Episode8 "橋の元で”
時は少し遡って、東国兵の捨て身による一弓によりバルトロメウス以外の第八師団は大橋の手前まで吹き飛ばされさらには一頭以外の馬は崖へと転落してしまった。
大橋の中心地では未だに黒い渦が空気を軋ませながら倒壊した大橋の破片を徐々に飲み込んでいた。その渦は数分立つと空気中に亀裂を作り四散した。その後、バルトロメウスの声が橋の対抗側から聞こえてきて互の無事の確認を取る。バルトロメウスのいる対抗側は一面平野で太陽が上がっていない深夜である今でしか敵の目を掻い潜り西国を超える事が出来ない。
レヴァンはバルトロメウスに先に行き姿を隠せる場所で待機する様にと叫んだ。
「オレ達はすぐに追いつく!心配すんな!!」
そうレヴァンが叫んだ後、一羽の鴉がこちらへと飛んで来た。
「バルトロメウス様の指示でこちらに仰せつかる事になりました使い魔の‘星鴉’と申します。」
メレアグロスは星鴉を見て一瞬目を細めるがその表情を正し口元を吊り上げる。そしてメレアグロスは底の見えない崖の上で座り足をばたつかせながら口を開いた。
「へぇ〜バルトロメウスさんってすごいんですねぇ〜。あの‘星鴉’と契約しちゃうなんて。まぁ〜大きさを見る感じじゃあ〜実力は知れたようなもんですけどねぇ〜。」
メレアグロスの皮肉的な物言いに反応し紫の髪の女騎士セレナ=フラングーリスは腰に手を当てメレアグロスへと話しをかけた。
「メレアグロスだったな?仲間の戦闘力に関してそう言うものではないな。彼はまだ若い、それにヘーラクレース殿に一目置かれている点で言えば我らより優れている何かを持っているのではないか?」
「セ〜レナさぁ〜ん、何、僕の独り言を勝手に解釈して返答してるんですかぁ?」
顔は無表情で声のトーンだけを上げて話すメレアグロス。
「いや、何、君の声が聞こえたから返しただけだ。」
二人の会話を背後の木に持たれかかりながら自身の足に治癒魔術を施すリディア=ヴァンディはメレアグロスを横目に思考を巡らせていた。
(メレアグロス....この男は怪しい。調べた経歴では異彩の戦歴を残している。父の不始末で女神アルテミスの怒りに触れ聖獣カリュドーンが放たれる。数多の猛者達が散る中、この男が月の聖獣であるカリュドーンの猪を槍の投擲にて下している武勇がある、だが)
リディアは足の治療を終え立ち上がる。
「やぁリディアちゃん、大丈夫ぅ~?」
立ち上がった事に気づいたメレアグロスはリディアの足を見て心配した表情を見せる。
「えぇ、治療は終わったわ。それと貴方に名前を呼ぶ許しを上げた覚えはないのだけど。」
冷酷な眼差しで座っているメレアグロスを見下すリディア。その横で立つセレナは笑みを浮かべていた。
「いやぁ〜、怖いなぁ〜ヴァンディさんは、以後気お付けまぁ〜すぅ。」
おちゃらけた返事で呼び名を変えるメレアグロス。
「貴方に....聞きたいことがあるのだけれど。」
リディアは足をばたつかせるメレアグロスに向かい表情に深みを乗せ質問をする。
「えぇ〜?スリ~サイズ~は教えれませんよぉ~!ヴァンディちゃんのぉ~エッ「貴方は何故生きているのかしら?」
腰に手をあてているセレナは驚きの表情を見せ目を見開く。
「何を言っているのだヴァンディ殿、メレアグロスは生きているではないか。」
「そうだよぉ〜!さっきの矢はすこぉ〜し危なかったけどぉ〜こうして皆無事じゃあぁないかぁ?」
とぼけた顔で答えるメレアグロスにイラつきを感じるリディアは腕を組み、目つきを鋭くして話しを続ける。
「そうね。ヴェインとレシさんとレヴァンが帰ってくる前に話しを早急に終わらせましょう。単刀直入に言うわメレアグロス、貴方は貴方の母の手により死んだ筈よ。そう薪の呪いを、「_猪狩の黒槍」
ヴゥゥゥゥゥンンン!!! ズサアアァァンン!
