Episode29 "森精アルセイド"
「オレアードさんは先に七番目への天宮へと行った様ですわね。」
ゆっくりと堕ちる一つの天宮の中、ほぼ倒壊しかけている城の中からコツコツと足音を響かせ遺体を引き摺るツインテールの金髪の女性。崩れかけている城はツインテールの女が出る事で完全に崩れ落ちる。
「早くしなければ、直ぐに堕ちてしまいますわよ?キュベレーさん」
クスクスと煽笑いをしながら虚空の宙へと呼びかける。
「何者なりぇ?」
すると空間から手が伸び突如と現れるキュベレー。
「花嫁と呼ばれておりますわ。以後お見知り置きお。」
引き摺る遺体を下ろしスカートの裾をあげ一礼をする金髪の女。
「下賤なぁ下級女神ごとき羽虫が妾の領域にぃ唾を吐き様てぇ、生きて帰れよぉと思うな。」
花嫁と呼ばれる女の挨拶をごみ虫を見る目で見ると地を軋ませ神気を上げていく。圧倒的自己領域による神圧が大気、地へと亀裂を生み空間を歪ませる。今にも地上へと少しずつ堕ちている天宮へさらに負荷がかかり堕ちる速度が跳ね上がる。
「ふふふ、そう焦る事はありませんわ。楽しみましょう?」
いつの間にやら白のテーブルが置かれ優雅な椅子が三つ立ち並ぶ。その二席には花嫁自身と顔を隠された遺体が座られていた。そしてテーブルの上には紅茶やスコーンなどが現れ花嫁の女は紅茶へと手を伸ばし優雅にティータイムを楽しむ。
「ふざけおぉて」
鞭を床に叩きつけ、椅子へ座るニュンペーへと鞭を打ち付ける。
「あら、酷いことをするのですわね。この方も貴方の御友人だったのでしょうに?」
ニュンペーの女はふふふ、と笑いながら紅茶を啜っていた。叩きつけたのはニュンペーの横に座る顔を隠された遺体だったのだ。キュベレーは驚くがこれは遺体とニュンペーの女が入れ替わった事に対してではなく打ち付けた事により露わになった遺体の素顔に対してだった。
「あらあら、どうしました?その様な表情をして?」
キュベレーはニュンペーの女を無視しその遺体へと視線を向けていた。
「......アイギーナ」
現れたのはアイギーナの亡骸だった。アイギーナの遺体は歳をとったかの様に老化し美しかった姿の面影はない。アイギーナは河神アーソーポスとメトーペーの娘の1人であり、ゼウスとの間にアイアコスを産んだことで有名だ。彼女はこの天宮に住まう12の内の一人だった女性だが既に息は無く、前述の通り皮膚は老い過去の美しき姿は失われていた。キュベレーは怒りで自分の立つ地が沈んでいく事に気付かない。
「そろそろですわね。」
ニュンペーの女は横の天宮を見てそう言う。するとタイミングを見計らったかの様に一人の影が現れる。
「ふふふ、お、遅れてしまいましたぁ......わ、私は本当に、イケナイ、いけない子.......し、死んでしまった方がよ、良いのでしょうかぁ、ふふ」
虚ろな眼をした女がゆっくりと金髪の女の座るテーブルへと向かう。歩くたびに彼女の踏んだ地は歪み小さな水流が出来る。そして渦のよう回転した後、それは何も無かったかの様に消える。
キュベレーは突然の登場に驚きつつ隣の天宮へと眼を向けると天宮は地に堕ち美しき形を失っていた。驚く事に外傷がなく疑問を感じる。
「ドリュアスちゃん....ふふふ、一つ貰って、い、良いかなぁ?嫌ならい、イヤって言ってねぇ、わ、私みたいな、に、ニンフはゴミの方がお似合いだ、とかね、ふふふ」
話し方にかなり影がある長髪の女は遺体をぽいっと投げ捨てると椅子へと座る。そしてテーブルに置かれる甘菓子を一つつまみ上げ貰って良いかとドリュアスと呼ばれた金髪の花嫁へと話をかける。
「貴方もわたくし達花嫁ならばもう少し自信を持ちませんこと?そんな事ではキュベレーさんに笑われ「茶番劇はもう良いぃ、死ねぇ」
首をグイッと上げると両者の座る地中から樹木達が生まれ襲いかかる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!!!!」
長髪の女は声を荒げそう叫んだ。木々達が襲い心臓を貫いたのだ。貫かれた長髪の女はブランと両手両足が力無く垂れる。
「先ずはぁ、一人ぇ」
(そして、もう一人は....)
