表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/13

第2話:2年前の冬。伝説の始まり

2年前:冬の夜


 当時の俺は、バイト代を叩いて買った中古のPCと、ノイズ塗れの安物マイクを武器に、大海原へ漕ぎ出したばかりの「底辺VTuber」だった。


 アバターは今と変わらぬ銀髪のクール系イケメン。

 だが、その中身は、小説投稿サイト『小説家になれ(なれ)』で、最高30位という「中途半端な実績」を唯一の誇りにしている、ひねくれた作家志望の青年だった。


「……あー、テステス。聞こえてるか、お前ら。

 新人VTuberの銀凪綴だ。……チッ、また接続が悪いな」


 その日の同時視聴者数は、わずか「12人」。

 そのほとんどが、俺の「なれ」時代の読者か、たまたま新着一覧から迷い込んできた暇人たちだ。


【コメント欄】

:おっ、綴、今日も人いねーなw

:銀髪イケメンなのに背景がフリー素材のボロ部屋で草

:今日は何するんだよ? また自分の『重すぎる』旧作の読み上げか?w


「うるせーよ! 旧作を馬鹿にすんな!

 一応、日間ランキング30位に載ったこともあるんだぞ。

 ……まぁ、1週間で圏外に消えたけどな」

 自嘲気味に笑うと、コメント欄に一人のリスナーが容赦ない言葉を投げ込んできた。


【コメント欄】

:綴さぁ、お前の小説は『思想が強すぎる』んだよ。

:設定は凝ってるけど、読んでて胃もたれするんだわ。

:もっと『スカッとする話』書けねーのかよ?

:正直、俺の方が面白い話作れるわw 構想はあるんだけど、投稿するのが億劫でさーw


 カチン、と頭の中で何かが弾けた。

 普段ならスルーする煽りだが、その日はなぜか、その「億劫」という言葉に無性に腹が立った。


「……ほう。面白い話、作れるって?

 構想はあるけど、書くのが面倒くさい……か。

 お前らみたいな『ワナビー』の言い訳は、もう聞き飽きたんだよ」


 俺はマウスを力強く握りしめ、配信ソフトの設定画面を開いた。

 そして、ブラウザで『なれ』の新規作品投稿ページを表示し、配信画面にドォン! と映し出した。


「じゃあ、こうしようぜ。……俺がお前らの『面白い話』を形にしてやるよ」


【コメント欄】

:……は?

:どういうこと?


「お前らがここで構想を吐き出せ。俺がそれをベースに、タイトルとプロットを考える。

 展開に迷ったらディベートだ。お前らの中で一番面白い案を出した奴の意見を、俺が全力で文章化する。

 ……投稿する手間も、叩かれるリスクも、全部俺が引き受けてやるよ。

 どうだ? ネットの隅っこで燻ってるお前らの『最強の設定』、俺にぶつけてみろよ」


 一瞬、12人しかいないコメント欄が静まり返った。

 だが、すぐにそれは「お祭り騒ぎ」の予感に変わる。


【コメント欄】

:売れっ子になりたくて必死すぎて草www

:でも面白そうじゃん。お前の筆力と、俺たちの『性癖』の合体か。

:ほーん、ええやん。

:拙者が温めてた『アニメ化確定の神設定』を出す時が来たでゴザルな。

:↑変な奴湧いてて草。


「よし、決まりだ。今日からこの配信は、

 俺とお前らで作る『なれ史上最高のエンタメ製作委員会』だ!

 ジャンルは何にする? ……今の流行りは『追放』か? それとも『ざまぁ』か?」


 これが、後に世界を変えることになる『せいまも』の、本当の産声だった。


「……じゃあ、まずは第一の火種だ。

 主人公は、魔法の天才だが聖女に魅力される騎士。

 ヒロインは、高潔すぎて周囲に理解されない『氷の女王』。

 そして、全ての元凶となるのは……最高に腹黒い『聖女』だ。

 ……これで行く。異論は認めん。まずはここからだ」


【コメント欄】

:テンプレすぎて逆に不安なんだがw

:でも、綴の筆力ならドロドロにできそう。

:よし、聖女の名前は『リリカル』とかどうだ? 響きが腹黒そうだぞw

:おい待て、王太子は!? ざまぁされる王太子が必要だろ!!


「王太子の名前は……そうだな、『マクシミリアン』。略してマックスだ。

 こいつは、聖女に魅了されて、自分の婚約者である女王を平気で踏みにじるクズにする。

 ……おい、今『設定が古臭い』って言った奴! 表へ出ろ!

 ここからが、お前らの腕の見せ所だろうが!!」


 深夜2時。

 登録者2桁の底辺VTuberと、名もなき12人のリスナー。

 彼らが交わした、あまりにも不遜で、あまりにも熱い「プロレス」。

 俺はキーボードを叩き始めた。

 文字を入力するたびに、コメント欄から「もっと酷い目に合わせろ!」「ここはこう言わせるべきだ!」という怒号のようなアドバイスが飛んでくる。


「……ははっ。お前ら、性格悪すぎだろ。

 でも、いいぜ。……その悪意、全部俺が『最高のエンタメ』に昇華してやるよ」


 アバターの銀髪イケメンが、不敵な笑みを浮かべる。

 この夜、俺たちはただの「配信者とリスナー」から、運命を共にする「共犯者」へと進化した。

 夜明けまで残り数時間。

 後に数百万の読者を熱狂させ、ついにはアニメ化まで成し遂げる『せいまも』の第1話が、

 ノイズ混じりのマイクの向こうで、着実にその形を成していく。


「見てろよお前ら。……これが、俺たちの『伝説』の始まりだ!!」



もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