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Episode48 "白き聖獣"

今年の誕生日は最高にエロかった!ありがとう!!

「おい」


自身の肩に乗る鬼に声を掛けられ身体をビクつかせる牛頭。


「アルセイドはセナの処に連れてって、て言ったよね?」


牛頭は真紅の瞳を揺らつかせ弁解の言葉を話そうとするがアルセイドはそれを無視し地へと降り立つ。


「ネーレイス」


アルセイドはスカートをたくし上げ水へと触れないようにするがスカートを持ち上げるのが面倒くさいのか宙を浮く事にした。


「アルセイドちゃん!何処に行ってたんですか!ジョン君をひ、独り占めする何て、う、羨まし過ぎましゅぅぅ!ふふふ、ああ、私が二人きりになったらあんな事や、ふふ、いえ、もっと、もっと、愛して貰える様にお口に〇〇〇を入れて〇〇〇をし上げましょう、ふひ、ああ、それとそれとジョン君に私の〇〇〇を舐め「パン!!」へぶしっ」


話を止めないネーレイスにアルセイドは腹パンを一撃食らわせる。


「家畜、アルセイドはセナに会いたいの。こいつはセナじゃなくて唯の変態、わかる?分かったのならもう一人の所まで連れて行って。」


腹パンを決めたネーレイスを放置し牛頭の肩へと浮遊し再度座り込む。ネーレイスはお腹をさすりながら満遍の笑顔を浮かべるとアルセイドが一頭の牛と共に去って行くのを確認する。


「ズルい、でしゅ......ジョ、ジョン君は、私といるべきなんですから。......とそれよりも早くプレゼントを完成させましょう。そ、そして、昨晩のお仕お.....ご褒美を、求愛を、う、受けなければ。ふふ、喜んで貰えたら良いのですが。」


狂った瞳は螺旋を描く様にぐるぐると回転し歪な形を描いていた。


「お肉さん達は鮮度が第一なんですよ、ジョンくぅん、ふふ。」


いつの間にやら空間から取り出した一本の傘を広げると一頭の水に濡れた牛頭の遺体が転がる。ネーレイスは舌を巻き加工の準備へと掛かるのであった。





「「グオオオオオオオオ_小賢しき_小人がァ_」」


悲鳴をあげる白き聖獣は瀬名を捉える為、顔へと手を持っていくが瀬名はレイピアを眼球から引き抜きその白き肉体へとレイピアを突き刺し地上へと下って行く。


「「グググッ!!!」」


レイピアは白き聖獣の身体を抉り傷付けながら瀬名は地上へと降り立つ。そして直ぐさま聖獣から身を隠す為に距離を取った。


(隠れるが先決......もう身体は動かせない)


柱の背後へと身を隠すと力が切れる様に倒れ込む。


「限界だ....」


全ての強化が外れると共に瀬名の身体はボロ雑巾の様にズタボロになっていく。切り傷は勿論、小さな穴なども何箇所か身体に現れる。そして四肢は完全に腱が切れ機能を失った。心臓の鼓動も更に高鳴り内臓の一部は強化に耐え切れず潰れた。


「ぐっぶっ」


口から血が流れ出る。生きている事自体が不思議な程に瀬名は身体を弱らせる。


(ヒーリング......か)


本来ならば完全に死んでいただろうがアルセイドとの仮契約のお陰で何とか持ちこたえている状態だ。


(アル......セイド達が早く.....来なきゃ.....死.....ぬ)


眼を虚ろにしながらも何とか意識を保とうとする。


(セッ〇ス.......して.....ないのに......死ね....ない)


童貞で世を去る事は瀬名にとっては地獄をも越える苦痛となるだろう。


「「グォグォグァアアアア」」


柱の向こう側では瀬名を探し暴れ続ける白き聖獣がいる。しかし眼球を潰された事により視界を失った白き聖獣は血の涙を流しながらも地上に広がる焼け爛れた書物へと手を当て瀬名の位置を探っていた。が見当たらない事に苛立ちが積もって行く。


