プロローグ:始まりはただの善意
「じゃあね・・・、ぼくがおねーさんたちをたすけてあげるよ!」
この時の少年は、自分がどんな人物に対して助けるといったのか知らない。
「そうですね。君がもう少し大きくなったらお願いすることにしましょう」
「そうね、私たちが本当に困ったときに助けてちょうだい?」
「えー・・・。でもこまってるかおしてるよ?」
その少年の指摘に二人は困ったように眉根を寄せる。
実際、二人は確かに困っていた。しかし、それは少年一人で何とかできる問題ではないのだ。
二人は、追われていた。自分たちのかつての同胞に、いや、つい先ほどまで仲間だと、家族だと信じていた人たちに裏切られていた。
そうやって追われているうちに疲れ果て、休憩を取るために立ち寄った公園のベンチで休んでいるとき少年に出会った。
その少年は、『正義の味方』にあこがれていた。
だから二人が、深刻そうな顔をして話し合っているのを聞いて、『助ける』などと言い出したのだ。
「でもね、私たちは怖い人たちに追われているのよ?」
「だいじょうぶだよ!ぼくにはすごいまほうがつかえるんだ!」
少年は、自分が持つ唯一の魔法を彼女たちの耳元でささやく。
二人は驚いた様子で、少年を見る。
少年は胸を張って、どこか自慢げだ。
そして、少年はその魔法を二人の前で使って見せる。
なぜならば、その少年が使えると豪語し、実際に使って見せた魔法は、一時とはいえ神に等しい力を持つも同然だったからだ。
確かに、この魔法を使えば自分たちは追ってから逃れることができる。
しかし、同時にこの少年を巻き込むことになる。
二人は迷っていた。
「このまほうはね、めがみさまにおしえてもらったんだ!」
無邪気な少年は、「えっへん」と胸を張りながら言う。
「女神さま?」
「うん。えらいかみさまのひとりで、いつかこまっているひとがいたらそれでたすけてあげないさいって!だから、おねーさんたちをたすけてあげなくちゃいけないんだ!」
そこまで聞いた二人は、困惑顔で顔を見合わせる。
「まさか・・・。あの方が?」
「でも、干渉はしないんじゃ?」
「気まぐれでしょう、多分」
「だろうね、でも」
「えぇ、そうね。あの方がこの子に干渉したということは、鍵を握るのがこの少年であるということの証拠ですね」
「なら、次にとる行動は決まったようなものだね」
二人は意を決し、
「「じゃあ、ちゃんと護ってね?小さな『騎士』さん」」
己の命運を彼女たちは小さな少年に託した。
これが、少年と二人の出会い。
これが、二人と少年が交わした最初の約束。
これが、すべての始まり。