Episode04 "動きだす歯車"
ヘーラクレースからの指令はいたって簡単だった。王の死を伝えヘーラクレースが後継者として西王アトレウスの後任を継ぐこと。そして全駐屯兵の西都への帰還である。幸いな事に生き残った者達の大半が団長職に就いており指示は上手く回った。
騎士大隊は総合で七師団へと別れている。各師団に配属されるとき兵はそれぞれの技能に特化した師団に送られることになる。
第一師団は全ての面に置いて他を凌駕する者のみが配属できるエリート中のエリート。主に指揮系統の役職をこなす。内政などの問題も受け持つ事もある。
第二師団の主な役割は医療である。水系統の魔術や医学に優れた者のみがこの師団に配属が可能である。
第三師団は主に武に優れた者が配属される。気性が荒く問題ばかりを起こす隊だ。(主にバンダナと中年騎士だか。)
第四師団は西都王国魔導聖狩騎士隊と呼ばれ魔導を得意とする師団である。主な役職は魔の者、死霊と言った通常の魔術が効かぬ人外が現れた際の討伐または魔導の研究である。
第五師団は主に結界術に優れた者のみが配属可能である。主な役割は魔障や魔物などからの侵害を防ぐ又は城内の警備なども受け持つ。
第六師団は海戦時にて出撃をする騎士大隊である。常時は西国の戦艦などの管理、物資の運搬などを行う。
第七師団は警備科である。いずれの師団のように特殊な技能を必要とせず大半の兵士はこの師団に配属される。主な役職は西国各地の守護警備である。
第一から第六までの各師団には約500名の団員が配属され第七師団には数百万と言う団員が配属されている。西都にはほぼ全ての団長が在籍し城内の警備にあたり各副団長も各師団の意向で王都にて在籍が可能で半数の副団長も自軍の団長と共に警備にあたっていた。
そして此度のヘーラクレースの殺戮により半数以上の師団の頭が消えた。生き残った八名は偽りの連絡内容を他の師団に伝えるようヘーラクレースへと指示を出され為、偽の情報が各師団へと伝わることになった。それから一月を過ぎた頃、各師団は駐屯地からの帰還を果たし西都の城門にて姿を表し始めた。
「いったいどういうことだぁ?俺たち団員全員を西都に呼び戻すなんてよぉ。」
「んなもん、西王の追悼式に決まってんだろ。」
「あ~、なるほど。でもよぉ〜何で国境警護隊まで呼び戻されなきゃなんねぇんだって話だろうが?」
「一応上の命令で使い魔を配置してきたから東国の進軍には気づくことはできるだろうけど、正直な話、かなり危険だぞ今の西国は。」
各師団の団員たちは何故全軍団が呼び戻されたのか疑問に感じていた。
「口を慎め、これより生き延びた師団長方からのこれから方針が発表される。」
後ろから雑談している兵へと声をかける女性騎士。
「だ、団長!」
「も、申し訳ありません。」
雑談していた兵たちは団長と呼ばれる紫の髪をしたショートヘアーの騎士に注意を受け口を閉じ王城へと目を向ける。西城の近くには各師団を隊列させ城外には市民が今か今かと演説を待ちわびる。すると城外にある王壇にて九名の人影が姿を現す。
「我が名は第一師団団長エウゼビウス=ファラントゥーリである!!」
騎士大隊の総督と言ってもいい老騎士の生存に感嘆の声を上げる各師団の団員たち。
「此度の大量殺戮にて生き延びたのは私を含め八名の騎士のみである!」
(エフィ、生きていてくれたか!)
