Episode10 "有翼の英雄"
卜オウウウゥゥウゥゥンン トルゥゥンンン 卜ゥゥンン
美しく人を惑わす音色を弾き出す竪琴により前に立つメレアグロスは一瞬意識が飛ぶ。至近距離にて幻惑の音色をアムビオーンは喰らわせたのだ。
「今だ!!」
アムピーオーンは隣にて立つ影使いの魔術師の部下へ視線を向け声を荒げる。それを受け取った影使いの兵士は頷き自らの影を地面から三本程出しメレアグロスへと放つが。
「ダメダメぇ。そんなんじゃぁ、僕は殺られないよぉ〜」
メレアグロスは腰を後ろへ曲げ全ての攻撃を避ける。その攻防の最中、アムピオンと影使いは後方へとバックステップで距離を取る。
「く、何と言う反射神経!!」
「....」
影使いの兵士は冷や汗を流し、片膝を地へとつけていた。その姿を横目で見るアムピオーンは影使いの魔力が尽きかけていることに気づき上空にて指示を出している有翼の英雄たちへと眼を向けていた。するとその英雄たちは地上から攻撃を受けたのかそれを避ける為、翼を迂回させ地上から放たれる魔弾を全て避ける。
「いかんなぁ、避けられてしまったわい。メレアグロス!!遊びはしまいだ、とっととトンズラするぞ!」
屍の上に立つヴァシリスは片手に射撃の影響で銃口から煙を吐く銃剣を携えていた。森林に面する方向から数百単位の足音を聞きつけたヴァシリスは危険を感じ戦略的徹散を申し出る。
「誰が行かせると思いますか?」
自分の前へと翼を広げて降り立つカライスに殺意を込めた視線を向けるヴァシリス。
シュンッ!!ガン!!
「フンッ!!」
「くっ!!」
カライスの背後を斬りかかろうとレヴァンは突攻を仕掛けたがゼーテースの人ならざる高速の飛翔でレヴァンの斬撃を弾く。
「あまり感心せんな、戦士とは正々堂々とその武を竸うべきではないのか?」
有翼の英雄の兄であるゼーテースは凛とした顔で弟のカライスの背中へ自身の背中を合わせレヴァンへとそう進言する。
「は!馬鹿言うんじゃあねーよ!!こんだけ兵士達引き連れて武もクソもあるかよ!」
既にレヴァン一行に逃げ場は無く先程までの余裕の表情は顔には無い。到着した兵達は崖に面する範囲以外を囲み逃げ道を封じていたのだ。
「あはは、囲まれてしまったか私達は。これなら私がバルトロメウス殿の元へ向かえば良かったな!リディア殿めぇ、こうなることがわかっておったな!!あははは!」
実は天然なセレナは特に笑う要素もない状況で愛らしい笑顔を浮かべリディアへの嫉妬を口にする。とは言え彼女もこれから起こるであろうバルトロメウスと撤退兵との交戦が起きることは知るよしもない。
「無事でしたか、アムピーオーン殿、」
「ああ、良くぞ同士を呼んでくれた。」
先程、指示を出し後方にて兵士達を補充し引き連れて来てくれた部下の東兵に感謝の労いをする。
「すまぬが、此奴を後ろに下がらせ回復魔術をかけてやってくれないか。」
「は、私に掴まって下さい。ムラ卜殿」
影使い改めムラ卜は部下の東兵の肩を借り後方へと下がる。
「少しぃ、これは不利ですねぇ。勿論、僕が死ぬ事は無いでしょうが。」
メレアグロスはらしくない台詞を吐き自分の握る槍へと力を入れる。
「でもまぁ、皆さぁんが倒れる頃にはぁ朝日を迎えて死体の上で大きく居眠りをしようかなぁと思いまぁす〜。」
「そいつぁ、いい、なっ!」
バンッ!!
ヴァシリスは銃剣のトリガーへと指を掛け引き金を引く。魔力が込められた鉄の鉛玉がカライスの額目掛け迫る。その銃声と共に数百を超える兵士達がレヴァン達へと歩みを開始する。
‘おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!’
ガンッ!!
高速の抜刀でヴァシリスの放つ魔弾を弾く。弾いた鉛玉は向かい来る兵士の額にあたり即死した。そしてカライスは弾いた鉛玉と同時に幾数もの回転を翼と剣に乗せヴァシリスへと迫り来る。
「おいおいおい!翼ってこんなに強度と殺傷能力が強かったか!?」
銃剣を使い防御をするが翼と剣による回転攻撃で数多の切り傷が出来るヴァシリス。そして下から上へと斬りつけ上空へと飛翔するカライス。その行為に舌打ちをするヴァシリスに四方による同時攻撃を東国の兵達が行おうとしていた。
一方、カライスとヴァシリスの反対の場にてレヴァンとテーゼースは幾ばくかの剣戟の後、鍔競り合いを行なっていた。
「ほう、白兵戦で互角とは賞賛に価するぞ、若き戦士よ。」
テーゼースは口元を吊り上げ歓喜の表情を浮かべる。だがレヴァンは苦渋の表情を浮かべていた。
(互角だぁ?ふざけんじゃね!メレアグロスの強さといいこいつらといい化物見たいな強さしやがって、こちとら最初から本気で行ってんだぞ!!)
