第11話 ミールの地下墓地
ミールの地下墓地。
亡者の襲来の時に死者たちが溢れかえった場所だ。
外から襲ってくる死者。
地下から溢れ出る死者。
ミールでの亡者の襲来は阿鼻叫喚のものだった。
外から襲ってくる死者には冒険者たちやリュシュケイオンから派遣されていた騎士たちが対応し、地下から溢れ出る亡者には神殿の僧侶たちが対応することでなんとか街は壊滅をまぬがれた。
地下墓地の封印は強力なもので強い死者ほどその影響が出るようなものだった。逆に言えば弱い死者ならば外の近くにまでやって来るということとも言える。
それ故にこそ上層部には弱いモンスターが現れ、深くに行くほどモンスターが強くなるという状態だった。
モンスターたちは死者だけとは限らない。
普通の虫でさえその瘴気に触れ、巨大化したり凶暴化したりする。果ては魔法まで使うほどに進化する。
透の知るゲームでは1階では巨大ネズミと巨大ムカデ。
巨大ネズミは素早い行動で攻撃を避け、巨大ムカデは巻きついて食らいついてくる。
ムカデが巨大化した事の代償として毒を持たなくなったことだけが救いだろうか。
レベルが低いうちは巨大ムカデからは逃げつつ巨大ネズミだけを倒すのがセオリーだった。
やがて巨大ネズミを簡単に倒せるようになると巨大ムカデを相手にするようになる。
巨大ムカデが倒せるようになると地下2階へ。地下2階ではさらに凶暴化した巨大ムカデと巨大ネズミ、そして巨大クモが出てくる。
地下3階では巨大クモは凶暴化し、巨大ムカデは進化して魔法を使うようになってくるのだ。
この魔法が非常に厄介で初級の魔法使いの魔法とはいえレベル11程度では即死する可能性すらある。
またこの階層からは巨大サソリが登場する。
この巨大サソリは毒を持ち、普通のサソリと違って遠距離まで毒を飛ばしてくるのだ。神経系の毒ではなく出血系の毒。ゲームでは徐々にHPを減らしていく効果を持っていた。
魔法と毒。これが地下3階の実情であり、低レベル冒険者を阻んでいる理由となっている。
透はギルドの依頼を受けつつ地下墓地へと向かおうと考えていた。
朝起きると、朝食を済ませギルドへと向かう。
朝のギルドは静かなものだった。
大概の冒険者は前日に依頼を受け、翌日以降に依頼をこなしていくのが常だったからだ。だからわざわざ早くにギルドに来ることはない。
とはいってもギルドはいつ来るかも知れない冒険者のために24時間開いたままとなっている。
ファーマシーはちょうど夜番が終わるところに以前に来たエルシアの姿を見かけたのだった。
しかし以前のエルシアとは圧倒的に違うその鎧姿に圧倒され声を掛けるのを躊躇ってしまった。
透は透で特にファーマシーと話すことがあるわけでもないので、依頼掲示板へと向かのだった。
依頼掲示板のランク11以上の場所へ。
その中で一つの依頼が透の目に止まった
『サソリの尾の採取』
(地下墓地のサソリからドロップするあれかな?聞いてみるか。確か依頼受付だったよな)
そう考えると透は依頼受付と書かれているところへと向かう。
依頼受付の人もファーマシーと同じく夜勤明けで寝ぼけ眼になっていたが、エルシアの姿を見て一気に目を覚ました。
「すみません、この依頼を受けたいんですけど。いくつ集めればいいんですか?」
「こ、これはランク1の人が受けられるものではありませんよ。み、見かけだけつくろっても危険です」
依頼書ととエルシアのドッグタグを見てつっかえながらも答えた。
「受けること自体が禁止なんですか?」
「いえ、受けることはできますが、地下3階まで降りないとならないことの意味はお分かりでしょう?」
「ええ、それは知っています。でも多分大丈夫ですよ。あっ、逆にサソリの尾を持ってきてそれから依頼を受ける、という形式はどうですか? それなら危険だと思ったらすぐ引き上げて違約金も支払わなくて済むし」
(多分大丈夫だけどね)
「そういう事でしたら大丈夫ですね。一応説明しておきますが、ランク1では地下1階でも危険です。巨大ムカデを見たら逃げるようにしてください」
「わかりました。そうすることにしますよ。で、ちなみにこの依頼はいくつ集めてくればいいんですか?」
「まだそれにこだわるんですか?まあいいでしょう。依頼人からは一本と言われています。一本で金貨500枚です」
呆れたように受付嬢は話す。
「金貨500枚ですか……」
「一攫千金を狙って、ランクの高い冒険者たちがそれを目指していますが未だ成功したことのない依頼です。少なくとも今はやめたほうがいいですよ」
「わかりました、そうしますよ」
透は会話が平行線になるだろうことを察して、こっそり地下墓地3階以下へ潜ることを決めた。
「最初のうちは巨大ネズミの腹の中にある瘴気に侵された果物を集めてくる依頼とか、森の毒蜂の採取とかの依頼を受けるといいですよ。それぞれ研究者がいて欲しがっていますから。報酬は安いですけどね」
透が諦めたと判断した受付嬢はランク1でもできるような依頼を勧めてきた。
「ありがとう。一度潜って自分の実力を試してきます。それから依頼を受けるかどうか試すことにしますよ。まずは巨大ネズミ、ですね?」
「ええ、そうです。さらに安全を期すならパーティを組んでいかれることをお勧めします。弱いとはいえ毎年何人もの人がその巨大ネズミに殺されていますから」
「わかりました、入口付近で一度試してダメだったらすぐに逃げるようにします。もしダメだったらパーティを組んでみますよ」
「パーティを組むのでしたら酒場に行くといいですよ。あそこには冒険者たちが集まっていますので」
「わかりました、ありがとうございます。それじゃ行ってきます」
「死なないようにがんばってね」
受付嬢は手を振りながら答える。
透もそれに答えるように背を見せながら手を振った。
「さてと地下墓地へ行きますかね」
ギルドを出ると透は地下墓地へと向かった。