第5話:日間1位と「共犯者たち」
「……おい、嘘だろ。お前ら、画面見てるか。これ、バグじゃねーよな?」
翌日の夜。配信開始ボタンを押した俺の第一声は、掠れた震え声だった。
画面に映し出されているのは、『小説家になれ』のトップページ。
その最上段――日間総合ランキング第1位の場所に、昨日産声を上げたばかりのタイトルが鎮座していた。
『乙女ゲーの攻略キャラに転生したが、性格終わってる聖女から悪役令嬢を護ります。』
投稿からわずか24時間。
ポイント数は数万を超え、なおも一秒ごとに跳ね上がっている。
昨日まで登録者2桁で「重すぎる」「思想が強い」と馬鹿にされていた俺の人生に、とんでもない巨大な隕石が衝突した。
【コメント欄】
:[軍師]:きたああああああああああ!!
:[剣呑]:日間総合1位!! 覇権確定!!
:[ござる]:「これぞまさに『天下統一』の第一歩でござるな! 綴殿!」
::野次馬A:ここが噂の聖女クズ小説の会場ですか?
::なれ専読者:1話だけで1位とか工作疑うレベルだけど、読んだら納得した。作者の執念が怖すぎる。
::通りすがり:Vの配信でプロット会議してたってマジ? 斬新すぎんだろw
「お、おめでとう……じゃねーよ! なんだよこの数字!
[軍師]! [剣呑]! お前ら、掲示板とかSNSで何て宣伝したんだ!?
エゴサしたら『最高に性格の悪いVが、自分の性癖を煮詰めた地獄を垂れ流してる』とか書かれてただろ!!」
【コメント欄】
:[軍師]:事実しか言ってない。
:[剣呑]:むしろ『性格が悪い』のは褒め言葉だ。今のなれ には毒が足りなかったんだよ。
:[ポエム]:綴、見て。感想欄に『続きを読まないと死ぬ』って書いてる人がいる。……救ってあげなきゃ。
:[親衛隊]:当然ですわ。エレオノーラ様を愛でる同志がこれほどいたなんて、わたくし感動いたしましたわ!
「感動してる場合かよ!
いいか、日間1位ってのは、つまり何万人もの人間が今の俺の配信を……この『制作会議』を監視してるってことだろ!?
そんな中で、俺が昨日みたいに『聖女に毒を盛る方法』とか『ヒロインを精神的に追い詰めるセリフ』とか議論してみろ。
俺のVTuberとしての『銀髪クールイケメン』という看板が、粉々に粉砕されるんだぞ!?」
【コメント欄】
::モブA:え、今さら?w
::古参リスナー:看板なんて最初から泥まみれだろwww
:[名無し]:お前の「思想」と「裏声」が合体してこその1位だ。逃げるな。
俺はガタガタと震える手で、ヘッドセットのマイクを位置調整した。
アバターの銀髪イケメンは、主の絶望を反映して、冷や汗のレイヤーが表示されている。
だが、コメント欄の熱量は、恐怖を上回るほどの「期待」に満ちていた。
「……っ、クソが!! 分かったよ、やってやればいいんだろ!!
お前ら、いいか! 日間1位を獲ったってことは、もう『お遊び』じゃ済まされない。
ここからは、プロの仕事だ。……いや、俺とお前ら、数万人の『共犯者』による、既存の物語への反逆だ!!」
俺が吠えると、画面を埋め尽くすほどの「草」と、それ以上に熱い「弾幕」が流れた。
今まで冷やかしで見ていた野次馬たちも、俺の気迫に押されるように、次々と「製作委員会」の末端へと加わっていく。
「[軍師]! 第2話の構成案、出すぞ!
第1話で聖女にハメられたアルベルトが、どうやってエレオノーラとの信頼を……いや、『共依存』を深めていくか。
甘いラブロマンスなんて期待するなよ。俺が書くのは、泥を啜りながら踊るワルツだ!!」
【コメント欄】
:[軍師]:いいぞ。まずは周囲の騎士団員からの孤立。そこからエレオノーラの『情け』を引き出す。
:[剣呑]:聖女側には王太子マックスを完全に抱き込ませろ。逃げ道を断つんだ。
:[ござる]:「そこで拙者の考えた『切腹寸前の……』」
::モブ読者:ござるの切腹推し、もう様式美すぎて好きになってきたわw
::考察勢:アルベルトがここで折れないのが重要だよね。絶望の中の輝きこそ至高。
「よし、お前ら……。今からアンケートを出す!
アルベルトがエレオノーラに最初にかける言葉はどれだ!?
[A] 『お助けください』
[B] 『俺を殺してください』
[C] 『……貴方を、独りにはさせない』」
アンケートの数字が狂ったように回る。
数秒で一万票を超え、結果は――[C]が8割。
「……そうか。お前ら、やっぱり『執着』が好きだな。
いいだろう。……書くぞ。今夜中に、お前らの期待を絶望で塗り替えて、その先にあるカタルシスを叩きつけてやる!!」
俺は猛烈な勢いでキーボードを叩き始めた。
配信画面には、リアルタイムで綴られていく『せいまも』の第2話。
俺が文字を打つたびに、数万人のリスナーが息を呑み、議論し、時には罵声を浴びせ、時には称賛を贈る。
これはもう、単なる小説の執筆じゃない。
ネットという巨大な劇場で行われる、終わりなきライブパフォーマンスだ。
「……見てろよ世界。
俺とお前らが作ったこの『劇薬』で、なろうの歴史を、真っ黒に染め上げてやるからな!!」
深夜。日間1位の重圧をエネルギーに変えた綴のタイピング音だけが、
伝説の第2幕を刻んでいった。
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