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Episode43 "蝮女の塔"

いくらかいらなそうな金銀で出来たアンティークを女将さんに渡すとある程度の額の通貨を貰えた。


「うーん、まだ朝が早いこともあってか店が空いてないかぁ。 」


雪が多少積もっているが歩くのに不自由は無くそのまま東洋風の街並みを進んでいく。それよりも両腕にひっつく花嫁達が鬱陶しい。


(いや可愛いんだよ、でも四六時中こんなんじゃ流石に疲れる。)


ノクターン原作であれば既にエッチな事は終えているだろうが此処は健全なR15世界。盛りのついたエロ童貞主人公ではない瀬名は落ち着きを見せつつ溜め息を吐くのだった。


「ジョン君//ジョン君//ふふふ、またお仕置きしてくださいね?」


ネーレーイス本来の性格であればこの様な子では無かっただろう。記憶を遡ればネーレイスは静かに読書を嗜む奥ゆかしき淑女の女性、ニュンペーだったのだが取り込んだ事によりアルセイド同様何処か頭の螺子が外れている。


「ネーレイスちゃんって結構、変態だよね?いや、ガチで。」


変態と言う言葉を口にするとネーレーイスは興奮した顔で身震いをし始めた。


(この子、本当にヤバいな......顔は好みの部類だけど.......目がちょっとイってるのが.....しかもちょっとヨダレ垂れてる。)


変態の一言で此処まで興奮する女は過去に数人はいたがこの子は桁が違う。正真正銘の変態なのだ。瀬名は甲斐甲斐しく妄想に耽るネーレイスの口元を親指を使い垂れるヨダレを拭き取る。


「あ、ありがとう、ご、ございますぅ」


流石に恥ずかしかったのか顔を背けるネーレイス。


(恥ずかしがった.....だと)


やめろ、その行動は俺に効くと脳内で考えているとアルセイドが一つのお店を指差した。湯気が窓から出ている事を見ると何かしら調理でもしているのだろう。


「セナ、あいてる、入る?」


「そうだね、入ろっか。」


古い建物だが雰囲気があっていい内装だった。例を出すと時代劇で見る甘味屋見たいな感じだろう。


「いらっしゃい」


内装や町の雰囲気とは逆に西洋風の洋服を着用したおっさんが調理場から顔を出した。


「すいません、外から湯気が見えたもので。今大丈夫ですか?」


「おう、大丈夫だぞ。もうじき下準備が終わる頃だから適当にすわんな。」


そう言うと親父さんは厨房へと戻っていった。自分達は取り敢えず言われた通りに座る。


「ネーレイス、どきなさい、殺すよ?」


「ふふ、アルセイドちゃん、"が"、ですかぁ?」


自分の隣にネーレイスが腰を下ろしアルセイドがご立腹のようだった。このままではまた喧嘩が始まるのではないかと危惧した自分はその場を立ちアルセイドを持ち上げると自分の座っていた席に下ろす。そして自分自身は二人の対面に座った。二人は同時に立ち上がろうとしたのでそれを静止する様に言葉を挟む。


「はぁ、あんま喧嘩しないでくれ。仲良くするって約束しただろ、な?」


疲れた様に言うと二人は納得したのか座ってくれた。


「兄ちゃんも大変だな、はは」


店の戸が開く音がすると昨日お世話になったネストール一行が姿を現した。


「ちっ」


舌打ちが聞こえる。


(ネーレイスちゃんが舌打ち!?)


瀬名は驚く。自分やアルセイドと接するネーレイスは常にMの姿勢を貫くのだがこうも嫌悪感を出しながらだと正直な話同一人物なのかと疑ってしまう。


「.....カリュプソー」


儚げな物を見る様に視線を送るオデュセウスにネーレイスはオエっと吐くような仕草をする。


(そう言えば昨日も確かネーレイスちゃんがこの赤髪の確か....オデュッセウスだったかと話した時も性格が激変してたな。)


瀬名は両者を交互に見つつ過去に何かあったのではないのかと推測する。


「まぁまぁ!取り敢えず座ろーみんなぁー!」


空気を読みテーセウスはオデュッセウスとネストールに隣のテーブルに座るよう指示をすると二人は素直に座った。オデュッセウスは未だにネーレイスへと視線を送っていた。


「ジョン君、帰えりませんかぁ?気持ちの悪い男と食を共にするなど私の中のカリュプソーさんが自我を取り戻さんと渦巻くので気分が悪くなるのです。」


(嘘だな。)


