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三話

すみません、ものすごく期間が空きましたが三話目です。

今更で申し訳ないですがよろしくお願いします。

「ん、う……」

「大丈夫?」

 突然の事態に意識を失っていた桐吾が目を覚ますと、鈴の音のような声が聞こえてきた。体を起こして立ち上がると、声のする方に顔を向ける。


 自分を見つめる少女に、桐吾は返事をすることも忘れ魅入った。クリッとした大きな瞳はやや吊り上がっており、気の強そうな印象を受ける。


(あれ……この娘どこかで見た気が……)


 自分よりも少しばかり年下に見えるの少女に、ふとそんな疑問を抱く桐吾。だが、そんな悩みはすぐに氷塊する。少女が、先ほど姿見に映った自分の姿と瓜二つの見た目をしていたからだ。

 数舜遅れて、自分の身体が元の姿に戻っていることに気づく。


「ようやくお互いに顔を合わせて話が出来るわね。さっきも話したけど、私の名前はアリスよ」

「え、あぁ……俺の名前は」

「知ってるわ、確か……桐吾だったわよね」


 混乱の最中、改めて名乗るアリスにつられて口を開いた桐吾だったが、話してもいないはずの自分の名前を言い当てられ、困惑する。そんな桐吾に対し、彼女はどこか申し訳なさそうな表情になる。


「ごめんなさい……悪いとは思ったけど、さっき確認させてもらったの」

「確認……? いや、それよりもさっき話してたお互いの身体が入れ替わってるって……」


 気になることだらけで何から聞いていいのか悩んでいた桐吾だったが、ひとまず根本的な内容を尋ねた。

 普通なら慌てふためいてもいい様な状況なのだが、あまりにも非現実的なことが起こりすぎた為か、逆に冷静になっているようだ。


「何から話せばいいかな……えっと、さっきまでの自分の姿は確認したわよね?」

「え、ああ……気が付いたら君とそっくりな姿になって知らない場所にいたけど……そういえば今は元に戻ってるな」

「それはここが魔法によって作られた精神世界のようなものだからね……実際の身体は入れ替わったままよ。それで、入れ替わりについてだけど……」


 そこで彼女は一旦言葉を切って、大きく息を吸った。その行為が、これから話すことが相応の覚悟が必要なものなのだと感じ、自然と桐吾の身体も強張る。


「ごめんなさい……この入れ替わりは私の魔法の所為で起きたことなの!」

「え、えぇ!?」


 いきなり頭を下げられて困惑する桐吾。


「私が使った魔法が原因だと思うの……だからこんなことに……!」

「ま、待ってくれ! いきなり過ぎてまだ何のことなのか全然……それに魔法って……」


 短時間の間に続けて投下される爆弾発言に、堪らずといった様子で口を挟む桐吾。聞かされる言葉の何もかもが彼の理解の範疇を超えているため、流石に脳の処理が限界に達したらしい。

 

「突然こんな話をされたらそういう反応になるよね……」

「い、いや……なんていうかあまりにも現実離れしてると思って……」


 未だ混乱状態の桐吾だが、アリスの認識とは少しばかり違う。そもそも彼は、先ほど目が覚めた時に感覚的なことではあるが、自分が他の人間の姿になっていることが現実のことであると理解はしていたのだ。ただ、そこに異世界や魔法など、現実離れした出来事があまりにも多く混ざりすぎた為に対処しきれなくなっているのも事実だが。