魔導聖狩騎士隊副団長の生存を確認した紫のショートヘアーの騎士は胸を撫で下ろす。
「そしてその首謀者である東国のスパイは自らも城内にて振りまいた猛毒により息を引きとった。我々は警戒しなければならないのだ、一人ひとりの民は西王アトレウスにとっての宝であり守るべき存在だった。しかしそれは此度の件で軽くも失われることとなった。私は許せない、我々の王を奪った東国を、そしてそれは許されるべきではないのだ。」
徐々に熱くなるエウゼビウスの演説に台詞を奪われかれないと危惧したヘーラクレースはファラントゥーリへと近づく。
「落ち着け、ファラントゥーリ。」
エウゼビウスの肩を掴み自身の事を忘れるなと目で伝える。
「はっ!?申し訳ないヘーラクレース殿、つい熱くなりすぎてしまいました。」
あたふたと混乱し頭をヘーラクレースへと下げるエウゼビウス。そして民衆へと直ぐさま顔を戻す。
「皆の者、ここに居られるは12の難行を成し遂げだ大英雄ヘーラクレース殿であらせられる。大量殺戮にて我らの命を救っていただきそして西王陛下の最期を看取った男であらせられる。」
おお!っと民衆から声が漏れる。そしてヘーラクレースはエウゼビウスの前に立ち高らかに声をあげる。
「此度の西王の死、心から痛み申し上げる。私の名はヘーラクレース。父に全能神ゼウス、英雄ペルセウスの子孫にあたる母の間から生まれた半神だ。私は神々からの試練を受けそれを乗り越えてきた。そして私は新たなる試練を神々から授かったのだがその試練を私は乗り越えることができなかった。」
驚きの声が上がる。数々の難行を乗り越えてきた不屈の英雄が乗り越えることがかなわなかった偉業とは何なのかと。
「13番目の試練、それは西王アトレウスの死の運命を変えることだ。」
国民は驚きの表情を浮かべさらに王の死は運命により決まっていたのかと悲哀した。
「私は消えゆく命であった西王からの最後の頼みとして_」
そこでヘーラクレースは間を作る。国民の皆はいったいどうしたのかと疑問を口々にする。ヘーラクレースは表情を強張らせ国民に宣言する。
「西国の王としての後継を任されたのだ。私は確かに王になるには未熟なのかもしれぬ、しかし私は友の、西王の国を貴殿らと共に守りたい。どうか私と共に歩んではくれぬか!」
民衆は一瞬静寂に包まれたがすぐさまうおおおおおおおおおお!と歓声の声が上がる。
「「ヘーラクレース王!」」「「ヘーラクレース王!」」「「ヘーラクレース王!」」
誰しもがヘーラクレースへの新たな国の長への存在を認め歓喜に満ち溢れる。彼の英雄伝は国民の間では幼少の頃より伝わっており男なら誰しもが憧れたものだ。そんな英雄の即位を反対する者などいよう筈も無し。そしてヘーラクレースは国民に向け片手を上げ歓声を収めるように指示を出す。
「皆の者、感謝する!私はこの国の王になれたことを誇りに思う!」
力強い声でそう宣言する。そんな姿を後ろから眺める数名の衛士は心の底では笑っていた。心にもないことをこの英雄様は民衆に伝えているのだから。
「あ〜ん、ヘーラクレースさまぁ〜痺れるわぁ〜ん!」
テオーネは目をハートの形に変えヘーラクレースを見ながらうねうねと身体を動かしていた。その横でレヴォンはこいつが生き残った理由ってこれかとドン引きの表情でテオーナを流し目で見ていた。
「皆の者聞いてくれ!」
ヘーラクレースは声を今一度上げ民衆に呼びかける。
「エウゼビウスも申したとおり此度の殺戮にて我々は数多の戦友を東国の策略で失ったのだ!平和を望み講和に努めようとした西王を裏切り国の重臣たちもろとも葬った東国を許せようか、否許せる筈も無し。」
「「そうだそうだ!」」と国民から声が上がる。
「平和を望むには我らこそが西王の意思を継西国をより大国にしなければならない!そしてその過程で東国は我らの最大の驚異となろう。東国の策略は城内のみですんだがお主ら国民にも及ぶやもしれぬ危惧すべき案件だ!今こそ....」
小さく呟いたあと今一度。
