Episode47 "書庫神殿の雷光"
「此処は.....」
瀬名は身体を起こし自分が今置かれる状況を思い出す。
(階段で意識を失ったのか、取り敢えず降りるしか道はないか。)
例え来た道を戻ったとしても再度、骸骨の群れに襲われる事になるので後退するより先進した方が利だと考えた瀬名は階段を降りていく。先は深く目へと強化を流しても遥か先を捉えることは出来なかった。
(ゆっくり歩いてたんじゃ目に回した魔力が尽きてまた意識が飛んじゃうか.....よし)
瀬名は歩くのを止め足へと微小の魔力を流し強化をかける。
「これで一足の内に数十段は一気に飛ばせるか。」
瀬名はその場から跳躍し数十先に離れた段へと着地しさらにもう一度跳躍し階段を下っていく。
(この力を持って自分の世界に帰れれば無双出来るんだけどなぁ、はぁ)
ため息を吐く瀬名は跳躍し降りながら強化についての運用法を考えていた。
(オリンピックは勿論、運動全般ならどの種目も各種一位を取れる自信はある。例えるならばサッカーではホイッスルが鳴った瞬間にゴールに向けてダイレクトシュート、野球でも強化を使えばどんな球でも取れるし打てる。なのにこの世界ではデフォで戦闘では魔力が少なければ直ぐに尽きる。欠陥だらけの魔術だ。)
瀬名は歯ぎしりをしながらつくづく異世界についての自分のデメリットに嫌悪する。
「所詮は容姿だけの男って事だな、オレは。」
何処に言っても容姿は褒められ中身を見てはくれない。母親だけは例外だがあの人も大概何処か可笑しい。
「と言ってもこの容姿のお陰で命を拾ってる感はあるけどね。」
(主に女神様達、神性を帯びる者限定だけど。)
ただ瀬名には引っかかる事があった。女神達が口を揃えて言う魂と言う言葉だ。キュベレーと初めて対峙した時の台詞を思い出す。
_其方の魂は心地がよい、いや神性を帯びる者からすれば甘い果実の様に猛毒となるだろう。
(女神様達の反応から見るに誘惑、魅惑の類の物が色濃く出てるって事だよな.......)
現代社会に置いても容姿の所為でいくつもの苦悩を煩わせて来た瀬名は異世界に来た事でより厄介な物になってしまったと頭を抑える。
「ん?」
体感で一時間近くの時間を階段を下っている瀬名は前方の道が徐々に狭まっていく事に気づく。
(人1人が通れる程の狭さになった....って事はもう直ぐ階段の終点へと着くって訳だ。)
強化を解き狭い階段をゆっくりと降りていくと階段の終わりが見えてきた。
「おいおい、いい加減にしてくれよぉ」
瀬名は何とか階段を下りきると今度は長い廊下が現れたのだ。先は暗く階段同様に先へ進まなければ見えないだろうと足を踏み出そうとすると通路の灯火が灯っていく。瀬名は驚きつつもレイピアを抜刀し慎重に歩いていく。
「「「グルアァアアア」」」「「「グルアァアアン」」」
人ではない何かの叫び声が瀬名が歩く長い通路まで響き渡ってきた。身体をビクつかせつつも先へ先へと足を踏み出していく。
(.....大抵何かしらのボスキャラがいるんだよ、こう言う所に....)
今更来た道を戻るだけの気力は無い、だが先に行けば行くほど声の声量が大きくなるのを感じる。
「ああ、来てしまった....」
長い通路は終点を迎えるに連れ光が眩しく先に何があるのか分からなかった。瀬名は腕で前方の光を遮る様に通路を越えると。
「っ!?」
美しい神殿が広がる。天井に開く穴からは眩しい程の光が神殿を照らし出していた。そして神殿には柱が芸術を形どる様に綺麗に置かれ無数の巨大な本が床に散りばめられていた。神殿自体は図書館の様に書庫と化し、とても知的で美しいコントラストを魅せていた。
(可笑しい、呻き声が聞こえない.....)