自我ではなく性格が影響されるだけだ。それにオデュッセウスが来てからかなり饒舌だという事は少なからずそのカリュプソーなるニュンぺーの記憶、全てがネーレイス本人に影響を与えているのだろう。


「まぁまぁ、取り敢えずご飯食べたら帰るから我慢して、ね?」


ウィンクで誤魔化し三人の男達へと顔を向け直す。


「さて、話をしようじゃないか。」


ネストールはパチンと手を鳴らすと真剣な顔つきで瀬名を捉えた。だがネストールが話をする前にオデュッセウスが先に話を滑らせる。


「カリュプソー.....お前達は何者だ?」


オデュッセウスはネーレイスから目を離し自分へと疑問の視線を向けた。


「此処は生半可に来れる場所ではない。恨みを買い、呪術の込められた転移魔術でも使われたか?それとも何かしらの間違えでこの塔へと足を踏み入れてしまったか....どちらにせよ此処に来るという事は何かしらの業を背負っていたのだろう?」


「そーそー!ちなみに此処に入ったら出られないんだよぉー!街を出れば化物達がうじゃうじゃいるの君達も見たでしょー?」


テーセウスがオデュッセウスに便乗をすると両手を上げてこの地の危険性を説明する。


「オレ達はオデュッセウスさんの言う前者だと思いますよ......黒い渦に吸い込まれたと思えば一面は雪積もる大地でしたし........街を囲む様に結界が貼られている事を見ると此処がかなり危険な場所なのは分かりますが一体此処は何処何ですか?」


セナは昨晩アルセイド達が話していた結界についての情報をオデュッセウス達に言う。ちなみに彼女達が話していた事はもし敵サイドに回ったならばどの様に破壊しようかとの内容だったので聞かなかった事にした。


結界(アレ)はオレ達が作製をした物だ。この街だけは何とか人が住める様にと数十年を掛けて作り上げた。」


「数十年っ、オデュッセウスさん達は此処にそんなにも長い間......」


瀬名は絶句する。


(容姿が若いんだけど実年齢はいくつなんだろ?)


「あぁ、とても.....長く険しい道のりだった。」


感慨深そうに返事を返すとオデュッセウスは外を見る。ネストールはオデュッセウスの顔を見て苦笑いをした後、代わりに説明を始めた。


「正確にはそれよりも前だ。オレ達も最初は別々だったが迷い混む奴らを助けていく内に大所帯になってな。少しづつだが俺たちは協力して町を作って行った訳だ。そしてオレ達は化物達の襲撃が来ない様に冒険者と言う職を民衆に提示して防衛に当たりつつ結界も完成させた。今では何とか化物達の肉や装飾品、武器などの売買を転移魔術を行って此方にない物資を送って貰っている状態だ。」


(それって転移魔術で帰れるって事では?)


瀬名は疑問に思い眉間に皺を入れているとネストールが鼻を鳴らし疑問の答えを提示してしてきた。


「そう、転移魔術でだ。しかし人に使うには膨大な魔力か百を超える血肉を調達しなければならない。オレ達は神では無いからな。まぁ、殺し合いをする訳には行かないから化物達の亡骸を代用しながら地上に住む奴らと交渉をして貿易して来たって訳だ。調味料や衣類、足りない木材何かもな。」


「君達も見たでしょー?結構人が少ないんだよー街の大きさに比べるとぉー」


テーセウスが言う通り明かりや人が歩いていようとプリギュアと比べると人は少なく美しい街と言えど何処か廃れた雰囲気を出していた。


「最近では異形の者達の動きも活発になり冒険者達の半数は既に死んだ。雪に埋まる武具などは外界で見ただろう?いずれ街の結界も破られ化物達がなだれ込むのは目に見えている。そう言った点では貴様達には同情するがな。」


オデュッセウスは店主が持ってきてくれた熱いお湯へと口を付ける。


「それは......どうにかする事は出来ないんですか?」


瀬名は三人に向け聞いた。


「あるさ、可能性としてはかなり低いがな。だが民衆どもは残りの人生を好きな事に使いたいと喚いてな....今ではオレ達三人だけが探している。」


オデュッセウスは何処か悲しそう表情で雪が降る外を再度見始めた。


「それは......ならオデュッセウスさん達も休めば」


「それをしたら誰が街を守る?直ぐにあの牛共が来て大量虐殺が始まっちまう。」


ネストールはそう返答を返すと店主が食べ物を持ってきてくれた。如何やらお粥みたいだ。上には一つの梅干し?見たいな物が乗っていた。


「すまねえな、もう何処も食料なんか残ってねぇんだ。こんくらいしか出せるもんがねぇ。」


(食料がない.....なら昨日の旅館での晩食は.....)


