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夢路の果てで  作者: 白桃
序章
2/4

異世界

  そこはドーム状の建物だった。広さ、大きさは目測で東京ドームの二倍ほどで照明のようなものは一切見当たらないのに紫がかった大人っぽい、それでいて暖かな光が建物全体に差し込んでいた。


 形こそ東京ドームだったが、そこはどうやら野球やサッカーをするための場所ではないようだった。観客席はあるものの、普通なら一面に芝生が敷いてある場所にはサーカスに使うようなボールや梯子、ロープ、ネットなどが積んであったり、今にもオーケストラが入場してきて演奏を始めてもおかしくないくらいの楽器が並んであったり、中央には50mプールまであったりした。


 俺にはその光景がとても幻想的に見えた。プールには紫の光が反射して、楽器やサーカスの道具は影を帯びながらも堂々とその存在感を表している。誰一人居ないここで立っていると、開演前日の舞台に一人で立っているような感覚だった。


 中央のプールの前でただ突っ立っていると、いきなり眼前に女の子が現れた。夢だからだろうか、俺は別段驚いた風でもなく、脳裏に浮かんだおそらくはその少女の名前であろう単語を口にする。


 「……由紀(ゆき)。」


 呼ばれた少女は嬉しそうにプールの周りを踊りながら鼻歌を歌い始める。建物の雰囲気と重なって、まるで舞台でも見ているような気分になった。


 しばらくそうしていた彼女は再び俺に近づくとその薄く、ほんのりとしたピンク色の唇から言葉を発する。


 「・てる・じゃ・・て、いっ・・にま・・だよ?」


 ………何と言っていただろうか、思い出せない。確か、ここで目を覚ましたのだ。わりと覚えていた自分に感心しつつ、さらにその少女の言葉を思い出そうとする。が、出てこない。建物の様子とか、プールの水面の波の打ち方まで記憶に残っていたというのに、どういう訳かその少女のことだけは美しかった、という印象だけしか残らなかった。


 それでなおさら、夢のことが気になった。あれだけ美しいと思った少女の顔を忘れたのだ。いくら夢の出来事といっても何か損をした気持ちになる。出来ることなら夢の続きを見てみたいな、と小学生のようなことを考える自分に小さく笑う。


 ――――――そういえば、と思い出したように時計を見ると7時41分と針がさしていた。……遅刻かどうかぎりぎりなラインだ。最初の10分はHR(ホームルーム)になっているとしても、遅刻を三回してしまうと一回の欠席扱いになる。既に一学期だけで14回遅刻してしまった俺にとってこれはマズイ。一学期はせめて4回の欠席で済ませたいと思っていた俺は、とっとと二階にある自分の部屋に戻って中身がほぼ空の鞄を持って、足早に家を出た。

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