Episode54 "新階層"
「出口が近くにある様で近くにない?......何でだ、俺たちずっと進んでるのにまだ着かない.....」
瀬名は既に聖獣の書庫を後にしてから一時間近くは出口に向け歩き続けている。だが、未だに先へとは辿り着かないのだ。
「セナ、彼処に行きたいの?」
アルセイドがひょっこりと顔を覗かせ瀬名に尋ねる。因みにアルセイドは歩くのに疲れたのか浮いていた。
「うん、行きたいんだけど全然辿り着かないよなぁ。どうすれば此処を抜けられると思う?」
瀬名は一応、神でもあるアルセイドへと聞く。
「え、ジョンくん、'コレ'から出たかったんですか?こ、此処って幻影で出来た空間なんですけど、と、解けば、この円環からは、ぬ、抜け出せますよぉ?」
瀬名は唖然とする。そしてアルセイドへと顔を向けると同じ様に顔を縦に振っていた。
(.....忘れてた.....この子達がズレている事を....)
そう、この二人の最優先順位は瀬名と共に在る事。そしてそれ以外の事については瀬名が考え質問をしない限り思考を止めただ本能のいくままに行動をしているのだ。
(ヒュラースとの記憶を見る感じでもそうだ.......考えることを放棄して他へと依存し従う。そう子供の様に.....)
瀬名は考えた、このままでいいのかと。
(いや、ダメだな。.....変えなきゃ、少しでも、そう、昔の記憶を見た時の様な元来の性格に戻せる様に。)
新たな課題が出来、瀬名は息を吐く。
「じゃあ、お願い出来る?」
「「お安い御用(、です)」」
二人は台詞を被らせると同時に指を使い音を鳴らす。すると周りの空間が軋む様に揺れヒビが入って行った。
「セナは危ないからアルセイドとネーレイスの近くにいて。」
近くに居てと言うアルセイドはネーレイスと共に自分の両腕に引っ付いて来た。
(本当はひっつきたいだけなんだろうなぁ。)
瀬名はそんな事を思いつつ二人の顔を交互に見ると予想は当たっていた。二人は犬の様に自分の匂いを嗅いでいたのだ。そして視線に気付くとしてませんよーと自然を装う。空間はペリペリと剥がれるが剥がれた景色は前に魅せられていた景色と何ら変わらなかった。
「行こう。」
光が指す先へと足を進めて行くと近づいて行くのを感じられた。
「よし、やっとこの薄暗い迷宮から出れる。」
瀬名達一行はようやく辿り着き外の景色を目の当たりにする事となった。
「雪国と来て次は森林ですか。」
一面は木々や山で囲まれそれと対を為すように大きなアーチを描く大きな巨石が地面から突き出ていた。
「此処は空気がいいね?」
アルセイドは何処か嬉しそうな表情をする。
(そうか、森精であるアルセイドにとって此処はホームグラウンドって事か。)
「アルセイドがいてくれて本当に良かった。」
ボソりと呟くとアルセイドはムフンと鼻息をたて嬉しそうに頬を緩ませる。
「む、わた、私はどうなんですかぁ、ジョン君!」
拗ねたように聞くネーレイスに瀬名は苦笑しながらネーレイスの頭に手を置きポンポンする。
「ネーレイスちゃんもいてくれて嬉しいよ。」
(こう言う所でポイントを稼いで置くんだよ、主人公と言う存在は。)
瀬名はけっして自分は醜悪ではないと言い聞かせ守ってくれる存在である双方にある程度のスキンシップを‘自分’から行う事で二人のモチベーションを高める事にする。
「どうしようか。此処から、せめて空から一体を見渡せれば「「私が行きます(く)!」」え?ってもう行っちゃったし.....」
二人は競い合う様に空中へと飛んで行く。
(一人は一緒にいて守って欲しかったんだけどなぁ。)
瀬名はため息を吐きながら周りを見渡す。数メートルを進むと先は崖になっていた。強化を上手く使い降りなければ死んでしまう程の距離はある。後ろを振り向けば迷宮の入り口に似た古代遺跡の様な建造物が建てられそれは先程出て来た迷宮へと繋がる入り口となっていた。
「アルセイド達はまだってうわあああああああああああ!!!」
端へと向かい高さを調べようとすると地盤が緩んでいたのか崩れ瀬名は大森林広がる下降付近の大地へと投げ出される。強化を急いで流し込むが致命傷は間逃れないだろうと覚悟を決めていると叫ぶ声が上から聞こえて来た。
「「「掴まれ!!」」」
瀬名は後ろを振り向き声の正体を確認する。
「アンタはっ!!くっ!」
伸ばされた紐を強化をかけた手で掴む。勢いを止める事は出来たが完全には止まらない。瀬名は足を崖へとぶつけ勢いを削り下降付近の大地へと何とか足をつける事が出来た。
(助かった........それよりも、あれは....)