瀬名は一旦柱へと身を隠し警戒しながら進んで行く。神殿内部は巨大で一部視認が難しい箇所もある。積み重なった本、そして書物が置かれる巨大な棚達が視界を妨害する。
(.....チマチマ動いていてもしょうがないか)
瀬名は覚悟を決め巨大な書物が並べられる棚へと跳躍すると驚愕の表情に変わる。
「「グルウウ」」
白き聖獣が奥の間で書物を読んでいたのだ。瀬名はすかさず身を倒し聖獣の死角へと入る。本はバラバラに置かれいくつもの棚は聖獣への道を形どる様に配置されていた。聖獣は大きな体躯を更に大きな王座へと座らせる。
(....あっちまで行ったらボス戦不可避って、わかんだね。)
獣の容姿は牛頭の等身を数十倍にも大きくした姿で体毛は黒や茶では無く、穢れなき純白の白だった。
「この神殿を行き来できる場所は俺が通って来た道と.......っ、本当に頭が可笑しいよ異世界ってのは。」
瀬名は見つけてしまったのだ。此処から先へと繋がる扉が本を現在進行形で読んでいる白き聖獣の背後に位置する事に。
(如何する、一か八かの奇襲にかけるか?ネーレイスちゃんがくれたこのレイピアなら.....駄目だ、オレの膂力じゃ爪楊枝を人に刺すも同然の威力だ。ならばバレズに背後に回りこむか?それも却下だ。第一にあの白いのの目の前を通らなきゃ扉まで行けない。)
巨大な本の隙間に隠れながら近づいてはいるが奇襲以外に方法が思い付かず覚悟を決める。瀬名はレイピアを鞘から引き抜き抜刀する。
(クソ、気合を入れろ、オレ!!)
「はぁ......はぁ.....」
緊張の所為か息が荒くなる。白き聖獣からの距離はもう数十メートルしか無い。その巨大な体躯を見上げ瀬名は心臓の音を高鳴らせる。
(奴はまだオレの事に気付いていない......行くなら今しか)
瀬名は動き出そうと身を乗り出した瞬間、瀬名が隠れていた筈の場所へと巨大な棍棒が振り落とされていた。
「なんっ.......チッ、くそっ!!!」
相手にワザと泳がされていた事に気付き直ぐさま思考を切り替えると振り落とされた棍棒へと跳躍し白き聖獣の腕まで駆け上がる。白き聖獣は蚊を叩き潰す人の様に棍棒を握る反対の手で瀬名を叩き落とそうとするがそれよりも速く瀬名は白き聖獣の頭部へと跳躍する。
(皮膚に刺しても意味がない、ならば粘膜を狙う!!)
レシピアを前へと突き出し白き聖獣の紅き瞳目掛け迫る瀬名だが。
「「「ゥゥゥオオオオォォォォォォ」」」
白き聖獣は咆哮する。咆哮は衝撃破となり至近距離で受けた瀬名を吹き飛ばす。瀬名は衝撃に乗せられ柱へとぶつかり更にそれを貫通して後ろの柱へと衝突した。だが勢いは止まらずその柱をも破壊し身を巨大な本棚へとぶつける事で何とか止まる。瀬名がぶつかった衝撃で上段の本は何冊かが地上へと落ちて行った。
「うっ......」
意識を失いそうになるが全身に強化を流した事で何とか一命は取り留める。
(.......流石に復習はするさ、とは言っても何本かは骨にヒビが入っただろうけど。)
身体をぐらつかせながらも何とかめり込む壁、巨大な本から立ち上がり視線を聖獣へと戻すが。
「普通、待ってくれ....くっ!」
棍棒が速い速度で瀬名の立つ巨大な本棚へと迫っていたのだ。瀬名はその攻撃を避ける為に本棚から飛び下り地上へと降り立つ。立っていた場所は無惨な姿となり巨大な本棚は崩れていく。だが白き聖獣の攻撃はそれだけでは終わらず地上へと降り立った瀬名を踏み潰すべく足を前へと動かしていた。
(避けられる!)
