Episode9 "襲撃と開戦"
東国国境付近の森にて_
「隊長、先程からダミアン副隊長からの連絡が途絶えております。一度此方から連絡をした方がよろしいのではないでしょうか?」
「案ずるな、あの男は我が隊にて弓一番の名手だ。ダミアンならば大橋付近の森にて敵兵を軽々と葬るだろう。だが万一を備えて数百の兵達を大橋へと向かわせた。あの男ならば西国兵を嵌めるために建設した大橋を破壊してくれるであろう。」
「しかしダミアン殿と言えどあの橋を破壊するとならば相応の時を儲けなければならぬのでは、」
「何を申すか、犠牲の魔術を使えば容易にあの橋ぐらい破壊できよう。」
「ですが...それではダミアン殿が...」
ダミアンの家庭には何度かお世話になり妻のクリスタさんにも何度も手料理を振舞って貰ったことを思いだし涙目になる若い士官。
「これも我が国の為だ。あの男には申し訳ないが妻と腹の中の子には人質となってもらった。」
「それは...」
ガサッ!!
司令室として配置したテントの中に東国の兵士が慌てた様子で入室してくる。
「緊急の報告が二つ程あります!!」
「む、申し出よ。」
「は!ダミアン殿の衣類を発見し西国の兵と思しき集団を発見したとの報告が入りました!大橋は既に破壊され足跡を元に追跡との報告です。」
眼をつぶり哀しい表情を作る隊長は一度唾を呑みこみ兵へと眼を向ける。
「そうか。必ずその蛮族どもを捕まえ処刑する様にと伝えろ。不可能ならばその場で殺してしまって構わん。」
「はっ!!了解であります!直ちに部隊長殿へ蛮族共の討伐命令を伝えるよう使い魔を放ちます!」
「そしてもう一つの報告とは何だ?」
「西国の兵が前線を抜け此方へと迫っているとの報告です。計算によれば一刻程で此方へと接触するとの事です。」
隊長の男は怒りの表情を浮かべテントの外へと出る。テントの前には二人の兵士がこのテントの守護を努め、周りには万を超える兵士達が今か今かと怒りの炎を燃やしていた。
「皆の者聞け!!国境で戦いし同士が憎き西国に蹂躙された!奴らは今此処えとその牙を研がせ迫っている!我らは同士の仇を打ちとるのだ!これ以上の侵入を断じて許す訳には行かぬ!今こそ蛮族共の牙をおり我等が親愛なる王オルペウスへと勝利を捧げるのだ!」
'おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!'
万を超える益荒男達が咆哮を上げる。隊長の側近を務める青年は驚きの表情と共に戦場の恐怖、緊張感が襲う。
バルトロメウスと合流するため馬を持つリディアが先行してレヴァン一行から離れてから数時間、レヴァン達は崖を迂回するためその足を進ませていた。
「いやぁ〜けっこう歩きましたけどぉ〜全然先が見えないですよぉ」
「ああ、本当にキツイなぁ!とっとと朝日が昇る前にあっちの平原に辿りつきたいけど、平原につきゃおテント様が昇って奴さんの的だ。」
メレアグロスが弱音を吐きそれに便乗するレヴァン。
「一日...森で身を...隠す...得策。」
レシの言う通り戦闘を避けて通るには崖に面する森に一日身を置き夜を待つしかないのだ。
「此処はやはり魔術を用いて移動するべきでは?」
紫髪の騎士セレナが魔術の使用を提案する。
「それはさっきも言うた通り止めた方がよかろうよ。魔術の痕跡、第一に移動に魔術を割けばいざ戦闘になった時、我等はすぐに枯渇してし、
ヴァシリスが戦闘時に置いてのデメリッ卜を説明しようとした刹那、その口を噤んでしまう。
「おい、どうしたヴァシリスのおっちゃん?」
レヴァンが心配そうな表情を浮かべ質問をする。
ギュゥ
「いててて!何すんだレシ!」
「静かに....」
レシがレヴァンの頬をつねりレヴァンを黙らせようとする。
「気づかんか、気配が、これは先行部隊だな。それとあの鳥、わしらを先程から見ているな。」
「な!?本当かよ!!」
声を小さくして話すヴァシリスに対し声を荒げて答えるレヴァン。セレナはその行動を見てレヴァンの頭を叩く。
「馬鹿かね君は!?」
セレナも叫んでしまった。それを横目に苦笑するメレアグロスは上着のポケッ卜から何本かの針を出し偵察の鳥へと投擲する。
ギュワァァ
鳥の両目両羽へと被弾し悲鳴を上げながら地へと落ちていく。
_使い魔の死亡を確認、これより謎の集団を西国の偵察として始末する。
「行くぞお前ら!!ダミアン殿の仇討ちだぁ!!」
茂みからその姿を現す東国の兵。レヴァン一行は崖の淵を歩いていたため囲まれる形となる。前には敵後ろには深淵の広がる崖が広がる。逃げ場は無し。だがメレアグロスは奇怪な笑みを浮かべ声を発っした。
「君達ぃ〜だけでぇかぁあいぃ?」
ぶしゅうっ!!