店主はそう言うと厨房へと戻っていった。自分達は口へと食べ物を含みながら話を再開する。


「なら、その方法って言うのは何ですか?」


「此処は"蝮女の塔"、最上から数えて第二の層だ。下層へと下るには此処を含め四層ある階層を下らなければならない。そうすれば塔を出る事が可能だ。」


オデュッセウスがそれを口にするとネストールは驚いた顔をする。如何やらこの情報はネストール本人にも伝わっていなかった様だ。


「それは本当なのか!?オデュッセウス!!」


「ああ、オリュンポスの神から天啓が来た。」


テーセウスは顔を顰めていた。それを疑問に思い瀬名は視線を送っていると彼方も気づいたのか苦笑いで返された。


「ならば、オレ達はいち早く此処を出る準備をしなければ!みんなにも伝えよう!」


ネストールは嬉しそうに口にする。


「慌てるなネストール。階層に下る為の居場所を掴めていない。」


「あっ.....ああ、そう...だったな。」


立ち上がり拳を握りしめていたネストールは悔しそうな表情をとり席へと腰を落ちつかせる。


「だいぶ話はそれてしまったが貴様達は何者だ。カリュプソー、貴様はカリュプソーでありカリュプソーではない事は分かる。だが何故、貴様からも彼女と同じ神気を感じる?」


瀬名はご飯を黙々と進めながら二人へと顔を向ける。


(花嫁達の事を話すべきか、いやこれは彼女達の問題だな。)


「ネーレイス」


名前を呼ぶと嬉しそうな顔で自分を見て来た。尻尾があればブンブンと回していただろう。自分の言おうとしている事を察してかオデュッセウス達へと顔を向け口を開く。


「私達ですぅかぁ?貴方に何の関係があるんですかねぇ?ふふ、オリュンポスの犬が私の正体を知ったからと言って私にぃ何の利益がもたらされると言うのでしょうかぁ、ふふふ。」


口悪く返答を返すネーレイスに唖然とするオデュッセウス一同。


(口悪い!)


瀬名には甘々なネーレイスの違う一面を見て驚きを隠せなかった。まるで彼氏が去った後に友達と話をする女性の性格の豹変ぶりのようだった。


「アルセイドも、ネーレイスに同意。」


アルセイドもネーレイス同様あまり自分達の事を話したくないらしい。


「.........」


アルセイドの台詞を最後に沈黙が続いた。オデュッセウスは眼を閉じ再び開く。


「......そうか、ならばっ」ガタ


剣をいつの間にか抜刀し剣先が瀬名の眼球数センチへと迫る。オデュッセウスの目は本気で自分を殺しに来るものだった。


(殺され)


スローモーションで瀬名へと迫る死の感覚。


(るっ)


眼を閉じようとした刹那、目の前にいた筈のオデュッセウスは地面へと力強く倒れた。いや落ち潰されたが正確だろう。潰されるように床に倒れるオデュッセウスの地面には亀裂が入る。


「ぐあっ」


オデュッセウスは痛みに顔を歪める。重力の様な物を感じたがこれはプリギュアに来た時のキュベレーが放った神圧に酷似していた。いやそれ以上の物を感じる。


「愚かなる人の子、その行い咎として断罪する。」


アルセイドから底知れぬ神気と闇が立ち込める。隣に立つネーレイスからも同様に瞳には殺意と闘争が映し出されていた。そしてその闘志に並行して渦巻く幾数の水流の渦が空間を支配していく。


「......オデュッセウス」


ネーレイスは人差し指をくるくる回すとオデュッセウスに向け下す。すると水流の渦が杭の形をとり地に沈むオデュッセウスへと突き刺さる。


「っ!?」


オデュッセウスがあまりの痛みに顔を歪めているとテーセウスは素早く炎の魔術を放ち杭を破壊する。そして素早く短剣を抜刀した後にネーレイスの心臓目掛け一足の内に至近距離に迫るが。


