Episode34 "真打と森精"
「木精よぉ其方はぁ後じゃぇ。」
そう残すとキュベレーは空間を裂き転移をした。プリギュラ寄りの湖へと押し潰されたネーレーイスは身体の至る所が粉々に砕け最早人の形をなしている状態が奇跡と言うほどだった。
「死んでぇないのであろうぅ、起きるぇ。」
鞭でナーイーアスの倒れる身体へと叩きつける。叩きつけたネーレーイスの身体は二つへと割れそのまま鞭は貫通し地面へと深い傷が入った。
「うううう、もっとぉ〜、く、下さいいぃ、ふふ、はあっ、はあっ」
体がみるみると水を吸い込み肉体を再生させていく。
「海精一人にぃ此れ程までのぉ不死性はないえぇ。」
(......いったい何十と言う数のぉ同精を吸収したぇ、化物がぁ。)
キュベレーの額に汗が流れる。そしてネーレーイスはその身を起き上がらせ何ともないようにキュベレーの元へと進んでいく。
「ちょっとだけ、み、見せて、魅せてあげますねぇ、ふふふ。」
歩くネーレーイスは神話が如き歌唱を奏でる。
「雷霆の娘ぇエラトーぉが奏でる歌....」
ネーレーイスの足元が徐々に盛り上がっていく。
「海の怪物と恐れられるケートの権能の一部をご覧になられて下さいぁい!ふふ、ふふふふ!!」
はきはきと美麗な歌声を乗せながら大地と共に水面の水が収束し巨人が如き怪物を生成される。
「馬かえぇ....いや、蜘蛛の姿にも....」
夕暮れの陽に照らされる化物の体表は水が循環するように綺麗な姿を形成していた。反面、それは神秘的にも見え不気味にも思えた。
一本一本の足にはトゲトゲしい爪が埋め込まれその一本がキュベレーへと襲い掛かる。キュベレーはその場を動くこともなく地面へと一歩タップを効かせると大地が盛り上がり襲い掛かろうしてたであろう化物の足の一本を押し返した。
「うふふ、まだですよぉ。」
化物の頭に乗っているネーレーイスは直ぐに体勢を立て直す。
「はあ、何故、此処ら一帯をふ、吹き飛ばしたら、いけ、いけないのでしょうか。」
ネーレーイスは召喚した怪物へと指示を出すと爪による攻撃で連続してキュベレーへと繰り出すがキュベレーは樹木による反撃で爪の攻撃を相殺する。
(埒があかぬぇ。)
キュベレーは鞭を横に振ると盛り上がった樹木がさらに動き触手のように蔦を伸ばし怪物を絡めていく。
「ふふ、この程度の水量ではだ、だめでしょうか、ふふ」
絡み取られた怪物は身動きが取れず苦しむ様に呻きを上げる。ネーレーイスはそんな姿の化物を飽きたような目指しで見てから絡みつく蔦を伝いスケートを滑るように降りていく。化物は樹木に水分を吸収されていき亡骸の様に萎んでいった。そして、降り立ったネーレーイスは蔦により拘束される。
「.....抜け、出せません、ね。」
水体へと姿を変えようと身体を動かすが変化出来ぬ事に気づく。
「手こずらせおってぇ。その無限にも思える不死性ぇ、再生ではなくぅ再構築じゃろうぇ?そなたが百を越える海精を取り込んだので有ればぁ、それを全て消費させれば其方は死ぬぇ。」
キュベレーは短剣を鞭とは反対の手に顕現させネーレーイスの心臓へと投げすてる。
「ぐっ、あああああ、い、いいい、生をか、感じますぅ。」
血が地面へと垂れるとネーレーイスもその血のように力なくグダンと倒れるが蔦が拘束している事で地面には倒れずにいた。そして光悦の表情を浮かべながら顔を上げ身体を震わせる。その顔へとキュベレーは鞭を叩きつけると顎の骨部が砕ける音がした。
「グググ、キモヂイデス、ググ」
顎の骨が砕けた事で発声が上手くいかず口を開けた状態が続く。そして今度は鞭の先を尖らせ、再度、顔面へと叩きつけようとする刹那。
「ネーレーイス......君の趣味には口は挟まないが限度という物を理解した方がいいよ。」
鞭を片手で掴み拘束されるネーレーイスの蔦を6つの球体が破壊する。
「ヒュ、ヒュラースさぁん...?....な、何で邪魔を、す、するんですかぁ!?」
彼女の顔は紅く染まっているが顎は既に回復しヒュラースへと怒りの表情を向ける。
「ネーレーイス、口を慎みなさい。ヒュラース様のお言葉ですよ。」
ナーイアスがヒュラースの後に現れネーレーイスを叱る。
