ブーメラン
「なんだ?頭に怪我してるヤツ多いな」
夜、自宅での夕食をとりつつ、点けっ放しのテレビを眺める。
「ああ、なんでも無差別テロだとか、愉快犯だとか言ってたわね」
妻が本を片手に答える。
自分が帰ってきたとき、妻の夕食は済んでいるのはいつものことだ。
結婚したばかりの頃は多少の遠慮はあったようだが、何時に帰るかもわからない仕事だ。今は慣れたもので、こちらの都合を確認することもない。
「あれ?事件なのか?転んだとかじゃなく?」
テレビでは評論家と言うのだろうか、それとも品評家?偉そうな態度をしたオッサンが、額にガーゼを貼り付けたまま偉そうに何か話していた。
「よくはわからないのだけれど、襲われたらしいわよ」
物騒な話だ。
「政治家とか、ジャーナリストとかコメンテーターとかが多いって」
「随分と偏ってるな、思想的な襲撃なのかね。右とか左とか」
目立つ人ってのはそれだけ叩かれやすいというのはあるのだろうけど。
それにしてもジャーナリストとかコメンテーターってどう違うのかいまいち分からん。横文字にすればいいと言うものでもないだろうに。
「右とか左とか言われても分からないけど、他の人を批判ばかりしている人が多いみたいね。そんなことをネットで見たわ」
自業自得ってことなのかね。だからと言って襲うほうを擁護するつもりもないが。
*
昼食に出た近所のメシ屋では、テレビを流している。
そういえば、テレビをつけたままのメシ屋って少なくなったか?ちょっとお洒落な内装の場所はテレビが似合わないというのもあるのかも知れないが。
テレビでは政治家だろうか、笑顔を貼り付けたオッサン達が映っている。
昼時だからか、向こうも食事中らしく前にはカレーが並んでいる。ご飯とカレールーが別になっており、随分とお高く見える。ご飯の上にカツが乗っているところが妙に腹が立つ。
流石に、今映ってるオッサン達に額にガーゼをつけている人はいないな。
事件が多いとは言え、毎日ガーゼ付きのおっさんを見たいわけでもない。
「そういえば、記者や評論家が襲われてるんだって?」
一緒に食事に来た後輩に話を振ってみる。
「え?なんでまた?」
どうやら知らないようだ。
「いや、昨日テレビにさ。額にガーゼを貼り付けた人が映っててな」
「はい、カレーお待ち」
「どうも」
スプーンで端のご飯をカレールーに混ぜながら続ける。
「どうも襲われる事件がいくつも発生してるらしいんだよ」
量が多いので気に入ってるカレーだ。味のほうは、まあまあかな。
悪くはないのだが、ついテレビのカレーと見比べてしまう。
「へー、物騒っすね。テロっすかね」
後輩は後輩でカレーをバクバク口に運びながら答える。
「物騒だが、テロってほどでもないだろ。殺されたわけじゃないし」
「あーいや、無差別テロとかって言うじゃないっすか」
それはもしかして無差別の話で、テロとは関係ないんじゃないか。
「……無差別かどうか分からないけどな。恨みを買いやすい人ばかりだったって聞くし、自業自得って可能性もあるな」
「自業自得ってなんすか。宗教っすか」
「宗教ってお前、いや元は宗教なのか?」
仏教っぽくはあるが。
「最近は自業自得って言わないのか?自分のしたことが自分に帰ってくるって意味なんだが」
「言わないっすねー」
「じゃあなんて言うんだ、自分に帰ってくるって場合」
ガンッ!
突然、音が響く。
音のした方を見るとテレビ。そこでは政治家らしいオッサンが崩れ落ちていくところだった。
一体何が。
目についたのは画面の手前、カレールーの器から飛び出したくの字の板。
「「ブーメラン」」
後輩とセリフが被った。




