Episode28 "山精オレイアス"
アタランテーは困っていた。
(キュベレー様は何処にいるのだ!こんな時に限ってっ、)
冷や汗が頰を伝う。
「もう一度、間にて確認を行ったのですがキュベレー様の姿はなく、」
レーダーは早歩きをするアタランテーの背後を置いていかれないように歩速を合わせて歩き報告をする。
「分かっている!」
ピリピリとしているアタランテーは強く怒鳴ってしまう。
「うっ、すいません、」
怯えた返事で返すレーダー。その声を聞き冷静さを取り戻したアタランテーは謝罪をした。
「いや、某が悪かった。」
「いえ、あの、私めはどうすれば?」
彼女は次の指示について聞く。
「キュベレー様がいない今、某が指揮を取るしかないか。では、堕ちたる天宮へ向け浮遊魔術、飛行を可能とする者を集め直ちに迎えさせよ。捕獲が不可能ならばその場での殺しを許可すると言え。其方は指令を送り次第民達を城へと誘導し強固な結界を復重に張るのだ。民達を......幼き子らを守れ!」
「は!!」
レーダーはすぐさま城内の魔術無線室へ街へと放送を流すために向かう。
「某も、直ちに装備を整えなければ。」
一方、アタランテーは嫌な予感を感じつつも装備を整える為に専用の武器庫へと向かった。
その頃、エウリュアレーの神殿では_
「負けをぉ、認めたかぇ?」
樹木により両手両足を拘束されたエウリュアレーは右手に持つ鞭でエウリュアレーの頰をペチペチと軽く叩く。
「能面、司る権能を使うのは反則ではないのか?これは殺し合いではなく、決闘だ。」
拘束されているエウリュアレーは余裕の表情を持って意見する。
「言い訳にしか聞こえぬぇ? 妾はぁジョンさえ手に入れば良いのじゃ。妾の身体はジョンの物ぉ、そしてジョンも妾の物ぇ。如何な者と言えどぉ渡しはしないぇ。」
「貴様が我に修行の稽古をするように申したのであろうが。貴様の言動、行いは矛盾しておる。そのような者に我の愛弟子はやれぬな。それにアレはすでに我の物だ、戯けめ。」
ぶちぶちと拘束を解いていくエウリュアレー。蛇を使い拘束を噛み砕いているのだ。
「よう喋るぅ堕蛇ぇ。ソチの役目は終えたぇ、とくと失せよぉ。」
樹木の根が地から生えるてくる。
「知っておるぞ、能面。貴様がジョンに戦闘が出来ぬと申したことおなぁ。さしづめ、自分を可愛く見せたかったのだろう?愚かな女神よぉ。」
「ち、違うわい!妾の主武装は鞭ぇ。槍術、剣術を指導出来るほどの技能は持ち得ない.....だが、ジョンのぉ頼みを無下には.....出来ないぇ。ソチに預けるのが....一番の.....くっ、適材適所ぇ。」
プルプルとキュベレーは震えだすと地から生えた根が同調する様に震えキュベレーの周りへと蠢くように動きまわる。そして蠢く根たちは拘束されるエウリュアレーの元へと近づいて行く。
「適材適所なのだろう?ならば、我に譲るが必然であろう、くく。」
「ならぬなぁ堕蛇ぃ。ソチがその醜き身体で親愛なるジョンにぃ色目を使いおる以上、妾はソチを裁かねばならぬ。」
「........色目を使うのは貴様とて同じではないか。」
両者は睨み合いを続け火花を散らす。根はエウリュアレーの胸元まで迫るが。
ぶちぶち ぶっちっ!!
拘束を完全に噛み切るとエウリュアレは曲剣を手元に出し前にいるキュベレーへと根ごと一閃を入れる。だがキュベレーはそれをバックステップにより避けた。そして両者は互いに睨み合い言葉を叫ぶ。
「「ならば(ぁ)やる事は(ぁ)一緒だ(じゃ)な(ぁ)!!!」」
両者の神圧がぶつかり周りの壁、地、柱の残骸、そして巨大な樹木が軋み始める。
「このまま行けばぁ天宮はぁ堕ちるぇ。」
ギチ ギチ ギチ
(勇者は渡さぬ!!!!!!)
