第14話 神の加護
魔法の加護の武器、防具。
神の加護の武器、防具。
それらは攻撃力や防御力を上げる効果だけではなく、多種様々な効果があった。
先日透が渡した武器は攻撃力が上がるだけのものであったが、杖であれば詠唱破棄の効果があったりと魔法の武器は簡単に語ることはできない。
しかし神の加護付きの武器、防具はその神の効果を有するため比較的説明しやすいと言える。
戦闘を司るラーフ神であれば攻撃力の増加させる効果。(STRの増加)
悪魔を司るベルフ神であれば体力の上昇効果。(CONの増加)
魔法を司るグルス神であれば魔法防御の効果。(魔法防御率の効果)
健康を司るビルマ神であれば体力の回復効果。(HP回復率の上昇)
精神を司るデント神であれば精神力の上昇効果。(WISの増加)
書物を司るシュリート神であれば魔法効果の上昇。(INTの増加)
音楽を司るフラリス神であれば精神力の回復効果。(MP回復率の上昇)
盗賊を司るリマリー神であれば回避力の上昇効果。(DEXの増加)
これらが主な神々の効果である。
ゲームではそれらを駆使していろいろ狩りを行っていたわけだが、それらのほとんどはドロップ品であり地下墓地でも3階程度では手に入らないものだった。
透はそのことを知っているため翌日からは積極的にそれらの品々を集めることにした。とは言っても武器や防具にはレベル制限が設けられているためダニス達でも装備できるような下位レベル者向けの品々にする必要が有るため地下墓地の中層まで潜る必要がなく、上層部での戦いとなった。
透が潜ったのは地下16階。
ここでは地下6階と同じくレアドロップ品が出やすい。しかも低レベル者向けの神の加護付き武器や防具も出やすいと評判の場所でもあった。
朝目が覚めると透は朝食を済ませると早速、地下墓地へと向かう。
最短距離を走破し、敵との戦闘も避け地下16階へと降り立つ。
ここでの敵は主にワニ。巨大化したワニだ。普通の緑から脱色した白ワニ、血に染まったかのような赤ワニだった。
レアドロップ品としてはブロードソード、ロングソード、レイピア、ハンドアックス、ウッドスタッフ等々、防具も篭手や盾、ヘルメット等々、結構いろいろなものがドロップする。そのうちほとんどが低レベルでも装備可能でそれぞれに魔法効果があったり神の加護があったりする。
さらにワニがドロップするワニの皮は防具へと加工することができ、低レベルでも着ることが可能な優秀な防具を提供することができるだろう。
あいにくとエルシアは完全に戦士として育てていたためそのスキルを持っていないが、ゲームでも防具屋に持っていけばプレイヤーが作るものよりも防御力が落ちるが加工してくれたので大丈夫だろうと考えていた。
鎧にせよ武器にせよ重さがあるため高レベルの武器や防具はとにかく重い。
ダニス達では透が着ているラビリンスメイルですら一人では持ち上げることができない重さだ。当然それでは動けないことになるため防御力はないに等しい。
しかしワニの皮を使った防具は軽いためそのような問題は発生しない。
だからこそ透はここでの狩りを選んだ。
やがてダニス達や他の冒険者のレベルが上がってくればさらに下層で狩りをして武器や防具を手に入れてくるつもりでもいるし、他のダンジョンなどへも出向くつもりだ。
だがとりあえずはここでの狩りを勤しむ。
干し肉をかじって腹を満たしつつワニを斬る。
誘いこんではウィングブレードで一気に切り裂く。
まだこのあたりでは一撃で屠ることができるので余裕の透だった。
今日の収穫は攻撃力増加効果のブロードソード、シュリート神のウッドスタッフ(魔法効果の上昇)、ラーフ神の革篭手(攻撃力の増加)とワニの皮が25枚。
ワニの皮5枚で防具が一つ作れたはずなので、ちょうどいいはずと透は引き上げた。
武器屋に向かい昨日と同じく武器を渡す。