「今こそっ!」
今度は力強く民衆に叫ぶ。民衆は息を呑みヘーラクレースの次の言葉を待ちヘーラクレースは上げていた拳を握り締め。
「我らは立ち上がり西王の仇を打つべきである!!」
国民に対しヘーラクレースは宣言した。すると民衆は皆身を乗り出し声を上げた。
「西王陛下の仇うちだーー!!!」
「東国こそが私達の敵よー!!」
「許すべきではないのだっ!」
「今こそ俺たち全員が恩を返すときなんだ!!!!」
各民達が怒りと復讐の声を上げヘーラクレースの進言に同意し咆哮を上げる。
(これでアナタの言う計画は一歩進むということかなヘーラクレース‘陛下’)
民衆に紛れ意思疎通の魔術を行うクレタスはヘーラクレースへと自身の意思を飛ばす。
(そうとも、だからこそ貴殿の力が外交に置いて必要となってくるのだ。これで貴殿は逃れられぬぞ。西国の民は貴殿の働き無くては生活もままならぬからな。)
一月程クレタスは姿を消しており外交においての職務を放棄したのだ。この一月は生き延びた師団長達のみでなんとか現状を保つことが出来たのだがエウゼビウス=ファラントゥーリ以外の師団長はほぼ経験が浅く役にたたない事もあり限界に近かった。実質全ての負担を全てエウゼビウスに丸投げしている状態だった。
「く、貴様の思うように行くのは癪に触るがこのままでは国の財政管理、外交の取引が破壌するのも時間の問題。西王アトレウスよ....」
天を仰ぎ歓喜に溢れる群衆をかきわけヘーラクレースの元へと足を進ませる。それを見て満足したヘーラクレースは師団に顔を向け直し宣言する。
「これより軍備の再編成を行う、私自らが審判し各師団への役割と共に各部所への配属を行う。」
自身の観察眼で数百万と言う兵を一人ずつ見定め再度役割と師団の再編成を行い一人ひとりの可能性才能を見分けようというのだ。各師団の兵は少々複雑な顔を浮かべるが総師団長の呼びかけで顔を引き締める。
「隊列を組、第一師団から新西王の元へ謁見せよ!!」
エウゼビウスが声を上げ命令を下す。各兵が隊列をなしヘーラクレースのもとへと列を成していく。この采配には丸二日と言う時間が費やされた。
各師団兵は新しく配属された駐屯地へと速やかに足を運ばせる為、馬の準備を行なった。満足する者も不満を持つ者も覚悟を決め自身の新たな隊と共に配布された西国の上着を羽織い西都を後にする。新しい上着といっても白いロングコートから黒いロングコートになっただけなのだが殆どの者は自身の鎧と合わせる為原型など直ぐに失う。
「俺たちはどこに行けばいい。」
現在、王の間にいるバルトロメウスは答えを待っていた。バルトロメウス自身はどこへの配属も命令も選定時に下されていないのだ。周りには自分と同じ境遇の六名の兵士が立ち尽くしている。そしてヘーラクレースの覇気に当てられバルトロメウス以外の兵は口を開けなかったのだがバルトロメウスの発言により空気が緩和された。残された者の一人、レヴァンも続けて声を出す。
「そうだよ、オレたちゃあどこ行きゃいいんだ?まさか城を守れとかふざけたこと言わないよなぁ。」
各師団が既に西都を後にしている中、未だに取り残されている。訓練所時代を思い出すレヴァンはイラつきを隠しきれずにいた。
「城の配備は...確か...選定...で...なされた....筈....」
小さい声でレヴァンの質問に答える双子の片割れレシ。姉は引き続き第五師団なのだが妹の方は残されようだ。もう一人残された奴の中にヘーラクレースの殺戮での生き残りがいるのだが先程から目を閉じて直立している。確か第二師団団長のリディア=ヴァンディだったか。
「にしても俺たちも何かの運命で繋がってんのかねぇ、まぁ、オレは団長なんて高貴な役職には付いていなかったが今後ともよろしくなお前ら!」
元とは言え師団長相手に敬語を使わないあたり第三師団所属だっただけの事はある。普段なら懲罰を受けるところだがこの男は気にしないのだろう。
「あなた...生意気...ホモ...くせに」
