Episode49 "生存と指輪"
(つ、強い.....眼を潰したとは言えあんなデカ物を一撃で切り伏せた...)
瀬名は朦朧とする意識の中、テーセウスが一刀のもとに斬り捨てた真実に眉を強める。
「はぁ、ん?」
涙を拭い顔を天井から下げると壁際に倒れる瀬名を発見する。
「へぇ、生きてるんだ。」
くいっとテーセウスは自分の右腕を引っぱる動作をすると瀬名は何かに足を引っぱられるようにテーセウスの元へと引きずられた。
「凄いね、ミーノタウロスの眼を潰したのは君だろう?ん?あぁ、答えはこれだよ、これ。」
赤い麻糸の鞠がテーセウスの腕から現れる。そしてその麻糸が自分の足へと結ばれていたのだ。
「凄いでしょ?これは僕の意思で姿、形を完全に消したり出来るんだよねぇ~。元々は国の宝だったんだよ〜これ。」
テーセウスは麻糸の鞠を消したり現したりと実演して見せた。
「いやぁ、まさかミーノタウロスの雷をあんな出鱈目な方法で防ぐなんてね~、感服するよ。でも残念だな、君は代償にそんな瀕死体になってしまった。そして君の命の輝きはもって、ん~数分ってとこだね?時代も違ければ君は英雄になれた器だったのかもしれな......これは神性の、それもかなりの質量だ。君は何処でってもう意識はないか。.....もう麻糸は必要ない、ね。」
瀬名の横に落ちていたレイピアを拾い上げかなり上質な名刀であることを認識したテーセウスは瀬名に対し何処で仕入れたのかを問おうとしたのだが瀬名は既に意識を手放していた。瀬名が息を引き取った物だと思い足に結んでいた麻糸を解き焼け焦げ残骸となった王座の元へと歩いていく。
「終わったか、テーセウス」
オデュセウスは柱に身体を預けテーセウスへと話しかけた。
「そう言う登場の仕方ってさ、誰に習ったの?」
小馬鹿にするように煽るとオデュセウスは顔を紅くしたがすぐに顔色を戻し足をトントンと二足程タップした。するとミーノタウロスの棍棒により破壊された扉に積もる瓦礫は崩れ道が開かれる。
「馬鹿な事を言ってないで行くぞ、」
そっぽを向き先に足を進ませるオデュセウスの背中を見て苦笑をするテーセウス。
「もぉー待ってよ、オデュッセウスー!!」
テーセウスはオデュセウスの後を追い二人は先の道へと消えて行くのであった。
それから間も無く_
「セナ!!!ドコ!!早く出てきなさい!!」
一頭の牛と共に壁を破壊し、ミーノタウロス死す神殿内部へと侵入するアルセイド。そしてアルセイドは眼に涙を溜め頬を膨らませていた。
(我慢が出来ない....早く、早くセナに会わないとアルセイド、オカシクナッチャウ)
瞳の奥底がさらに深淵に近い色へと染まっていくアルセイドは牛頭へと指示を出し周りを詮索していくと突如、牛頭は走り出し白き聖獣の遺体の下へと駆け出して行く。アルセイドはすぐに下りご主人である自分の命令を無視した事に対し罰を与えようとしたのだが牛頭の表情を見て興が醒める。
「獣とて涙は流すものか、違う、元贄だったからこその業.....弔え、その恩義に感謝しながら。」
アルセイドは牛頭達の正体が元々がミーノタウロスの贄の成れの果てだと言うことには気づいていた。そしてこの迷宮に潜んでいた牛頭達こそが白き聖獣ミーノタウロスに付き従い守ろうとしていた者達だ。
「だけど、この塔の主人ってとても面白い事するんだね。同じ個体を何頭も複製するんだもの。最も複製ではない者達は迷宮を個人で巡回する者達だけってのも味はあるけど。」
アルセイドは牛頭の姿から眼を外し白き聖獣の方へと視線をズラすと聖獣の影に隠れ瀬名が倒れていることに気づく。
「!?セナ!!!」
アルセイドは瀬名の元へと転移し身体を持ち上げ口づけを行う。
「メっだよ!!セナ!!何処に行ってたの!セナ、聞いてる?セナ.....セナ?」
アルセイドの表情が曇っていくが。
「ぅぅ.....助かっ.....た」
瀬名は小さいながらも声を出した。アルセイドは満遍の笑みを浮かべ瀕死の瀬名へと再度、口づけをする。すると傷は徐々に癒えていき折れた四肢は元の形へと戻り切り傷やかすり傷も消えていった。
「セナ、立てる?」
嬉しそうに聞くアルセイドにありがとうと言葉をかけ頭を撫でると抱きついてきた。
「ゴキブリに対して親近感が湧いて来た気がする。」
「瀬名は虫じゃない。私の物だ、よ?」
「そ、それは....はは。.....まぁ、何はともあれ本当にありがとう、アルセイド。来てくれてなかったら本当に死んでだよぉ、はぁ」
アルセイドの私の物だよ宣言をぼかしつつ、再度礼を言いながら自分の不運についてため息を吐く。すると瀬名達がいる神殿、もとい書庫へと大きな声が響き渡った。
「あージョン君!!もぅ、アルセイドちゃんも!!やっぱりアルセイドちゃんがジョン君を連れ去ったんですねぇ!!い、いけませんよ!!わ、私がじょ、ジョン君から、ぐへへ、ご褒美を貰うんですからぁ!!あれ、待って下さい、私がジョン君から離れて迷惑をかけたって事にもなりますよね?....これはご褒、ごほんごほん、い、痛み、ち、違います、ば、罰が必要だと思うんです、ぐひ、ぐへへ、で、ですよね、ジョ、ジョンくぅん?」
