第3話 現状把握
透は冒険者ギルドを出ることにした。
次は地下墓地へ向かうか、それともさらに情報を集めるべきか。
やはり情報が不可欠だろうと、RPGなどの基本である酒場へ向かうことにした。
ゲームの記憶どおりなら地下墓地の近くにあったはず。
大体の道もわかる。
ゲーム通りであって欲しいという願いと、ゲームとは違って欲しいという願いが透の中で混線していた。
ゲーム通りであるなら神と合うためには危険なところへ突入しなければならない。今の自分ひとりでは危険なところへ。
そのためにはどうしても仲間が必要になる。しかしランクがレベルと同一ならば、自分一人で行かなくてはならない。
ゲームと異なっているならば、何かの道が開けるはず。すでに違っている部分もあるのだから出来る限り違っていて欲しいとも思う。
しかし酒場はゲームの通りの場所にあった。
中に入るとゲームとは違って多数の冒険者がいることが違いだろうか。
冒険者達の服装はいろいろあるが見ている限りでは初期職業の装備にしか見えない。
ランク=レベルの図式が透の頭に浮かぶ。
それは最悪に近い状況だ。
ゲームではレベルの違いすぎるものがパーティを組むと上のものにしか経験値が入らないようになっていた。そのためレベルが低すぎる人の手助けはなかなかできない。
お金を都合してやるか、アイテムを都合してやるかといった程度だ。
自分の持っているアイテムは低いレベル用のものは殆ど無い。
銀行に預けているものがあったとしても、それも低レベルのものはない。
熟練の冒険者でレベルが11なのだとするとアイテムを都合したりお金を都合したりしても意味はないだろう。
所詮はその人次第なのだから。
最悪の状況を予想しながら、酒場のカウンターに座る。
「AAAをロックで」
透は普段、自分がバーに行く感覚でつい頼んでしまった。
「AAA? なんだいそれは?」
「あぁ、ウィスキーならなんでもいいよ」
酒場のマスターは棚からウィスキーを取り出し、グラスに注ぎ氷を入れて渡してくる。
銀貨1枚を要求してきたので透は素直に渡す。
ついでにもう一枚渡して情報を得ようとした。
「少し知りたいことがあるんだけど、地下墓地って何階まで制覇されてる?」
「あんた冒険初心者だね。まあ、装備を見ればわかるが。今のところ2階までだね。3階まで行ったものもいるが、すぐに帰ってきている」
最悪の想像は当たっていたかも知れない。
「ランク11を含んだパーティでも?」
「ああ、もちろんだ。ランク11が複数人で挑んでなんとか地下3階の敵を一匹倒すのが精一杯だったそうだ」
たしかゲームでもレベル11では3階はきつかったはずだ。
だが複数で当たればそれほどでもなかったように記憶している。
それでもやはりランク=レベルなのだろうと透は判断する。
「ありがとう」
透はグラスの中身を飲み干して酒場を出て行く。
喉が焼けるが、それが今の透には心地よい。
ある意味現実逃避をしたくなってきた。
あとは他にも同じような人がいないかどうかだけだ。
今のところ、そして少なくともこの街には現れていないようだが、他の街にはいるかも知れない。
もし自分と同じようにこの世界にきているのならば。
そしてレベルが99に達しているのならばいける場所がある。
レベル99のみが入ることの許された場所。
ロックウッドから入れる死者の町と鉱山だ。
鉱山の入り口にはモンスターがいないのでそこに集まっているかも知れない。
一縷の望みをかけて、透はそこへ向かうことにした。
ゲームではいくら食べてもお腹いっぱいにならないし、酒を飲んでも酔うことはないがすでにその二つが現実のものだと認識されている。
同じような人が同じ結論をだすとは限らない。
数日あるいは数週間、そこに篭る必要があるかも知れない。
その前に銀行へ向かいアイテムが預けてあるのかを確認する必要があることを思い出した。
銀行へ向かいながらアイテムがあるのかどうか、お金もあるのかどうかを心配してしまう。
最低限の武装は揃っているのだから無ければ無いでどうとでもなるのだが、透はそれを忘れていた。
しかしその心配はなく透が預けていたアイテムやお金はちゃんと残されていた。
銀行はそれぞれの人に小さな部屋を用意しそこにアイテムその他を預けられるようにしていた。部屋を借りるのにいくらかのお金が必要となっているシステムだった。そのため銀行員がそこに何があるのかは知らない。
透にとって、それは助かることだった。
透が揃えているアイテム群はレベル11で揃えられる代物ではなかったからだ。
それを他の人に見られたならおそらく驚愕の目で見られたことだろう。
レベル99にしか入れない鉱山で手に入るアイテムなどがごろごろしている。
少なくともレベル11では手に入らないアイテムばかりだ。
それらを確認すると酒場の隣にある雑貨屋で野宿の準備を整え、ロックウッドへと向かうことにした。
町の東端から乗合馬車が出ており、それに乗り込めば各地へと行くことができる。
ゲームではそれほど時間のかからなかった移動もここでは10日ほどかかる。
途中にモンスターが現れることもあれば盗賊が出ることもある。
運良く透は便数の少ないロックウッド行きの乗合馬車にすぐに乗ることができた。