「誰がホモだ!このちびっこはホントに生意気だな!」
そういえば第三の新しい師団長がテオーネに決ったんだったな。周りは二人の漫才を見て笑いを堪えている。空気が緩んだ今ならみんなも意見を出す事ができるだろう。
「そろそろか、」
ヘーラクレースは口を動かした。
「何故私が貴殿らを残したのかだが、貴殿たちには第八師団として任務に付いてもらいたい。」
残された兵一同は疑問を顔に浮かべる。
「第八ですか?」
バルトロメウスは疑問調に口に出す。第八と言う師団は西国に存在しないのだから。
「ああ。秘匿にすべき任務を貴殿らには遂行してもらいたい。秘匿すべき任務すなわち公には出せない案件の処理だ。暗殺、情報の集収、又は化物の討伐などを行なってもらう。」
「その上で私は武、学、共に優れた人選をしたつもりだ。この七名ならば見事に成し遂げるであろうと。」
ヘラークレースは王座から腰をあげる。バルトロメウス達はヘーラクレースの歩調に合わせて歩き後をおった。
「バルトロメウスよ指揮をとり北の森へ向かえ。そこにヒュドラーの死体が転がっていよう。これを使い奴の体液共に血を採取してくるのだ。」
これを使えと自らのポーチから小型のビンと何かしらの魔術というよりも神聖のかかった手袋を人数分に渡された。
「人の身でヒュドラーへの接触を測れば身体のすべての穴から血を吹き出し絶命するであろう。いや近づくだけでも蒸発しかねないんだったな。」
思い出したかのように告げるヘーラクレース。
「案ずるな、その手袋には女神の加護が宿っている。数分ならば触れていても大丈夫な筈だ。そしてそのビンは中が異界の空間に繋がっている故に詰められる限界値はない。欠点はその小さな穴からしか通せないことだがな。それでは以上だ。幸運を祈る。」
そしてヘーラクレースは兵達から距離を取り自身の寝室へと向かう。その後をバルトロメウスは一人追いかけヘーラクレースの前へと立つ。
「待ってくれ、オレには指揮は出来ない。他に指揮が出来る元師団長方がいる。」
「己を信じよバルトロメウス、それに。」
その言葉の先は言わせてはならないと本能が叫ぶ。
「っ、分かった。」
第八師団の任務出発日はその日の夜となった。決めてはリディア=ヴァンディが人目に触れない夜の方が効率よく動けると言う提案だ。皆はそれに賛同し身支度の為、一度解散となった。それから幾らかの時間が過ぎ日が落ちた。身支度をすませ新たに配布された黒い上着もといロングコートを着用し待ち合わせ場所へと向かう。
そこには既にリディアの姿があり腰に二本の麗剣をぶらさげ待機をしていた。
「早いな。」
「えぇ。」
口下手なオレではこれ以上は話しを広げることは出来なかった。しかしリディアが口を開き話しを始めてきた。
「貴方、何か隠しているわね。」
「隠している?」
「そう、この一月、私はあの獅子が殺し損ねた貴方達についての経歴を調べた。」
「でも貴方の経歴だけは他の団員と比べると些か、いえ、かなり劣ってはいるわ。片手で数える程にしか戦場に出ていない貴方だけど生還しているのは貴方だけっていうのは_」
バルトロメウスから一瞬殺気が漏れだすが直ちに殺気を四散させる。
「少し不思議ではないのかしら。」
リディア=ヴァンディの手は自らの剣に添えられていた。
「殺気、出したわね。」
くすくすと薄く笑うリディア。
「聞かせてもらえるかし「おーい!!てかおめーらはえーなぁ!!」
リディアが台詞を言い終わる前にレヴァンが声を上げこちらへと走ってくる。
「オレも今来たところだ。」
「え、マジかよ!つーことはリディアが一番乗りかよぉ―!どんだけ楽しみにしてんだ!」
煽るレヴァンに不機嫌になるリディア。そんな彼女の顔を見て少々苦笑いになるレヴァン。
「名前で呼ぶことを貴方に許可した覚えはないのだけど。あまり気安く呼ばないでくれるかしら。」
リディアはそう言うと眼を閉じ壁に寄り掛かる。
「おうおう怖いなぁ!いつも通りの仏頂面だぁ!あはは!!」
