RPGの世界へようこそ!
箸休め的な読み切り作品です。反応が宜しければ、連載でもやる予定です。
至って平和な世界。しかし、街を一歩出れば勿論、モンスターが徘徊しているそんな世界。何処かに魔王とかいるんだろうけど、特に仕事をしていない。だから平和な世界。
そんな平和すぎた世界の中心地、セントラル王国の国王は悩んだ。平和が故に経済が動かないと。何せ、街から街への移動がめっきり減ってしまったのだ。このままではまずいと考えた国王はとんでもな提案をし出した。
全世界の民に告ぐ
本日よりセントラル王国主催のスタンプラリーを開催する。勿論、只のスタンプラリーではない。世界各国の街や村の長にスタンプを配った。そのスタンプを見事全て集めた全員に、賞金一億マネーを渡す。
参加資格は、スタンプラリー用の台紙を持っていることのみである。これはセントラル王国、また東、西、南の三王国でも配布している。尚、スタンプには魔法が施されているため、スタンプの偽称は出来なくなっているので注意して欲しい。偽称したものには、勿論、罰を与える。
国民皆の参加を期待している。
セントラル王国国王 マンナーカ
賞金の金額の為だろうか、世界中の冒険者、勇者がスタンプラリーの旅に出たのだ。元より暇だった為か、現在世界中で旅人が増えている。
そして、この荒れ地を歩く二人もその旅人である。
「勇者様…、まだ着かないんですか?どっかで道間違えたんじゃないんですか?」
「そんな筈は無い!ここ道が正しい、筈だ…。」
「筈って何ですか?そもそも、勇者様が頻繁に地図を見ないから毎度毎度道に迷うんですよ。」
この二人、よろよろになって歩いている。もう何日も街に辿り着いていない。そして、まともな飯を口にしていない。限界に近い状態で次の街を目指している。
「ほら…、みろダルク…。街が、街が見えるぞ…。」
「何を言っているんですか…、勇者様…。あれは、案山子ですよ…。」
残念ながら、そこにあるのは街でもなく、案山子でもない。紛れもない、人である。
「お兄ちゃん達大丈夫?死にそうだよ?」
しかも、子供だ。
「ほら見ろダルク…。街が喋ってるぞ…。」
「何を言っているんですか…、勇者様…。案山子はコルクで出来ているんですよ。」
既に意識が何処かに飛んでしまっている。街は喋らないし、案山子はコルクではなく藁で出来ている。
「お兄ちゃん達!ねえ!大丈夫!!」
どうやら、倒れたようだ。
二人が目を覚ましたのは、夜だった。既に気温は低下し、星も月も出ている。
「ダルク…。雨が降ってないか…。」
「何を言っているんですか…。勇者様…。これは雨ではなくて、涎ですよ。」
薄目で辺りを見る。荒れ地で倒れたのだから月明かりで少しは明るい筈だ。しかし、目の前は曇りの夜より闇だ。
「ダルク。俺達の目の前にいるのは何だ?」
「はい勇者様。トロル型のモンスターです。」
「グォォォォォ!!!!」
その雄叫びを合図に、仰向けで寝ていた二人は飛び起き、西に全力で走った。人間意外と限界のその上を行けるものである。
がむしゃらに走った為か、夜が明けていた。気が付くと後ろにトロルは無く、目の前には街があった。
『サガドルの街へようこそ』
看板には旅人への案内が書かれている。
「やっと、着きましたね…。」
「だから言ったろ、あの道で合ってると。」
流石に、ダルクと呼ばれている相方が鋭い目付きで勇者を睨んだ。
スタンプラリーのルールは、街の長からスタンプを貰えばそれで良い。特別宿に泊まるだの、名産品を買えだのというルールは無い。その為、このようなことも起きる。
「どうするダルク。一泊するか。」
「泊まりましょうよ。流石に疲れましたよ。」
「しかし、そんなに金無いぞ。」
「宿屋の一泊分ぐらいはあります。」
よくもまあ、金もなく旅をしているものだ。
「なら、早速宿に行くか。スタンプは休んだ後でもいいだろう。」
意外と呑気な勇者である。
すると突然、ガシャンという何かの割れる音がした。街中が騒然とする。音は街の東に位置する家から聞こえてくる。野次馬が集う。勿論、二人も集う。
「止めて下さい!!これ以上壺を割らないで下さい!!」
家の女が泣きながら訴えている。
「いきなり入ってきて、壺を割ったり、タンスを開けたり、貴方達はそんな人ばかりなのですか!?」
「黙れ村人!俺はな、勇者なんだよ!勇者はな、民家の壺を割ろうが、タンスを開けようが捕まらないんだよ!!」
勇者を名乗る男が甲高い笑い声を上げる。どう見ても悪者だが、装備はどう見ても旅の勇者そのものだ。こちらの勇者とは対照的だ。
皆も見たことがあるだろう。魔王を倒すべく旅する御一行が民家に入り、勝手に壺やらタンスやらを好き勝手に開ける様子を。それが今まさに現場で行われているのだ。
「ありゃ酷いな。どう思います勇者様?…、って、どこ行ったんですか勇者様?」
野次馬に飲まれたのか近くに勇者の姿が見えない。あろうことか、野次馬風情の勇者が現場にいるではないか。しかも、事の発端の勇者と対峙する形で。
「そんな事をして、勇者として恥ずかしくないのか。」
仕舞いには、説教をし始める始末である。
「何だお前?村の奴か?」
「笑わすな、勇者だ。」
その言葉に、相手の勇者、野次馬一同唖然とした。その直後、笑いさへ起きた。
「笑わせるなとはこの事だよ!お前本当に勇者か?まともな装備じゃないだろ?」
誰もが見ても分かる。装備の一覧全て、「ぬのの」シリーズである。これでは村人と変わらない。ここ、街なのに。
「黙れ。正式な勇者だ。」
正確に言うと、勇者に資格など無い。名乗った者が勇者だ。
「お前のように、民の物を漁るような卑怯な者が勇者を名乗る資格は無い。直ぐ様ここから消えろ。」
そう言って、背中の「さびた剣」を抜いた。
「やるのか、勇者もどき?怪我しても知らないぞ?」
「その台詞、そっくりそのままお前に返す。」
勇者の眼は本気だ。街の住民も期待の目を向けている。只一人、ダルクだけは違った。
「あの人は又か…。」
「さびた剣」を上段に構え、悪そうな勇者に突っ込む勇者。悪そうな勇者はそれを「はがねの剣」で迎え撃つ。
「何故…、いつもこうなんだ…?」
既に野次馬も解散し、事態は収束した。結果は分かる通り、「さびた剣」の勇者、略してさびた勇者の惨敗である。
天を仰ぐさびた勇者にダルクが近寄る。
「何で勝てないと分かっていて、戦おうとするですか貴方は?」
「それが、勇者だからだ…。」
この言葉に流石の相方も、肩をすくめた。
「どうします?宿で一泊します?それとも、スタンプ貰って街を出ます?」
切られてはいないもの、拳で顔を殴られた為大きく腫れた顔のさびた勇者は言った。
「恥ずかしいから、スタンプ貰って次行こう…。」
そうして、勇者御一行は三つ目のスタンプを早足で貰い、早足で街を出た。
「次の街まで又宿無しですか?勘弁してくださいよ~!」
「ご、ごめん…。」
目指すスタンプはかなりある。
感想等ございましたら何なりと言ってください。皆様の反応次第で、連載にするか決めます。