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マンドラゴラと夏休み

作者: 砂上楼閣

『ア″ア″ア″ア″ァ…』


吾輩はマンドラゴラである


名前はまだない……こともない


吾輩を捕獲し実験漬けにするご主人には、ゴラちゃんなどと呼ばれたりしている


見た目はやや大根寄りの寸胴体型ナス科の宇宙生物である


元々はスラリとしたナイスバデーだったのだが、近所にヘビメタ好きな住人が越して来てからなぜか随分と太ましくなってしまった


勇者に大根と間違われて抜かれ、紆余曲折の末にこの研究室にやって来た


日がな一日実験で弄り回されることもあれば、切り刻まれてはポーション入りの栄養剤で再生させられたりする


そんなマンドラゴラにとっては平凡でありきたりな日々を漫然と過ごしている


何せ吾輩はマンドラゴラ


希少な植物故、見つかってしまえばこうなる事は至極当然といえる


一思いに高級ポーションにされなかっただけでも儲けものである


幸い吾輩には人間のような痛覚は備わっていないので、多少根っこを切り取られたところで問題はない


ふむ?


マンドラゴラは頭部の草以外は全て根っこだろう?


たしかに


人間と似通い、実際手足のように動かせるが体のほとんどは根である


顔の部分が主根で、手足のような部位が側根である


栄養さえあればまた生えてくるので問題はない


水と陽の光、栄養のある土と微量でも魔素の混じった空気さえあれば吾輩たちは生きていられるのだ


が、逆を言えばそれがなければ普通の植物同様に枯れてしまうわけで


そして今、吾輩は今際の際に瀕している…


『ア″ア″ア″ア″ァ…』


吾輩のご主人である錬金術師、アルケミストが研究室に来なくなってから今日で何日か


『なつやすみ』とやらはいつ終わるのだろうか…?




主人であるアルケミスト、彼女は『万能薬』なるものを作り出すことを目的として研究しているそうだ


日夜吾輩を切り刻み、すり潰し、煮て抽出したりと研究に明け暮れている


その甲斐あってか限りなく効果の高いポーションの開発には成功しているらしい


しかしなんでも、がん細胞?には効果がないとのこと


それどころかむしろ活性化させてしまうとかで、研究は行き詰まっている


最近では別のアプローチをするとかで、朝に水をかけられる以上のことはされていない


今ではなぜかペットのような扱いを受けている


まぁ美味い栄養剤と土、水がもらえれば文句はない


幸いこの研究室の窓辺は陽当たりも悪くはない


しかし


『なつやすみ』になってからは栄養剤はおろか水すら与えられていない


ほどよく湿っていたはずの土は乾き、表面はパサついてきた


度々研究室を爆破するアルケミストには巻き添えで何度殺されかけたか分からないが、今回は洒落にならない


土から出て歩き回ろうと思えば歩き回れるが、窓辺に置かれてるため、それもできない


絶望的である


『なつやすみ』が何か知らないが、日ごと萎びていく身と心に、吾輩は一つ心に決めた


死なば諸共…


次アルケミストが顔を出した時には特大の『声』を聴かせてやろう、と


吾輩はマンドラゴラ


煎じて飲めば多くの効能を齎すが、一度叫べばあらゆる状態異常と最悪の場合死を齎す者


『ア″ア″ア″ア″ァ…!』


覚悟せよ


例え植物であっても、その命の危機とあらば容赦はせぬ…!



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