レヴァンの声量はかなり大きくリディアがかなり嫌そうな顔をしているのは此処からでも見える。此処はまだ西国の領土だからいいがここから北の森へ行くには東国を越えなければならない。流石にこの声量のまま旅路で話されたのでは目立ってしょうがない。
「西都を離れたらあまり声を荒げるなよ。」
バルトロメウスはレヴィンに対し注意をする。
「わっーてるよ!てめぇーはテオーネかっつーの。」
レヴァンは機嫌が悪くなり黙ってしまった。子供かと一人心の中で呟く。
「...子供....テオーネ....忘れられない....ホモ助」
自分の背後から声が聞こえて来る。
「レシ、あまり脅かさないでくれ。」
「テヘペロ。」
片手を頭にぽこんと置き舌を出しそう言う蒼色のドレスの女の子。もちろん女性用に西国の黒の上着を改造し着用していた。一応師団専用の軍服はあるのだが誰一人着用している者を見かけない。リディア=ヴァンディくらいだろうか上下揃えて着ているのわ。
「ああん!?誰がホモ助だ!?」
「レヴァン...いつも...テオーネ...話....出す...だから...ホモ...助」
「あんだとコラァ!表でろや!!」
「上等...かかって....来い」
と二人は今にも殴り合いの喧嘩になりそうなのだがレシがオレの裾を掴んで離さない。少し震えているしそろそろフォローに回るとする。
「オレの裾をひっぱりながら言うのは止めてくれ。それとあまり騒ぎを起こすな住民に迷惑が掛かる。」
そう言うと二人は確かにと落ち着きを見せた。
「んにしても残る三人は何してんだ、いい加減遅せんじゃねぇーのか?」
「いや、オレ達が待ち合わせ時間よりも早く来ただけだ。それにもうじきに来るだろう。」
「噂を......すれば.....来た」
そこにはヒゲを生やし海賊風に軍服を改造した50代くらいの親父が鞘に入れたカトラスを手に此方へ向かって歩いていた。腰にはフロントロック式の銃がホルスターにしまってあるのが見える。
「おう、時間通りに来たのに既に四人も集まってるなんて若いのは元気でいいのぉ!」
とがははははは!と笑いながら話をかけてくる。
「いやなぁ、今回の任務で成功すりゃ報奨金がすげぇでるってヘラクレスの旦那に聞いたもんでよぉ!興奮しちゃってよぉ!あーそうだ、嫁さんと家の坊主どもに土産かっていかにゃなあ!」
興奮して話しが止まらない中年親父を制するようにレヴァンが話しに割り込む。
「おい、おっさん!さっきは名前を聞かないで解散したから聞きそびれけどよ、」
あーそうだったなと海賊風の男が自己紹介を始める。
「おっとすまねえなぁ。名前か、名前はなぁヴァシリス=ヴェインってんだ!」
「ヴァシリス=ヴェイン!?」
いきなり声を上げるレヴァンに驚くバルトロメウス他二人。
「...びっくり..した」
レシは驚きバルトロメウスの後ろに隠れていた。
「おいおい有名人じゃねーか!お前ら知らねーのかよ!?」
有名人ではなく変人ではないのかと心の中で思うバルトロメウス。すると、
「あのぉ〜」
長槍の槍を持つ中性的な男が現れオレ達に声をかけるがレヴァンは聞こえてないのか話を続けていた。
「ヴァシリス=ヴェインって人は六師団において副団長、いや西国の本船船長を努めておられた方だ!」
「すいません〜ん」
珍しくその男も軍服を上下共に着用している。手をブンブン振るまわすがレヴァンもヴァシリスも聞いていない。
「数多の西国への進軍を許さず我らの国を守っていたのは間違いなくこのお方だぜ。」
「もしも〜し」
「おう、坊主もわかってるねぇ!どうだ酒でも!オレの勇姿を聞かせてやるぜぃ!」
「ワザとかなぁ〜」
流石に可哀想だと思い男へと近寄ろうとすると男は何かを決意したようで背にかけてある槍を振りほどく。
「よし!」
中性的な男が距離をとり自身の装備である槍を投擲する構えをとった。バルトロメウスは何をしているんだと駆け寄ろうとするがそれよりも先に二つの影が素早く動いた。
「え〜と、スイマセ~ン...えへへ。」
