1.ゆりこ
全3話でおわります。
いや、結婚して名前が変わったときにちょっと「ん?」って思ったよ。
でもさ、お勤めの会社名は違ったし、他にもちょこちょこ、主に私のルックスとかが違っていたので笑える~おんなじでヤンのって思ってたの。
それは、ちょっとだけ大人向けの恋愛小説。
主人公は新人OL「さくら」、恋愛の相手は職場の先輩「ゆうじ」。
二人の恋を邪魔するのは職場の先輩OL「ゆりこ」。
彼女には新婚の夫がいるんだけど、新婚早々、夫は浮気。
夫が浮気したなら私だって!というわけのわからん思考から「ゆりこ」は「ゆうじ」を狙っている。
そして、「さくら」と「ゆうじ」の恋の邪魔をするのだ。
なんやかんやあって、「さくら」を嵌めようとして企業秘密を外部にもらした「ゆりこ」は「ゆうじ」とその友人たちによって、悪事をばらされて会社はクビ。夫は浮気相手に寝取られて離婚。という悲惨なエンドを迎える。
もちろん、「さくら」と「ゆうじ」はラブラブエンドだ。
なんだこのダメダメ小説って思って一通り読んで捨てた。
「ゆりこ」いらないじゃん。「ゆうじ」は最初から最後まで「さくら」一筋なんだから。
「ゆりこ」は当て馬ですらないんだよ。
いらんわ~
自分と同じ名前だからちょっとかわいそうだし・・・なんて思ってました。
まさか、会社が吸収合併されて小説と同じになったりとか
去年、「ゆうじ」くんが入社してきたりとか、
今年、「さくら」ちゃんが入社したりとか。
自分も半年前に、結婚したばかりとか。
やばいくらいに一致している。
まさか主人公補正で「さくら」ちゃんのためにあの小説通りに進んだりしないよね?
旦那様のこと、大好きなのに、浮気されちゃうの?
やだやだ。
「さくら」ちゃんが入社してから、私はすっかり不安定になった。
毎日、旦那様が浮気するかもとか、突然、「さくら」ちゃんが憎くなったらどうしようとか、自分が「ゆうじ」くんのこと好きになったらどうしようとか、そんなことでクラクラする。
「浮気しないでね。」
と涙目で訴える私に、最初こそ、
「するわけないだろ。ばかだなあ。俺はゆりこ一筋だよ。」
ちゅっ
なんてしてくれてた旦那様も私のあまりのしつこさに辟易して
「そんなに俺が信用できないわけ?なんか、自分にやましいことでもあるんじゃあないの?!」
と今朝はお怒りだった。
このままじゃあ、本当に私のこと、うっとおしくなって浮気されちゃうかも。
「ゆりこ先輩。どうしたんですか?最近元気ないですね?」
さくらちゃんは本当にいい子で気が利くし、仕事も一生懸命だし、かわいい。イジメたりなんかしたくない。
「新婚で寝不足なだけじゃないの?」
ゆうじくんは本当に「おばか」でぜんぜん、異性として意識できない。
さくらちゃんはゆうじくんにはもったいないよ・・とほほ。
小説の中の「ゆうじ」は本当にイケメンだった。ルックスも性格もよくて、仕事もできた。
あれ?この「ゆうじ」くんは全くそんなことないので関係ないのかも・・・?
そもそも小説の中の「ゆりこ」はお色気ムンムン(死語)で仕事もできる超デキル女だった。
旦那に浮気されたのも浮気相手に取られたのも「ゆりこ」が仕事にかまけて旦那を放置したからだったし。
でも私はそんなことない。
毎日ほぼ、定時で帰って旦那様のために食事つくってお風呂くんで、お掃除もして待ってるもの。
お色気ムンムンでもないし。
違うところを数えたらそっちの方が多かったので油断した。
他部署から異動してきたのは
私と同期で昔ちょっといいなと思った彼。
同期で一番の出世頭。
ああ、彼の名前も「ゆうじ」だった。
そして「ゆうじ」は「さくら」と恋に落ちた。
え?私、これの邪魔しちゃうの?
いやいや・・・
旦那様の浮気でおかしくなっちゃうの?
旦那様浮気しないし!
私はちゃんと応援するよ~
「さくら」ちゃん、「ゆうじ」と幸せになって!!
「浮気しないでね。」
「お前なあ・・・なんでそんなに気にするんだ?俺は浮気なんかしない。」
「だって・・・」
寝る前にベットでぴったりくっついて「浮気しないでね」と繰り返す私に旦那様が優しく聞いてきた。
言っちゃえ!
「あのな、そんなの偶然だよ。さくらもゆりこもゆうじも良くある名前じゃないか。現にお前の職場にゆうじが二人いるんだろ?関係ないよ。それに俺は浮気なんか絶対にしない。お前だけを愛しているよ。」