Episode25 "セレナの真実"
「うううううううぅ」
セレナはその場へと座りこみ、両耳を両手で押さえる。
「如何したというのだ、セレナ?」
アタランテーがセレナの肩へ触れ心配そうな顔で覗きこむが。
「うううううううぅ」
「駄目だなこれは、眼の焦点が合っておらん」
アタランテーは呆れた様に訓練所を出て行ってしまった。と言うよりも此処にいても時間の無駄だと悟ったのだろう。自分から誘っておいて置き去りとは何とも英雄とは傲慢な者ばかりだ。
「セレナ.....しっかり......して.....」
レシが近くに寄り、肩を揺らすがウンともスンとも言わない。
「リディア=ヴァンディ、貴様は団員全員の詳細を調べたのだろう?」
「ええ、でも彼女の来歴は全て魔導聖狩騎士隊に所属していたとしか記されていなかった。」
「そうか、」
バルトロメウスが続けて口を開こうとするがレシが先に口を挟む。
「一旦....宿に....戻ろう.....私が......説明....する」
そう言うとレシはセレナを立たせ片腕を強化して持ち上げた。
「それにしてもアレだけ破壊した訓練所や向かいにある建物群も、いつの間にやら修復されているが、これは神の領域ならではなのだろうか?」
バルトロメウスは感心した様に壁に触れる。
「バカを言っていないで行くわよ。」
リディアはバルトロメウスがいる方へ声をかけレシと共に先に訓練所を後にする。
「あいつと同じ扱いをするな」
愚痴を零しながらバルトロメウスも訓練所を後にした。
バーン!!
「起きぬか、勇者よ」
「Zzzzz」
「そうか、ならば」
自身の一部である頭部の一匹の蛇を腕を伝せ瀬名の口元へと身体を滑らせる。
「人間という者は、実に脆弱な生き物よ、世話を焼かせおって」
シャアアア
「Zzzzzz、ヴチュウ、ゥイ、チュ、グチュ、ナン、!?」
口の中を蹂躙される事により、瀬名は眼を覚ます。
ヴシュ シャアアア
「ぷはああああ、へ、蛇!!?てか痛てぇ」
口から出て来たものが蛇である事に気付いた瀬名はオエっと嫌そうな顔をする。しかも如何やら噛みつかれたようで鉄の味が口の中を広がっていた。
「勇者よ、目が覚めたか!」
「うわ、蛇女!?な、何で、」
てっきり殺されたもんだと思った自分は目の前の蛇女を見て恐怖を感じ構える。
「何を恐れる、勇者よ」
「.......」
言葉が上手く出て来ない。
(生きてるってことは2日経ったのか?)
精神力の全てを左手にこめ放ったのだから昏睡状態でも可笑しくないが周りを見る感じあまり先程と変化を感じない。
「それよりもヒューマンサイズになってる!?」
もちろん、下半身や頭部は蛇なのだが。
「我が汝を鍛える事になあたエウリュアレーだ。以後は様づけか、師匠呼びをする様心がけよ。」
「あー、そう言えば頼んだなぁそんな事っ、てぇ殺される処だったわー!!」
両腕を上げ\(>人<)/見たいな表情をとる瀬名は折れていた筈の右腕が動く事に気づく。
「あれ?腕が、治ってる....?それに足も....」
右腕は関節が外れ、両足は骨が突き出していた筈だ。なのに今は何ともない状態まで戻っている。
「我が体液を含むこの聖水を浴びた恩威であろうよ。」
「て事はこの二、三センチくらい深い水面って......全部、師匠の液体......」ゴクリ
「神聖なものぞ、穢れなど含まれる筈もない!」オホン
ほのかに紅くなるエウリュアレー様。頭皮である蛇達が一同に逆立っていますよ。
「まぁ良い、勇者よ、これから長き間、汝は我と時を過ごし鍛えていく。良いな?」
「え、長き間?待って3日から5日くらいで発つ予定な「言い訳など聞かぬ、30の年月と共に」ひえええええ、此処から出してくれぇ!!」
