ハイスペ転生したのに攻略対象が全員攻略済でオワタ。
アラサー彼いない=年齢の私、子供をかばってトラックにはねられ死亡……オワタ。
◆
「神様ありがとぉぉぉぉ!!!」
神は!私を!見捨てなかった!!
だってここ、『恋する令嬢と七人の王子様』の世界!!
めっちゃ好きな乙女ゲーム!!攻略対象がみんな尊すぎるんだけど!!
鏡を見ると、金髪ゆるふわの完璧美少女。
しかも――ヒロイン、セリーナ・メイスンだし!
ステータス開いたら全パラメータMAX。
教科書開いてもスラスラ頭に入るし、所作も自然と令嬢。と言うか、身体軽っ!肌すべすべ!若さ最高!!
ハイスペ転生とか最高すぎる。
「しかも……このゲーム、ライバルキャラいないストレスフリー仕様だし!」
「みんなごめんなさいねぇぇぇ!?私だけ逆ハーレム学園ライフ満喫させてもらうわ!!」
はぁ、はぁ……テンション上がりすぎて過呼吸になる。
だってリアルで“全員に好かれて困っちゃうヒロイン”できるなんて!
ウキウキで侍女たちに支度を任せ、馬車で学園へ。
門をくぐりながら宣言した。
「よし、初めは一番大好きなアルフレッド様に会いに行こー♡」
出会いイベント、ここが一番の萌えどころなんだよね。
◆
「えっ……」
攻略対象その①、騎士団長アルフレッド。
令嬢と手をつないで歩いている、だと……!?
思わず通りすがりの男子生徒に声を掛ける。
「あの……、あの方は?」
「アルフレッド様の婚約者ですよ」
「!?」
嘘でしょ!?そんなキャラ、ゲームにいなかったんだけど!?
ふらついて壁にもたれると、その生徒が心配そうに声をかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……ありがとう……」
その後ベンチで呼吸を整え、必死に自分をなだめる。
――転生が奇跡なんだから、多少の相違くらいあるわよね。
そう言い聞かせ、次の攻略対象に会いに行った。
◆
攻略対象その②:天才魔導師レオン。
→彼女と手つなぎ登校。
攻略対象その③:幼馴染リオ。
→リア充爆発中。
攻略対象……以下略。
……\(^o^)/
「逆ハーレムどころか恋愛ルート全滅してるし!!」
スチルイベントしたかったのにぃぃ!!
バグってる!?
神様これバグってますよ!?
詰ゲーですけどぉぉぉ!!
こんなのモブとか悪役令嬢転生より救いがないじゃん!?
お金あるから!!
攻略サイト課金で見せてください神様!!
賽銭箱どこよぉぉ!?
……はぁ、はぁ……
よし。
最後の望みをかけ、王子ルートに切り替える。
彼はこのゲームのメインヒーロー。
父王から「学園で最も完璧な令嬢を選べ」と言われてる。
学園一完璧美少女の私を選ばない理由がない。
そう確信して王子に会いに行った――
◆
「私には、幼い頃から決まった婚約者がいるんだ」
……なんでやねん!!
思わずカップを落とし、紅茶が白いクロスに滲んだ。
まさかの全ルート全滅。
「……もしかして、私、ゲームで彼らを振って遊んでたから?」
「取り合いさせてニヤニヤしてたから……?」
いやこれくらいみんなしてるでしょ……?
そう言い聞かせつつも、自分の行いを思い出し、納得と後悔をくりかえす。
神様……私、何かしましたか……?
毎年初詣には行ってたし、実家の仏壇もたまに掃除してた。
なのに、この仕打ちはなに?
憧れのキャラを目の前にしてるのに、相手の目には映らないなんて。
そう思いながらベンチで項垂れていた。
「大丈夫か?」
顔を上げると、クラスメイトのハロルド。
そういえば、登校初日に初めて話したのは彼だっけ。
「よかったらこれを使って」
無意識に涙を流していた私に、彼はハンカチを差し出し、静かに去っていった。
――ちょっと、キュンとした。
……そうよ、ゲームじゃないんだから攻略対象と恋愛が必須じゃない。
こうなったら割り切って、学園生活を全力で楽しもう。
青春を、もう一度味わってやろうじゃないか。
◆
結果。
めっちゃ楽しい。
授業はスラスラ理解できるし。
魔法理論では教授が黒板を書き終える前に答えを出し、錬金術の実習では誰より早く香草を調合した。
異世界の授業って、なんでこんなに面白いんだろう。
拍手が起こるたびテンションが上がる。
十代の身体で笑って、恋バナでキャーキャー言って、胸が弾む。
攻略対象の婚約者たちとも仲良くなって、恋の話で盛り上がる毎日。婚約者視点の攻略対象の話聞くの面白過ぎる。
――そもそも地味なアラサーが、こんな完璧美少女に生まれ変われただけで、
それだけでご褒美だと改めて気づいた。
学園生活の中で、ハロルドとはいつの間にか気が合うようになっていた。
研究発表ではペアを組み、最優秀賞を受賞した。
「セリーナって変わってるよな」
「え?」
「人気者のくせに、俺なんかとつるんでくれるし」
「ハロルドと話すの楽しいから」
そんなやり取りが、妙に心地よかった。
◆
そして卒業の日。
告白イベントがないのは分かっていたから、さっさと帰ろうとした時――
「セリーナ、卒業おめでとう」
振り向くと、ハロルドが立っていた。
「君と過ごす日々が、一番楽しかった」
「俺の“永遠の相棒”になってくれない?」
……え、なにそのくさいセリフ。
こんなシチュエーション想像していなかった。
攻略対象でもない、ゲームの告白シーンと場所もタイミングも違うけど――胸の奥が温かくなった。
「はいっ!」
気づけば笑って答えていた。
推しじゃなくても、愛され人生で十分。
攻略対象じゃない彼が、神様のくれた隠しキャラだったのかもしれない。
――こんなところに、ときめきが、あっただなんて。
私を攻略してくれた彼に微笑み返しながら、
新しい物語の門を、二人でくぐった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブックマークや感想・評価などいただけると励みになります。
◆お知らせ
今後の新作予告や更新情報は、Twitter(X)でお知らせしています。
→ @serena_narou
ぜひフォローしてチェックしていただけたら嬉しいです。