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氏真の野望  作者: 羽市
天文七年(1538年)
2/13

1 龍王丸

 目が覚めると赤子になっていた。

 思わず驚きの声を挙げるが「おぎゃあおぎゃあ」といった泣き声しか上げられない。

「あら、龍王丸様がお目覚めですわよ」

 年若い着物姿の女が自分に向かってそう話しかけた。

 年若い女性は、赤ん坊の自分を抱き上げ、泣き止むようにあやし始めた。

 女にあやされながら、先程の出来事を思い出す。

 どうやら本当に、自分はゲームの世界に紛れ込んだようだ。

 いや、ゲームの世界と呼ぶにはあまりにも人や風景にリアリティがありすぎる。

 まるで戦国時代にタイムスリップしたかのようだ。

「龍王様、お食事に致しましょう」

 女は座ると、着物の前をはだけさせた。

 京輔の目前にオッパイが現れる。

 因みに彼女いない歴=年齢の京輔にとって、これが初めて見るオッパイであった。

 が、そこは心は十七歳でも身体は赤子。

 とくに性欲を抱くことなく、京輔は目の前の乳房から母乳を吸った。


 京輔にはゲームの世界の時の流れは遅く感じられた。

 何せ、自身では何も出来ない赤子である。

 乳母らしい若い女の乳を吸うか、泣くか眠るか。それだけしか出来ないのである。

 そんな日々の中、京輔はこの世界での自分の父親に対面した。


「ふむ。顔は儂よりそちに似ておるの」

「そうでしょうか。口元の辺りは殿に似ておると思いますが」

 部屋には自分の母親と父親らしき若い男女、それに壮年の僧侶が男の後ろに控えていた。

「どちらに似るにせよ。龍王丸は我が今川家と武田家の血を引く男子だ。武家の棟梁に相応しいとは思わぬか、雪斎?」

「はい。龍王丸様が元服なさる際には、三河も我が今川家の物となっておりましょう。龍王丸様は、生まれながら『東海の王者』となる定め。ここはしっかりとした教育が必要かと存じます」

「うむ。傅役は三浦か朝日奈のどちらかに任せるが、雪斎、お主も龍王丸の面倒をみよ」

「承知つかまつりました」

 雪斎と呼ばれた僧は父親に対して頭を下げる。

 戦国時代で雪斎と言えば、あの今川義元の補佐役である太原雪斎しかいない。となれば、その雪斎に命を下す父親は今川義元であり、今川義元の跡継ぎと言えば、戦国三大暗君の一人(後の二人は朝倉義景と一条兼定)、今川氏真に他ならないではないか!

 何という……何という武将になってしまったのだ。

 そもそも今川家自体、パッとしないというか引き立て役というか。

 今川義元は桶狭間で織田信長に敗れて、信長の全国デビューの引き立て役。

 今川氏真は父親の敵もとらず蹴鞠にうつつを抜かしている間に、徳川家康と武田信玄に同時侵攻され家を滅ぼす暗君の代表として名を残す。

 なんだよ、何にも良いところが思い浮かばないぞ。

 普通、主役と言ったら織田信長や武田信玄とかじゃないのかよ!

 京輔は思わず叫んだが、口から出る言葉は「おぎゃああ!!」という言葉だけ。


 桶狭間の戦いの二十二年前のことである。



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