「な!?いつの間に!!」
メレアグロスは敵の集団の中心へと単体で姿を表す。その右手に握る黒槍は東兵の一人の蔵を抉りメレアグロスは不気味な笑みを浮かべる。
「あは!仲間ぁ~呼びなよぉ?」
そう言うと槍を上へと上げ兵士の上半身を真っ二つにした。血しぶきをあげメレアグロスに刺されていた兵士は後へと倒れる。そして頬に付いた血を舌でペロりと舐めた後、両手を挙げレヴァン達の方へと眼を向け宣言する。
「早くしないとぉ〜全部ぅ~僕が食っちゃいますよぉ〜!」
森の茂みにて戦況を観察する東兵の先行部隊の一員がメレアグロスの姿を確認して驚愕の表情を浮かべる。
「アレは聖獣の殺し手、奴が何故!!直ちに後面に控える兵達を此方によこすように言え!!カライス殿とゼーテース殿にも来てもらうように頼んでおけ!!此処の兵達では相手が出来る者はいない!」
「ヒュラース殿の部隊にも本隊から保険として同行して貰ったのですが如何いたしましょう。」
「駄目だ!!ヒュラース殿にもしもの事があれば我等は花嫁共に精神を壊されてしまう、あの方には敵が逃亡もしくは我らが全滅した時の為の待ち伏せを頼むように伝えろ。」
そう部下に伝えると指示を出していた兵士は戦場へと飛び出していった。その姿を見届けた東兵は後面に控える兵達に指示を伝えるべく動きだす。
ギュンン!! ズシュッ!!バンッ!!
メレアグロスは槍を片手にて回しながら近くにいる兵へ突きを入れていく。
「あはは!どうしたのぉ〜君達ぃ〜?これじゃぁ〜僕たちぉ〜見張ってたぁ〜意味ないよぉ〜?」
囲んでいた兵達は瞬く間にその数を減らしていく。先程までは30名近くは超える兵達が囲んでいたのだがその数は片手で数える程となっている。
「くっ!何とデタラメな強さだ!!ならばっ!」
兵の一人はメレアグロスではなくメレアグロスの戦闘を傍観するレヴァン達へ向かい走り出し、残る兵達は一斉にメレアグロスへと襲いかかった。走り出した兵は口を開き詠唱を始める。
「冥府に連なる影_顕現せし常世の虚像_影桜」
月夜が照らす戦場にて詠唱を唱えた男の影は四方に四散しその一つ一つの影から手のようなものが現れる。
「おおおおらああああ!!」
東兵の男は両手に握る長剣で一番近くにいたレシへと斬りかかる。影達はその兵士について来るように背後で蠢いていた。
「無駄なのになぁ〜、」
メレアグロスは先程一斉に襲ってきた敵兵だった筈の屍へと足を乗せ手を伸ばしストレッチをしていた。しかしメレアグロスは次の瞬間男の魔術に関心の声を漏らす。
「....」
レシは迫り来る剣へと手を伸ばしそれを弾き飛ばす。兵はその衝撃によりかなりの距離を飛ばされる。が飛ばされる寸前に十をも超える影の手を使いレシへと襲い掛かからせる。その一つ一つの影にはメレアグロスにより殺された兵達の武器を握り締めており四方からの攻撃をレシは同時に受けようとしていた。
「少しは....他の兵達とは....違う...けど」
全ての攻撃を見えない障壁により防ぎ身を前へと乗り出す。影の魔術を行使した兵士は地面へ転がる寸前に影の一部を使い自身を支え正面を見ようと顔を上げるがレシは彼の前に立ち人差指を額に当て詠唱を唱えようとしていた。兵士は万事休すかと死を覚悟したが竪琴の音色が奏でられた事により九死に一生を得る。
「綺麗....」
レシは一瞬気を緩めてしまい反撃の隙を作ってしまう。それを利用し東兵はその場の離脱の為影桜を自身の立つ地面へと大きく当て跳躍する。そして影使いは竪琴の鳴る場所へと降り立つ。
「遅くなった....生き延びたのは..君だけか、」
「はっ!敵兵は五名、そして戦闘を直接したのは二人のみ、されどもその実力は英雄の領域かと...アムピーオーン殿....我等二人だけでは...」
「わかっている。カライス殿とゼーテース殿が援軍にくるまでの辛抱だ。」
影の魔術を公使している兵は冷や汗を流していた。援軍が来るのはいいが果たして二人だけでこの化物共に時間稼ぎが出来るのか。幸い相手は戦いを楽しみたいのか先行部隊を一人に相手させていることもわかるように統率は取れていないようだが。
(先程からアムピーオーン殿があの槍使いを睨み続けているが、奴は何者なのだ...)