図体がデカイだけに攻撃範囲は馬鹿みたいに広大だが速度は強化を習得していれば何とか避けられる程だ。だからと言って勝てるか勝たないかの話であれば別の話だろうが。
「馬鹿正直に戦う程、オレは強くないんでねぇ!」
瀬名は白き聖獣の足踏みを前へと進む事で避けそのまま王座の背後に佇む木材で出来た扉へと駆ける。
「はぁ.....はぁ.....扉まで行けば、オレの勝ちだ!」
勝利への確信で気が緩んだのか視線は扉にしか向かず足場への注意を怠った瀬名は躓いてしまう。
「くっ!?」
距離は扉から近く王座の直ぐ近くだった。だが瀬名は幸運にも倒れた事により命を繋げる事になる。
「なん、だよ.....これは!?」
目の前にそびえ立っていた筈の王座の周囲が一筋の光明により焼け焦げ跡形もなく一掃されたのだ。それはまさに雷の如く鋭く肉眼で追う事は不可能だった。
「おいおい、ふざけ」
瀬名は目の前で起きた物が事故でも自然に起きた物でも無い事は直ぐに理解出来た。立ち上がりつつ視線を背後へと回すと聖獣は未だに先程までいた本棚の前に立っていた。だが違った事は棍棒を破壊した本棚の瓦礫の中へと手放し天井を仰ぎ涙を流していた事だ。天井から所々に漏れる光は鋭くなり聖獣の体表は雷が駆け巡るようにバチバチと雷光を発していく。
「......」
瀬名は書物が広がるこの神殿、もはや書庫と成り果てている場と共に映る白き聖獣の姿が一枚の絵画に見え言葉が出ずにいた。だがその美しさを上回る驚きが瀬名を現実へと引き戻す。
「「ガアアアアアアア」」
咆哮をすると同時に棍棒へと雷が流れ循環されて行く。そしてその棍棒を握り締め此方へと投擲して来たのだ。
「っ!!」
瀬名はすかさず此方へと迫る棍棒の軌道から外れる為、強化を使い横へと身体を吹き飛ばす。身体を転がしながらも棍棒と白き聖獣の姿を交互に捉えていると。
「.....そういうの反則だって、」
唯一の光であった筈の扉は雷を纏う棍棒により粉砕され通れない状態となった。
「「慈悲は無し_知識を独占する神の傀儡_その身を持って我が星を浴びよ_」」
瀬名はあまりの理不尽さに泣きそうになるがそんなゆとりがない程に状況は悪化して行く。白き聖獣が人の言葉を話したのだ。獣の瞳は冷たく聞こえて来た声はどこか深く暗い物だった。
「「雷光」」
雷光と言う言葉にエコーが掛かるように神殿へと言葉が紡がれると聖獣を起点に天井から雷が降り注ぎ槍のように地上へと何本も降り注いでいく。雷は止まず常に降り注ぐ。そして雷は徐々に軌道を広げ神殿内部全域へと広大化しようとしていた。
(如何する如何する如何する!!!逃げ場が無い!!)
雷が降り注ぐ範囲が広がっていく。瀬名が立つ場所まで到達するのにはそう時間は掛からないだろう。白き聖獣は祈りを捧げるように膝をつけ天を仰いでいた。
「ある筈だ、抜け道が、何処かに!!」
瀬名は周りを見渡すが瓦礫やら本やらが四散するだけだった。
(もう、時間がっ.....)
その時、瀬名は一つの方法を閃く。脳の神経器官に置いて働くのは三つの重要な役割を持つ器官だ。一つ目はセレブラムと言う脳の器官は知識、聴覚、視認、考える事を主に扱う人間にとって重大な器官である。そして二つ目はセレヴェリウムと言うバランス感覚、筋肉への伝達、そして行動する時に働く器官。最後にメデュラと呼ばれる脊椎と繋がる人間の生命線と言ってもいい器官がある。
この器官達へと強化を流し込み支配をすることが出来れば肉体の負荷を無視して強化の最大値を振り切れるだろう。さて目の前には巨大な瓦礫がある、そして雷は高いものへと落ちるのは自然の摂理。従って巨大な瓦礫を頭上へとぶん投げれば一時は雷を防ぐことはできるだろうが雷は常時降り注がれている。地上へと戻ってきた瞬間自分は雷の餌食となるだろう。
「なら....ぐっ、ぐぐぐ、重っ」
自分の等身を遥かに超える巨大な瓦礫をセレヴェリウムへの強化を全振りをすることで持ち上げる。筋肉は悲鳴を上げ所々の筋は切れ血を吹き出していた。
「「はぁはぁ....ぐっ、うわああああああああああああ!!!!!!」」
叫び声を上げながら雷が降り注ぐ場へと投擲したのだ。だが狙いはあくまでも白き聖獣へとだ。
「セレブラムに残りの強化を捧げる!!!」
投げると同時に瀬名は叫び投擲した瓦礫の影に隠れながら駆け出す。セレヴェリウムとセレブラムの強化により聴覚、視認、バランス感覚、筋肉の大幅な向上を得た事により投擲した瓦礫の速度に合わせることが出来るのだ。降り注ぐ雷は全て自身の頭上に浮く瓦礫が引き受け瀬名は目先の獣へと進む。
「「星の礎と成り_星を栄えさせよ_」」
未だに天を仰ぎ祈り続ける白き聖獣は気づかい。目前に投擲された瓦礫が迫っていることに。
「あぁ、だったらてめぇーが栄えさせてくれよ、牛さん。」
瓦礫は白き聖獣の顎へと当たり後方へと態勢を崩す。雷は術者が祈りを中断したことにより解除され止んだ。瀬名はそのまま態勢を崩した聖獣の頭上へと姿を現しレイピアを体重に乗せ聖獣の左の瞳へと突き刺す。
「「グゥゥゥオオオオォォォォォォ!!!!!」」
咆哮以上の唸り声が響くが瀬名はけっして離れなかった。そして瀬名はレイピアを引き抜き聖獣の頬を足場に回転しもう片方の右眼へと鋭い突きを放ったのであった。




