序章 それは偶然の必然
辺りを眩いくらいの光が支配する。
しかし、それも一瞬で収まり、再び闇が顔を出す。
と、同時に轟音が鳴り響く。
光と音の関係から、雷がそう遠くないことが分かる。
(早いところ、雨宿りが出来そうな場所を探さなければ)
時折吹く風も、強さと冷たさを増してきている。
雨が降りだすのも時間の問題だろう。
ふと、青年の目に洞窟が映った。
(此処にしましょう)
ぱらぱらと降りだした雨の中、早足で洞窟へと向かう。
一歩踏み入れた瞬間、青年は奇妙な感覚に包まれた。
辺りが歪んだような、自身が引き上げられる、あるいは落とされるような。
だが、それも束の間の出来事だ。
瞬き一つの間に周囲は元に戻っていた。
(…まずいですね)
しかしながら青年の表情は冴えない。
すぐに引き換えし洞窟から出る。
が、彼は未だ洞窟内にいた。
どうやら不思議な力が働いていて、出ることが出来ないようだ。
(やはり…。私としたことが迂濶でした)
…──ォオォォオオォ──…
獣が唸るような音がする。
洞窟内に風が吹き込んでいるようだ。
青年の白銀色の髪が風に靡く。
まるで奥へと誘うかのように風は吹いた。
(此処で足止めされる訳にはいきません。早く彼を探さなければ…)
背負っていた矢筒から矢を一本引き抜き、その場に突き刺す。
青年が何かを呟くと、矢は淡く輝きだした。
(あまり長くは持ちませんね…)
青年は再び出口へと足を踏み出した。