第8話 シュティの防衛戦
モンスター。
それはそれは人に危害をもたらす存在。
ゲームでは経験値やお金、アイテムなどをドロップする存在だが、本来NPCだった人達にとっては異なる。
死をもたらす死神のようなものだった。
男達はたちはすぐに立ち上がり、外へと向かう
女達は子どもを守るようにして扉を見つめる。
透は一瞬逡巡するとアスカロンを手にして外へと向かった。
気配察知では赤く表示されるそれは、明らかにモンスターのものだった。
それが村の両側から多数押し寄せてくるのが透にはわかった。
見えてくるモンスター。
それはヴェアウルフの集団だった。
ヴェアウルフとはいわゆる狼男である。
多少の知恵を持ち集団で行動する。
ゲームではプレイヤーを見かけたら攻撃してくるアクティブモンスターだった。
男達は外に出たもののその圧倒的なモンスターに対処できないことを悟った。
もはやこの村は絶滅しかないと。
だが透にとっては違う。
「みなさん、中に入っていてください。私が倒します」
「だがあんな数では……」
「大丈夫です、あの程度の数では問題ありません。言い方は悪いですが外にいられると足手まといです」
「しかし……」
透は村人の一人に的を絞ったヴェアウルフに指弾でこちらに注意を引きつける。
それを見た村人はおじけつつ答えた。
「わかった、中で女たちを守っている」
ドルークが宣言すると男達は中へとうながす。
中へ入っていく男達に的を絞ったヴェアウルフを中心に透は指弾を飛ばしていく。
指弾は指を弾いて空気弾を飛ばすものだ。
ダメージとしてはたいしたことがないが、後衛を守るために注意を自分に向けるための戦士スキルの一つだった。
全部のヴェアウルフの的が自分に向いたことを確認した透は、ウィングブレードやトルネードブレードなどを駆使してヴェアウルフを始末していく。
ウィングブレードは前にいる敵に対して鎌鼬を発生させ遠距離攻撃する技で、トルネードブレードは剣をふりまわし自分の周りにいる敵を一度に攻撃する技だ。
アスカロンを装備した透にとってヴェアウルフは雑魚も同然。素手でも余裕だろう。鎧を着ていなくても大したダメージを受けない。
しかし数が多い。
ゲームでもこんなに数が一度に現れたことがない。
一種のイベントなのだろうか。そんなことが頭をよぎる。
イベントとして村を襲う。それをプレイヤーが退治する。ゲームでは隠しパラメータとして功績値なるものがあった。それを大量に稼げるのがこういった襲撃イベントだった。
ゲームでやっていたとしてもプレイヤーに疲れが出るように、今の透でも疲れが溜まってくる。プレイヤーがたくさんいれば奪い合いになるぐらいで大して疲れもしないし、いつでもログアウトできる。だが今はそんなことはできない。
その疲れで当初は効果的に出せていた技も、失敗し始める。
幸いなことは村人たちが的になっていないことだけ。門番の当番だったものも含めて全員が一箇所に集まっている。透はそこを守ればいいのだ。
後続がどんどん森から溢れてくる。その中にはガルウルフの姿も見える。
透の周りには金貨や銀貨、ドロップ品がたまってきている。
それに足を取られないように戦わなければならない
(ドロップ品がこんなに厄介だったとは……)
魔法使いならば全体攻撃の魔法もあるが戦士にはそんなスキルはない。
一体一体確実に仕留めるしか無いのだ。
一撃で死んでくれるのが救いといえば救いだ。
最強武器アスカロン、最低防具ブラウス……。
それでいて数えきれないヴェアウルフの群れをさばいていくエルシアの姿は、隙間から覗いていた村人に神の降臨か悪魔の所業か、と震えさせるのに十分だった。
だがその様子は安心させるものでもあった。
自分たちが足手まといになると言われたときには疑問もあったが、その言葉に嘘はなかったからだ。
ついに透は膝を付く。
ダメージはないが疲れによるものだった。
片膝をついても透は剣を振り続ける。
スキルを使い続ける。
剣を振る力も無くなってくると、剣を地面に突き刺し素手で攻撃をする。
素手だと一撃では死なないがそれでもダメージは十分に与えられる。
透としては村人が襲われなければ問題ないのだから。
たまに集会所へ向かおうとするガルウルフやヴェアウルフには確実に指弾を飛ばす。
ゲームをしていたときにはこのスキルがかなり重要だったため、他のスキルは失敗してもそれだけは確実に行なっていた。
そんなことを繰り返し、空が白み始める頃になってようやく森からの襲撃は収まり始めた。
透は剣で体を支え、残りを確実に始末していく。
そして夜が完全に空けるときにはすべての敵がいなくなっていた。
気配察知でも姿が見えないことを確認すると疲れから透は村の真ん中で剣を背に眠り始めてしまった。
村人たちの歓声を子守唄にしながら。