もう一人のドリュアスと呼ばれる女を見ると女はその場から一歩も動かず椅子へと座り紅茶へと口をつけていた。視線が合うとにっこりと笑顔で返される。木々達は全てが彼女を避け、まるで彼女を敬うが如く王座の形を作り上げていた。
「.......木精」
キュベレーは冷や汗を流しつつ警戒を高める。大地を統べるキュベレーと自然を統べる木精とでは対とはならず協の力の関係を築いてしまう。お互いの権能を使い攻撃を仕掛けたとしても反発しあい霧散してしまう。
ゴソッ ゴソッ
「!?」
心臓を貫いた筈の女から妙な音が響き渡った。
「ふふふ、ふひ、ああああああああああああんっ、きも、き、き、き、き、き、き、き、き、気持ちぃいいぃ、これ、こ、これが良いの、この痛み痛み痛みがぁ、私に性を、生、正をか、感じさせるぅ、ふふふ、あはははは、あはぁ」
貫く大木は弾け飛び長髪の女は地へと足をつける。そして空に向け両腕を伸ばし光悦した表情が彼女から作りだされる。すると満足したのかじぶんの身体を両腕で抱きキュベレーの方へと顔を落とす。
「も、もっと、もっと、もっと、くだしゃい?ふふふ、ふひ、私をか、感じさしぇてぇ?感じらゃれて?く、く、くれますよねぇ?」
呂律が回らない長髪の女は決して叫んでいる訳では無く小声で話すことにより不気味さと気持ち悪さを際立たせていた。
「..........気持ちが悪ぅ化物よぉ」
貫かれた長髪の女の心臓は水が集まるように修復されていく。
「失礼しますわぁ、私達はただ探し物をしているだけですのに。」
キュベレーは唯の探し物が六人もの神性を帯びた物達を殺すのにどう関係があるのかと聞こうとするがある違和感を感じとる。
「堕蛇っ.......」
先程からエウリュアレーの天宮から大きな爆発音が聞こえ、更には天宮の半分が地に堕ちたのだ。
「はあぁ、お、踊りましょうぉ、し、死の、ふふ、狂想曲ぉ」
天宮から流れ出る滝の水が止まりその全ての水流が複数の雫に変わりキュベレー達が立つ天宮を包囲する。
バンッバンッ!!
「おい、リディア!リディア!!いるなら出てくれ!!!ガチャ「うるさいのだけれど」
リディア達が泊まる宿へと向かい部屋へとノックをする瀬名。
「外がヤバいことになってる、とっとと荷物纏めて行くぞ!!」
バルトロメウスはセレナとレシの部屋へと向かい、外で待ち合わせる事になっていた。
「.......分かったわ」
ふざけているのだろうと思ったのか最初は馬鹿にする様な眼で見てきたが冗談では無いという事を察しすぐさま部屋へと戻り調合した回復薬やら武器やらを荷物に纏めて行く。リディアには先に宿の前で待つ事を伝えその場を離れる。
「おーい、バルトロメウスー、如何だった?」
「ああ、此方も伝えた。もう時期に来るだろう。」
住民達は魔術による警報と城への避難を受け取り大急ぎで店を畳むなりしてプリギュア城への避難をしていた。そして空には天宮へと向かう為、空を飛ぶ数百の兵達がいる。翼を羽ばたかせるもの、魔術で浮くもの、そして使い魔を使い飛ぶものと様々な方法で宙へと浮いていた。
「あれは、女狩人か」
バルトロメウスがボソリと口にする。その集団の中、アタランテーが先陣を切り天宮へと突貫していたのだ。
バルッ!!!ガンッ!!!
そして地上へと視線を戻すと天宮の大きな破片などがプリギュアへと迫るのが見えるが大半は地上で待機をする兵達により迎撃される。
「すまぬ、遅れた!お〜ジョンではないかぁ!!」
「久しぶり....変態」
元気の良い挨拶と久方ぶりの罵倒だった。取り敢えず、レシを抱き上げ高い高いしとく。
ペチ「.....おい」
耳を紅くしながら頰を軽く叩いてきた。こーいう所が暴力罵倒系ヒロインとは違うんだよ(ドヤ顔)
「急ぎましょう、加勢に行くのでしょう?」
「ああ」
バルトロメウスが答える。
(いえ、初耳なんですけど。)
「ジョン、貴様は城へ迎え。」
「はぁ、ちょ、オレも「行くぞ!!」
言い切る前にいっちまった。バルトロメウス達は瀬名を置いて建物の上へ跳躍し、戦闘がある天宮へと向かっていく。
「いきなりの戦力外通告、とほほ。いや、分かってましたよ。」
自分が戦闘地区へ行ったとしてもお荷物か最悪死ぬだろう。
(元神様達が住んでる場所を領域ごと破壊して堕とすんだから何らかのすげー力持った奴らなんだろうなぁ。)
「取り敢えず、オレは城に向かうか。」
住民達が走る方向と同じ方向を目指し走る。
(なんか、ケモミミ多くね?)