ザクッ「ああ、駄目ですうよぉ?ふひ、そんな短剣(バターナイフ)じゃッ」


ネーレイスの心臓へ突き刺さった短剣はその短剣を中心にネーレイスの上半身全てを吹き飛ばした。後ろの壁も共に消滅し先にある民家をも貫通するように大きな穴を作り上げる。


「ネストール!!」


「応っ!!」


テーセウスは声を上げネストールを呼ぶ。そしてネストールが応っと答え左手を戸がある方えと差し向けると昨日見た巨大な大剣が戸を破壊しネストールの手元へと収まった。


「悪いけどっ!」


短剣を空中でグルンと回し掴むと瀬名の方へと超速のスピードで迫り突きを放つ。咄嗟に左腕を出した瀬名の左腕に刺さり瀬名は悲鳴を上げる。


「うがああっ!?」


唐突な戦闘の始まりに未だに思考が追いついていない瀬名。反射で出した左腕からは血が流れていた。


「へぇ、強化?でもこのアリアドネーの短剣じゃあ無意味だよ。」


本気の殺意だけが瀬名を襲う。身の危険を感じ身体を横にずらすと先程と同じ様に短剣の軌道上に入った場所が貫通され無残な姿になっていた。


(左腕が動かな.....っ!?)


瀬名は貫通された後ろの壁を見て自分の左腕の感覚が無い事に気付き視線を向けると。


「うっ!!」


左腕は消失し血が垂れ流れていた。そしてテーセウスは笑みを浮かべ強い蹴りを放って来た。胃液を吐きながら壁にぶち当たり血が口から吐き出される。


(痛い痛い痛いっ!!)


苦渋の表情を浮かべるが決して声には出さない。


(冷静になれ冷静になれ冷静にっ)


テーセウスの手からは炎が渦巻き瀬名の倒れる方へと向いていた。そして火炎放射が如き紅蓮が地を削りながら瀬名へと迫る。


「貴方、何をしているの?」


テーセウスの後部から人では決して出す事が不可能な程の怒り、殺意、死が押し寄せるとテーセウスの視界が暗闇へと変わった。瀬名へと迫った炎はすれすれな場所へと当たり壁を溶かしていく。頰は熱の影響で少し焼け焼け傷がつく。瀬名は息を吐き出した。緊張の余り呼吸をする事を忘れていたのだ。


「絶望の中で、死ね」


暗い暗い闇の中からその一言が呟かれるとテーセウスは動きを止め瞳から精気を失っていった。


「.........ンヒ?アハハ!!アハアッ」ブシュ


そして発狂した後に首を自分の短剣で掻っ捌き血を吹き出しながら絶命した。それを引き起こした黒髪の少女の片手には先程の大剣を担ぐ大男、ネストールの生首が握られていたがそれを宙へと放ると空間を抉るとるように収束し無へと帰した。


「化け物め....」


オデュッセウスが言う。破壊された筈の杭が何故か再び刺さっていた。


「あぁ、塵が一人残っていたね。」


身動きができないオデュッセウスの元へと歩いていくアルセイド。そしてオデュッセウスが首に力を入れ視線を上へと移すとアルセイドはゴミを見下す様にオデュッセウスを捉えていた。


「ふふふ、いひ、いひ、笑が止ま止まりません、いひひ。」


両足だけがテクテクと声を発しながら杭に刺されるオデュッセウスの元へと歩いていくと肉が再生する様に水の泡を上げて超速再生されていく。


「あぁ、あぁ!オデュッセウス!何と愚かな男でしょう!ふふふっ、私のジョン君に手を上げてしまったぁ貴方は楽には殺しません!!ふひひひひ、ふふふふふふ、あはははははははは!!!」


狂う様に笑うネーレイスの横に立つアルセイドも邪悪な笑みを浮かべていた。


「ほら」


アルセイドが指をひょいと上げると倒れるオデュッセウスの小指が間接とは逆の方向へと上がる。


「うぐっ」


「アルセイドちゃん、ふふ、忘れていますよ?」


ふうと吐息をオデュッセウスへとかけると折れ曲がった小指が捻れ爪が剥がれる。


「ぐっ」


「痛みを堪えてはイケマセンよぉ?楽しむ、そう、愉しむのです、ふふ、ふふふ」


倒れるオデュッセウスの顎をくいっと上げて美しい笑みを浮かべる。聖母の様に壊された壁から雪と共に光がネーレイスを包み肖像画で観る女神の姿が現し出されるがオデュッセウスにとっては死神でしかなかった。


