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Episode5 "風と戦”

「おほっおほっ.......くっ」


呼吸が苦しくなって来た。血を流し過ぎたせいで目眩がする。


(余裕ぶって意味深な笑みを浮かべてみたけど..........本当にヤバイ)


先程まで朝日が昇る晴天にも関わらず雨が降って来た。天気雨って奴だ。関西ではキツネの嫁入りなどと呼ばれている様だが今のオレにとってはキツネの墓入りと言っても過言ではないだろう。


(ああ.........視界がぼやけて.......)


目の前には未だ戦い続ける騎士がいる。彼は自分を守りながら戦っている為、全力を出せずにいる。傷つきながらも数十名の兵士達と渡りあってはいるがギリギリだ。素人の自分から見ても徐々に押され始めているのは分かる。


(.........役立たずは.............ゴメンだ..........)


最後に肺に力を入れ力を出す。


「...........オレはいい!行け!!」


叫ぶまでとはいかないがあの男に伝える程には声を出せただろうと安堵する。


(意識が..........途切......)


声を出した事により全ての気力を使い果たし意識が途切れる。沈んでいく瞳が最後に捉えたのは男が此方へ向かい何かを叫んでいる事とその前方でチャンスとばかりにその男へと斬りかからんとする姿だった。






(奴は余裕ぶっていたが時間の問題だろう........くっ、どうすれば。)


バルトロメウスはそう思考しながら現状の打開策を考える。


「死ねえぇ!西の蛮族が!!」


背後から斬撃を放つがバルトロメウスは類い稀なる槍術でそれを防ぎその兵士へと蹴りを放つ。兵士は後ろに控える兵へとぶつかりバルトロメウスはそのまま兵士へと迫り心臓を貫通させる。その槍は後ろの兵へとも貫通し二人の敵兵達は地面へと倒れた。


倒れる刹那左右から攻撃を受けるがそれを紙一重に躱し、バックステップで距離を取りながら右側にいる兵へと短剣を投げつけると短剣は兵の太腿に刺さり一時的な無力化に成功する。その間に左の兵へと対峙するが自身の手には獲物を持っておらず相手が迫って来ていた。ならばする事は一つ。


「ぐぼおああっ!?」


奪うのだ。風の加護を使い肘打ちを兵の溝内目掛け放つ。敵兵は胃液を撒き散らし剣を手放し、バルトロメウスはそれを空中で拾い身体を回転させて勢いのまま吐いている兵の首を掻っ切った。東兵達は恐怖する。目の前にいる男は鬼神の如く槍を振り味方を次から次へと斬り伏せるのだ。


だが後退と言う二文字は彼らにはない。何故ならば自分達は仲間の犠牲で前線から撤退が出来、生き残る事が出来たからだ。いくら相手が強かろうが所詮は一人、数で押し潰すのは道理なのである。一人一人の眼からは決意と覚悟が伝わってくる。自分と言う獲物を刈り取ろうとする眼光。


「はぁはぁ.........斬っても斬っても湧いて出る、か。」


体力も限界に近い。そして自槍は未だに先程倒した兵の亡骸に刺さったままなのではあるのだが既にその前には数十人の兵士達が戦闘態勢で待機していた。


ブン! シュ! ギュン! ヴゥン!


前後左右からの同時攻撃が迫り来るが、


「同じ攻撃は食らわん!!!」


剣を地面に叩きつけ加護をフルに使い地面を割る。周りの兵士達は足場を崩し攻撃の軌道がずれる。それらを躱し隙を狙い一人の兵士の首へと刺突を放つと剣が砕けてしまった。破片は兵の首もとへと埋まり酷たらしく血を吹き出しながら地面へと倒れる。


(やはり、風の反動に持たないか!)


