表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

多少の変化で

作者: P4rn0s
掲載日:2026/02/17

踏み台に乗ったとき、最初に思ったのは怖さでも後悔でもなく、拍子抜けだった。


あれ、こんなに低かったっけ。


手を伸ばせば、もう天井に触れそうだった。

白いクロスの継ぎ目。小さなシミ。照明の縁に溜まった埃。

ずっとここに住んでいたのに、こんな近さで見たことはなかった。


この家、思っていたより天井が低い。


今まで天井なんて、寝るときにぼんやり見上げるだけだった。

スマホの光を顔に落としながら、意味もなくスクロールして、目が疲れたら横を向く。

天井はただの背景で、感情を持たない白い面だった。


でも今は違う。


視界いっぱいに広がる白。

指先に触れそうな距離。

呼吸のたびに、天井が少しだけ迫ってくるような錯覚。


低いな。


こんなにも、世界は近かったのか。


首にかけたロープがやけに現実的で、指で撫でると繊維のざらつきが皮膚に引っかかった。

なのに、頭の中は妙に冷静だった。


天井が低い。


それだけの事実が、

なぜか可笑しくて、少しだけ息が漏れた。


今まで、気づかなかった。


この部屋の狭さも、壁紙の色も、床の軋む音も。

全部知っているつもりで、何も見ていなかった。


視点を変えるだけで、こんなにも景色は違う。


踏み台の上から見る世界は、いつもの高さより数十センチ高いだけなのに、まるで別の場所みたいだった。


もし、もう少しだけ。


ほんの少しだけ、別の高さから物事を見ていたら。

ほんの少しだけ、立つ場所を変えていたら。


違う選択肢が、見えたのだろうか。


ロープを持つ手が、わずかに震える。


天井は低い。

でも、もう十分だった。


白い面を見上げながら、思う。


世界は、思っていたよりも狭い。

そして、自分の居場所は、その中に見つからなかった。


踏み台を蹴る直前、

最後に見えたのは、継ぎ目の線だった。


ああ、本当に低いな。


その感想だけが、やけに鮮明だった。


そして視界は揺れ、

白は、ゆっくりと暗くなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