(妾の者ぇ!!!!!)
互いに獲物をぶつけ鍔迫り合いが行われる。エウリュアレーは先に動き、もう片方の曲剣を手に呼び戻し切り掛かる。それを見たキュベレーはダガー型の短剣を即座に鞭を握る反対の片手に顕現させる事で防ぐ。
「能面、珍しいではないか、貴様が剣を使うなど!!」
キュベレーは無表情を貫き足でステップを踏み根を張り巡らせようとするがエウリュアレーの神域という事もあり機能はしなかった。エウリュアレーは得意の近接戦で舞のように二本の曲剣を踊らせる。ぶつかり合う武器たちからは火花が飛びちりキュベレーは苦渋の表情を浮かべていた。
(近接戦では不利ぇ、ならばぁ)
神圧を極限までに高めていくと城の一部が軋みに耐え切れなくなり崩壊が始まる。エウリュアレーはその軋みを相殺しようと神圧を放出するが決着は思わぬ形で幕を降ろした。
「「!?」」
この天宮の外から大きな爆音がしたのだ。
「これは.......」
エウリュアレーが何かを察したのか言葉が漏れる。
「........えぇ」
キュベレーが頷くと両者は武器を引き感覚を研ぎ澄ませる。
(エーコーぉ、ラミアーぁ、カリストぉ、セメレーぇ、アイギーナぁ、スキュラーの神気が消えようた。)
十二の天宮に内に住まう六の落ちし神々の気を感じなくなりキュベレーは表情を曇らせていく。
「妾は行くぇ。」
「ま、待て!」
エウリュアレーが呼び止める前に姿が消える。
「能面............そうだ、勇者は!?ゆ、勇者よ!!」
隠れるように言っていた瀬名の姿が無い事に気付きパニックになるエウリュアレー。
(まさか、我らの戦いの際に....こうしてはおられん!)
地上へと降りる為、キュベレーが壊した城の穴へと向かうが。
「いひ、いひひひ、いひ、何処にイクのぉ〜??ふひ」
大きなリボンをつけた幼き娘が穴の中心部で立っていた。
「貴様、何者ぞ。」
両手の曲剣を強く握り締める。目の前に立つ幼き娘が只の娘でない事は気配から感じられる。
「いひ、いひひひひひ、ふひゃはははははははははははは、ボクはぁねぇ、いひ、」
オリュンポスの神々と同等の神の重み、そして圧がのしかかる。
「花嫁さぁ」
その言葉を聞いたと同時に視界が揺らぐ。そして目の前にいた筈の童児が姿を消した事で焦りが顔に出る。
(どこだっ)
「こぉおおおおっちぃいいい、いひひひひひひっ」
言葉が背後から聞こえる。
「貴様......」
振り向く先には倒れた柱に座り足をパタパタさせる娘がいた。そしてその手には、
「............我の左腕っ」
幼き娘は顔を歪め狂った様に高笑いを続ける。
「ボクがボクのボクにボクは、いひ、いひひ、はひ、遅いよ?ババアぁ、いひひひひあひひひ」
腕を空中に放る幼き娘。その放られた腕は圧縮し消えた。圧縮する際それは捻れる様に血を神殿の地にぶちまけグロテスクな光景を見せ付ける。
「いひひカリカリカリかカリカリカリカリカリカリカリカリ狩りヲハジメヲウ」
眼の下を掻き毟り肉が抉れながらもなお削り続ける幼き子。だが肌は直ぐに再生をされていく。
(物狂いめ、そして神と来たか......厄介な上、 強いっ)
「うううううううううううううあああああああああひゃ、いくいくいくいく、いく、ね?」
パタパタと足を上下に揺らしていた筈の娘は突如姿を先程のように消した。が下へと気配を感じ視線を下げると不気味なくらい口を吊り上げて笑っていた。全身へと恐怖が伝染していくのを感じられる。
ガンッ!!!!