ザシュ!!ぶしゅ
背後にて斬撃を受けるレヴァン。
「いってえええ!!!邪魔すんじゃねぇえ!!」
自身へ斬りつけた兵へと蹴りを放ちゼーテースから視線が離れる。
「これは戦だ、西国の若き兵よ。悪く思うな。」
ゼーテースはレヴァンの心臓目掛け刺突を放つ。
「させるかよぉ!!!」
レヴァンは跳躍し何とか心臓への直撃を避けるが腹部へと剣が突き刺さる。
「鎧編みの擬人!!」
剣が鎧を貫く寸前に自身の皮膚へと詠唱破棄の魔術を乗せ強化を施す。
「ほう、ならばこれなら。」
翼を左右に大きく広げレヴァンの腹部に刺した剣ごとそのまま前方へと飛翔し味方であるはずの東兵にぶつかりながらも進んでいく。
「ぐがあああああああああああああああ」
上空へと上がりとうとう皮膚を突き破り内臓へと届こうとしていた。朝日が上りゼーテースとレヴァンの姿が朝日により照らされる。地上から彼等の姿を見る東兵達はゼーテースの姿を絵画で見る天の裁きように感じた。
「くっ....レヴァン....邪魔なのに...どいて」
レシは上空にいるレヴァンの姿を捉え助けに行こうとするが数多の兵達が彼女の行く手を遮る。
「聞こ...ない...の」
シュウウン ぎゅん ヴァシュ
「退けって言うのが聞こえないの!」
自身の周りにフラフープ状のリングを作り周りに迫る兵達へと襲い掛かる。リングは銀色と輝きそれに触れた兵達は触れた箇所が抉れ消えていることに気づく。だか気づいていたとしても既に遅い。リングはレシを中心に数メートル広がり四散した。レシの近くで戦闘を行なっていた数十名の東兵達は身体を真っ二つに割られ地面へと転がり落ちる。
「今...行く...」
足に強化の魔術を乗せレヴァンの元へと跳躍するが、ヴァシリスが相手をしていた筈のもう一人の英雄によりそれは遮られる事になる。
「んっ!!」
レシは襲い掛かる剣に対しとっさに出した左小指で円を描き障壁を作り剣擊を防ぐが、威力を消すことが出来ずそのまま地面へと落下した。
「おほっおほっ...何て..膂力...でも」
バシュウゥゥゥゥン!!
五発の光弾がカレイス目掛け放たれる。その光弾を避ける為、カレイスは避けようと右側へと飛翔するが光弾はカレウスを追尾する。
「ヴァシリス」
レシはヴァシリスの方へと視線を向けると肩手で銃剣を宙に向けたまま腰にぶら下がるレイピアを使い迫り来る東国兵の群衆を捌きながら魔弾のコントロールを行っていた。
「ちっ、不愉快ですね!全て叩き落とします!」
空中で旋回し光弾を正面から受け止める準備を始めようとする。カレイスは追尾してくる光弾に夢中でヴァシリス本人を視界から外していたため、彼の表情の変化に気づかずにいた。
「片翼の衝撃!」
片翼を折り曲げ勢いよくその翼を広げると同時に前方に広がる雲と五発の光弾は両断される。広げた翼からは何枚かの羽が舞い上がり朝日の影響もあってかその全ての動作が芸術的に見えた。だがヴァシリスは待ってましたとトリガーへと指を掛けそれを引いた。
「炭粉の爆旋。」
両断された光弾の一つ一つが粒子へと変わる。そして粒子は太陽の光を浴び煌めきを輝かせた。それと同時に広がった粒子一つ一つが大きな爆発を生み出しカレイスを爆風が呑み込む。
「どうやら弟が失態を犯したようだ。君との戦闘は久方ぶりに高揚したがそれも此処までだ。」
ギリギリギリギリ ズシュ!!
剣は完全にレヴァンを貫きレヴァンは苦しみの声を上げる。
「それでは終焉だ、若き戦士よ。」
テーゼースは剣を握らぬ手をレヴァンの頭部へ向ける。
「冥の精よ_我捧げるわ両の腕_
口から血を流しながら自身の腹に刺さった剣を素手で握りボソボソと何かを呟くレヴァン。握った手からは血が流れ出し最早意識があるのも不思議な程に虚ろとしていた。
「ほぅ、まだ折れぬか。英雄になれたやもしれぬ器はあったようだが運が貴様を突き放したようだ。」
「自壊....」
「なっ!!」
「...の双手」
剣を引き抜こうと腕に力を入れるが抑えられて抜けない。レヴァンはその姿を視界がおぼつかない虚ろな目で頬をあげながら言う。
「英雄に何か....興味はねーんだよ...バーカ」
「ダメ、レヴァン!」
レシは叫び再び空中へと身を乗り出すが時は既に遅く深淵の杭が二人を突き刺し地上へと落下していった。
「ん~殺しきれないかぁ、残念~。」
メレアグロスはその上空の戦闘を傍観していた。傍観と言っても彼も一応は戦っていたのだが。
「殺...せ...」
彼の足元にはアムピーオーンが無残な姿で倒れその他にも無数の死体の山が出来上がっていた。
「ダメダメ〜、君達アルゴナウタイの一員はぁ新西国王の前まで連れて行くんだからぁ〜。」
「新...西国王?...アトレウス...では...のか?」
死に体の状態で話すのも苦しいのを我慢し質問を問う。
「違うよぉ〜。誰だと思いますぅ、ね?ね?」
メレアグロスはしゃがみこみアムピーオーンの頭をツンツンと突きながら聞くが返事は返ってこない。
「意識を失っちゃったかぁ〜。まぁ彼は本来、戦闘向きの戦士じゃあないからしょうがないですねぇ〜。さて、残りの二人ともちゃっちゃと話つけちゃいましょうか。」
メレアグロスは立ち上がり未だに戦闘を行う有翼の英雄たちへと顔を向け楽しそう言葉を紡いだ。




