003
宙港の駐車場に停めてあった小型艇を飛ばして事務所に向かう。地球の速度に慣れかけていただけに、少し酔いそうだった。
事務所に戻り、開けっぱなしになっている居室のドア前で声をかける。
「ただいま戻りました」
開拓時代の骨董品だと言う木製の巨大なデスクの向こうで、椅子の背もたれをこちらに向けたまた「ご苦労」と言った。
恐らく女だ。売り飛ばす前の恒例行事。おれにできることと言えば待つことだけだ。椅子越しに見える窓から星を数えて42個目で女の咽せる声が聞こえた。
椅子が回る。おれの目は43個目の、数日前までいた星に止まったままだった。
用件を話し終えたボスは再び椅子の背を向けた。
おれは頭を下げて居室を後にする。椅子が激しく軋む音が聞こえる。いや、聞かせているんだろう。
そのリズムで地球の女を買い忘れていたことに気づいた。メシはやたら味が濃かったり硬かったりしたが女はどうなんだろうか。
……いや、忘れていたってことは優先順位が低かったって事だ。
どうだっていい。
そう、どうだって良かった。
最初からそうだ。学校も家もどうだって良かったし、この仕事も何となくの流れでたどり着いただけだ。
喫煙室でぼんやりしていると、同僚とも仲間とも呼びづらい男が、入ってくるなり「土産のひとつも無しか?」と訊いてきた。
「何が?」
「地球帰りなんだろ?」
買った女の話でもいいぜと笑うその目は昏かった。おれも同じ目をしているんだろうか。
「疲れたな」
「え?」
男がニヤニヤしたまま聞き返す。
「疲れた」
「ヤリ疲れか?だらしねぇな、社長を見てみろよ。おれも自慢じゃねぇが、それだって社長の半分っくれぇなもんよ。お前なんかさらにその半分ってとこか?今度知り合いの薬剤師を紹介してやっからよ……」