「水精が、わ、私に、説教とか、ぷふ、笑わせ、笑わせますぅ、です、はぁいぃ、ぷぷ。」
踊る様にネーレーイスはナーイアスをぐるりと周り煽りを入れる。
「........低脳の雌クラゲが。」
ナーイアスはボソっと呟くと水面の色が彼女を中心に色を変えていくがヒュラースが彼女の肩を掴んみ耳元で何かを囁くと嬉しそうな表情へと戻り頰を染める。水面への侵食はネーレーイスの足元スレスレの場所で止まりネーレーイスはつまらなそうな顔をした。
「さて、待たせましたね。紹介が遅れて申し訳ありませんが僕の名前はヒュラースという者です。」
「貴様が元凶ぇ....ニンフどもを侍らせおってぇ。汝、人間ではあるまいなぁ?」
「鋭いですね。流石は地主、広大な領域を保有する大地母神と言うべきですか。ですが私は人間ですよ。いや、でしたが正しいのかな?」
地面を抉り出た蔦がヒュラースの足を掴むが、ナーイアスが即座に斬り落としてしまう。
「不意打ちですか....貴方、万死に値しますよ。」
キュベレーを殺意を込めた瞳で捉えると、ナーイアスは薄さ二センチ程の水面をスケートリンクを掛けるるようにキュベレーへと狭っていく。
「貴方には此処で死んで貰います。」
大地を盛り上がらせ迎撃しようとするが全ての攻撃を避けれる。そしてナーイアスは自分を中心として、水面に波紋を描き、キュベレーの周りへと広がっていった。
「当たらなければぁ、どうと言うことはないぇ。」
大地を踏みしめると柱の様に大地が浮き出し水面から離れる。そして周りにも同じ様に数々の足場を作る。ヒュラースの安否を心配しナーイアスはヒュラースの方へと眼を向けた。
「ヒュラース様!!」
ナーレイスは跳躍しすぐさまヒュラースの元へと戻ろうとするがヒュラースは指先を上へと上げていた。そしてその隣にはネーレーイスがいつも通りの腐った笑みを浮かべヒュラースの背に触れ浮遊の魔術をかけてその場を離脱する。
「上っ!?」
ナーレイスはヒュラースの指に従い上を見上げると、何か大きな物に踏み潰された。
「馬鹿ぇ、そこの海精だけが化物を生成できると思うたら、待ちがえぇ!」
土と岩で出来た先程の化物よりも巨大なゴーレムの手の平に乗り高らかに笑い声を上げる。
「あらまぁ、大きなことですわね。」
天宮からもその姿は軽々と見え、ドリュアスはスコーンへと手を伸ばし口へと入れる。
「安心せぇ、一体ではつまらんぇ、そら、もう二体じゃぇ。」
二体のゴーレムはキュベレーの乗るゴーレムよりは少し小さいがそれでもなお巨体には変わらない。そして三体のゴーレムの下には軍勢の様に無数の人間サイズのゴーレム達が控える。
「泥人形に何ができますかぁ!」
ナーレーイスは肉体を持ち前の再生能力で回復し立ち上がる。すると前方からは百を超える泥人形が襲い掛かる。
「大地を取り巻く第三の者たちよ!」
ナーレーイスは言霊を詠唱すると四対の聖獣が姿を現しゴーレム達を砕いていった。上半身は馬そして下半身はイルカの姿をする聖獣達は空間を水面の様に泳ぎ周りの泥人形を一掃する。
(ヒュラース様っ)
ナーレーイスはヒュラースの身を案じながら聖獣達を操る。その頃ヒュラースとネーレイスは先程盛り上がった柱々の一柱へと立ち上空へと眼を向けていた。
「親玉ぁ倒すがぁ戦の定石ぇ!」
キュベレー操るゴーレムは大きく腕を振りがぶりヒュラース達の元へと振り落とされる。大きく動く腕は茶を啜るドリュアスの天宮を破壊しながら地上へと狭った。
「....野蛮ですこと。」
キュベレーの乗る手の平へと移りゴーレムの成分から椅子を生成しそこに腰をかける木精。そして振り落とされた拳は地上へとあたり大きな爆風を生み出していた。キュベレーは眼を横へ向けドリュアスへと根を張らせようとするが木精であるドリュアスに木々は曲がる様に進み無効となった。
「パチン、こういった使い方の方がよくってよ。」
指で音を鳴らすと樹木がキュベレの周りから生え監獄のようにキュベレーを取り囲む。
「そのまま、世の終焉までお眠りなさい。」
樹木が収束するように天へと伸びるが、
_えぇ、そちがなぁ。
二体の巨大なゴーレ厶によりキュベレーを取り込んだ大樹が粉砕される。二体の巨人は左右から手の平を狙い拳をぶつけたのだ。キュベレーは自身に乗るゴーレ厶の頭部へと場を移しヒュラース達へと打ちつけた拳を確認すると此方の巨人の腕が木っ端微塵に吹き飛ばされていた。