「ネストールだった。あの人も生きてたのか。」
アルセイドとネーレイスが瞬殺した筈の三人目が生きていたのだが殺そうとした相手を何故助けよるような真似をしたのかと疑問を感じているとアルセイドとネーレイスが自分の元へと降りて来た。
「勝手に行っちゃメって言ったでしょ、セナ。」
静かに怒るアルセイドに少し後ずさる。
「ジョン君に、も、もしもの事があれば、わ、私はこの地を、地を、ふふ、大海を持って沈めてしま、しまうかもしれません、よ?」
軽い脅しに近い発言をするネーレイスに恐怖を覚えるが一応事の顛末を話し誤解を説く。
「いや、二人とも先に行っちゃうから待ってたんだけど、どうやら地盤が緩んでいた様で落ちちゃったんだよね。なるべく二人のどっちががオレの近くに居てくれると助かるけど、ダメかな?」
必殺男の上目遣いを使い二人を見ると自分へとピタリと引っ付く。
「うん、いいよ」
「ジョン君、あったかい。」
一人違う事を考えて息を荒くしているが今は無視をすることにしよう。
「それで、見てみて如何だった?何か先にあったりした?」
二人に対し上空で見た景色について説明してもらう事にする。
「うん、あったよ。セナの記憶で見たビル?みたいな細長い古代遺跡がいくつかここから南の方角に向けて建てられてたよ?でも何か.....その辺り周辺が変。」
アルセイドが自分の背後に移動して首に腕を回す。
「そうですね....何か死した者たちの..そう、冥界にいる様な気配ですかねぇ?....を感じました。その周辺には朽ちた古代都市の様な古びた遺跡がいくつも点在をしているのですがぁ.....人や獣人が住めなく成る程に老廃しているのです......そして何よりも死への匂いが臭い程に濃い。余り行くことはおすすめ出来ません。」
ネーレイスもアルセイドに負けず劣らず、瀬名の腕に自分の腕を絡める。
「うん、ネーレイスの言う通り。行かない方が良いと思う、よ?」
アルセイドも自分の身を案じてかその場所へと行く事を反対する。
「でも、そこにしかそういった"場所"は無かったんでしょう?.......行くしかない。それにアルセイドもネーレイスも今回は一緒にいるんだし何とかなるさ。」
場所と言うのは階層を下る為の通り道だ。そこを目指すなら必然的に何かしらの脅威がある場所に配置するのがこの塔の支配者だろうと仮定をする瀬名。
(ゴールに辿り着いたら行ってもいいですよぉ〜何て言う優しい世界じゃあないのは分かってる。確実にその衰廃したって言う古代都市がこの階層での鍵だろうし、いつまでも森林を無駄に歩き続ける事は自殺行為だ。危険を承知で行くしかない。門番みたいな何かがいるだろうけど今回はネーレイスちゃんもアルセイドもいる。......大丈夫、大丈夫だ。)
数々の痛みを身を持って感じて来た瀬名の指先は少し揺れていた。痛みへの恐怖が身体を蝕んでいるのだ。だが、それを二人に悟らせない様に爪で自分の皮膚を抓り恐怖を紛らわせる。
「二人は俺を乗せても飛べる?」
歩いて行くのも良いのだが、先に進んだテーセウス達が何かしらの罠を仕掛ける可能性がある以上早めに辿り着きたい。
「大丈夫だよ、瀬名。アルセイド達の力は等に神一人の力を越えてるから。」
アルセイドはそう言うと自分の近くによりお姫様抱っこをした。そのまま上空へと飛翔し瀬名はアルセイドにしがみ付く。
(この体勢そのものに男としてのプライドが壊れるけど......何よりも怖い!)