「「愚かなり_愚かなり_我が(まなこ)を奪い_貴様達_小人は_私をっ、又しても愚弄するか!!!」」


雷が吹き荒れ周りの書物、本棚へと直撃する。


「「我が執念_貴様ら小人に_与える他_この身を満たす事は叶わない_何処にいる_姿を現せ」」


白き聖獣は棍棒を振り回し神殿内部を粉々に破壊していく。その余波で身体は壁際まで吹き飛ばされ暴れまわる聖獣の姿を捉える事になった。


「.........」


だが瀬名は視界に入った聖獣の姿を何処か寂しげな表情で見ていた。何故ならば眼が見えぬ聖獣は幼子の様に泣き叫び一つの本を大事に抱えていたからだ。だが次の瞬間朦朧とする瀬名の瞳は大きく広がる。



「やぁ、また会ったね。」



本を抱え座り込む白き聖獣の前に死んだとばかり思っていた筈の青年が立っていたのだ。


「「_その声は」」


聖獣は声がする方向へと顔を向ける。


「うん、そうだよ「ミーノース王の牛」。会うのは久振りだね?」


親しみ深い友人と会話をする様に軽やかに話す青年は腰に差す剣の柄へと手をゆっくりと添え考え深い顔をしていた。


「.......テー.......セウス.....?」


瀬名はひゅうひゅうと苦しく息を吐きながらも眼の先に見えるテーセウスへと視線を向ける。


「僕は、「「良い_言わずとも分かる_英雄と呼ばれし豪傑よ_我ら(・・)は_(いずれ)も_倒されるべくして_生まれ落ちた_怪物_理解を誤」」それでも僕は君の事を"人間"だと思うよ。」


聖獣の言葉へと被せテーセイスは聖獣を人間と呼んだ。聖獣はその言葉を聞くと鼻を鳴らせ立ち上がる。突き刺さる棍棒を引き抜き目の前にいる英雄へと対峙する。


「僕達は.......」


腰に差すもう一つのの短剣へと手を掛け構えをとる。テーセウスは目の前の光景を過去の物と重ねる。そう、過去にクレーター島で起きた彼自身の伝記と。


当時、この北西に位置した大国アテナイはエウリュアレー姉妹が去った後にクレータ島を統治していたミーノース王の勢力下に置かれアテナイはミーノース王の命令によって毎年7人の若者と7人の乙女を怪物ミーノータウロスへの生贄として捧げるよう強要された。


「ふざけるな!恐怖から逃れる為に化物に生贄を渡すなんて馬鹿げてる!!人の命は深く尊く在るべき物、僕自らが罰を下してやる!!」


その事を知ったテーセウスは強い憤りを感じ叫ぶ。当時まだ若かったテーセウスは正義感が溢れる好青年で父王アイゲウスの反対をも押し切りクレータ島へと乗り込む為生贄の一人として混ざったのである。


(必ず僕がみんなを助けだすんだ!)


生贄を運ぶ船には悲しみを表す印として黒い帆が張られテーセウスは他の生贄たちと共にその船に乗り込み、クレータ島へと向かった。


「大丈夫、私が貴方を最後まで生かせるから、怯えないで?ね?」


「グスン、うん....」


二十代の女性が幼き子を抱き締め誓いを口にする。幼き幼女までもが生贄の対象になっている事に更に怒りが湧くテーセウスは剣を強く握り締め闘志を燃やす。そして一行はクレーター島へと辿り着き島全体が異様な雰囲気に包まれている事に気付く。


「死の匂い.....」


一人の生贄の男がそう口にしたのだ。テーセウス自身もそれを感じ冷や汗が頰を伝った。かつて戦場にて経験した独特の雰囲気と血の匂いだ。


「行こう。」


テーセウスは森林へと足を踏み入れると人工的に造られた道が出来ていることに気づく。そしてテーセイス自身が先導して歩くと直ぐさま巨大な迷宮への入り口が現れた。足を一本踏み入れると共に灯りが灯っていく。