「ちゃんと渡しておいたぜ。信頼できるやつにな」
「そうですか、ありがとうございます」
「これも同じようにしてください」
「あぁ、わかってる」
確認すると次は防具屋へと向かう。
「おや、スコーピオンスレイヤーの嬢ちゃんかい?」
「その名前は恥ずかしいのでやめてください。でもそのとおりですね」
「今日もサソリを倒してきたのかい? うちではそんな品物は扱ってないが?」
「これを」
そう言って透はラーフ神の革篭手を渡す。
「これは……武器屋の旦那が言っていたような防具かい?」
「知っているなら話が早いですね。ええ、そうです。ラーフ神の加護が付いています」
「なっ…………」
神の加護付きの防具。
神々の戦争の時に使われていたという代物で、今では現存しないと思われている代物でもあった。
「武器屋の旦那が言っていたように信頼できるやつに渡せばいいんだね?」
「はい、おねがいします」
「わかったよ」
「それとこれを」
そう言って透はワニの皮を取り出す。
「これをどうしようと?」
「これを使って防具を作ってもらえませんか? 私にはできませんがあなたならできると思うのですが?」
「確かにできるだろうが……。今のあんたの防具より強い防具にはならないと思うがね……まさか、これも?」
「ええ、そうです。早く追いついてきて欲しいですからね」
「あんたに追いつくには大変そうだ……冒険者の連中にはある意味では気の毒かもしれないね」
店主はため息を吐く。
「だが任せておけ、しっかりした防具を作って見せる」
「お願いしますよ。しばらくは手に入れてきますので」
「しばらくは? どういうことだい?」
「しばらくしたら別のところで同じようなことをしようと考えています」
「そうかい、それはしかたがないねぇ。あんたなら地下墓地の最下層まで行けると思っていたんだが、賭けに負けちまったかね」
「賭け、ですか?」
「あぁ、工房連中といつまでに最下層に行けるか、とか、行けるかどうかという賭けをしていたんだ」
「ははっ、一人で地下60階は無理ですよ。だからこそ他の人にもランクを上げてもらうためにしているんですから」
「ろ、60階? それが最下層なのかい? そして行ったことがあるのかい?」
「行ったことがあるといえばありますし、行ったことがないといえばないですね」
透はこの世界に来てから行ったことはない。しかしプレイヤーとしてエルシアで最下層に行ったことがある。上級者向けの狩場の一つでもあるからだ。
「あまり深くは聞かねぇほうが良さそうだね」
透は肩をすくめてそれに答える。
「とりあえず、防具だけはお願いします」
「そして、信頼できる冒険者に、だね」
「はい。あ、あと僅かなお金でいいのでワニの皮の依頼をギルドに出してもらえませんか? そうすれば依頼を達成ということでランクを上げることができますので」
「そのぐらいは構わねぇが……どのぐらいのランクなんだか……」
「それこそ賭けにしたら面白いんじゃないですか?」
「そうさせてもらうよ。ここにいる間でどのぐらいのランクが上がるのか面白そうだ」
「それじゃ、失礼します」
「あいよ、防具の作成に関しても渡すことに関しても任せておきな」
透はそれを確認すると宿屋へと向かった。
宿屋へ向かう途中、いろいろな店を覗いていったが、ゲーム名”混沌の覇王”の混沌にふさわしいぐらい変な店が並んでいた。
ラーメンとケーキを同時に取り扱っている店、花束とパスタを取り扱っている店、果物と魚が交互に並べてある店等々。
ある意味で面白く、楽しくもあったので透は適当な店で食事を取ることにした。選んだのはハンバーグの店。ここもハンバーグ以外にイヤリングを扱っていた。
エルシアを見た店主はイヤリングも勧めてきたが、それを苦笑しつつ断り、ハンバーグだけを食すと透は宿屋へと帰った。