「身体よ持ってくれ....」


自身の槍の回収を先に行う事を決め残りの3名を放棄する事にする。槍の付近には数十名の兵達がいるのだが最低でも10名は削らないとあそこまで辿り着けない。


「我一つの風と成り_身を削らん_西風の夢帰ゼプュロス・モルペウス


突風がバルトロメウスの体を包み込み周りの三人は身体を宙へと飛ばされる。そしてバルトロメウスの身体は下半身から徐々に上半身へ向け風と共に消失していく。


_そして風が止み、日差しの中唐突に雨が降る。


「雨........」


バルトロメウスと瀬名を囲む兵の一人がそう口にする。風が止んだ事で視界を取り戻したのだが違和感に気づく。


「待て、奴はどこだ!!」


「まさか!仲間を置いて逃げ」


台詞を途中で中断した男の身体は粉々に爆発した。肉片は四方三厘に飛び散り、兵達へと恐怖を与える。


うわあああああああああああああ!!!!


爆発付近にいた仲間は唐突な仲間の死に恐怖し、周りを見渡すが何も見えない......見えない?


「おい、大じょ!?」


「何も見えないんだ、敵の魔術.......なのか?」


眼球が抉れ空洞のようになっていた。その姿を見た仲間はかける言葉を失い唖然とその場へ立ち尽くす。


「うがぁっ!? オレの腕がぁ!!」


「ぐふっ!」


「ダデガ....タスゲテ」


「死にたくない死にたくない死にたくない」


そして辺りの兵達へも伝染していき奇怪な現象が他の兵達をも死へと追いやって行く。


「くっ、!!」


指揮を出している男は困惑していた。部下達に正体不明の現象が襲っているのだがこれは姿を消した男の魔術によるものなのは明白なのだが対処法がわからない。


「く、こうなれば先にあの死にかけの男を殺りに行くぞ!!」


うおおおおおおおおおおおおお!!!


兵士達は覚悟を決め叫ぶが先行していた兵の腹を貫き右側へと槍を引かれる。その衝撃で貫かれた兵の蔵は外界へと姿を現しそれを確認した兵は仰向きへと倒れた。


「......相手は俺だろ」


右腕から徐々に姿を現すバルトロメウスに指揮官と兵達は歩みを緩める。


「貴様......槍を」


先程味方を刺し殺した槍を奴は回収したのだ。


「珍妙な技を使いよって......蛮族めが!成敗してくれる!」


前左右から同時に攻撃が迫るがバルトロメウスは肉体を風と再同化させその攻撃を空振りさせる。


(あとちょっとでいいんだ、身体よ耐えてくれ!)


「奴はっ、うぐぐぐぐくがかかがぐぎ!?」


前方の一人が突然苦しみだす。そしてまた一人と。


ブシヤヤアアァ「ぐああああ........」


一人の兵士の胸元から槍は突き出しすぐさま槍は空気中へと溶け込んでいく。指揮官は気づく、バルトロメウスが風と同化しこの空間を支配下に置いていることを。バルトロメウスは風と同化する事により空気中の制御を可能とする。それは即ちこの場に置いて最強最悪を意味した。


「火を焚き、奴を炙りだせ!!」


指示を出している間もまた違う兵が対象となり意識を手放し絶命しているのだ。この能力には多種多様な殺戮方法が行え危険きわまりないのだが攻撃の手は唐突と終わりを告げた。


「いや、その.....必要は、ない。」


先程とは違い全身が姿を現した。バルトロメウは片足を地に着ける。槍を持ち何とか態勢を保ちながら囲む敵兵へと視線を向けていた。


(今ので何人殺った、七、八人は摘んだ筈だ....どうする、此処でアレを出せばこいつらを皆殺しに出来るが.......)