「あ、アルセイドちゃんだけズルいです!そんなに引っ付かれて、幸せそうに鼻の下を伸ばして!」
「ちゃ、ちゃうわい!あ、アルセイドは鼻の下なんか伸ばしてない!」
アルセイドはネーレイスの発言に反抗をする様に身体を揺らす。
「うわっ!?ちょ、此処で喧嘩しないでくれ!」
落ちそうになる瀬名は必死にアルセイドへとしがみ付く。アルセイドは鼻の下を伸ばし満足気な表情で瀬名の姿を見るのだった。
「ホラァ!そんなイヤらしい眼つきで!ズルいです!羨ましいです!降りましょう、一度、本当に降りましょう!ね?アルセイドちゃん!むっ!また無視ですか!今度と言う今度は許しません!!ジョン君を渡しなさい!「変態、手を離せ!」嫌ですぅ!「落ちる、落ちるー!ヤメろおお!!」
「「あ」」
二人は空中で取っ組み合いを始めようとするとアルセイドの手元に瀬名がいない事に気づき瀬名を探すと地上へと落下していた。
(うん、こうなる事は予想できたよね、オレ......)
「デメリットしかねぇなぁ......」
二人は螺旋を描く様に瀬名の元へと直ぐさま飛翔し受け止める。
「ごめん、セナ、大丈夫?」
「も、も、申し訳ありません......ば、罰は、な、何なりとぉ....グヘヘェ」
(ネーレイスは反省していないな。)
二人に抱えられながら飛んでいるので何ともシュールな光景を見せているのだろうが喧嘩をされるよりはマシだ。そしてネーレイスの顔に手を添える。
「ジョ、ジョン君?」
首をコテんと傾げる仕草に一瞬可愛いと感じたが直ぐさまその気持ちは彼方へと消えた。
「い、痛いです!いたいです!イタイですぅ//.....ふふ、ふふふ、ぐふ、キモチぃ......」
ホッペを思いっきり抓ると最初は痛がっていたのだが直ぐに喜び出した。アルセイドはその様子を見ていると瀬名に視線を向け呼びかける。
「セナ」
「アルセイドは今回は悪くないよ。ネーレイスが暴走したからああなった訳だし。」
「違う、アルセイドにもネーレイスにした事して。」
「はい?」
あの通路から薄々気づき始めたがもしかしたらアルセイドもかなりのMっ気が有るのではないのかと疑問に思い始めていた。
(アルセイドもちょっとMさんだよね?)
「アルセイドもちょっとMさんだよね?」
声に出していた事に気づき口を両手で抑える。恐る恐るアルセイドを見ると涙目をしながら何処か嬉しそうな矛盾のある表情をしていた。
「セナだけだよ。」
瀬名は何気ないアルセイドのその一言に胸キュンするが直ぐにその思考は消し飛んだ。
「それよりも早くして......ネーレイスにしたアレして。」
どうせ逆らったとしても脅して無理矢理させるのだろうと思い素直に従う事にする。そしてアルセイドのほっぺへと手を添えると頰を引っ張る。
「ひ、ひしゃい、」
離すとパチンと音を鳴らし抓った場所が赤くなりアルセイドは頰を触りながら満足気な表情を浮かべた。
(かなり遠いなぁ、強化を使ってもまだ見えないし、と言うよりも至る所にあるこの柱見たいなビルみたいな岩?鉄?何だろう?それに薄い霧みたいな物が近づいて来てる感じが.....)
「ネーレイス、急ごう。「分かっています。」」
二人は目でコンタクトを取ると某人気漫画の舞空術の様に凄まじい勢いで飛び始めた。瀬名は二人の表情から何かを察し全身に強化をかけ高速で飛ぶ衝撃に耐える。
(頼むから、あの迷宮内みたいな事にはならないでくれよ。)
三人は話す事なく警戒をしながら古代遺跡、都市を目指すのだった。




