第13話 魔法の加護
「これだけあれば、たくさんの子どもが救えます!!」
透はその剣幕に少し引いてしまった。
でも、とローブの男は続けた。
「こんな数のサソリの尾に支払うだけのお金は都合することはできません。1本でも家を売り払ってなんとか都合したのですから……」
「気にしなくていいですよ、ついでだったんですから。もし悪用するようなら渡せませんが、子どもを救うために使うのならいくらでも都合しますよ」
「……なんか……俺達、悪人っぽくねぇか?」
大金を手にして喜びながらもその様子を見ていたデーリスの言葉だった。
「そうだな、この金は返そう。みんなもそれでいいな?」
ダニスが自分の仲間に声をかけると、「仕方が無いね」と肩をすくめながら頷いていた。
「いや、でもそれは正当な報酬ですし……」
「あぁ、たしかに正当な報酬だ。だから受け取った。その後にこれを子供たちのために寄付するのは構わないだろう?」
「あ、ありがとうございます。必ず子供たちを救ってみせます!!」
「そちらの女性と同じことを繰り返すようだが、気にしなくていい。今回のことでランクも上がったし、さらに高みを目指せることがわかった。それが一番の収入かも知れない」
(お人好し集団なんだな)
透はそのやりとりを見てそう思った。そしてひょっとしたら今日の武器が託せるかも知れない。武器屋に渡す前に此処に来たほうが良かったかもとも思ったが、たぶんこの人達に渡されることになるだろうという確信もあった。
「あとで武器屋に寄ってみるといいですよ。おそらくですが今日の報酬の代わりのものが手に入るかも知れません」
透はダニスにそう告げる。
「ん? どういうことだ?」
「行けばわかりますよ」
そう言うと透は手を振りながらギルドの受付へと向かい、ランクの確認をお願いすることにした。
ランクの確認所は依頼受付所の横に並んでいた。
「ランクの確認をしたいのですが?」
「はい、わかりました。ドッグタグをこちらの水晶球の上にかざしてください」
透は言われたとおりドッグタグを水晶球の上にかざす。
「おかしいですね。何の変化も見られません。あれだけの事をしたのに変化がないということはないと思うのですが……」
しばらく首をひねっていた受付嬢は「あっ」という声を上げて透に尋ねてきた。
「今日、なんかの依頼をこなしましたか?」
「いえ、結局はこなしていない形になりましたね」
「それが原因ですね。ランクは最低でも一つの依頼を受けなければ上がることはありません。ですが例えば本来のランクが6の人だった場合には、どんな依頼でも5回こなせばランクは6になります」
「なるほど、そういうシステムになっているんですね」
「はい、ですから申し訳ないのですが今回は依頼をこなしていませんのでランクが上がることはありません」
「いいえ、大丈夫です。これからは依頼をこなして本来のランクを表示できるようにしますよ」
謝ってくる受付嬢に告げると、ギルドを後にして宿屋へと向かうことにした。
ランク=レベルであることが分かっている透には、依頼を98回受けることは正直なところ面倒に思えてきた。
名を上げるためには別にランクが必要なわけではない。今回の武器屋のように魔法の加護付きや神の加護付きの武器防具を手に入れてくるほうがいいのかも知れないと透は考え始めたのだった。
幸い透にはそれらがドロップする場所やモンスターを知っている。他の冒険者を育てる意味でもそのほうが都合がいいかも知れない。この世界に来たのが自分一人である可能性もあるのだから……。
宿屋に到着し食事をすると、部屋に戻り、レベル11やそれ以下でも使える武器や防具が手に入る場所のピックアップし始めた。
(他のダンジョンや森などで手に入るものは後回しにして、地下墓地で手に入るアイテムを先に集めてしまおう。それだけでかなり変わるはずだ)
そう考えると透はベッドに潜り込んだ。
エルシアが立ち去ったギルドではダニス達が相談していた。
「今回の収入がなくなったのは仕方が無いけど、痛いわね」
そう話すのはダニス達の仲間のひとり盗賊のルーリーだった。
「うん、でも幸い武器や防具を修理するぐらいの貯蓄はあるし、明日からまた依頼を受ければいいよ」
そう答えるのはパーティ最年少の魔法使いのデスティア。まだ幼いながらも魔法使いの腕は初老のグルンを上回る実力の持ち主だ。
ダニスたちは8人でパーティを組んでいる。
戦士のダニス、デーリス、レスティ。盗賊のルーリー。魔法使いのグルンとデスティア。僧侶のワイルとアキア。
後衛であるグルン、デスティア、ワイル、アキアは特に修理は必要はないが、前衛たちはそうもいかない。
明日以降のためにも修理をするためにそんなことを話しながら武器屋へと向かい始めた。
武器屋に着いたダニス達を見た店主は、ダニス達が言葉を発する前に二つの剣を取り出してきた。
ロングソードとレイピアだ。
目を丸くするダニス達。それが魔法の加護付きだということが明らかに分かる品物だった。
「これをどこで?」
代表してダニスが聞く。
「とある冒険者の女性がおいて行った。あんた達みたいなやつに渡せとさ」
「あの言葉はこのことだったのか?」
「言伝も頼まれてるぜ。『追いついてきてくれ』だとさ」
「はっはっはっ、こうなったら意地でも追いつかないとな、ダニス」
「そうだね。とっとと追いついて見返してやんないとあたしたち戦士の名折れだよ」
剣を手に取り眺めるダニス。それは惚れ惚れする輝きを放っている。
「それはダニスが持ちな。リーダーが良いものを持っていれば泊がつくってもんだ」
「じゃあ、レイピアはお前が持つのか?」
「まさか、レスティだろう、当然。こんな細っこい剣は俺には合わねぇ」
「あたしが? いいのかい?」
「それがいいよ、着けて見なよ。きっと似合うから」
デスティアが横から口を挟んでくる。他の面々もうなづいていた。
少し照れながらもレスティはレイピアを腰に装備する。それはまるでその為に用意されたかのようにレスティに映えていた。
「わしらにはないのかい?」
初老の魔法使いグルンが店主に尋ねる。
「あいにくそれだけだね。だがこれからも手に入れてくると言っていたから定期的に寄りな」
「そうか、それを楽しみにするとしよう」
「楽しみにしちゃだめだよ。私たちで手に入れるようにならないと。『追いついてきてくれ』って言われているんだから」
「そうじゃの。早く追いつかねばのう」
「そうですよ。早く追いついて肩を並べて戦えるようになりましょう。あの方もそれを望んでいるのでしょうから」
僧侶のワイルがそう締めくくった。