(久しぶりな筈なんだけど、キャラ濃ゆいなこの子。)
ネーレイスはアルセイド達が破壊した場所から現れ目の前へと喋りながら近づいてきた。
「ちょ、ちょ〜っと近い気がしますよ、あ、あ、アルセイドちゃん!!」
抱きつくアルセイドを引き剥がそうと引っぱるネーレイスに舌を出し中々離れようとしないアルセイド。
「頼むから喧嘩をしないでくれぇ、はぁ。」
ネーレイスは瀬名に抱きつくアルセイドを引っぺがすのを諦め腕へと手を回した。するとアルセイドは嫉妬したのか反対側の手を握った。
「あ、アルセイドちゃんって邪魔ですよねぇ?そう思いませんか、じょ、ジョン君?」
「ネーレイスキモいでしょ?本音を言ってあげた方がいいよ、セナ?」
「おう、じゃあ離れてくれ!」
ネーレイスとアルセイドは顔を見合わせるとお互いに頷き瀬名をその場で押し倒した。
「ちょ、ちょっと、ジョ、ジョン君には、きょ、教育、痛み、そ、そう!痛みが必要なのです!」
「そう、セナは私達に冷た過ぎる。心が痛いの?分かる。うんうん、分からなくてもいいや。私達をもっと甘やかして愛さないならアルセイド達が痛みで教えてあげるだけだから。」
脳裏には恐いの二文字が支配する。二人の花嫁の目はとても虚ろで焦点が合っていなかった。
(ヤンデレですか.......このタイミングで)
これはマズイと感じた瀬名は過去の経験を生かし打開策を考える。ヤンデレという者は大概餌を与えれるば大人しくなる者だ。そして花嫁さん達は幸運な事にオツムがあまりよろしくない事もあり扱いやすい。ならば取るべき行動は一つ。
「そんなに眉間に力を入れるとせっかくの可愛い顔が台無しだぜ!甘えたいなら甘えたい!って言ってくれれば良いのに!」
ウィンクをして二人を抱き締めヨシヨシをすると嬉しそう顔を歪めていた。
「そう、こ、この温もりが、た、堪らなく、愛しい。もう、は、はな、離れたくありません。」
「アルセイドはずーっとこうしていたい。いいでしょ?」
「ダメです。」
瀬名は即座に即答すると二人は先程と同じ闇を抱えた表情へと戻り痛みが痛みがと呪文のように呟き瀬名の身体を割れ物を扱うようにいやらしい手つきで触れてくる。
(いつもの癖でついツッコミが.....と言うかこの二人、ただ自分にセクハラしたいだけじゃあないのか?)
イヤラシイ手つきで触れ始めると二人は鼻息が荒くなり発情期のような顔付きになった。一頭の牛頭と目線が合うが外されてしまった。
「ああもう!!ノーセクハラ!アルセイド達はオレの身体目的で優しくしてくれてるの?オレは二人を信じてるし一緒にいると楽しいから行動を一緒にしてるんだよ!」
「「そうだけど(ですけど)何か(いけませんか)?」」
二人は台詞をハモらせイヤラシイ手つきを辞めない。すると瀬名はワザとらしく悲しい顔をして二人を見る事にした。
「そう.....何だ.....」
アルセイドとネーレイスは瀬名の顔を見て涙目になり顔を近づけて来た。
「「嘘だよ(です)」」
二人は又しても台詞を被らせ瀬名へと答える。
「アルセイドも一緒にいて、安心出来る。アルセイドはセナの全部が欲しいんだよ。心も身体もアルセイドと溶けて混ざり合う程に愛し愛されたいしずーっと一緒にいたんだもん。セナがいない世界なんていらない、セナだけがいてくれればいい。二人でずーっと愛を育んいこう。」
「わ、私には、ジョ、ジョンくぅん以外はひつ、ひ、必要ありません!愛を、愛を、愛を、愛を、愛を、私に、ジョンくぅんの求愛、狂愛、熱愛、美愛、慈愛を日々共に育めれば他には何もいりません。そして痛みを与え与えられる、か、関係、そう、主に私に罰と言う名の愛の鞭を与えてください。ジョンくぅんがいない世界なら私は、死にます。」
二人の重すぎる心情を聞き瀬名は絶句する。
(お、重すぎるだろぉ、ヤンデレを360度回転してさらに180曲げた感じに狂ってるよぉ!そもそも可笑しいだろ、会って数日しか経ってないんだぞ。)
「あ、ありがとう二人とも。」
感動する素振りを見せると二人は幸せな表情を浮かべ三人でハグをした。
(ヤバい、二人とも自分への依存度がかなり高い。限界値振り切ってるレベルに高い。)
瀬名は冷や汗を流しながら二人の背中をさすっているとある違和感を感じた。指に嵌めているバルトロメウスから貰った指輪から魔力の発動のような違和感を襲ったのだ。すると突如として脳内へと大きな声が叫ばれた。
「「「ジョン!!!!!」」」
瀬名は身体をビクリとさせ立ち上がる。二人もつられるように立ち上がり瀬名を心配そうな表情で見つめていた。
(今の声って.......キュベレー......様?)
瀬名の貰った指輪はバルトロメウスからの贈り物だ。贈り物と言ってもプレゼントとかとは違い部隊にいる仲間への支給品の様な物だ。
「えぇ〜と、キュベレー様?」
恐る恐る聞いて見る事にすると凄く嬉しそうな声が帰って来た。
「「「うん!」」」
キュベレーは子供がお母さんへと返事を返す様に元気な声で瀬名の問いを返したのであった。




