第2話 ギルド
透の今の姿はブラウスと靴のみである。
ブラウスと靴はゲームの初期段階で渡される。
防御力もないに等しい。
今の装備はその状態であった。
しかしエルシアのキャラクタがそのままならば最前線以外ではこれでも問題なかったりする。
HPが多すぎるため敵が大したダメージを当てられないうえ、自動治癒力のほうがそれを上回る。
リアル時間で20秒ごとにHPの10%が回復する。
最前線ではその回復力はあまり意味を成さないが、それ以外では十分な治癒力だった。
またSTR値も高いため攻撃力も素手でもかなりあるからモンスターを倒すのも問題ない。
透はブラウスの隙間からのぞく谷間を見ないようにしながらギルドへと向かう。
ブラジャーなどはないため一足ごとにその双丘は揺れ、擦れ、透を刺激する。
出来る限り意識しないようにしてギルドの扉をくぐった。
扉をくぐると横のほうから声をかけてくる女性がいた。
「いらっしゃい、初心者の方ですね? こちらへどうぞ」
服装が明らかに初心者だったからだろう。初心者と決めつけて案内をしてくる。
透にとってはゲームは初心者じゃなくてもこの世界は初心者だ。
情報は多ければ多いほどいいので、その案内に従ってその女性の方へ向かう。
「ギルド登録はまだされてませんよね?」
「はい」
どのように受け答えをしていいのかわからないので単純な答えしか透は返せなかった。
「ではまず説明をさせていただきますね」
そう言って女性は自らをファーマシーと名乗りギルドの説明を始めた。
ギルドは冒険者を支援する組織で、各地域に存在する。ミール以外にノーブル、シュベル、リュシュケイオン、スミート、ロックウッド、パッティア等々。
それらの名前は透にとって馴染み深いものだった。
ギルドに登録するとランクが与えられ、依頼をこなしたり褒賞を与えられるようなことをするごとにそのランクは上がっていく。
ランクは1から始まり、数値がそのままギルドランクになる。
レベルみたいなものかと透は納得する。
依頼は討伐系や採取系など多種にわたり、それぞれランクに応じた依頼を受けることができる。自分のランクを超えた依頼を受けることも可能だが、依頼には期間が設けられておりそれを超えた場合には失敗とみなされ罰金を取られることになる。
ランクが高いものを受ければ当然ランクの上がり方が早くなるが、失敗も多いため自分にあったランク、もしくは複数人でパーティを組んで上のランクの依頼をこなすのが常である。
現在のギルドランク最高は11とのことだった。
(レベル11ということだろうか?)
ギルドに登録するとギルドカードが渡され、それが身分証明となる。そのため一般人でもギルドカードを取得することは珍しくない。
「これでギルドの説明は終わります。登録しますか?」
最後の確認だった。
透は当然登録することを選ぶ。
「はい、お願いします」
「それではこの水晶球に手を当ててください。それで完全に個人の特定となります」
透は水晶球に手を当てた。
水晶球が軽く輝き、すぐに消える。
「これで登録が完了です。カードの発行まで1時間ほどかかりますのでお待ちください。依頼などはあそこの掲示板に書かれていますのでそれをご覧になっておかれるといいかも知れませんよ」
ファーマシーの手の先には大きな掲示板があり多数の紙が貼り付けられていた。
「依頼を受ける場合にはあそこにある掲示板から紙を取ってきて依頼受付に持ってきてください」
ファーマシーはそう言うと何らかの書類を後ろにいる職員らしき人に渡していた。
透は言われたとおりに掲示板に向かうことにした。
掲示板はランク別に紙がはられており、それぞれに内容が書かれていた。
ランクは10までがそれぞれ個別でそれ以上がひとつにまとめられていた。
ランク1の依頼を見ると「蜘蛛の目玉の採取」「蜂の針の採取」などが書かれていた。
(たしか地下墓地の一階や森の入口付近の敵が落としていたアイテムだよなぁ)
その辺りにはもはや行くことがなくなっていた透には何故か懐かしい気がしていた。
(と、まて。なぜこの文字が読めるんだ?)
透は今までに見たことがないミミズがのたくったような文字を読み理解していたことにいまさらながら気がついた。
アイテムの仕舞い方もそうだ。
自然と行っていた。
他の人もそうだろうか?
そんな疑問が湧いてくるが、周りの冒険者らしい人達を見ているだけではそれがわからない。
依頼を受けて装備を整える冒険者たちは武器をアイテム欄から取り出すようなことはしていない。少なくとも見ている限りでは。
かといって自分がアイテム欄から取り出すという行動がどういう事を招くのかわからないし、この場で着替えるわけにもいかない。
一応女なのだから。
そんなことを考えていると受付から「エルシアさん」と声がかかった。
何度かそれが繰り返されると透はそれが自分のことだとわかった。
透は慌てて受付へと向かう。
「なにかいい依頼がありました? 熱中しているようでしたけど」
「あ、いいえ、いろんな依頼があるんだなぁ、と」
透は適当にごまかした。
「そうですね、いろいろありますから自分のランクに沿った依頼を受けるといいですよ。酒場に行けばパーティを組もうとする人たちも集まっていますから、何人かで受けるのもいいかも知れません」
「はい、一度行ってみます」
「それではこれがギルドカードです」
そう言ってファーマシーはちいさなカードを手渡してくる。カードには金属の鎖がついていた。いわゆるドッグタグというものだろうか。
「言い方は悪いようですが、これは身分証明以外に遺体の確認にも使われますので常に首からかけておいてください」
透はドッグタグにエルシア:ランク1と書かれていることを確認すると首にかけた。
「これでエルシアさんは冒険者の仲間入りです。良き前途があなたに与えられますように」
ファーマシーはそう言って締めくくった。
「ありがとう」
透は今陥っている状況を聞こうかと迷ったが、聞き方が思いつかずに礼を言うにとどめた。