構えをとっていた中世的な男の首筋にはリディアの抜いた剣そしてレシによる両腕の部分的空間停止を受けその場から動けなくなっていた。
「止めときなさい。」
「仲間...武器...ダメ」
男は二人の顔を交互に見てはははと苦笑いをすると返事を返した。
「あ〜、はい。」
身体の支配を解放され顔を青くする中性的な男。
「これはどういう状況だ?」
すると突如として紫の髪をした女騎士が凛とした顔でバルトロメウスの隣に立っていたのだ。
「どうしたお前ら!おっ、やっと来たか!」
「これで全員じゃのぉ!」
如何やら全員が揃った事に気づいたレヴォンとヴァシリスは盛り上がっていた話を中断し此方へと歩いて来る。
「アンタは確かメレアグロスだったよなぁ?アルゴタウナイの英雄と同名なんで覚えやすいぜ。」
「えぇ、元第七でぇ〜”投擲砲台”として国境警備をしてましたぁ〜」
明るく答えるメレアグロスはくるりと回転し一礼をすると紫の女騎士へと視線を向けた。皆もメレアグロスに釣られそちらへと視線を送ると。
「あぁ、以前は挨拶をしていなかったな。私の名前はセレナ=フラングーリス。元第四師団西都王国魔導聖狩騎士隊の団長であった。」
「団長なのに西城にはいなかったのか?」
「私は身体を動かすのが好きでな、城に籠るよりも外で働きたかったのさ。何よりエフィが守護についている時点で私はいらんよ。」
珍しいなと一言バルトロメウスが告げる。その後は幾ばくかのたわいない話を行い今後の方策を決めた。そして馬小屋へと向かい旅路へと連れて行く自分の愛馬へと乗る。それからしばらく一団は馬を走らせ西都を抜けた。国境へと向かう一行はヘーラクレース新西王が新たな軍隊を設けた事で進軍を既に開始していることには気づいていなかった。彼等は国境付近に到達後、無数の死体が地面に転がっていることに気づき馬の速度を下げる。
「くっ、戦争はもう始まってるってのかよ!」
レヴァンが声を上げる。
「この付近の戦闘はすでに終了しているようだが。」
紫色の女騎士が周りを見渡し警戒を促す。
「急いだ方がいいぞ、東国兵の残党が奇襲を仕掛け来るやもしれぬ。」
「ああ、わかっている。行くぞ、みんな!速度を上げこのまま此処を突っ切る!!」
バルトロメウスはそう言うと死体を押しのけ進んでいく。それを追い一団も速度を上げ馬を走らせる。
「クソ! 平和協定が結ばれてたんじゃねぇーのか!!!」
西国の進軍により東国の国境警備隊は壊滅に近い状態になっていた。
「援軍はまだなのか!!」
「いえ、本部との連絡が西国の大規模魔術により阻害されています!」
苦渋の顔を浮かべ指示を出す
「くっ、撤退だっ!!」
「しかし、隊長!!」
撤退命令に不安の顔を向ける東国の国境兵。
「兵の命をこんな所で散らす訳にはいかない。これは敗北ではない、一度後退し体勢を立て直すのだ!」
「一人でも多くの命を救う事こそが隊長としての役目だ、私の隊は此処に残り命を賭して仲間を後退させる!」
そう声を荒げ迫り来る西国の兵を迎えうつ。その指示に従い国境兵は空に向かい魔力弾を放ち自軍に撤退の合図を知らせる。
「すまないな、お前たち。国の仲間の為に命を捧げてくれ!行くぞーーー!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!と後退していく仲間を背に数十名に過ぎない東国兵の一隊が千を越える軍勢に足を踏み出す。
東国領に足を踏み入れたバルトロメウス一行は数多の死体が敷かれていることによりヘーラクレースが先手を打ち東国へ侵攻したことに気づき始めていた。
「おいおい坊主どもぉ、これはやべぇえんじゃねえのか。オレの感がビンビン騒いでやがるぜ。」
海賊風の男ヴァシリス=ヴェインは長年の経験則により戦の気配を読み取る事が出来る。
「分かっている。ここは既に敵国、それに先ほどの死体の中にはオレ達の軍服を着た奴もいた。予測だが、ヘーラクレースは既に軍を侵攻させている。」
バルトロメロスがヴァシリスの警告に自身の見解を入れ答える。
