表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第10話:小説内パート『せいまも:決別の序曲』

「……よし。準備はいいか、共犯者ども。」


 深夜3時。ミーチュの配信画面には、これまでのような「設定メモ」ではなく、真っ白な原稿用紙のテクスチャが映し出されていた。

 同接はついに4万人を超え、静寂の中に異様な熱気が立ち込めている。


「今から、俺たちがディベートで練り上げた『真の第1話』……その改訂版を、一気に書き上げる。

 ……茶化すなよ。これは、俺とお前たちの、魂の結晶だ」


【コメント欄】

:[軍師]:……ああ。黙って見ていてやる。

:[剣呑]:お前の指が止まったら、その瞬間に俺が引導を渡してやるよ。

:[ござる]:「……固唾を呑んで、見守るでござる」

::モブA:ガチの執筆モードだ……。

::なれ廃人:呼吸するのも忘れる。


 綴は深く息を吐き、キーボードに指を置いた。

 もう、迷いはない。

 頭の中には、冷酷な聖女、狂った王太子、そして孤独な氷の女王の姿が、鮮明に浮かび上がっている。


『乙女ゲーの攻略キャラに転生したが、性格終わってる聖女から悪役令嬢を護ります。』


第一章:泥に咲く白百合


 「――ああ、リリカル様。貴女の瞳は、まるで朝露に濡れた宝石のようだ」


 その言葉を口にした瞬間、アルベルトの喉の奥には、焼けた鉄を飲み込んだような激痛が走った。

 目の前にいるのは、愛らしい微笑みを浮かべた聖女、リリカル。

 だが、アルベルトの視界には、彼女の背後に渦巻くどす黒い悪意と、彼女が放つ「魅了チャーム」の悍ましい魔力の奔流が、はっきりと見えていた。


 (……反吐が出る。殺してやりたい。今すぐその喉笛を掻き切ってやりたい)


 脳内では罵詈雑言が渦を巻く。

 だが、アルベルトは魔法の天才だ。

 彼は自身の魔力を脳内に固定し、聖女の魅了を強制的に中和し続けている。

 もし、今この瞬間にリリカルへの「愛」を否定すれば、彼女は即座に異変に気づくだろう。

 そうなれば、彼女の毒牙は、まだ魅了に抗う術を持たない「彼女」へと向かう。


 「……嬉しいわ、アルベルト様。貴方だけは、私を理解してくださるのね」


 リリカルが、アルベルトの頬に白く細い指を這わせる。

 その感触に、アルベルトは全身の毛穴が逆立つような嫌悪感を覚えた。

 奥歯を噛み締め、溢れそうになる血の味を飲み込んで、彼はさらに甘く、毒に満ちた声を絞り出す。


 「もちろんです。……貴女のためなら、私は神をも裏切りましょう」


 その視線の先。

 王宮の回廊の隅で、冷徹な仮面を被り、一人佇む公爵令嬢がいた。

 エレオノーラ。

 氷の女王と揶揄され、婚約者であるマクシミリアン王太子からも疎まれる、孤独な令嬢。


 「……見なさいな、アルベルト様。あの方の、あの冷え切った目。

 王太子殿下をあんなに困らせて……本当に、可愛くないお方だわ」


 リリカルがクスクスと笑う。

 その隣で、魅了に当てられたマクシミリアンが、憎々しげにエレオノーラを睨みつけた。


 「全くだ! エレオノーラ、貴様のその傲慢な態度には反吐が出る!

 リリカルのような慈愛の欠片も持たぬ貴様など、王妃の座に相応しくない!」


 王太子の怒声が響く。

 エレオノーラは、ただ静かに目を伏せた。

 彼女の指先が、微かに震えているのを、アルベルトだけは見逃さなかった。

 かつて、ゲームの画面越しに愛した、気高くも悲しい推しキャラ。

 

 (……待っていろ、エレオノーラ。今は、耐えてくれ)


 アルベルトは一歩前へ出た。

 リリカルの機嫌を損ねぬよう、そして王太子の信頼を繋ぎ止めるために。

 彼は、自らの魂を削るような「演技」を上書きする。


 「殿下、仰る通りです。……エレオノーラ様、貴女のその態度は、リリカル様の清廉さを汚す。

 ……目障りだ。今すぐ、我々の前から去れ」


 冷酷な言葉。

 エレオノーラの瞳に、一瞬だけ、深い悲しみの色が走った。

 だが、彼女が踵を返し、誰にも見られぬように回廊を去る際――。


 彼女のドレスの裾に、アルベルトが密かに放った「癒やしの微風」が触れた。

 王太子の怒鳴り声で傷ついた彼女の心を、僅かばかり温める、誰にも気づかれない魔法。


 「……アルベルト。貴方、本当に素敵だわ」


 リリカルが満足げに彼の腕に抱きつく。

 アルベルトは、内側で血を吐きながら、世界で一番幸せそうな顔で、その悪魔に微笑み返した。


 (……護る。この泥沼の中で、俺だけが汚れていればいい。

 例え貴女に、世界で一番憎まれる男になったとしても……。

 俺は、貴女を絶望の淵から救い出してみせる)


 タイピング音が止まる。

 画面には、綴が書き上げた入魂の1話が、圧倒的な存在感で鎮座していた。


【コメント欄】

::……。

::言葉が出ない。

:[軍師]:……完璧だ。

:[軍師]:リリカルへの言葉の裏にある『殺意』が、文章の端々から滲み出ている。

:[剣呑]:アルベルト……お前、かっこよすぎるだろ。

:[親衛隊]:【¥100,000】ああ……ああ……!! エレオノーラ様へのあの微風!

:[親衛隊]:先生! 貴方は神ですわ! 救済なき絶望の中の、唯一の光……!!

:[ござる]:「【¥50,000】泣いたでござる。拙者、画面が見えないほど泣いているでござるよ!!」


「……ふぅ。……お前ら。……見ててくれたか」


 綴は、椅子に深く沈み込んだ。

 同接は驚異の5万人。

 コメント欄には、これまでの「工作」を超えた、純粋な読者としての感動と興奮が、津波のように押し寄せていた。


「……これが、俺たちの作った『せいまも』だ。

 ……もう、誰も『工作』なんて言わせねえ。

 この文章で、なれの頂点を獲りに行くぞ」


【コメント欄】

::行ける。

::いや、もう獲ってるだろ。

::綴、お前がナンバーワンだ。

:[軍師]:……ああ。伝説は、ここから加速する。


 深夜の静寂。

 銀髪のVTuberは、画面の向こうにいる5万人の「共犯者」たちと共に、

 確かな勝利の予感に震えていた。



もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