「うふふ、さすがですわねぇ。」
潰れた身体がぶちぶちと音を立て再構築されて行く。すると両サイドにいた巨大なゴーレム達が敵を察知し動き出した。
「随分と甘く見られたものですね、僕も。」
ヒュラースーは右方の巨人の頭部目掛け駆け出していく。巨人は腕を振りかぶり叩き落とそうとするが、ヒュラースはその攻撃をも足場とし頭へと手を伸ばすと
「消えてください。」
ヒュラースの周りに浮かぶ六の球が収束し巨大な破壊光線となり放出される。頭部のみならず、上半身すらも消し飛ばした。そして左方にいるゴーレムはネーレーイスがゴーレムへと手を触れると内部から水を吹き出しゴーレムが崩れていく。
「ばか...なっ!?」
キュベレーはこのままでは不利と思うやすかさずドリュアスを回復させきる前に遠くへと飛ばすことした。再構築中のドリュアスの残骸が乗るゴーレムの手の平を握り締め遠くへ目掛け投球する。
「くくく、なんて可哀想な事を。」
ヒュラースはキュベレーの乗るゴーレムの肩へと座り笑うように投げ飛ばされたドリュアスの方を見る。
「貴様らの目的は何ぇ?」
きッと睨みつけヒュラースを捉える。するとヒュラースは乾いた笑い声を上げ口を開くのだった。
「て、手伝ってあげましょうか?ふふ、貴方の術は、無機物にはき、効かない、から、ぷぷ、聖獣出したんでしょう?」
ネーレーイスは膝を下ろし体育座りでゴーレムを蹴散らしいく聖獣の姿を眺める。
「ス、ステュクス使うと、二つの意味で、あ、危ないでじょうからね、ふふ」
「....」
無視を決め込むナーイアス。そんな彼女を面白いと思わないのか頬を膨らませる。
「.....待ちなさい、貴方、ヒュラース様を一人にしたのですか?」
「は、はい、ふふふ」
悪びれることもなく返答を返すナーイアス。
「本当に貴方と言う無能には虫唾が走りますよ。今すぐにでも殺してしまいたい程に。」
ゴミを見る眼でネーレーイスを見るナーイアスにそ、そうですぅ、その眼ですぅと光悦した表情で両腕で体を抱き地面へとうずくまるネーレーイス。
「使いたくはありませんでしたが、」
聖獣を下がらせると両腕を地面につける。するとスゥーと透明な水が地上へと広がっていく。そして、その純水に触れたゴーレムの軍勢はたちまち動きを止め、徐々に姿を変えていった。
「メンテーの権能.....」
うずくまっていたネーレーイスは顔だけをナーレーイスと変化していくゴーレムへと向け交互に見ていた。
「うっ」
ネーレーイスは口から胃液を吐き膝を地面につける。ゴーレムの軍勢達はミントの植物へと成り果てた。
「ヒュラース様の処、うっ、行かないとっ」
権能を使う度にニュンペーはその者の記憶が蘇るのだ。そしてメンテーと呼ばれるニュンペーは数少ないハーデースの浮気相手の一人だった。それに気付き嫉妬に狂ったペルセポネーは「お前などくだらない雑草になってしまえ」とメンテを踏みつけて恐ろしい呪いをかけた。
そう、メンテーはミントの草に変えられてしまったのだ。そしてそのミントはハーデースの傍、神殿の庭で咲き続けた。そしてしばらくしてナーレイスにより回収さるのは余談だ。
「ヒュ、ヒュラースさんは、だ、大丈夫で、す、はい」
ネーレーイスは心配してかナーレイスの背中を擦る。
「止めてください、気色が悪い」
「ぐはっ」
興奮した顔で鼻血が出るネーレイス。しかし口元は少し笑っていた。
「僕たちの目的と言うよりも“僕の”が正しいかなぁ。」
端麗な容姿に相きわまり髪をサラりと流すヒュラース。
「僕はねぇ、自由が欲しいんだよ。」
「自由?」
キュベレーは困惑する。
「僕の名前を聞いた事はあるかな?」
「アルゴ船員の名前の一人がそのような名だったとぉ記憶してるぇ。しかしぃ、その者は戦死、いやぁ行方不明ぇになったと伝記には記されっ」
ゆっくりとしたアクセントでねばっこく話すキュベレーは目を見開く。
「そう、僕がそのヒュラースさ。」
悲しそうな表情は夕日に照らされ、さらに悲哀に満ちたように見えた。