バルトロメウスは槍を伝い立ち上がる。先程までは百を越える兵がいたが今は数十名にまで減った。と言っても今だに四十人くらいはいるのだが。


「どうした、かかって来ないのか?」


瀬名を背にバルトロメウスは挑発気味に西兵達へとを言うと兵達は攻撃を再開した。


「死ね!」


「火の精よ_大地の叫び_蠢く炎環_邪の如く舞い上がり_敵を焼き滅ぼさん_火継の炎よフロガ・ティス・フェレトーロ


前から迫る斬撃を槍を使い防ぐ、そして左方から火の魔術が飛んでくる。


「しゃらくせえぇ!!風よ(アネモス)オオオオォォォォォォ!!!」


空いている左手を炎の嵐へと翳し詠唱を破棄した魔術を行使する。火の嵐は東兵の仲間もろとも焼き尽くさんと迫りくるのだが風の衝撃波をぶつけることで威力を半減させる事に成功する。だが炎はそのままバルトロメウスと右方にいる兵士達を巻き込み燃え尽くした。


ヴオオオオオオオオ


草花は焼け、数名の兵達は屍となる。


「やったか!!?」


指揮官の男は魔術を放った兵へと声をかけるが。


「..............」


魔術師は真剣な眼差しで黒煙の方を直視していた。


ヒュン ザク


黒煙から短剣が指揮官の元へ飛んでいき眉間へとヒットする。


「な.....ば....」


後方へと倒れる指揮官を横目に魔術を放った兵は第二の詠唱を紡ごうとするが何やら腹部から違和感を感じ確認をすると横腹が裂かれ胴体事態が繋がっていることすら奇跡な状態に気づき倒れる。そして倒れる寸前に男が黒煙の中から焼け焦げた服と共に笑みを浮かべる姿を確認し息が途絶えた。


「オラァ、どうした!!」


槍を横へ振り黒煙を切り裂く。すると背後から顔に目掛け刺突が入ろうとするが刃は頰を掠った。そして身体を回転させ相手の首元を左手で掴み持ち上げる。


「うががかぐくくぐくく!!」


持ち上げられた兵士は苦しみを声に上げながらバルトロメウスへと反抗の手を伸ばすが。


「風の精よ_微小の彼方_風魔の如し荒風と鳴り_その牙を折らん_緊縛の刑風(アパンコンディスモス)


その詠唱の後、持ち上げられた兵士の首は風の圧縮で強く締められそのまま絶命する。


(今ので魔力を使い果たしたか)


一瞬身体がふらつき体勢を崩すバルトロメウス。その隙を見逃す東兵達ではない。一人の兵が矢を放ちバルトロメウの腿に着弾する。


「ぐっ!!」


体力は既に限界を越えている今、奥の手も今の状態では出す事も出来ない。その場で兵達の攻撃を自槍を持って捌き続けるが時間の問題だ。少しづつと身体にも切り傷が出来ていく。奴らも撤退してきたばかりで武器はほぼ白兵戦のみ、魔術戦に特化した兵は一人だけだった。


「これで止めだ!蛮族めが!!」


片足を地面に着きながら一人の攻撃を受け止めていたがもう一人が此方へ向かい剣を下ろしている。 バルトロメウスには事がスローモーションに見えた。


(万事休すか)


そう諦め背にいる瀬名へと眼を向けると小さな声で此方へと向け何かを訴ったえていたのだ。視界も儘ならぬ状態で自分へと向け。



「...........オレはいい!!行け!!!!」



そう伝え意識を手放そうする異界の男にバルトロメウスは唇を噛む。


「ふざけんじゃねぇ!!!」


そう叫び受け止めていた剣ごと神速の槍で破壊し迫りくる一撃を頭部から肩へとずらす事で急所は逃れる。そして突き刺ささった剣に力を入れ身体を切り裂こうとする兵に拳を叩きつける。


「っ.....死ぬんじゃねぇ!!!何の為にオレは逃げねぇでテメぇを守ってたと思ってんだぁ!!」


肩に突き刺さる剣の痛みを無視し瀬名へと叫ぶ。瀬名の瞳は徐々に閉じていくのだが少し嬉しそうな表情をしていた。


「馬鹿野郎が!!」


瀬名の眼が完全に閉じられた。その様子はバルトロメウスの使い魔である星鴉により一人先行して此方へ向かっていた白銀の髪の女へと伝わるのであった。


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