「先に進めという事だね。」


ミーノータウロスが幽閉されている迷宮、通称ラビュリントスと呼ばれる魔窟は名工ダイダロスによって築かれた脱出不可能と言われる迷宮であった。


「凄い血の匂いだ、」


迷宮内部は複雑だが生贄を招待する時に呑み限ってミーノタウロウスの元まで迷宮が案内をする仕掛けになっている。内部は蔦や苔、そして人骨など様々な物が装飾品の様に落ち血の乾いた匂いが充満していた。


「化け物め.......」


懐に忍ばせる短剣へと手を当て心を落ち着かせるテーセウス。ミーノース王の娘アリアドネーはテーセウスを気遣い彼に赤い麻糸の鞠と短剣をこっそり手渡していたのだ。


(みんなには見えて、いない?)


テーセウスはアリアドネーからもらった毬の麻糸の端を入口の扉に結び付け、糸を少しずつ伸ばしながら、他の生贄たちと共に迷宮の奥へと進んでいったのだが生贄達は誰一人として毬の麻糸に気付いていなかった。


(術者だけに見える、か。国宝にされるだけはあるね。)


そして一行はついにミーノータウロスの元へと辿り着く。そこはまさに魔窟と行っても良いほどに血塗られた巨大な部屋だった。


「「_我が供物_その不運_同情に値する_小人らよ_」」


皆がその恐ろしい姿を見て震える中、テーセウスはひとり勇敢にミーノータウロスと前と足を踏み出し対峙する。


「我が名はアイゲウスの子、テーセウス!!不条理な殺戮を繰り返す貴様を討ち滅ぼしに来たぞ!!」


ミーノタウロウスはテーセウスの宣言を聞き眉を潜めると瞳を瞑りボソリと言葉を漏らす。


「「そうか_」」


何処か儚き者を見る目でテーセウスを見定めると横に突き刺し置かれる棍棒へと手を伸ばし掴み取る。


「行くぞ、化け物め!!」


他の生贄達を被害が合わぬ様に下がらせ牛頭へと突貫するテーセウスは自前の剣で足部を叩き切ろうとするが皮膚の硬さに弾かれる。


「「蟻め_退け」」


弾かれても尚、剣を叩き続けるテーセウスへとミーノタウロウスは蹴りを喰らわせ吹き飛ばす。だがテーセイスは地面へと身体を打ち付け回転しながらも何とか剣を地面に突き刺し吹き飛ばされる勢いを消す。


「「諦めよ_汝ら小人では_我が肉体を害す事は_不可能_運命を_受け止めよ」」


テーセイスはミーノタウロウスの忠告を無視し詠唱を口に出しながら立ち上がるとミーノタウロウスの元へと駆けていく。ミーノタウロウスは迫るテーセイスへと棍棒が振り落とす。


「まだ、だ!!」


振り落とされた棍棒へと乗りミーノタウロウスの顔面へと駈け出した。そして詠唱を再度唱え、握る剣とは反対の手からは炎が噴き出し、その手を前へと突き出す。


「その右手に纏うわ_火傷の紅蓮_火光(リンコス)