「あれれぇ~?君どっかで見たことあるなぁ〜て思ったけどぉ、アムピオンさぁんじゃ〜ないですかぁ~!」
メレアグロスはアムピーオーンへ向かい足を向かわせる。
「アムピーオーンさぁ~ん、こんな所で何してるぅ〜んすかぁ?まさかぁ~東国に属したとか言わないでしょうねぇ〜。」
「貴様、死んだ筈ではないのか...何故貴様が西国に組みするっ!!」
「くくくっ、アムピーオーンさんっ、アンタだけじゃないんでしょ〜、アルゴナウタイにいた人が東国に組みしてるのはぁ〜?」
新西王の即位を知らぬアンピオーンに対し馬鹿にする様に嗤うメレアグロス。
「.......何を」
「アンタら全員死にますよぉ、あはっ、無知は非情だ、ぷ、アハハハハ!」
メレアグロスは腹を抱え大笑いをその場であげる。
「西国の蛮族風情ぶふぁっ!?」
メレアグロスは横で控えていた影魔術使いの男の口元を掴み、掴む中指で頬をとんとんと叩き低めのトーンで話しかける。
「君...立場がわかるかな?君がそこらの死体のように倒れていないのは僕がアムピーオーンさんと話しているからだ。理解が足りない人は人じゃあないってのが僕の心情でね、生かされているって事に気づいてくれないかなぁ?」
影使いの兵は自身の周りに影桜を展開しているのだが本能が攻撃をしたら自身の命は其処までだと警報を鳴らしていた。そして震える体に鞭をうちアムピーオーンへと顔向けるとアムビオンは顔を横に降る。
「そうそう、そう従順であれば犬ころくらいの扱いはしてあげるよぉ〜」
メレアグロスはそう言うと手を離し、頭を抑えつけられていた男は尋常じゃない程の汗を流し、手を地につけ息を荒げる。
「そのくらいにして置いてくれないかメレアグロス、」
自分の部下に肩を貸し立ち上がらせる。
「はぁはぁ....メレア...グロス?」
影使いの男はその名を聞き眼を見開く。
「こいつはアルゴナウタイの一員だった男だ。」
「聖獣の殺し手....」
「いいねぇ〜その呼び名ぁ〜僕好きだなぁ〜かっこいいよねぇ〜!」
後ろを振り向き第八の団員達にもそうだよね?ね?っと聞くが誰一人答えない。
ちなみにメレアグロスが一人で暴れたいたせいでほとんどの団員は立ち尽くすのみだったのだが暫くすると飽きが来たのか気ままに敵陣の中に入り歩いていた。メレアグロスが留めを刺し損ねた兵の後始末だ。ただ、レヴァンだけは終始その場へと立ち尽くしてメレアグロスの槍さばきに眼を奪われていた。
そんな様子が心配なのかレシはレヴァンの元へと戻り座っていたのだが、一人の兵がレシ達の元へと向かってきたので適当に相手をしてやり殺そうと指先へ魔力を送り込もうとした矢先、竪琴またはハープの音色が聞こえて以下略。
そして只今、レヴァン含める第八師団のメンツはメレアグロスが殺した兵達の装備、持ち物などを拝借していた。メレアグロスの話など一文の得にもならないと団員全員が知っているので耳を傾けない。しかしセレナはメレアグロスへと声をかける。もちろん彼への質問の返答ではない。
「メレアグロス、君も早く手伝ってくれないか?」
「聞いたかいぃ?君達は既に敵とすら見られてないんだぜぇ。」
アムピーオーンは無表情を貫き、影使いの男はこめかみに血管が浮かんでいた。
「メレアグロス、御託はいい、一体何が起きている?」
焦らすメレアグロスに少しイラつきを覚えるアムピーオーン。
「そ・れ・は・」
シュウゥゥゥンンンン!!!! バッサァアアアッ!!! バッサァアアアッ!!
「見つけましたよ、ゼーテース兄さん。」
「あぁ、角笛を使って兵達を此処まで誘導しろ。」
大きな羽音に言葉を遮られたメレアグロスは白銀の翼を広げて飛ぶ兄弟を眺めながら笑みが溢れ一言口にする。
「あの子達はぁカライスとゼーテースぅ?あぁあ、可哀想にぃ〜」
アムピーオーンは上空で飛ぶ二人組の兄弟を見て同情する様な視線を向けるメレアグロスを横に自身の武器である竪琴へと手をかけるようとしていた。




