....アルセイドは?」
「は、はい、もうすぐ、結界を貼り終えて戻って来ますよ?」
結界と言う言葉を聞き眉を動かす瀬名にネーレイスは口づけをする。
「はぁ、可愛い、あぁ、」
小声でそう言う彼女に頬が紅く染まる瀬名。照れくさくなり即座に立ち上がるとアルセイドは自分達をジト目で見ていた。
「ネーレイス、ずるい。」
すぐさま自分に駆け寄りハグをして来たのでハグで返すと嬉しそうに笑顔を向けられた。
「それで、二人とも一体何が起きているの?」
瀬名はアルセイドを離し、二人への説明を求める。
「簡単に言うと、普通の人間が此処にいたら、すぐに死ぬ。」
アルセイドは簡潔にそう言った。
「でも、大丈夫。瀬名はアルセイド達がいるから。」
具体的な事を説明はされていないが此処がかなり危険な場所である事は理解した。
「じょ、ジョン君、さっきのタコさんの足見たいな物、ありましたよね?アレはけっして見ては行けません。ですが、逆に活動を停止しているのであれば見ていただいても大丈夫です、が触れてしまってはいけまんよ。」
「タコの足?...あぁ、あのイカ墨みたな泥を垂れ流してた触手の事か。あれって何なの、危険な物なのは分かったけどさ。」
「テューポーンの蛇の残骸....鋼の精神を持つ英雄、神々でなければ眼にしただけであの触手に精神に根を張られる。」
瀬名は目を見開いた。それでは先ほど、意識を失っていなければその根と言う物を張られていたのだと。
「....その根を張られた相手はどうなるの...」
「あの触手になる。シケリア島まで追い詰められエトナ火山に下敷きにされた怪物の王テューポーンは未だに力を集め復活の好機を求めていることには容易に想像は出来ていたけど、まさかこんな辺境の塔で地道に力を蓄えていたなんて、全宇宙を大混乱の渦に叩き込んだ王の名も地に落ちた物だね。」
「そんなに凄い相手なのか.....「うん、本来ならゼウスに勝利する筈だった存在。どんな願いも叶うという「勝利の果実」を食べる筈だったんだけど女神モイラたちが嘘をついて「無常の果実」を渡したんだ。これを食べたら決して望みが叶うことはなくなると言う呪い、違う、運命を刻まれ弱体化した事でゼウスに負けて封印された。」
瀬名がどうこう出来る相手ではないと言うことは容易に思考出来た。そして、アルセイド達であろうとけっして楽に勝てる相手では無いことも理解で出来た。ましてや自分と言う枷もついているのだ。
「対抗策はあるの?「テューポーンはこの塔にはいないよ。多分、あの怪物の王を味方をしている奴がこの塔を動かしてる。そいつを倒せばテューポーンも復活出来なくなるよ。」
(成るほど、エネルギーの吸収を集める人がいなくなれば復活も出来ないと....)
「一応聞くけど、二人がその怪物の王様と戦えばどうなるの?」
瀬名は一応聞いて見る事にした。
「完璧な不死の魔神。存在そのものを消さない限り殺しきれないと思う。権能の全開放を行えば.....」
アルセイドはニヤリッと静かに笑みを浮かべる。
「じゃ、じゃぁ、ネーレイ「ふふふ、私は倒せますよ。全権能をもってすれば私以外は皆殺しにできますもの。ナーレーイス無き今、私を完全に封じ込める事が出来るのはアルセイドちゃんだけでしょうし、ふふふ。」お、おう.....」
(.....恐ろしいな、この二人)
「世界は大海で出来ています。宙を浮くのなら沈めましょう。火を噴くのなら倍量の水をもって沈下しましょう。不死なら永劫の時をもって大海の中で苦しめましょう。」
そう言えばどの神話大系でも宇宙全土の定義があやふやなんだよなぁ。宇宙って世界を指して言っているのか疑問だ。
「じゃぁ、あの霧の正体については、」
瀬名は霧の事も不可解でそれについて二人に聞いて見る事にしてみる。
「セナは絶対に一人であの中には入らないで、アレはオレアードの権能の雨に似た酸で出来た霧だから、アルセイドかネーレイスの側にいなければ今頃、骨になってた。」
「そ、それにですねぇ、あ、あの霧の中でのみ、あの触手達が活動をしいるのです。け、汚らわしい事にあの霧の中では透明色になるようで、常人であれば捉えるのは不可能な程高速な動きをしてます。」
瀬名は顎に手を当て考える素振りを見せる。
(この子達といると疑問が全て先に解消されるなぁ。物語の終盤の答えを全て前倒しに教えて貰ってる気がする。)
「ちなみに聞くけどその霧は特定の位置に固定されてるとか、それとも適当に移動してるとか分かる?」
はぐれる可能性も考慮する必要がある。霧の中で一人になるのは自殺行為だ。そもそも霧の驚異を排除出来たとしても触手達の驚異が残っている以上、瀬名は霧の活動範囲を第一に頭に入れて起きたかった。
「いえ、それが移動とかそう言う類ではなく、唐突に発生するのです。」
その言葉を聞き絶句する。対抗策がアルセイド達といる以外にないのだ。
(頼むから迷宮見たいなクソ展開にならないでくれぇ!)
手を胸元に当てそう願う瀬名にアルセイドとネーレイスが近寄り抱きしめる。
「大丈夫、アルセイドが絶対に守るから。」
「あ、安心してください。ネーレイスは此処にいますから。」
二人に慰められ瀬名は心を落ちつかせる。
「ありがとう。」
心の底から感謝の言葉を口にする瀬名。その表情を見た二人は拳を握りしめ強く心に誓うのであった。
((死ぬまで守る(ります)!!死んでも守りマス(る)!!))
三人が手を握りながらある種の感傷に浸っていると遺跡の壁に衝撃が走り、大穴が開いた。それは遺跡の老朽化から来たものではなく外部からの攻撃で出来た物だった。
「結界が壊された......」
アルセイドが眉間に皺を寄せ不機嫌な表情を取る。そしてその大穴からは中に霧が流れ込み、瀬名達の立つ場所まで立ち込めた。
「一難去ってまた一難とはよくいった物だな。」
大穴の付近からは人の声が木霊をする様に響き渡る。