 とはいえこのまま固まってもいられない。どうにか頭を働かせていまわかっている情報を整理しようと試みる。

 わかっているのはアリスと桐吾は別々の世界の人間で、彼女の世界には魔法が存在する。そして入れ替わりの原因はアリスにあるらしいということだ。


「それで君の所為で入れ替わりが起こったってどういうことなんだ?」


 そこまで考えて桐吾は、そもそもなぜ入れ替わりが起きたのか尋ねた。


「……私が言えたことじゃないけど思ったより落ち着いてるのね」

「これでもいっぱいいっぱいだけどな。ただ、あまりにも色々とありすぎて冷静にならないとやってられないだけで……それで、聞かせてくれるか?」

「そうね……だけど私にもよくわからないの……」


 そのアリスの返答にどういう事だろうかと眉根を寄せる桐吾。


「昔おじいさまから教わったちょっとしたお呪いをしただけなんだけど……そうしたらいつの間にか知らない場所で目が覚めて――」


 その後数分にわたってアリスの話は続く。その話を要約すると、代々魔法に秀でた家系であるアリスは日課である勉強に嫌気が差し、少しばかり自由な時間が欲しくなったのだという。

 そして昔祖父に教えてもらったのだという願いが叶う呪いを思い出し、試してみたところ入れ替わりが起こったというのだ。


「でも、お呪いって言っても一般的な魔法とは違う、本当にちょっとした効力を持つようなそんなものだっておじいさまは言っていたの……それがこんなことになるなんて……」


 話しながら、改めて今の状況に狼狽えるアリス。原因がわかっているのならもう一度試せばいいだけなんじゃないかと尋ねる桐吾に、しかし彼女は首を横に振った。


「試してみたけどダメだったの。そもそも呪いが原因にしてもどうしてこんなことになったのかよくわからないし……」


 その言葉に落胆する桐吾。


「他に何か魔法が使えたりしないのか? この念話とかで誰かに助けを求めるとか」


「あなたの世界は魔力弱いみたいでね……今こうして会話するのが限界みたい。これだって入れ替わりの所為かお互いの間に魔力のパスが通ってるから特別にできているようなもので……念話って結構高度な魔法だから魔力が足りてても私にできるかどうか……」


 それに、と言葉を続けるアリス。


「私って昔から悪戯ばかりして叱られることが多かったから……仮にあなたが目が覚めてからお父様たちに事情を話しても絶対に信じてくれないと思うの……もちろん話してみるべきだとは思うけれど……」


 ただ恐らくは信じてもらえないため、そうなった時のことを考えるべきだと暗に言うアリス。


「私のせいで本当にごめんなさい……」

「確かにびっくりしたけど……そんなに謝らなくていいよ。別にずっとそのままってわけじゃないんだろ?」

「え、ええ……基本的にどんな魔法でも一定の時間が過ぎれば効果は切れるわ。お呪いも同じようにそのうち効き目がなくなるはずよ」

「なら別にいいよ……と言ってもできるだけ早く元に戻れるようにはしたいけど」


 そう言って何度目かの謝罪をするアリスに、安心させるように笑う桐吾。突然の事態に混乱していたから色々と質問はしたが、特別今の状況を悲観しているわけではなかった。それどころか、年頃の少年らしく、魔法のある世界に少々の憧れを抱いていたのだ。


 その為入れ替わりがアリスの意図したものでない以上責める気はなかったし、一生元に戻れないわけでないならそこまで気にしていなかった。


「こうしないか? 俺は君のふりをして問題を起こさない様にしながら、君の世界にある魔法を学びながらこうなった原因と元に戻る方法を探す。君は俺の家族に入れ替わりがばれないようにしながら何か他に思い当たることがないか考えて欲しい」


 それからどうするべきかお互いに話し合い、桐吾はそう提案する。

 家族に入れ替わりがばれたとしてもどうしようもないのなら心配を掛けない方がいい。そう話す桐吾にアリスも賛成する。


 そうしている間に魔法を維持する魔力が底をつき始めたようで、慌て始める始めるアリス。それからいくつかの取り決めをしたあと、解散の流れとなった。


「もう時間がなさそうね……悪いけど頼んだわよ!」


 そんなアリスの言葉を最後に、この空間に来た時と同じ、意識を引っ張られるような不思議な感覚を味わいながら現実へと戻っていくのだった。


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