「旅の途中、キアノスに付いた時から僕の人生は狂い始めたのさ。あんな場所になんか行くんじゃあなかった、僕は何で泉へといってしまったんだ、とこれが僕の本心だ。」
先程とは違い、言葉に同様が現れてくる。
「泉に水を汲みに行った僕はそのまま帰ってこなかった。何故だかわかるかい?ニュムペー達は僕の手を取って水底に引き込んでしまったんだよ。声を上げて助けを呼んだけど声は届かなかった。駆けつけてくれたポリュペーモスさんもヘーラクレース様にもだ。僕はその後、無理やりに夫にされ今は何だと思う?木霊になってしまったよ。」
「恋をしたのじゃろう「ふざけるな!!僕はあの人の側に入れるだけで良かった、英雄になんてならなくても僕はヘラクレス様の側に生涯仕えることができれば.........っ」
ヒュラースは一度呼吸を整え二つの空へと別れるプリギュアを見上げる。
「僕は精霊として彷徨ううちに東国の一隊長になった。ついてくる花嫁達を殺しうる英雄が現れると思ってねぇ。ニュンぺーが憎い、この種を消してやろうと思い僕は全ての花嫁達に司る同族の吸収をさせ取り込ませた。」
話す最中にも人間サイズのゴーレム達が肩の上へと現れヒュラースへと襲いかからせているのだがヒュラースは球体の一部を剣の姿へと変えゴーレム達の群れを切り刻んでいった。それでも尚、ヒュラースは話を続ける。
「面白いね、とうとう戦争が起きたんだよ。今のじゃあないよ、少し前の大規模戦争の時だ。この戦場ならばもしかしたら英雄と呼ばれる猛者と巡り合い花嫁達を殺してくれるかもしてないと思ったよ。でもね、僕は過ちに気づいてしまったんだ。彼女達は強くなりすぎてしまった。下手をすれば、オリュンポス以上に、だ。」
剣をゴーレムの頭に突き刺し足でゴーレムの身体を蹴り剣を抜く。
「僕の担当した地区では僕を除いて全滅だ。言葉の通り仲間も敵も、だ。そして今回の戦争でも僕は駆り出された。テーゼースさんやカレイス君と同じ部隊になれたこと、そして久しぶりに会えた仲間との喜びは今でも忘れられませんよ。もしかしらこのままヘラクレス様と面会出来るかもしれないとも期待した。」
無限に溢れるゴーレムの群れに余裕を持って対処を続けるヒュラース。
「任務に就いた僕はずーっと待機です。テーゼースさんやカレイス君の実力があれば敵陣など容易く撃破できるだろうと考えていたのですかね、上の人達は。すると何とあの二人を倒す猛者が現れたではありませんか。僕は興奮しましたよ、もしかしたらとね。」
キュベレーは舌打ちをし鞭をもって肩部へと降りる。
「よぉ、じゃべるぅ、男じゃぁ」
鞭を一撃くれてやる。周りのゴーレムおも巻き込みながらヒュラースへと当たる。
「目的を話せと申したのは貴方でしょう。まぁ、僕は期待をした訳です。そして彼等の後を追うと何と堕ちた神々が住まう地へと来てしまった。はぁ、天啓だと思いましたよぉ。これで僕は解放されのではないかとねぇ。ですが残念です、」
鞭は掴まれ引っぱられる。身体をヒュラースの元へと投げ出されるとヒュラースはキュベレーの首を掴み締め上げる。
「ぐっ....離せ....」
鞭の打撃や蹴りをいれようがびくともしない。傷を追っているのは確かなのだが鋭い視線だけがキュベレーを襲う。
「でも、良かったですよ。六人の内、二匹は消えましたからねぇ。あぁ、ドリュアスも含めれば三人ですか。では他に話す事もないようなので死んで貰いますね。次はオリュンポスへと目指す予定があるのでねぇ。」
残る五つの球体が収束し一つの大きな槍となる。
「それでは」
槍がプルプルと震えトリガーが外れようとしていた。
(すまぬぅ、アタランテーぇ、....ジョンぅ)
瞳から涙が流れると同時に槍がキュベレーへと迫る。
「うううううううおおおおおおおおおおおおおおおおらららららららららららららああああっ!!!!!」
大きな叫び声が下から迫り近づいてくる、そしてその高速に動く者はヒュラースの顎へと拳を叩きつけたのであった。拘束から外れたキュベレーは槍の軌道から外れその者の姿を眼にする。
「ジョン!!」
ヒュラースへ空中で蹴りを放ち何とか肩部へと降りる。ヒュラースは蹴飛ばされた反動で地上へとまっさか様に落ちた。
「主人公ぅううう気持いいいいいいい!!」
汗を拭いキュベレーへと笑顔を向けた。