「その先は口にしなくていいよ。死にたいなら別だけどねぇ?」
その槍は雷の如く音速を超える速度で上空からリディアの目の前へと突き刺さる。禍々しい黒煙を纏う黒槍は地面に強大な亀裂を入れ今にもリディア達の立つ地面は割れ奈落の底へと落ちようとしていた。
「一先ずは此処から離れましょうか。」
リディアが重い空気の中、先に口を開く。
「リディア殿......」
セレナは少し哀しい目をリディアへと向けその場から移動する。メレアグロスは黒槍を抜くためリディアの近くへと寄っていた。
「君が僕の事を調べたのは分かる。いや、第八師団の全員分の経歴を調べたのかな、その様子では。でもね人には知られたくない過去があるのは分かって欲しいかな。次その話題を僕の前でしたら君のその端麗な顔はグチャグチャな芸術品にしてあげちゃうから気おつけてね?」
と言い槍を地面から引き抜く。引き抜いたと同時にその周りの地は崩れ深淵へとその大地は流れて行く。
「面白い冗談を言うのね、果たして芸術品になるのはどちらなのかしらね?」
リディアが黒槍を携えたメレアグロスへ向けそう宣言するとメレアグロスはリディアの方へ首だけ向け常時閉じられている目を開け青い眼光を一瞬飛ばした後、眼を閉じ再び歩き始める。
すると数メートル離れたレヴァン達は槍の轟音を聴きつけ此方へと足って来た。
「おい!どうかしたのか?」
レヴァンが尋ねる。
「なぁ〜でもなぁ〜いよ!さっきの矢の所為でどぉ〜やら地盤が緩んでいたよ!危ないねぇ〜ヴァンディさぁ〜ん!」
何時ものヘラヘラした顔に戻り何事も無かったかのように接するメレアグロス。
「えぇ、そこの固定砲台さんの言うとおりどうやら地盤が緩んでいた様ね。」
「君の股の様にぃ〜ゆるゆるでぇ〜ゆるゆりだったのかもぉ♪」
シャキッと音を鳴らし腰にかけてある麗剣を抜こうと柄に触れるリディア。がその行動はヴァシリス=ヴェインの手により止められる。
「こらこら若いもんがそう直ぐにかっかとしなさんな。それとメレアグロス、お前は淑女に対して口が過ぎるぞ。今は敵国、そして任務の完遂に置いて少しでも腕利きは必要なんだ。殺し合いたいなら任務を完遂し国に帰ってからしてくれんか。」
説教臭く二人に対して言葉を挟むヴェインをセレナは少し離れた場所で苦笑していた。
「そろそろ......行こ.......バルトロメウス........心配.......」
レシがレヴァンの後ろで呟く。
「ああ、わぁーてる!馬は、リディアのしかねぇ、」
周りを見渡すと一頭の馬の姿しか視認出来ないのだ。そしてその馬にはヴァンディ家の紋章が入っている。
「おい!リディア!先に先行してバルトロメウスと合流してくれないか。オレ達に足がない以上あいつ一人を危険に置くことになる。」
「レヴァン.....私が行く.....リディア....さん....馬.....かして....」
この崖を超えるには迂回して回らなければいけないのだ。そしてリディアは周りと合わせて歩行しているのでバルトロメウスは長い間一人で危険と隣り合わせになるのだ。
「いえ、結構よ。私が行くわ、それとレヴァン、貴方何度言えば解るのかしら?私の名を「あれぇ〜、ヴァンディさぁ〜ん、いっちゃうんですかぁ?寂しいですねぇ〜、」
わざとらしくメレアグロスは劇をする様に泣いた振りをしリディアの身を案じる。リディアはそれを無視し馬へと股がる。
「リディア、バルトロメウスのこと頼んだぞ!オレ達も後で必ず合流する!」
「リディア....死なないで.....」
「ありがとう、それではまた後で会いましょう。」
馬を走らせる為手綱へと力を入れようとするとメレアグロスが煽ってきたので一言残し走り去って行った。
「腐りかけの薪ね、貴方。」
メレアグロスは鼻で笑いリディアの後ろ姿を眺る。その横に立つセレナはやれやれと二人の姿を交互に見ていた。