「マジかよ!!あのデカ物、オレ達を戦場のど真ん中で死なせるつもりかよ!!」
レヴァンは先ほどまでは口を開け唖然として周りに転がる死体を眺めていたのだがバルトロメロスの言葉を聞き狼狽えはじめる。
「黙りなさい、私たちは死にに来たのではないの、任務を果たし帰還するのよ。」
「それに考えなさい、これは好期でもあるの。」
リディアは手綱を強く握り締め流し目でレヴァンに言葉を送る。
「好期?んでこの状況が好期になんだよ。」
イラつきを見せながらリディアへと言葉を返すがレシが代わりに答える。
「...バカ...今....好期...混乱....そのまま...抜ける...」
「その二人の言うとおり我等はこの混乱に乗じて東国を抜けるのだが、このまま進めば東国の兵に接触する可能性が高い。戦闘に移行すっかわせえええええレヴァン!!!!」
紫の騎士セレナ=フラングーリスは叫ぶ。ヒュンっと一本の弓矢がレヴァンの眼前へと迫り右目を貫こうとした刹那ギン!!!と火花を散らした。リディアが神速の抜刀でその弓矢を叩き落としたのだ。
「く、助かった。」
「いえ、矢に魔術が施されていたとは言え注意を怠らなければ貴方でも躱す事は出来たでしょう。」
「警戒度を上げろ。馬を狙うやも知れぬ!」
バルトロメウスが警戒度を上げるよう声を出して叫ぶ、各団員は自らの武具を開放し戦闘態勢に移る。
「くそ、地上戦ならあんな攻撃見切って躱せたってのによぉ。」
小さく毒を吐くレヴァンは顔を引き締め慣れない馬戦を思いつつ二度とこのような失態が起きぬよう腰の剣を抜き片手で手綱を握る。そんな中、草木の暗闇に隠れる東国兵は疑問に感じていた。
「何故気付かれた、透明化の魔術を施し射ったのだぞ。」
(これ以上、東国の地に西国の蛮族共を入れるわけには行かない。すまないクリスタ、お前たちの未来を守るために私はここで散る。)
故郷で自身の帰りを待つ妻に謝罪と希望を願い、決意を決める。自身の愛馬に跨りバルトロメウス一行の後へと馬を走らせる。
「はいやっ!蛮族共めが覚悟しろ!私と共に堕ちて貰うぞ!」
バルトロメウス一行の背を確認したと同時に矢を弓に掛け魔術の詠唱を始める。
「冥府の神よ_我、人ノ盟約の破棄により捧げる_魂の輝き_この身灰と成り_破壊の意志を継がん」
雲により月の光は閉ざされ暗夜となる。その上空へ向け弓矢を上げ最後の言葉を口にする。
「_“還魂の灰矢”よ」
上空に放たれた紅蓮の大矢はバルトロメウス一行目掛け下降していく。矢を射った対価として術者の身体は
焼け焦げ灰と化しその場に衣服と自馬だけが残った。
バルトロメウス一行は先ほどの奇襲を受け速度を上げその場の離脱を試みる。
「気をつけろ、矢が再度飛んで来るやもしれない。」
今一度、注意を一団に知らせ警戒を高めさせる。
「おい、橋が見えるぞ。」
ヴァシリスが声に出し指を指す
「あの橋を渡りこの森林から抜けるぞ。ここさえ抜ければ後は草原だ!」
一団は正面に位置する巨大な橋へと辿りつき、そのままバルトロメウスは先行して馬を走らせるが、バルトロメウスと他の団員との間に大きな弓矢が突き刺さった。矢は紅蓮の色を輝かせ灰のようにボロボロと崩れて行く。
「ぐっ、躱せええええええぇぇ!!!」
だが、警告を発したと同時に矢は周りの物質を取り込み橋の中心で巨大な衝撃破とともに大爆破を起こした。先行していたバルトロメウスは橋の対抗側へと馬共々飛ばされる。
「くっ、ふざけるな!こんな所でこんなにも早く....」
バルトロメウスは衝撃波の衝撃で身体を動かせないないでいた。爆心地には未だに黒い渦が出来ておりそこからは竜巻のようなものが生物のように蠢いていた。巨大な橋は倒壊し周りの地は痛々しく削れ地割れする。
「生きているものはいるか!!」
バルトロメウスは声を上げ生存を確認するが返事が返ってこない。動かせない身体に風の魔術を公使し自分を運んでくれた愛馬の元へと身体を浮かせる。
(西国の兵は自身の命を何とも思わないのか....)
