05:our sound
「たまにはカイリの作った曲もやってみたい」
スタジオでの練習、ちょっとした休憩時間にぽつりと言ったのはアヤ。
「え」
つい、そんな声が漏れる。
「そうだね、そろそろカイリにも一曲くらい任せたいかな」
レインが流し目でこっちを見やる。
「そんなに身構えないでリフの一つでもいいからさ」
ミヤは相変わらず笑いながら。
皆乗り気である。
「いやいやいや、そんないきなり言われても」
大丈夫、と言ったのはレイン。
「次のライブに仕上がればいいから」
全然大丈夫では無い。
次のライブまで後一ヶ月も無いのだ。
「期待、してるから」
アヤまでそう言う始末。
こうして、自分は初めての作曲をすることになったのだ。
家に帰りベースを抱える。
作曲の本を開いてはみたが、その通りに作ったのではどうしても腑抜けたポップスになる。
どの音が繋がると格好いいか、どんなリフを刻むのか、そう考えると、自然何時も使っているペンタに帰ってくる。
時折ブルーススケール何かに行きながら色々と試行錯誤、良い音の繋がりが見つかる度にメモを取っていく。
何時しか部屋には月明かりが差し、メモを取った紙に囲まれながら、段々と楽しく感じている自分に気付く。
そう、何かを作ると言うのはこんなにも楽しい事なのだ。
深夜も二時を回った頃、ようやくできたイントロ、Aメロ、Bメロ、サビのループを弾きながら、僕の脳裏にはレインの甘やかなギターとアヤのきらきらとしたサウンド、踏み分ける強いミヤのドラムが流れていた。
「……鏡、見た?」
翌日、迎えに来たアヤに言われた。
それほど、疲れて見えたらしい。
自分としてはかなりノッてたのだけれど。
体育の授業では足がつり、休んでいたはずの保健室で終業まで寝ていた。
徹夜明けの激しい運動、ダメ、ゼッタイ。
因みに起こしてくれたのはアヤで、聞けば結構長い間付き添いしていてくれたらしい。
翌日。
前日死んだように寝てたお陰で体調はすこぶる良かったが、自分の作ったベースラインだけの曲を出す事を考えると、若干気が重かった。
「さて、できたのかい?」
そう聞くレインの目が嬉しそうに輝いて見える。
尚更出しにくいじゃないか。
「はい、一応……」
タブ譜とコードを書いた紙を出すと、レインは軽く頷いて確認する。
パッと見たと思ったらもうギターを担いで居るのだ。
軽く弾くだけで、僕の理想に近いメロディが流れる。
ベースラインを見ただけなのに。
「テンポは、これくらい?」
うなずく。
一日かけて作った労力が、そのまま報われたかのような、不思議な脱力感を感じながら、暫くその音に聞き入っていた。
けれども、当然それで終わりでは無い。
ライブに向けてその曲を練習しなければいけないのだ。
基本的には単純で力強いロック。
マイナーを多用した進行で出来たその曲は、皆のダメ出しやコードの見直しを受けながら組み直されていく。
何より、一人ベースだけで聞くと良いラインでも、他と交わると汚く聞こえたりするのだ。
ライブ数日前に本当の完成を見せたその曲は、僕の手を離れて、フェイスレスの中で育った。
確かに皆の音がして、けれども骨子は僕の曲。
ライブを控えた数日前に僕は不思議な感動を覚えていた。
蛇足にはなるのだけど、あまりMCをしないフェイスレスだが、珍しくミヤが曲の合間に喋った。
「この曲はカイリが作りました、こんなんフェイスレスじゃねぇ、って方はペットボトルでも投げてください」
そんな事を言って、四カウント数え始めるのだから酷い。
反応する間もなく曲は始められたのだった。
幸い、ペットボトルは飛んでこなかったのだけれど。
「曲、良かったよ」
そうライブの後に言ってくれたアヤの笑顔が、せめてもの救いだった。