走っている時に気付いたが、みんなしっぽとか、何かしら身体に動物の部位を兼ね備えてる。
(あ〜、そう言えば師匠言ってっけ〜、神々の罰を受け獣の姿に変えられたもの達やその子孫がプリギュアに住むとか。あ〜あのリスの尻尾してる幼女をモフりてぇ!!)
父母に手を握られ健気に走る親子を見て邪な感情を考える瀬名は考えを改める。
(せめてああいう親子だけは命を張ってでも助けよう。)
「ん?ポーション?」
走る最中に開いているお店を見つけ、回復薬と書いた液体が入った瓶が何個か置いてあった。
(店、閉めないで、城向かったんかな.....よし、何個か貰ってこ)
キュベレー様が言うには街にある売り物は何でも貰ってオッケーだそうでバッグに入れる。
「よし、行くか」
ヒュンんンンンン ドゴンんンンンン!!!!
巨大な石が先ほどまでいた店を潰す。
「ん?........」
首を後ろに回すと店は無残な姿となっていた。
(死んでた.......あと数秒遅かったら死んでた.....急がなければ、魔術壁が張られる城へ.....)
心臓がばくばくとなっていた。もう周りには人一人もいない、残されるは自分だけ。
「リアルガチでヤバい!!」
寒気が襲い走り出す。本当は強化を使い駆けたいが、いざという時使えないのであれば意味がないので温存する必要があるのだ。
ヒユウウウウウ がアァアアアん!!!
ちょい!!!兵隊さんたち何してるの!!そんなんじゃ、ウォール◯リア突破されちゃうよー!!
「く、本当に可笑しい....何で魔術による追撃がない!!」
隕石が落ちる様に街のあらゆる建物達が破壊されていく。
「はあはあ、ってここ何処?城何処??はあはあ」
城の位置が分からなくなり見晴らしがいい場所に行かなければならないんだが、細い通路しかない。
「ああもう、一回くらいならいいだろう、ええいママよ!!」
足に強化を流し跳躍する。そして建物の上に乗った事で再確認する事となる。
「一体、何が起きてんだよ!?」
天宮の三つは完全に地に堕ち、もう三つは落ちるのが時間の問題だ。至る箇所でも煙が上がったり爆発がしたりと美しい街並みが破壊されていた。
「く、急がねぇと、城の位置は確認したし、後は....」
またも巨大な大地の破片がこの街へと飛んでくる。そしてその軌道先を瀬名は捉えると、
「....!?女の子?ちっ!!」
考えるよりも先に身体が動く。強化を最大限に駆け加速を促す。
「間に合えっ!!間に合えええええ!!!」
建物の上を忍者の様に駆け、そのまま女の子が立つ場所へと飛び出し手を伸ばす。
ごおおおおおンンンンん!!! ガガガガガガガガガガって!!!!!
瀬名は女の子の身体を掴み抱きしめ守る様に地面へと転がる。女の子が立っていた場所はすでに痛いたしい傷が残り、建物群が巨石により破壊されていた。周りは幾人もの兵達の遺体が転がり瀬名は眼をギュっと瞑り再び開ける。
「大丈夫か?立てるか?」
コクリと女の子は頷く。オレはそれを見てとびっきりの笑顔を見せ、頭を撫でる。
「よし、良い子だ!急ごう此処は危ないぞぉ〜」
オレは女の子の手を握り城へと彼女のペースに合わせ走る。
「お父さん、お母さんは先に行っ.....」
(考えろ、俺のバカ!何でこの状況でそれ聞いた、)
「........」
女の子は首を横に振る。
「ゴメンな、俺がバカなせいで辛いこと聞いちまったな、よし」
瀬名は何かを思いついた様にその場にしゃがみ込み、背中にちょんちょんと指を当てるが女の子は唯それを眺めるだけだった。
「おんぶだよ、背中に乗って!」
そう言うと女の子は背中に乗ってくれた。服装が結構お嬢様?ゴスロリっぽくて掴む場所に困ったが何とかなった。
「落とされないよう、首にちゃんと腕を回してねぇ!」
女の子は首に手を回し身体を押し付ける。
(おうふ、結構ありますねぇ。)
少し強化を掛け急いで城まで走る。それからしばらく走ると城の城門前までへと辿り着いた。
「おーい!!開けてくれぇ!!!」
城の門は閉められ素人の瀬名でも分かる程強力な魔術結界が張られていた。
「く、遅かったかぁ.......女の子がいるんだ、開けてくれぇ!!!」
門の結界を一瞬だけ解除するよう懇願をするが中にいる指導者は願いを拒否する。
