第5話 出発、ロックウッド?
決めていた1ヶ月が過ぎる。
テントや竈はそのままに残している。
そして自分がエルシアであることも岩壁に書きこみ、連絡をしてくれるよう書きこむとロックウッドを後にすることにした。
「これからどうしようか……」
透にはこれからの行動方針が浮かばない。
元の世界へ帰る方法を探したいが、その方法が全くといってわからない。
もし自分と同じような存在がいるのなら、噂にはなるはず。
しばらく街にいてその情報が出てくるのを待つか、自分自身がその噂の原因となるか。
受動派と能動派。
透は能動派だった。
自分自身がその強さを見せつければ、噂になるだろう。
そうすれば同じような人がコンタクトをしてくるだろうと考えた。
そうと決まれば透の行動は早い。
地下墓地の地下3階どころか最下層である地下60階までの道のりも覚えている。
他のダンジョンについても同様だ。
パッティアのダンジョンやシュベルのダンジョン等々。
レベル11では最上層ですら危険な場所だ。
鉱山の結界や地下墓地の結界のようにモンスターたちが街へ入り込まないようになっているのだろう。
まずはミールに戻って依頼を受けまくりランクを上げていく。
おそらく透は一気にランクを上げていくことになるだろう。
それでいい。
そうしなければならない。
そんな思いが透の中で確定していく。
鉱山で狩りを続けても結界の中での戦闘は人に伝わらず噂になるには時間がかかる。
最も大きな街ミール、もしくは王城のあるリュケイオンが望ましい。
すでに鉱山で自分の強さを確認していたが、透は念のため地下墓地で自分の強さを再確認するつもりでいる。
地下墓地は強さを確認するのに向いている場所だ。
おおよそ5から10階ごとに新しいモンスターが登場し、1階ごとに強さが跳ね上がっていく。
最下層付近では上級魔法すら使ってくるモンスターが出てくるが、それまでは大した魔法を使ってくる敵もいないためエルシアの体であれば無難にこなすことができるだろう。
鉱山の敵よりは弱いのだから。
全てゲームと同じ場合、という但し書きがつくが。
さすがにエルシアの体でも上級魔法が連続で飛んで来ると死んでしまう。
ゲームでは死んでも生き返ることができるが、実際にはどうなるかわからない。
できるだけ死なないためにも最下層付近へは踏み込まないことも透は決めた。
透はそんなことを考えながら町の入口、乗合馬車の駅へと向かう。
しかしそこには何もなく、だたガランとしているだけだった。
ロックウッドへの乗合馬車が少ないことを透は失念していたのだ。
馬車が来るまで待つか、歩いてミールまで戻るか。
馬車で10日、歩きだと1ヶ月以上かかる距離。
しかも馬車はいつ来るかもわからない。
透は仕方がなく歩くことにした。
装備を気に入っているラビリンスメイルにして、武器はアスカロンのまま。
この世界ではある意味異様な光景だった。
高レベル者しか装備できないラビリンスメイルに大剣を背負った女性。
見掛け倒しとしか思えない。
だがその足取りは軽く、わかる人間が見ればそれは確実に使いこなしていることが見て取れただろう。
一日歩き、野宿をする。
そこで透はさらに忘れていたことを思い出した。
乗合馬車でももちろん夜は野宿をするのだが、その料金には食事も含まれていた。
つまりは食料が足りないのだ。
周りは森だし、獣はたくさんいることだろう。
しかしモンスターの狩り方は知っていても、獣の狩り方がわからないのだ。
モンスターは倒しても消えてしまう。
モンスターを食べたくはないが、消えてしまうのではどうしようもない。
携帯食料は数日分あるが、逆にそれだけしかない。
「はぁ……戻るしかないのか……」
透はため息を付き、ロックウッドへ戻るしかないことを悟る。
今晩はここに野宿をして翌日はロックウッドへ向かう。
そうせざるを得なくなってしまった。
運がよければ乗合馬車が来るかも知れない、などとつぶやきながら……。
透は木を背にしてアスカロンを抱いたまま眠る。
一人旅は危険が大きい。
このあたりの森ではまともにエルシアにダメージを与えられるモンスターがいないことも知っている。
不意を突かれても多分大丈夫と、かってに安心して眠ることにした。
何度目かのため息と共に。
夜中に狼らしい吠え声が聞こえるたびに透は目を覚ましたが、近くに寄ってくることはなく、多少寝不足の状態で朝を迎えることとなった。
そして焚き火をちゃんと片付けると来た道をもどって行く。
途中、ガルウルフという体長が3メートルを越える狼と出会したが、素手でのウィングブレードで一撃のもと倒した。
「どこの超人だよ。こんなことできるのは」
やはりエルシアの体のスペックは高い。
夕方頃にはロックウッドの街へとたどり着き食料を仕入れた後、宿屋へ向かう。
寂れた街でも一応宿屋はある。
墓場には入れなくても墓場の外からお参りをする元の住人達用だ。
繁盛しているとは言えないが、なくてはならないものなのだろう。
裏には畑もあり、自給自足の生活が基本なのが伺える。
「いらっしゃい」
宿屋の女将らしい人物が声をかけてくる。
「珍しい格好だね。初めて見るよそんな鎧は。でも似合ってるね」
「やっぱりそうですか」
他にも見たことがあれば同じような人がいると考えられ嬉しかったが、やはりそんな都合良くはなかったようだ。
しかし褒められたことは単純に嬉しかった。
「食事はどうするね?」
「頂きます。後部屋は空いてますか?」
「もちろん空いてるよ。そうそう人は来ないからね」
「じゃあ、一部屋お願いします」
「何日泊まるんだい?」
「とりあえずは一泊ですね。明日にはここをたってミールまで行こうかと思ってますから
」
「ミールまで歩きかい?まあ、仕方が無いか次の乗合馬車が来るまで30日はあるからね」
「……そんなに来ないんですか?」
透の運は悪かったようだ。
「だぁね、まずこの街には墓参りの季節にしか来ないし、今は季節外れだからね」
「季節外れ、ですか?」
「そうそう、死者の町ができた季節にはそれなりに人は来るんだよ」
「なるほど、そうでしたか」
「食事は部屋でとるかい?それともここで食べていくかい?」
「部屋でお願いします」
「どの部屋も空いているから好きに使っておくれ」
そう言って女将は階段を指さす。
「わかりました」
「出来上がり次第持って行くからね」
透は女将が指さした階段へと歩を進め、一番手前の部屋に入ることにした。
ラビリンスメイルを脱ぎ、ブラウスを羽織る。
少し待つと女将が食事を持ってきた。
スープとパン、それに新鮮な野菜のサラダだった。
「食べ終わったら食器を部屋の外においてもらえばいいからね。ゆっくりしておきな」
そう言って女将は部屋を出て行く。
透はその食事を取る。
スープには謎の肉と野菜。野菜も見たことがない野菜が並んでいる。
しかし香りはすごくいい。
一口粗食するとそのおいしさが口の中に広がってくる。
しばらくの間、携帯食料ばっかりだった透には温かいだけでも美味しく感じるのだが、それを増しても十分なおいしさだった。
食事を終えると食器を部屋の前に起き、ベッドに横たわる。
これからのことを考えようとしたが、二日間の歩きで疲れたのかすぐに寝入ってしまった。