一話
初投稿です!
見切り発車ですがなんとか完成させますのでよろしくお願いします。
「いいですねアリス様。この詠唱が成功するまでは自分の部屋に戻ってはいけませんよ?」
その侍女の言葉に、アリスと呼ばれた少女が疲れた表情を浮かべながら答える。
「わかってるよー」
「大変なのは理解しております。しかしアリス様はこの国の王女。もう少し自覚をもっていただきたいところですが……」
そんなアリスの返事に納得がいかなかったのか、小言を言う女性。しかしアリスはうんざりした様子で。
「それはわかってるけどさー。毎日毎日同じことの繰り返しでつまらないんだもん」
語学や言葉遣い、礼儀作法など毎日多くの講師と会っては、朝から晩までずっと勉強漬けなのだ。自由に動ける時間がほしい! と声を上げる。
「……駄々をこねないでください。私はアリス様のためを思って言っているのです。それにもしもアリス様が授業を休み、そのせいで何か粗相を働くようなことがあれば私は旦那様に顔向けできません」
「もういい! リリーの石頭!」
それだけ言うと、アリスは目の前に書かれた魔法陣へと向きなおる。リリーと呼ばれた女性はそんないつも通りのやり取りの後、広間の端に立ってアリスのことを見守るように見つめていた。
「絶対早く終わらせてやる」
そしてゆっくり休みたいと意気込むアリス。しかしそんな彼女の決意も虚しく、結局全ての授業を終え解放されたのはそれから約四時間後、太陽が完全に沈みきった頃だった。
「ああ今日も疲れた……」
夕食後、アリスは自室のベッドに横たわった。時刻はまだ夜の九時を回ったあたりだが、次の日も早くから授業を受けなければいけないアリスは、そろそろ寝なければいけない時間だ。
「っと、その前に」
寝る準備を済ませ、後は横になるだけとなったところでアリスは本棚にある本に手を伸ばす。
「これだけが唯一の救いね」
アリスは特別本が好きと言う訳ではないが、誰にも縛られず厳しい授業のことを忘れられる読書は彼女にとって至福の時なのだ。
「んーっと、あっ」
身長の低いアリスは背伸びをして本を取ろうとし、隣に並んでいた本が一緒に引っ張られ床に落ちてしまう。
「あれ、これ何の本だっけ?」
見覚えのない本にアリスは一瞬首を傾げ、中身を見て顔をしかめた。
「うわ、これ魔法書だったのか……」
魔法が嫌いという訳ではなく、魔法という単語から授業の内容を思い出して顔をしかめたアリスはすぐにその本を本棚に戻そうとして、開いていたページを見て動きを止めた。
そしてすぐに、にやりと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「いいこと思いついちゃった」
***
「ただいまー」
玄関で靴を脱ぎながら声をかけるが、返事はない。どうやら誰もいないらしい。時刻は夜の七時。平日のこの時間なら、父さんはともかく母さんと咲は帰っていてもよさそうなものだが。と、そこまで考えて気づく。
「ああ、そう言えば咲は友達の家に泊まりに行くって言ってたか。母さんは……ん?」
台所で麦茶を淹れ、リビングで一息ついていると、テーブルの上に一枚の紙が置いてあった。
「えーと、なになに。『桐吾へ、今日はお父さんと外で食事をするので遅くなります。なにか適当に食べてください。母より』はあ……」
ため息を吐きつつ、キッチンに戻り冷蔵庫の中を確認するが何も入ってない。
「……せめて何か用意して行ってくれよ」
カップ麺なども含めて食べられそうなものが何もない。母さんめ、今日俺しか家にいないと思って買い物に行かなかったな。
「この時間だし俺も何か食べに行くか」
財布の中を確認する。五百円しか入っていなかった。
「……まじか。はあ、コンビニでカップ麺でも買ってくるか」
自分の所持金の少なさに悲しくなりながら、とぼとぼと玄関へ向かう。
「まあ明日になれば小遣いも入るし何とかなるだろ」
そう言ってドアノブに手を掛けた瞬間、俺は天と地がひっくり返ったような浮遊感を感じ、そこで意識が途切れた。
***
気が付くと桐吾は白で囲まれた部屋の中央に立っていた。
「なんだ、ここ……」
周囲を見回しながら桐吾は呟く。それはそうだろう。辺りを白に包まれた部屋には壁がなくどこまでも何もない空間が広がっているのだから。
そのため桐吾もこれは夢だろうと納得し、どうしようかと悩み始める。何せ夢ならば目が覚めない限りこのままだ。とは言えここには暇をつぶすようなものもなく、どうせ夢だと分かる夢だったのならもう少し面白い内容ならよかったのにと、桐吾はその場に座り込みながら独りごちる。
それからしばらく悩んでいた桐吾だったが、微かな物音を感じ顔を上げる。そこには先ほどと同じく白い部屋の様子があったが、一部の空間をノイズが覆っているのが見て取れた。
「――わり……い……から……いだ」
どうやら音はそこから発せられているらしく、よく聞けば性別まではわからないが人の声のようだ。
「なんて言ってるんだ」
突如聞こえた声に耳をそばだてるが、途切れ途切れにしか聞こえず内容はわからない。しばらくそうしているうちに声は止み、ノイズも消え去ってしまう。なんだったのだろうかと首を傾げる桐吾。そしてそのまま横になって目を瞑ってしまう。床とは思えないほど柔らかい感触を背中に受けながら、次第に彼の意識は闇の中へと沈んでいった。