第2話:2年前の冬。伝説の始まり
2年前:冬の夜
当時の俺は、バイト代を叩いて買った中古のPCと、ノイズ塗れの安物マイクを武器に、大海原へ漕ぎ出したばかりの「底辺VTuber」だった。
アバターは今と変わらぬ銀髪のクール系イケメン。
だが、その中身は、小説投稿サイト『小説家になれ(なれ)』で、最高30位という「中途半端な実績」を唯一の誇りにしている、ひねくれた作家志望の青年だった。
「……あー、テステス。聞こえてるか、お前ら。
新人VTuberの銀凪綴だ。……チッ、また接続が悪いな」
その日の同時視聴者数は、わずか「12人」。
そのほとんどが、俺の「なれ」時代の読者か、たまたま新着一覧から迷い込んできた暇人たちだ。
【コメント欄】
:おっ、綴、今日も人いねーなw
:銀髪イケメンなのに背景がフリー素材のボロ部屋で草
:今日は何するんだよ? また自分の『重すぎる』旧作の読み上げか?w
「うるせーよ! 旧作を馬鹿にすんな!
一応、日間ランキング30位に載ったこともあるんだぞ。
……まぁ、1週間で圏外に消えたけどな」
自嘲気味に笑うと、コメント欄に一人のリスナーが容赦ない言葉を投げ込んできた。
【コメント欄】
:綴さぁ、お前の小説は『思想が強すぎる』んだよ。
:設定は凝ってるけど、読んでて胃もたれするんだわ。
:もっと『スカッとする話』書けねーのかよ?
:正直、俺の方が面白い話作れるわw 構想はあるんだけど、投稿するのが億劫でさーw
カチン、と頭の中で何かが弾けた。
普段ならスルーする煽りだが、その日はなぜか、その「億劫」という言葉に無性に腹が立った。
「……ほう。面白い話、作れるって?
構想はあるけど、書くのが面倒くさい……か。
お前らみたいな『ワナビー』の言い訳は、もう聞き飽きたんだよ」
俺はマウスを力強く握りしめ、配信ソフトの設定画面を開いた。
そして、ブラウザで『なれ』の新規作品投稿ページを表示し、配信画面にドォン! と映し出した。
「じゃあ、こうしようぜ。……俺がお前らの『面白い話』を形にしてやるよ」
【コメント欄】
:……は?
:どういうこと?
「お前らがここで構想を吐き出せ。俺がそれをベースに、タイトルとプロットを考える。
展開に迷ったらディベートだ。お前らの中で一番面白い案を出した奴の意見を、俺が全力で文章化する。
……投稿する手間も、叩かれるリスクも、全部俺が引き受けてやるよ。
どうだ? ネットの隅っこで燻ってるお前らの『最強の設定』、俺にぶつけてみろよ」
一瞬、12人しかいないコメント欄が静まり返った。
だが、すぐにそれは「お祭り騒ぎ」の予感に変わる。
【コメント欄】
:売れっ子になりたくて必死すぎて草www
:でも面白そうじゃん。お前の筆力と、俺たちの『性癖』の合体か。
:ほーん、ええやん。
:拙者が温めてた『アニメ化確定の神設定』を出す時が来たでゴザルな。
:↑変な奴湧いてて草。
「よし、決まりだ。今日からこの配信は、
俺とお前らで作る『なれ史上最高のエンタメ製作委員会』だ!
ジャンルは何にする? ……今の流行りは『追放』か? それとも『ざまぁ』か?」
これが、後に世界を変えることになる『せいまも』の、本当の産声だった。
「……じゃあ、まずは第一の火種だ。
主人公は、魔法の天才だが聖女に魅力される騎士。
ヒロインは、高潔すぎて周囲に理解されない『氷の女王』。
そして、全ての元凶となるのは……最高に腹黒い『聖女』だ。
……これで行く。異論は認めん。まずはここからだ」
【コメント欄】
:テンプレすぎて逆に不安なんだがw
:でも、綴の筆力ならドロドロにできそう。
:よし、聖女の名前は『リリカル』とかどうだ? 響きが腹黒そうだぞw
:おい待て、王太子は!? ざまぁされる王太子が必要だろ!!
「王太子の名前は……そうだな、『マクシミリアン』。略してマックスだ。
こいつは、聖女に魅了されて、自分の婚約者である女王を平気で踏みにじるクズにする。
……おい、今『設定が古臭い』って言った奴! 表へ出ろ!
ここからが、お前らの腕の見せ所だろうが!!」
深夜2時。
登録者2桁の底辺VTuberと、名もなき12人のリスナー。
彼らが交わした、あまりにも不遜で、あまりにも熱い「プロレス」。
俺はキーボードを叩き始めた。
文字を入力するたびに、コメント欄から「もっと酷い目に合わせろ!」「ここはこう言わせるべきだ!」という怒号のようなアドバイスが飛んでくる。
「……ははっ。お前ら、性格悪すぎだろ。
でも、いいぜ。……その悪意、全部俺が『最高のエンタメ』に昇華してやるよ」
アバターの銀髪イケメンが、不敵な笑みを浮かべる。
この夜、俺たちはただの「配信者とリスナー」から、運命を共にする「共犯者」へと進化した。
夜明けまで残り数時間。
後に数百万の読者を熱狂させ、ついにはアニメ化まで成し遂げる『せいまも』の第1話が、
ノイズ混じりのマイクの向こうで、着実にその形を成していく。
「見てろよお前ら。……これが、俺たちの『伝説』の始まりだ!!」
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