噴き出す炎は一点に収束し光を照らし出すが如く炎がミーノタウロウスの顔面へと直撃する。


「剣がダメなら魔術で攻めるまでだよ、」


テーセウスは一度地上へと降り頭部の破損を確認しようとするがミーノタウロウスの巨大な手がテーセイスへと迫る。


「「この程度の弱火_我には効かぬ_終焉を迎えよ_小人よ_」」


顔面へと直撃させた筈の魔術は無傷だった。テーセウスの肉体を掴んだミーノタウロウスは手へと力を入れていく。


「ぐっ、あああ、くっ、父上、アリアドネー、僕は......ない」


肉が軋む音が強張る。テーセイスは最後まで反抗をしようとするが握る手の膂力には到底敵わなかった。


「.....ない、はぁ、はぁ、僕はっ、守る、.....守るって決めたんだ、ぐあっ、こんな、こんな、ところでは....」


テーセウスは唇を強く噛み締め血が流れる。瞳にはまだ敗北の意思は感じられずミーノタウロウスは興味深く手の握る強さを強めていくが。


「「グォオオオ」」


ミーノタウロウスは痛みに方向をあげる。何故ならば掴んでいた筈の指全てが切り落とされていたからだ。テーセウスは地上へと着地し膝をつけミーノタウロウスへと顔を上げる。


「死ねないんだよ!!」


手には小型の短剣が血をこびり付きながらも握られていた。そしてテーセウスの魔力が爆発を起こす様に噴き荒れる。


「「我が体毛を打ち破るその宝剣_見事なり_だが」」


ミーノタウロウスは短剣について称賛をする。


「「死への運命は_変わらぬ」」


ミーノタウロウスの黒き体毛からは雷が噴き出し内部を余波で破壊していく。


「お前が力をそうやって他へと誇示することで恐怖が広がり生贄の数は比例し増大する!!その負の連鎖を此処で断ち切ってやる!!」


テーセウスはミーノタウロウスの足部へと素早く回り込み短剣を使い斬り刻んで行く。だがミーノタウロウスは体内に循環する雷を足部へと回し放出しテーセウスへと直撃する。


「ぐがかががかがが」


テーセウスは白眼を向きつつも決してアリアドネーの短剣からは手を離さずミーノタウロウスの肉へと突き刺し徐々に動かしていくが。


「「くどい」」


放出と同時に蹴りを喰らわせ吹き飛ばそうとするミーノタウロウスだがテーセウスはそれを耐える。


「ぐがかぜっがかたいにが......たおぐぐすががが」


白眼は徐々に正常の瞳へと変わり短剣が光を放つと同時にミーノタウロウスの片足を吹き飛ばした。


「終わりだ、人外!!」


態勢を崩したミーノタウロウスの首へとテーセウスは跳躍し一閃入れる。


「グォオオオオオオォォグ」


首からは大量の血が噴き出し地へとぶち撒ける。そして体勢を完全に失ったミーノタウロウスは地へと倒れた。


「はぁ、はぁ、」


アリアドネーの短剣が無ければ勝利を掲げる事を出来なかっただろう。テーセウスはボロボロの状態だが痛みを抑え倒れるミーノタウロウスの元へと留めを刺す為、歩き出す。


「僕の勝ちだ、迷宮(ラブリュントス)の魔物。」


短剣を掲げ頭部へと突き刺そうとした刹那、複数の人間がミーノタウロウスの盾になる様に覆い被さった。


「なっ!?」


テーセウスは当たる寸前のところで静止し驚愕の表情を浮かべる。


「君達は.....?」


自分と来た生贄達の顔は記憶してある筈だがこの様な者達は同行者にはいなかった。


「お願いします、どうかミーノタウロウス様を殺さないでください!」


一同は自分へと懇願の視線を送る。テーセウスはミーノタウロウスが既に長くはない事を察し短剣を鞘へと戻しはするが警戒は解かない。


「僕が留めを刺さなくてもそこの化物は死ぬよ。それよりも僕が気になるのは君達の存在だ。何故、この迷宮にいる?何故この怪物を庇った?何人の人間がそこに倒れる怪物の餌食にされたか分かっているの?「そんなの出鱈目だ!!」


