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第3話:俺とお前らの「始まりのプロレス」

「――おい、ちょっと待て。さっきから好き勝手言ってるけどよ」


 俺はキーボードを叩く手を止め、マイクに向かって眉をひそめた。

 画面右側のコメント欄は、相変わらず12人のリスナーたちが「聖女の拷問方法」や「王太子の無能エピソード」で大盛り上がりしている。


 「お前らさ、名無し(デフォルト名)のままじゃ、誰がどの案を出したのか分からねーだろ。ディベートするにしても、『名無し1』が言ったのか『名無し2』が言ったのか、ツッコミも入れづらいんだよ。……いいから今すぐ、ハンドルネーム設定して名乗れ。今日この場にいるお前らは、いわばこの物語の『共犯者』……そうだな、アーサー王伝説に倣って『円卓の騎士』ってことにしてやるよ」


 俺の適当な思いつきに、リスナーたちが即座に反応した。

 次々と名前が書き換えられ、個性が形を成していく。


【コメント欄】

:[軍師]:ほーん。円卓の騎士か、悪くない。じゃあ俺は『軍師』で。戦略担当な。

:[剣呑]:じゃあ俺は『剣呑けんのん』。エグい展開専門。

:[ポエム]:僕は『ポエム』。エレオノーラ様の美しさを描写する担当。

:[親衛隊]:『親衛隊』参上ですわ。エレオノーラ様を汚す奴は万死に値しますわよ。

 そこへ、ひときわ異彩を放つフォントのコメントが割り込んできた。

:[ござる]:「待たれよ! 拙者も忘れてもらっては困るでござる!!」


 「……出たな、ござる。お前、さっきから一人だけ時代劇みたいな口調で浮いてるんだよ」


:[ござる]:「失礼な! 拙者は『和』と『様式美』を重んじる者。エレオノーラ様の凛とした佇まいは、まさに武士道に通じるものがある……そうは思わぬか、綴殿!」


 「同意を求めるな! お前のせいでファンタジーの世界観が混ざりそうなんだよ。……まぁいい。軍師、剣呑、ポエム、親衛隊、そしてござる……。お前ら12人が、この『せいまも』の最初の読者だ。いいか、俺が1話を書く。お前らはそれを全力で『外』へ広めろ。身内ノリで終わらせるんじゃねーぞ。世界中の度肝を抜いてやるんだよ」


 俺の言葉に、[軍師]が不敵なコメントを返した。


【コメント欄】

:[軍師]:綴、お前……俺たちの本業、知らないだろ?

:[軍師]:俺は某大手まとめサイトの『中の人』だし、[剣呑]はフォロワー30万人の毒舌アニメレビュアーだ。

:[ござる]:「拙者も、某巨大匿名掲示板にて『伝説のコピペ職人』と呼ばれた腕前、今こそ披露する時でござるな!」

:[剣呑]:勝手にバラすなw まぁいい。綴がマジで魂削るなら、俺の『裏垢』総動員して火をつけてやるよ。


 「……は? お前ら、何者だよ……。ただのニートじゃなかったのかよ」


 思わず背筋が凍った。ただの暇人だと思っていた12人は、実はネットの底なし沼に深く根を張った、各界の「猛獣」たちだったのだ。俺がたまたま拾い上げた石ころは、磨けば光るどころか、爆発寸前のダイナマイトだったらしい。


 「……上等だ。お前らがネットの火付け役なら、俺は最高の『燃料』を供給してやる。いくぞ、第1話……。タイトルはこれだ。

 『乙女ゲーの攻略キャラに転生したが、性格終わってる聖女から悪役令嬢を護ります。』

 略して、『せいまも』。投稿……完了!!」


数分後:ネットの海が荒れ始める


 「……おい、待て。おい!!」


 俺は画面をリロードするたびに、心臓が口から飛び出しそうになった。投稿からわずか10分。通常なら、底辺作家の初投稿など、数時間経ってもPVは一桁がいいところだ。だが、『せいまも』の数字は、まるでバグったかのように跳ね上がっていた。

 100……500……1000……。

 「な、なんだこれ!? なんでこんなにアクセスが来るんだ!? 感想欄もすでにパンクしてるぞ! 『期待の新星現る』とか『作者の怨念が凄まじい』とか……」


【コメント欄】

:[軍師]:計画通り。俺が『最速まとめ』で記事にした。

:[剣呑]:俺も『今期最も注目の新人』として拡散したぞ。

:[ござる]:「掲示板の『おすすめ小説スレ』にて、猛烈な勢いでマルチポスト……もとい、布教活動中でござる! 運営殿、拙者をBANできるものならしてみよ!」


 さらに、俺のスマホが激しくバイブレーションした。通知画面には、信じられない文字が並んでいる。

【ツブヤイター・トレンド:15位『#せいまも』】


 「トレ、トレンド……!? 嘘だろ、たった12人で、どうやってここまで……」


【コメント欄】

:[軍師]:12人が同時に、各々の『コミュニティ』の急所に針を刺しただけだ。

:[軍師]:あとは野次馬たちが勝手にガソリンを注いで回ってるだけだ。綴、おめでとう。お前、今この瞬間、世界に見つかったぞ。


 アバターの銀髪イケメンは、目を見開いて硬直していた。アクセス数は、投稿から30分で早くも1万PVを突破。


「……これ、明日どうなるんだ。日間ランキング……1位、狙えるのか……?」

【コメント欄】


:[剣呑]:1位? 綴、お前は何も分かってないな。

:[剣呑]:1位を獲るんじゃない。俺たちは、このサイトのランキングシステムそのものを『破壊』しに来たんだよ。


 俺は震える手で、空のテキストエディタを開いた。12人の「円卓の騎士」。彼らが用意した舞台は、あまりにも巨大で、あまりにも残酷だ。

 だが、俺の心の奥底に眠っていた「思想」が、かつてないほど激しく脈打っている。


 「……いいだろう。お前らが火をつけたんだ。……なら、俺は油を注ぎ続けてやるよ! 夜明けまでに第2話、書き上げるぞ!! お前ら、ディベートの準備しろ!!」


 俺の咆哮に、12人の「騎士」たちが歓喜のコメントで応える。

 深夜3時。世界が眠る中、底辺VTuberの小さな自室だけが、異常な熱量で燃え上がっていた。



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