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混沌の覇王  作者: haroeris
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第7話 シュティの村

 シュティの村。

 それはロックウッドの村から出たものが、開拓民として集まったのが最初だった。

 ロックウッドから近く、しかし多少は離れた場所。

 墓参りには行きたいが、一番近くの街ミールでは遠すぎる。

 そう考えて作られたのがこの村だった。

 亡者の襲来は十数年前のことでもあるので、この村自体も出来てからそれほど時が経っていない。


 名前の由来は村の建設を最初に考えた女性の名前。

 シュティが亡くなった際にその名前だけでも残そうと名前のなかった村に付けたのがその始まりだ。


 ミールからロックウッドへの馬車が通る際に立ち寄るにはちょうどいい場所でもあるのだが、街道から少し離れた場所にあるため未だ知名度が低い。というより知っている人の数が圧倒的に少ない。


 街道沿いにつくろうという話も最初はあったのだが、盗賊たちの襲来を恐れて少し離れたところにつくろうと考えたのだ。村が大きくなればそれなりの防衛もできるし、街道からも遠くはないのでロックウッドから離れた人たちもやってくるだろう。


 昨年、ようやく村の防衛柵が完成し、これから村の宣伝をしていこうというところにちょうど透がやってきたのだった。


「はーい、今行きますよ。ちょっとまってくださいねぇ」


 透の扉を叩く音に中から女性の声が響いてきた。

 家の煙突から煙が出ていたことから料理中だったのかも知れない、と透は思った。


 しばらくして扉が開き、妙齢の女性が顔を出した。


「あら? 冒険者の方?」


「はい、エルシアといいます」


 透はドッグタグを見せながら自己紹介をする。

 高橋透と名乗りたかったがドッグタグに書かれている以上、そういうわけにもいかない。

 エルシア・トールとでも今後は名乗ろうか、などとふと頭の中で考えた。


「こちらで泊めていただけると門番の方から聞いてきましたので、尋ねさせていただきました」


「あらあら、それじゃ今晩は宴会ね。大変、準備しないと」


 そういうと透を置き去りにして女はまた家の中へ入っていった。


「…………」


 どうしたものかと考えていると今度は初老の男性が扉から出てきた。


「すみませんね、家内は慌てん坊で……」


「いえ、大丈夫です」


「宿泊所にご案内しますよ。といっても集会所みたいなところですがね。あっ、私はドルークといいます」


「私はエルシアです、よろしくお願いします」


 ドルークは外に出て透を促し歩き始めた。


 宿泊所は村長の家の裏手にあり、平屋建ての広い建物だった。

 建物的には村長の家とも繋がっているため他の家よりも一回り大きくなっているのだった。


「ベッドとかはありませんがここで泊まってください。毛布はご自由にお使いください」


 その中はそれなりの広さのある空間があり、端の方に毛布が重ねられていた。


「ありがとうございます」


「それじゃ後ほど、皆が集まってきますのでその前にでも食事等もその時にお出ししますよ」


「わかりました。宿泊料金はいくらですか?」


「いやいや、こんなところで泊まっていただくのに料金なんか取れませんよ。それにこの村の人は娯楽に飢えておりましてな。なにか騒ぐ理由がほしいんですよ。時折ここで集会という名の宴会が開かれるぐらいですよ」


 ドルークは笑いながら答える。


(宴会のネタにされるわけか……)


 透は引きつった笑いを出すのが精一杯だった。


 透が中にはいったことを見届けるとドルークは外へと出て行った。

 透は気配察知-ゲームでは小マップで表示されていた-で人がいないことを確認すると鎧を外しブラウスへと着替えた。いきなり鎧が消えると不思議に思われるかも知れないので鎧と剣は端の方へ置いておく。


 戦士スキルの一つ「武具修理」でブラウスなども綺麗になっている。不思議なものだが、ゲームでは服も鎧扱いなので修理スキルで治すことができる。それしか服を持っていないのも問題があるとしてミールについたら他の服も買おうと透は考えながら座り込んだ。


 しばらくすると先程の女性がトレイに乗せてお食事を運んできてくれた。


「お食事です。しばらくするとみんなも来ると思うので食べちゃっててくださいね」


 透の前にトレイを置くと急いで外へ出て行った。


 食事は硬いパンとシチュー。パンはシチューにつけながら食べるのだろう。シチューには野菜ときのこ、何かの肉がふんだんに盛り込まれておりいい匂いを漂わせていた。

 何の肉かは考えなくても問題ないだろうと透はガツガツと食べ始めた。

 その様子は女が食べる様ではなく男のものだ。

 女になって日が浅い透に女のように振舞えと言っても無駄なことだろうが、その様子を誰かが見たら引いたことだろう。


 食事を終え、しばらくすると数人の女たちが入ってきて軽い食事を部屋の真ん中辺りに並べていく。

 女たちが入れ替わり立ち代り出入りするのを透は眺めていた。

 徐々に男もそれに混じり始めた。

 男が持ってくるのは主に酒と思しき物。


 最終的には十数人の大人と数人の子供が残った。

 先ほど出会った門番の姿も見える。


 皆が円を描く様に座り、透もその中へ促された。

 村長のところにいた女性がみんなが揃ったことを確認すると立ち上がり手を叩いて注目させる。


「みなさーん、今日は冒険者のエルシアさんが来られたことを祝しての宴会です」


 おー、という声が上がる。


「私がこの村の村長を務めているウーリスです。宜しくお願いしますね」


 透に向かってウーリスは頭を下げる。


「え? ドルークさんが村長さんじゃないんですか?」


 つい透は声を出す。


「村の中の雑事をこなすには普段村の中にいる人がやらないと、っていうことなんだよ」


「そうそう、男達は畑や狩りなどであまり村の中にいないからね」


 口々に透に説明してくる。


 シュティの村ではシュティが女性だったこともあり、女性が村長をやっているのだった。

 村の規模が大きくなれば変わるかも知れないが、今のところは皆納得している。


「宴会を始めまーす。みなさんコップはもちましたね」


 透にも酒がなみなみとつがれたコップが渡される。


「それではカンパーイ」


 木製のコップを持ち上げて乾杯の声がそこらじゅうから聞こえてくる。

 子供たちも喜んでコップを持ち上げている。


 そんな時だった。


「モンスターが現われたー!!」との声が響いたのは。


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