一同の中から一人の少女が声を上げテーセウスの意見を否定する。


「私達が誰かって言ったよね、お兄さん?みんな、出て来て。」


少女の頭を撫でながら二十代とおもしき女が声を張り上げ"みんな"を呼ぶ。すると(いず)れの迷宮の道から複数の人の影が姿を現した。


「此処に居るのは、みんな元々は生贄として送り出された供物よ。」


テーセウスは理解が追いつかず口をポカンと開けながら視線を泳がせる。


「っ、この怪物は人を襲う悪鬼ではないのか?」


テーセウスは後退りながらも女へと疑問を問う。


「違うわ、この方はみんなが死なな様に大切に守って下さった。悪鬼は貴方ではないの?」


テーセウスは意味が分からないとばかりに周りの人間へと視線を向けるが女同様に他の集まった人間達も自身へと警戒と敵意を向けていた。これではまるで自分が悪側ではないのかと錯覚する程にテーセウスの心は揺らいだ。


「......僕はみんなを、助けたくて」


テーセイスは頭を抑えしゃがみ込むと、ミーノタウロウスを保護する人間達はいくつもの罵倒をテーセウスへと向け話し始めた、が。


「「静まれ_小人らよ_我は此処で_死する_汝らは_自由だ_」」


黒色だった筈の体毛は色素が抜け白白とした色となり弱々しくそう口にした。


「だけど、こんなのってないよ!!」


「何で私達を閉じ込めたの!!!私達がもっと早くにあの場に出ていたらこうはならなかった!!こんな偽善者になんかに.....グスン」


元贄の一団は皆、涙を流しミーノタウロウスの元へと集まる。テーセウスの元には自分と共に来た生贄達が集まり気にする事はないと励ましてくれた。


「彼奴らは、洗脳を受けてる。テーセウス様はオレ達にとっての英雄には変わりないないだから胸を張っていいんですよ!」


「そうだよ!ウチ達がこうして一緒にアテナイに今一度戻れるのだってテーセウスさんのお陰なんだから。」


テーセウスは自分の仲間達の励ましに対し感動しつつも視線はミーノタウロウスの方へと向いていた。


「そろそろ行こうかっ!?」


迷宮が揺れ出す。


「「_我の命は_終焉を迎える_急ぎ去れ_小人達よ_」」


ミーノタウロウスは近くに寄る元生贄達を退けると膝を着き立ち上がる。片足を引き摺りながら何処かへと姿を消していく。


「テーセウス様!!行きましょう!!」


だが既に迷宮はミーノタウロウスの支配下になく迷路となっているだろう、だが元贄達と共に道を行けば無事に出られる筈だと思い彼等に着いていくようにと指令を下す。


「テーセウス様も一緒にっ「ごめん、少しやる事が出来たから先に行ってて。」


テーセウスはミーノタウロウスが進んで行った方へと走り出す。同行者達はテーセウスの安否を願うのだった。


「.......テーセウス様、ご無事で....」


一方、元贄の一団は残る者と去る者で別れ論争していた。


「私は残る!!ミーノタウロウス様と共に魂は生き続ける!!だから離してください!!」


「そうだ!我らはこの不条理な世界を生きた尊き主、そうミーノタウロウス様と共に永久に在るべきなのだ!!」


まるで信仰のように狂った元贄の一部は直ぐさまミーノタウロウスの後を追おうとするが跡追いを否定する派により阻まれていた。


「何故、貴方達はミーノタウロウス様の慈悲深さを無駄にしようとするのです?私達は道を与えられた!ならばミーノタウロウス様の意見を汲むべきだ!!」


「共に朽ちる事は決して許さないわ、そんな事をすればミーノタウロウス様は悲しむ。」


迷宮の所々は崩れ負傷者も出るが自身の怪我など彼等は気にしなかった。


「それでも私は.....私はあの方と生きます」


その決意は固く止める手を振りほどき何人かは奥へと進んでしまう。


「何故、分からないの.....行きましょう。貴方達も来るのでしょう?」


女は拳を握りしめ走り去っていく元贄仲間の背を見届けると振り返りテーセウスと来た生贄へと言葉を向けた。


「ああ、オレ達も生きたいんだ。」


一人の男が前に出ると女の問いに答える。女はそう、と一言言うと前を向き迷宮の中へと潜っていった。集団は彼女の後を追い迷宮の出口へと向かう。






「「..........」」


ミーノタウロウスは壁へと身を倒し迷宮の遥か先を朦朧とする視界で眺める。


(ボクは此処で死ぬのかな?)