いつ出したのかも分からぬ歪な形をした剣がエウリュアレーを襲う。だがエウリュアレーはすかさず生きている方の手で握る曲剣で何とかその攻撃を防ぐが。
くるくるくる「ダメダメダメダメダメダメダメダメええええっ、いひ、いひひ楽しもううよぉ、もっと、もっと、もっと、もっと、もっとねぇ?えへへ」
歪な剣には三つのリング状の円がつけられておりその幼き娘は円へと手を入れてくるくると剣を回し攻撃を入れてくる。攻撃をする最中でも御構い無しに他の場所を見たり目と目を鼻先に合わせたりと随分と舐められた行動をする。
(この娘、ふざけていようと、強い)
片手で振るう曲剣で攻撃をいなしてはいるが、切り傷が身体中へと広がっていく。
「はああああああああっ!!!」
幼き娘の攻撃を切り上げ隙を作り、尻尾による攻撃を入れる。
「舐めるな!!」
飛ばされた娘は笑っていた。距離ができた事により好機と見たエウリュアレーは腕に力を入れる。
ブシユウウ!!
真紅の血と粘液のような物をブチまけ腕が再生する。
(神格を落とされた恩威と言うべきか)
ゴルゴン三姉妹は神性をほぼ失う事で異常な再生力を得る事が出来たのだ。
(流石に首を落とされれば死ぬがな)
「やるやややるじゃあんんんん!!ババアぁひひひ、あひひ、もっと遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ、遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼおおおよおおおお!!」
娘が今度は左方から攻撃を繰り出す。
「剣よっ!」
切られ手放した筈の剣が手元へと戻り何とかその攻撃を耐える。がさらに娘は追撃をするように何度も剣を叩きつけてくる。曲剣にもヒビが入りそれを娘へと投げつけると娘はそれをキャッチしキャッキャッチと遊びに入る。一度距離を取るため倒れた柱の隙間を通り先へ先へと進んでいくと娘は障害物を楽しそうに破壊しながら後を追って来た。
「くっ、しつこい」
倒れた樹木、柱を伝いながら戦闘の規模が広がっていく。娘は手に持つ歪な剣の三つの円形部に小指や人さし指を入れ、くるくる回しながら斬撃を放ってくる。その攻撃を舞を踊るが如く流し追撃をする。
「うひひひひひっ、頭がおかしくなったちゃいそう!!!いひひひひ」
「既に可笑しかろうが」
剣戟が続き何撃か喰らわせることに成功するエウリュアレーだが、
「可笑しくないよ!!オレイアスはオレイアスなんだ。オレイアスはオレイアス....なんだ。オレイアスなんだから誰でもない、そうオレイアスだ、オレイアスなんだ!!オレイアスは可笑しくない!!可笑しく、ふひ、可笑しくないよ?可笑しい、オレイアス可笑しい、可笑しい?可笑しいって何だっけ?」
攻撃の速度が上がりさらに狂うように動きに獣臭さが出てくる。
「 貴様、ニュンペーか!?」
オレレイアスと言うのは山精でありアルテミスと共に山を駆けると言われる下級神、又は大精霊だ。そんな物が此処まで武を誇る筈が無い。精々英雄と呼ばれる人間と同等かそれ以下だ。
「いひいひいひいひひひひひひひひひ、私は、ボクは、うちは、アタイハ、狂っているうううううう、いひひひひひ、まぁ、いっか?みんなみんな取り込んで壊しちゃおおおううう、ねぇ、来てよラブリュス!!」
地が揺れ亀裂ができる。
「な、何が!?」
グガン!! ガシ
「キタキタキタきたキタああああああああ、ふひ、神聖な蛇に鉄槌ヲっ!!!行くよ、ババアぁ!!」
自身の身体をとうに超える巨大な斧が地から這い出る。そしてそれを軽々と持ち上げ笑い声をあげながら此方へと近づいてくる。オレイアスは斧を天井へと掲げエウリュアレー目掛けて振り落とす。
ドウウウウウウンン!!「なっ!?」
攻撃を辛うじて避けることは出来たが切られた大地が半分へと割れ、崩壊が始まる。
「ありゃ?此処も脆い?つまーんない!」
片手で握る歪な形をした剣を手放したかと思えばエウリュアレ自身の首が握られていた。
「ぐっ、はっ....せ...」
曲剣を使い掴む腕を斬り落としたが掴む力は衰えず直ぐさまオレイアスの腕は再生し繋がった。
「甘美な乙女とはぼ、ボクの事だぁ、いひ、よ、よき乙女、ふひっ」
(このニュンペー、ブリトマルティスを取り込んでいるのか?いやこの様子ではさらに)
「このまま潰しちゃうのはぁ、ふひ、つまらないなぁ、雨降らせちゃおうかなぁ〜」
(プレイアデスの姉妹たちまで!!)