「うがあああああアァアアア!!!ゴボッ」


四肢の全てが逆方向へと曲がり口からは大量の海水が流れ出る。するとネーレイスはオデュッセウスの顎を下ろし頭を足で押さえつける。押さえつけらたことにより口から海水が出せなくなり鼻から溢れ出る事になる。


「ああ、あああああああ、これ、これこそが、痛み、痛みなのです。苦しみなくて痛みなど生じない。ですからこの快楽をもっと楽しんでくださいね?あ・な・た♡」


オデュッセウスは四肢が抉られ動く事もままならずただそこで身体を揺らしながら痛みにそして死への道筋を耐えるしか無かった。


「ああ、出し切ってしまいましたかぁ、ふふ、残念です」


海水を出し切ったオデュッセウスは意識を朦朧とさせるが途切れる事は無かった。


「殺して......くれ「ませーん」


アルセイドは両手を上げて棒読みでそう言うとネーレイスの横へと立ちオデュッセウスの目を覗き込むとオデュッセウスの両眼球が抉れる。


「ぐぅ」


もはやオデュッセウスに叫ぶだけの力は残されていなかった。


(流石にこれ以上はっ....)


瀬名は何とか痛みを押さえ腕から血を流しながらもアルセイド達の元へと歩いていく。


「じゃあ、次は何しよっか?」


アルセイドの黒の瞳はさらに深く深淵へと近づいていく。


「アル....セイド....ネーレイ...ちゃん...もう、殺してあげて」


二人に抱きつきそう言うと目の前のオデュッセウスの身体がその場から瞬時に消失した。床もかなりの深さを抉られている事を見ると血肉一つ残らず消したのだろう。


「セナ、痛い?」


アルセイドが傷口をちょんと触ると痛みが消えた。権能で痛覚を麻痺させたのだろう。


「痛いのー痛いのー飛んで下さい、ふふ♡」


左腕の傷口にネーレイスが手の平に出した水球を付着させられた。


「左腕消えた、けど、大丈夫。私、面倒見る」


アルセイドが身体を擦り付けながら言ってくれた。ネーレイスはそれを聞き瀬名へ上目遣いをしながら抱きついて言う。


「大丈夫、ですよぉ?ふふ、ジョン君に付けた加護、今は、か、仮ですけど海精の寵愛は、三日三晩触れていれば、か、完璧に、治り再生します、から、ふふ。」


「は?」


アルセイドが青筋を立てながらネーレイスへと顔を向け抗議をする。


「ネーレイス、貴方は嘘つき。治そうと思えば一瞬で出来る筈。」


「アルセイドちゃんも、ゆ、指ぱっちんで腕が治るのに、私が面倒を見る、キリ!なんて、ジョン君が可愛そう、可愛そう、可愛そう、です。ふふ、そうです、私、私だけがジョン君を想って、思って、重っているのですから、ジョン君の介護権がは私にあるとは思いませんかぁ?」


要約すると二人は自分の看病がしたいから左腕をあえて治さないと言うことだ。


(はぁ、勘弁してくれ....)


「いや、治してくれよ。」ガシャ


石が足元に転がり込んできた。どうやら外から投げ込まれた様だった。


「何で石が...」


カンっ!そしてもう一つカンっ!と石が投げ込まれてくる。


「痛っ!」


額に石が当たり血が顔を覆う。アルセイド達は店の戸側の壁を全て破壊すると民衆がこの店を囲むように包囲していた。


「出て行け!化物共!!」


「お前達は化物達が送り出した使いだな!!今すぐ出て行け!!」


「よくもこの街の英雄様達を!!死んでしまえ!!」


「返して!!お願いだから!!オデュッセウス様達を返してよ!!化物!!」


民衆は石を片手に罵倒と共に投げ込んで来る。その中には先程料理を運んでくれた親父さんもいた。アルセイド達は自分を守る為に前に出ていた。


「殺そう。」ボソ


アルセイドが口をこぼすと同時に前にいた三人の若い男の頭がトマトが潰れたように雪積もる白い世界へと紅い花を咲かせる。


「やめろ、アルセイド!痛っ」


アルセイドの前に立ち、止める様に言うと後頭部に強い痛みが瀬名を襲った。石を投げつけられたのだ。ネーレイスは投げつけらた本人を見つけると口元を浮かせた。


「子供、子供、子供、子供ぉ、ですかぁ。ふひ、ふふふ、関係ありません、私のジョン君を傷つけ傷をつけられるていいのは私だけですよぉ。そう、幼き幼児も同様に殺し、殺す、殺され、殺して差し上げましょう、世界と言うのは無情、傍観、そして何よりも平等でなければならない。」


瀬名達がいる建物が半壊し民衆の周りの雪が溶け水となる。すると建物を中心として水の花々が形成されて行く。だがその花々は綺麗な水色のつぼみを咲かせたと思えば枯れるを繰り返していた。


(いったいの住民もろとも消すつもりか!?)