朦朧とする意識の中、目の前に若き日の自分が映し出された。


「「ああ_死ぬのだろうな」」


幻影へと言葉を返す。


(僕は死にたくないよぉ、死にたくないっ。)


「「これも_運命(さだめ)_元来、獣と言うものは_英雄_と言う種に狩られる物だ」」


(ボクは獣なんかじゃない、)


「「己自身を見ろ_貴様は_獣だ_」」


(それでもボクは獣なんかじゃあない!!)


「「それでは_汝は_何者なりや」」


(ボクは.......)


視界は更に暗転し幻影の影が徐々に見えなくなる。


「見つけたよミーノタウロウス」


テーセウスは手に持つ麻糸の鞠をくいっと掴むと透明の鞠がミーノタウロウスへと巻き付けられている。ミーノタウロウスは既にテーセウス自身の存在を認識をしておらず虚空へと既に見えぬ目を向けていた。テーセウスは彼の前に立ち白き聖獣を見上げ尊む。


「「因果な物だ_もし_我の姿が_違ったのなら_父上に認めて貰えただろうか」」


涙は枯れ徐々に腕は垂れていく。そしてミーノタウロウスの瞼はゆっくりと閉じられていく。


(ボクは......)


「「ボクは......人間......だよ」」


ミーノタウロウスの鼓動は完全に停止し迷宮の天井が完全に崩れる。追いかけてきた元贄達は瓦礫に埋もれる前にミーノタウロウスへと祈りを捧げ下敷きとなった。


「......」


テーセウスは崩れ去る迷宮に置いても最後までミーノタウロウスの最期を見届け迷宮の瓦礫がミーノタウロウスの遺体とテーセウスへと覆い尽くした。


その後、テーセウス達と同行した生贄達と元贄達は無事に迷宮(ラビリントス)の外へ脱出する事ができた。その後のテーセウスの行方はアルゴタウナイの冒険などに綴られた通り金羊毛皮を捜し求めるアルゴー船探検隊の冒険に参加したり、盟友ペイリトオスとともにスパルタの王女ヘレネーと冥界の女王ペルセポネーを誘拐しよとしたりなど波乱万丈な人生を送った。


だがテーセウスには二つの後悔と復讐心が内に渦巻いているのだ。それは前述の通りミーノタウロウスへの未練、後悔。そしてもう一つは妻ヒッポリュテーを殺されたヘーラクレースへの復讐心だ。


こう言った感情を糧に崖から落とされ死んだとされるテーセウスは命を繋げ此処まで至るという訳だ。そして彼の物語は目的の一つである未練、後悔を奇跡的に浄化をする事になる。



「僕は......君と」



棍棒がテーセイスへ向け振り落とされる。


(僕達は本当は.....)


「ミーノタウロウススウウゥ!!!」


テーセイスは短剣を使い振り落とされる棍棒の軌道をずらし過去と同じ首筋へと一閃を決める。


「「グガアア」」


白き聖獣、ミーノタウロウスは棍棒を離し前へと倒れ込んだ。首からは血が流れ地へと垂れ流れる。だが何処か納得をした表情のミーノタウロウスだった。


「......友達になろう。僕達は同じ"人間"なんだ。」


倒れるミーノタウロウスへと言葉を投げると嬉しそうに鼻を鳴らし心臓の鼓動が静かに鳴り止む。


「.......僕はまた」


静かに涙を流すテーセイスは光が差し込む天井を見上げるのだった。



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