ガシッ
「さあ、腹も空いた事だろう、神である我自身が手料理を振舞ってやろうではないか。」
ズズズズズズズズ
瀬名は逃げ出そうと強化を足へ流したが動き出す前にエウリュアレに確保され奥の間へと引きずられるのであった。
宿屋のロビーにて_
「さて、何故セレナがあれ程取り身だしたのか説明して貰おうかしら?レシさん」
ロビーにはセレナ、瀬名を除く団員が集まっていた。
「三年前.....二人は.....何してた?」
レシが可愛いらしく首をかしげバルトロメウスとリディアに質問をする。リディアは嫌そうな顔を浮かべるがしっかりと答えた。
「.....私は、あの人....修行の旅に出ていたわ」
(なるほど、教会に寄るのも頷ける)
「バルトロメウス....は?」
「オレは第一師団に配属されたと同時に東西の小規模の争いに繰り出されていた。まぁ戦地送りという訳だ。」
「なるほど.....じゃあ.....当時の....団長達の.....名前....分かる?」
「「?」」
「.......そう」
レシはロビーにあるソファーに腰を下ろし眼を瞑る。
「モイライ.....運命の三女神....聞いた事.....ある?」
女神と言う言葉がレシの口から出た事で真剣味を帯びた表情になるリディアとバルトロメウス。
「セレナは.....その三女神の.....一柱」
元来、神という生き物は人とは行動を共にする事はそう多くない。助言はするが干渉せずと言うスタンスだ。この都市のように領土、信仰力を高め広げる為に降臨する神以外は基本、上階にいるのだ。
「クロノス様のお告げ.....私の考え.....混ぜると......セレナは.....多分.....転生....した......」
「何故....神が」
バルトロメウスは机に手を起き、レシを見つめる。
「運命の女神....すなわち.....裁定者......地に降り......肌で感じる.........事で.......裁定を下す....」
運命の女神と言うのは三姉妹であり名をクロートー、ラケシス、アトロポスの3柱であるとされる。
「クロートーは紡ぐ者として........ラケシスは割り当てる者........アトロポスは断ち切る者......人の寿命は.....彼女達に......管理されている」
驚愕の真実にもはや驚きを通り越しため息を吐くバルトロメウス、がリディアは冷や汗をかいていた。
「リディア.....が言うあの人....と言うのはアトロポス....の事でしょう?」
レシは何ともない様にリディアに真実を告げた。バルトロメウスはそんな馬鹿なとリディアへと眼を向けると瞳孔が開かれ、いつもよりも驚いた表情を見せるリディアが立っていた。
「レシさん......貴女が何故それを」
「神........と言うのは気まぐれな者......見限られた......のでしょ?」
「っ!」
麗剣へとその指が伸びるがバルトロメウスがそれを制止する。
「やめろ、頭を冷やせ」
リディアは息が荒くなり瞳に涙を溜めていた。
「レシさん.....ごめんなさい.....私、部屋に戻るわ。」
そう言うと、リディアはトボトボと二階にある自室へと歩いて行ってしまった。
「それではセレナと言うのは偽名という事なのか?」
「うんうん......セレナは.....記憶に.....鍵が....かかってる」
「魔術.....か?」
「違う......神の奇跡による物......紡ぐ者としての実力は......出せない」
レシはセレナについて膨大な知識がある様だが、何故彼女はそれを知り得る事が出来た?