「ぉーぃ!!!」
微かな声が倒壊した橋の向こう側から聞こえて来る。
「生きていてくれたか。」
安堵したのか馬の首へと倒れる。
「そっちは大丈夫かああ!!」
レヴァンはバルトロメウスの存在を反対側から確認し、声を荒げバルトロメウスへと叫ぶ。
「ああ、こっちは生きてる、怪我をした者はいるか!!」
「いや、みんな擦り傷程度ですんでる!おめぇの忠告がなけりゃ何人かは谷の下か天に召されていた所だぜ!!」
笑いながらレヴァンはそう答えた。
「オレ達は天じゃなく冥府行きだろうがな。」
皮肉を言うバルトロメウスに確かにと答え笑うレヴァン。
「オレ達の中に浮遊魔術を使えるのはお前しかいねぇんだ!もうじき日が昇る!てめぇーはどこか身を隠せる場所まで行って待っててくれねぇーか!!」
周りは草原のみで敵に見つかれば袋叩きにされるのは目に見えている。そしてレヴァン達は迂回してこの谷を渡る方法を模索しなければならない。
「オレ達はすぐに追いつく、心配すんな!!」
バルトロメウスは上着のポケッ卜から魔法陣の描かれた栞を出し短い詠唱を唱える。
「眼を覚ませ、星鴉。」
すると陣の中から1mくらいはあるだろう巨体な鴉が姿を現す。
「アイツらに付いて位置を定期的に知らせろ。」
「御意。」
鴉は渋い声で主であるバルトロメウスに答え飛び去っていく。
(さて、そろそろ行かなければ日が上がるか。)
バルトロメウスは馬に触れ駆け出すように指示を出す。馬は指示にしたいがい草原へと足を伸ばして行く。
馬に直線を走るよう命令し少しの間眼を閉じようとしたのだが今はまだ閉じることはできないことを思い出し手綱を強く握り締め振り落とされないようにする。
「「うわあああああああああああっ!!!!!!」」
大分遠くまで走り湖の近くまで迫ろうとした刹那バルトロメウスの目の前に突如として人が現れた。そして今まさに自身へとぶつかる直前なのだが身体は先程の衝撃の影響で上手く躱すことが出来ずそのままぶつかる形となった。バン!と音を立て馬から突き飛ばされる。湖の近くもあり草や花々などが咲き、花草がクッションとなり二人は怪我をせずにすんだがどこからともなく現れた男は自身の身体に覆いかぶっていた。
「どけ。」
殺気を込め覆い被さる相手へといい放つと男は顔を上げた。
「うぅ、ここはどこだ?」
朝日がその男を照らす。男は美しく女ならば惚れるであろう容姿を有していた。そして男は続けて言葉を口にする。
「オレにBLの気はない。」
意味はわからないが殺意がどうしようもなく湧いたので横に転がる自槍へと手をかけた。
運命の歯車は動きだす
これから続く長き道の_
これは物語のほんの始まりでしかない
さてさて、やっと次回から主人公を出す事が出来ますよぉ