瀬名は焦る。


「ネーレイスちゃん、止めてくれ!ほら、おれピンピンしてるし大丈夫だから!!」


「「......」」


二人は黙るがその瞳からは理解に苦しむと言う表情をしていた。此処から早く出なければこの二人は確実に大量殺戮を始めるだろう。ならば取るべき行動は一つだ。


「もう行こうぜ。此処には屑共しかいなさそうだし塵の相手なんかしたらアルセイド達が可愛そうだって。いきなり襲ってきて返り討ちにしたら民衆から化物扱いだぜ?頭沸いてんよ、この町。」


瀬名は長々と説明している最中も石は投げ込まれているのだが瀬名たちに到達する前に何故か消失していた。


(頼む、今の説明で引いてくれ...)


瀬名は二人の顔を覗き込むが二人は下を俯きプルプルと身体を震わせていた。


「セナ、私達の事を考えて//」


「ふふ、ふふふ、心配、同情、愛情がこれ程までに、ふひ、ふふふ、子作りをしましょう、いえ、します//」


瀬名は息を吐き落ち着いた。


(ふぅ、よかった。)


取り敢えず此処を離れるよう二人を引っぱって出ようとすると二人は自分の両腕に腕を絡めた。民衆が睨みを利かせる中、この街の入り口へと足を踏み出す。民衆は皆怒りと憎悪を含んだ視線を投げながらも道を開けて行く。罵声を浴びつつも三人は外へと続く入り口へと目指すのであった。







「トロイアの木馬を思い出す。」


街で一番高いと言われる五重塔の最上階にて二人の男は騒ぎのある店先を眺めていた。


「さすがアカイアーの知将って呼ばれるだけは在るねえー!」


足をぶらぶらさせながらにっこりと笑うテーセウス。


「でもさーネストールに黙ってこんな事しちゃっていいのー?」


「くく、あいつはまだ、寝ているさ。」


罵倒を浴びながらも進む三人を高台から眺め笑を浮かべるオデュッセウスとテーセウス。


「絶対怒るよー!てか僕達と仲違いするね、絶対!でも言わないからセーフ!」


「ああ、彼奴は優しすぎる。オレ達の誰よりも人の事を考え人の為に尽くす。それが分かるからこそオレ達は彼奴を巻き込んではいけないんだ。」


「そう....だね」


沈む気持ちの中、二人は空を見上げる。空一面白で覆われ太陽の光など地上には降ってこない。それでも青年達は英雄だからこそ進まなければならないのだ。


「でもさあー昨日は焦ったよねー?毒入れたはずなんだけどなあ、三人共ピンピンしてるんだもんさー」


昨晩の晩食に毒を盛った筈なのだが三人は何事もなく今朝、顔を出したのだ。


(といっても長髪の子の食事からだけは毒を抜いたのは知ってけどねー、オデュッセウス。)


テーセウスはハニカミながらオデュッセウスへと視線を送っていた。


「ああ、だからこそこの手に出たんだ。オレ達にもっとも実力が近い冒険者三名にオレ達の皮を被せ武器まで与えたがあの通りだった。と言っても実力はオレ達の半数以下の戦闘能力だったがな。だがこれで作戦は成功した。」


「うん、あの子達は強い。僕達が此処を守っている間に見つけてくれるだろね、下層への入り口をね。」


テーセウスは透明な麻糸の鞠をくいっと中指と人差し指で動かす。すると瀬名との繋がりを感じられたのか青年は笑みを浮かべる。


「贄にならなければ探しに行かせればいい。さすれば好機も訪れよう。ネストールを起こし準備に取り掛かるぞテーセウス。」


五重塔へと影が入り二人の姿は暗闇へと消えてゆく。


オデュッセウスの冒険ってほとんどが本人による機転で切り抜けてるんだよなぁ。武力では無く知で戦うイメージ。

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