"すまない、既に結界の重ね作業を終えている。何とか生き延びてくれ"
直接脳に響く声、疎通魔術の一種を使われたようだった。
「......」
焦る瀬名をじぃーと眺める女の子。瀬名は近くへよりしゃがみ込む。
「ゴメンな......でも安心してくれ、君の命はオレの命に変えてでも守るからさ。」
正義感が瀬名を支配する。従来ならば瀬名という漢は熱く人が困っていれば助ける男なのだが高校に入りサス系と化した事でその感情に蓋を閉めていたのだ。が流石に小さな女の子が困っていれば助ける程には腐ってはいなかった。
「......」トクン
女の子は心臓に手を当て無表情な表情に静かな笑みが出る。
(人形みたいに整った顔をしてるなぁ、すげー美人さんって奴だ)
「そうだ!名前聞いて無かったね?オレから、ジョン=瀬名だよろしくな!」
親指を突き出しグーサインをする。すると女の子も天使の様な笑みになり口を開いた。
「....アル..セイド」
アル、何だ?声が小さくて聞こえなかった。取り敢えず二人は城門の前にある長く続く階段へ腰を下ろす。
「アル......え〜と、「...アルセイド」
今度はクリアに聞こえた。無表情な表情なのだがどこか照れた顔をしているように見える。
「う〜ん、此処から離れた方が良いのは確かだけど、どうしたものかなぁ」
悩んでいるとアルセイドが手を握ってきた。
「.....貴方は連れて行く。アルセイドのもの。」ボソ
アルセイドが何かを言ったのは確かだが声が小さくて聞こえなかった。
「戦いが終わるまで待つしかないか、むやみやたらに動き回って残骸でも降って来たら危険だし。」
瀬名は女の子の手を強く握りこの子だけは絶対に守ると心に誓う。
「見つけたぞ!!化け物め!!!」
数十人の兵達が瀬名達の前へと現れる。
「あ、貴方は、キュベレー様の.....早く此方へ!!」
兵の一人がオレの顔を見るなりそう申してきた。ギュっとオレの服をアルセイドが引っ張る。
「ま、待ってくれ?バ、化物って何だ?」
兵達が困惑した顔を浮かべる。
「貴方の後ろにいる、ふふふふふ、あああああああ」ザシュ
突如兵士は奇声をあげ剣を自分の首元にあて切り裂いてしまった。
「正体を現したな化物め!!火の精よ、紅蓮の灯火を上げ、敵を焼き滅ぼさん_炎威」
「き、貴様どっちに向かってうとうと」
仲間へと巨大な火炎放射を放つ兵士の一人は次に剣を抜き辛うじて逃げ延びた3名の兵へ向け駆け出した。そして斬り合いが始まり一人は斬殺されもう一人は火系統の魔術を受け焼け死ぬ。
「一体.....何が?」
いきなり現れたかと思えばオレ達を化物呼ばわり、そして次に仲間割れと意味が分からない事だらけだった。取り敢えずアルセイドを守る様に前に立ってはいるが、
「先輩....洗脳を受けているんすか...っ....すいません!!」
一人の兵が速度を上げ地を蹴り火炎放射を撃った男へとタックルをかます。がタックルをかました兵は強化を解くと自ら剣を腹に突き刺し横へと掻っ捌いた。腸がグロテスクにぶち撒けられ突き飛ばされた兵は兜を外しその場で胃液を吐きだす。
「はぁはぁ、く、一体何グアっ、溺れる、溺れる!!ぐあっ、ボコボコ」
突如口から泡を吐きその場で首を掻き毟り動きが止まったがまだ呼吸音は聞こえていた。
「.......えっと」
今はアルセイドの目を両手で隠している。取り敢えず今は膝の上に乗せ見せない様にしたが何だこれは?
「......」
アルセイドは自分の手をどけ立ち上がり、突き飛ばされた兵の男の元へと寄っていった。
「き、貴様のせいでぇ」
男は親の仇を見るような眼でアルセイドを見るがアルセイドは冷たく見下す。すると男の首が突如として地面へと落ちたのだ。オレは階段から動けずにいた。こう言った物事での容量の悪さは自覚しているが、流石に目の前で物事が起きれば嫌でも分かる。この女の子がこの事件の主犯者達の一味だと。
「アルセイド、君は一体」
アルセイドはオレの言葉を聞き取ったのか此方へ振り向きゆっくりと近づきながら笑顔浮かべていた。その顔には飛び散った血が付き夕暮れの空が彼女の姿を映していた。反面、自分には晴天の空の日差しが痛く突き刺さる。
「花嫁達だよ」