「ん?何だろうアレ?ふひ、面白いの、見つけちゃったぁ!もうババアには飽きちゃったしポイっと」
「ぐはっ!!」
エウリュアレーは城壁へと投げ飛ばされる。そして敵であるオレイアスへ視線を向けると彼女は既に此方に興味を無くしたのか違う場所へと視線を向けていた。
「おい!!」
エウリュアレーが叫ぶが。歪な形をした剣が腹へと投げつけられ壁へと縫い付けられる。
「ぐっ」
「'ちょっと黙ってて'」
そして冷たく重い神圧が言葉に乗せられぶつけられる。身体が重力に押し潰されように身動きが出来なくなった。だがオレイアスはエウリュアレーへとは視線もくれずただ目を輝かせ先を見つめていた。
「ふひ、何だろぉ〜、これ??ん〜、お菓子かなぁ、お宝かもぉ?ふひひ、たんのしみぃー!」
オレアードが見る先は姉の封印される鎖の掛かった巨石、扉だ。
「ぐふ、何故、奴の攻撃がこれ程まで効く、ぶふ、」
ラブリュスと言う斧を出してからと言うものエウリュアレーの身体は動きが止まるかの様に時折硬直するのだ。感覚的には狩られる側の気持ちが常に襲い動きを鈍らせていた。そして壁に剣と共に刺された今もなおその感情はエウリュアレーを襲っていた。
意識が飛びそうになる中、思考を停止せず考え続けるエウリュアレー、そして顔を上げるとオレイアスがある方角へと歩みを開始していた。
(この天宮が堕ちるのも時間の問題......奴は何を、っ)
オレイアスが向かう先を理解し声を張り上げる。
「止めろおおおおおおおおお!!!!」
オレイアスはその叫び声を嬉しく受け止め目元を細くすると深みのある笑みを浮かべる。
「って言われるとぉすっごいやりたくなるうううう!不思議ぃい大発見んんんん!いひひひ、ふひ、あはははははははははははははは!!!」
鎖をラブリュスで叩き切るが、その斧の質量と破壊力、そして振るう者の膂力が合わさり鎖を通り越え扉を貫通し地をも割り上げる。既に天宮の3分の2は倒壊し沈んだ。残る大地はエウリュアレーの倒れる地とその姉、ステンノーが封印される部屋のみが何とか神域として繋がった状態で浮いているに過ぎなかった。彼女たちがこの場を離れれば直ぐさま崩壊し残りの地も地上へと沈むだろう。
ガキンッ!!!!!
鎖と共に扉が叩き割れた事で扉がまさに開かれようとしていた。
「うひ、ひひひひ、何だろうぉ??ひひひ、ひひ、楽しみいいい!!」
エウリュアレーは儚く悲しい気持ちと共に心配をした表情で扉を見つめる。
(...........姉よ)