「レシ.....貴様....何者だ?.......クロノスの巫女.....ではないな」
「ふふ、鋭い.......いずれ分かる.......生きてさえいれば.....ね」
ソファーに座るこの少女は口元を大きく歪め、笑みを浮かべていた。
(この女は.........危険だ)
そうバルトロメウスの直感は告げる。
「バルトロメウス........紫電一閃と言う.....異名.....聞いた事....ある?」
紫電一閃_第三師団に置いて過去未来、彼以上の白兵戦に置いて最強は現れないだろうとさえ言われた伝説の男。が先の大戦で東国に属する英雄と言う称号を持つ者達に囲まれ捕縛、そして処刑されたと聞いたが。
「....まさか」
「その.....まさか」
「な、ならば、何故、セレナはそれを否定的に感じる。これは誇っても良い事だ!」
バルトロメウスは何故、セレナが顔をうずめたくなる程の羞恥心を出していたのか疑問に思っていた。あの女ならば堂々と産まれたての姿で出てこようとも顔を染める事はないだろうと想像をする。
「バルトロメウスが......仮に..讃えられた時.....女として.....扱われたら?.....」
「あっ」
バルトロメウスは事の意味に気付き同情の表情を浮かべた。
「分かった?.....レシ.....疲れたから.....寝る」
欠伸をしながらレシも先程リディアが上がっていったであろう階段を上がっていった。
「すまない、お酒をくれないか?」
バルトロメウスは一階にある小さな酒場で酒を注文する。
「了解しました。」
カウンターで受付をする男性にも獣耳や尻尾が付いていた。この街にいる住人は何処かしら普通の人とは違う身体的部位を有している事にバルトロメウスも気づくが気にはならなかった。
(さて、瀬名を如何するかだが、まぁ)
度数が高いお酒を口へと流し込みアルコールが身体を駆け巡る違和感を楽しむ。瀬名についてはキュベレーに気に入られているようなので心配はいらないかと割り捨てる事にした。
ガン ガン ガン
「腰に力を入れぬか、勇者よ!」
「ちょ、まっ、タンマ、し、死ぬ、うわっ!?」
ガツン シュバ
食事を終えた後、先程までいた場所に戻り今度は人間体(下半身蛇)のサイズで稽古をつけてもらう事になったんだけど、
(頭おかしい.....何その曲剣?踊る様な剣舞にグラディウスはボロボロだし、体中傷だらけだよ.....)
「はよう、剣を拾わぬか?勇者よ」
「その前に額に突きつけるその歪な形をした剣を退けてくださりませんかねぇ」
エウリュアレ様もとい師匠は両手に曲剣を装備し打ちつけてくるんですけど正直な話、全く見えていません。
「す、少し剣戟の速度を「否」さいですか」トホホ
何がこれでも最大限に速度を抑えてるだ!!元一般人のオレからしてもこれは分かる。現実の世界で呼ばれる達人でも絶対に見切れないと。
(どんだけ視神経と感覚に強化を注いでんだと思ってんだ!!)
ちゃぽ ガシ
水面にちょっと浸った剣を掴み師匠を見上げる。
「この身に当ててみよ?寝たかろう?」
尻尾でちょんちょんと頭を突ついて挑発してくる。
「く、こうなりゃあ、ヤケクソだぁーー!!!」
上段から一撃を入れようとグラディウスを上げ斬りかかろうとする。
「腹ががら空きぞ」ズシュッ!
「ぐっ」
腹に曲剣が突き刺さり握る手が緩みグラディウスが地へと向かう。
(まだっ)
ガシ ブン ガン!!
落ちると同時にもう一つの手を使い剣を掴み横切りを繰り出すが軽々と塞がれる。
「良い、成長をしている証拠だ。」
褒めると共に突き刺さる剣を引き抜き尾の攻撃でつき飛ばされる。すぐさま立ち上がり師匠がいた場所へと視線を移すが、
「何処を見ておる。」
頭を掴まれ後ろへと首が回り師匠と目が逢う。物音たてず背後へと回りこむ敏速、そして何よりも気配の隠匿能力。まるで蛇だ。
「終わりか?」
「終わりって言ったら止めてくれます?」
「面白い冗談だ」
「ですよねー、え!」
右足に強化を流し込み、背後にいる師匠へと回し蹴りを繰り出す。
「ほう、我の体皮に当てるか?だが、我が仮に剣で防いでいたなら汝の右足は如何なっていただろうな」
回し蹴りは師匠の右腕で軽く受け止められていた。そして剣で防がなかった理由としてはオレの身を案じてだろう。
「.....降参っす」
「理解したか、己がどれ程矮小で未熟であるかを。」
そう、当てられればなんて事は仮の話でしかない。それはとても現実的ではなく実戦においても機能はしないだろう。己の矮小さを認め得たばかりの力に過信をしない事、そして何よりも自分の力を理解する事で相手との力量の差を初めて測る事が出来るようになる。それを師匠は伝えたかったのではないだろうか?
「ええ、ですが、いずれ、ね?」
「ふ、面白い事を言う」
とりあえず合格点は貰えた様だ。




