アンデッド公爵家の毒より危険なカレー
皆さま、ハッピーバレンタイン╰(*´︶`*)╯
今日は偶然にもアンデッド公爵の誕生日。
ケネシーは公爵にサプライズをしたくて、内緒でカレーを作り始めるのでした。
アンデッド公爵家のキッチンにて──。
ふん、ふふ〜ん♪
妻・ケネシーの愛らしい鼻歌が聞こえる。
いや、盗み聞きしている。
キッチン横の大理石の柱にくっつくヤモリのようにピッタリと張り付いて聞いている。
今日は私の誕生日に手作りのカレーを作っているらしいのだ。
思い返せば妻との出会いはショッキングでポイズンだった。
私は刺客対策で毒を常用している。
それを知っているようで毒を盛ってくる妻。
私は妻に毒殺ネタを振ってみたのになぜかイマイチだった。
彼女は天然で毒瓶まで入れちゃううっかり屋さん。
最近は新しい毒の開発に目がないようだ。
今日はこっそりそれを眺めることにしたのだ。
キッチンのコンロには大きな寸胴鍋。
先ずはジャガイモに人参、玉ねぎ。
ジャガイモは外側を洗って皮ごと入れるようだ。
(ジャガイモの芽は出ていないようだ。今日はこの毒ではないのか)
人参も同様。
玉ねぎは外側をニ、三枚剥いてそのまま入れる。
(なるほど……? 煮崩れ予防かな)
そのまま水を入れて火をつけた。
紙箱を開けるとローリエが顔を出す。
肉には塩コショウ。隣ではフライパンで慣れた手つきで肉を焼いている。
肉の焼ける美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。思わず口の中によだれが溢れる。
(今日は食中毒か? それにしてもよく焼いているな。菌が死ぬぞ……もしかして毒素を吐き終わったものか。それならいくら加熱しても残る。うちのケネシーはよく考えているな)
そこに何を思ったのか、箱ごとローリエを寸胴鍋へ投入。
(最近、『旦那様、お野菜も出せないといけませんわ。もっと食物繊維を取りませんと』と言っていたが、紙繊維とは斬新だな)
するとキッチンから声が上がる。
「あれっ、ローリエの箱は何処に行ったの?」
私は心臓を鷲掴みにされたように苦しくなった。前かがみになって耐える。
(何? もしかしてうっかり入れてしまったのか……?)
そこへ爺やが気配もなくやってきた。
『旦那様、大丈夫ですか? 気化毒でも?』
小声の配慮をする爺や。
『いや、大丈夫だ……もしかして気化系の神経毒……?』
鼻を動かし嗅いでみるが匂いはしない。
(匂いの出ない毒とはよく考えたものだ。あとでケネシーに聞いてみよう)
「へへっ、内緒で入れちゃった。グリム様は気がつくかな?」
可愛らしいケネシーの声は照れている気がする。
爺やと話している間に何やら投入されたらしい。
爺やはこの時ばかりは、目に力を入れて『私が毒味いたしましょうか?』と図々しい提案をしてきた。
「ケネシーは私の妻だ。私の誕生日の手作りの料理を先に食べることは許さん!」
爺やは呆然とした。
「やっぱり気化毒にやられたのですぞ」
* * *
私は大広間の椅子に座っていた。
正直、楽しみすぎて昨日からあまり食べていない。
毒が入っていたら耐えられるか分からない。
でも人生最期くらい妻の手料理を頬張りたい。
妻はおしゃれしてきたようで、外行きのドレスを着ている。
「今日もケネシーは美しいな」
「グリム様……実は、カレーを作りました」
(知っている!)
私は目玉が出るほど目を見開いた。
「知っ……ごほごほっ」
そこで慌てて声が出ないように咳払いでごまかした。
「そ、そうかそれは楽しみだな」
行儀悪く足で貧乏揺すりしてしまったが、バレていないようでほっとした。
爺やが私に視線を送りながらカレーを持ってくる。
(爺やは根に持っているな。それでもこの一口目は……)
楽しみで高鳴る胸を抑えきれないので、頭の中で創国史を思い出していた。
(この国を創った神は……)
ようやくやってきたカレーは茶色。匂いも変ではない。
驚愕した。
(これほどまでに自然と毒を盛れるなんてケネシーは才能がある!)
カレーのスパイシーな匂いに鼻が刺激される。
口に入れると、カレー独特のスパイスが口の中で躍る。
そして、甘い、甘い甘……いや、辛い、塩辛い?
あま……これは……その後ろから塩分が舌の感覚を掻っ攫っていく。
あと食べ物ではないマスキングするような食感と味。
(これは紙繊維か)
シャリ、シャリ。
(これはジャガイモの皮……)
野菜は人参しか浮いていなかった。
ジャガイモも皮のみで玉ねぎは姿を消した。
「どうですか?」
「うむ、ものすごく独特な味がする。今まで食べたことのない新鮮な味だ!」
そう答えてもケネシーの探るような目は私に向けられたまま。
「あの、何が入っていたか分かりますか?」
「うむ……」
(まだ効いていないが、食中毒、気化毒、神経毒、あと見ていないが新種の毒?)
私がスプーンを上に持ち上げると不審な丸い玉が見えた。
「これ……か?」
(これはなんだ? 新種の毒か? 国内で見たことないぞ)
「やだ……それは(小麦粉の)ダマです……」
「ダマ……」
私は己の無知にスプーンを震わせた。
(国外のものか……私はそんなことも知らなかったなんて……白いということは植物由来の精製物なのだろう……)
「実はチョコレートが入っていますの! ちょうど、バレンタインですし……」
「チョコレート!?」
私は思わず立ち上がった。
(カカオマスが使われているこのチョコレートは薬と並ぶ効果のある物だろう? すごい……毒と薬を入れることによって中和を目指したというのか……)
「素晴らしい……ケネシー、素晴らしい!」
ケネシーは頬を火照らせて喜ぶ。
「えへへ、本当ですか? 嬉しいです。いっぱい食べてくださいね」
私は人生で初めて食べ過ぎでお腹を壊した。
お読みいただきありがとうございました。
ここに出てきた二人の馴れ初めは姉妹作品『毒殺を狙うスパイ妻vs死にたがりのハイパーポジティブな公爵〜凄腕爺やもおりますぞ〜』(N0293LO)コメディー短編に描かれています。




