encore04:drop
ロックのベーシストにテクニカルなフレーズは必要か?
そう問われれば、俺ならNO、と答える。
「よっ、久しぶり」
久々の伯母宅。
「何しに来たのかい?裏切り者」
そう言ったのはレイン。
それは俺が付けた名前だ。
「おいおい、いきなり挨拶だな、従妹殿?」
「否定はしないんだね、ユウキ」
互いに名字は結城なのだが、別に名字で呼ぶ程遠い仲と言うわけではなく、それが俺の……言うなればバンドネームと言った所なのだ。
「そういや今お前って寮住まいじゃ無かったか?」
「荷物を取りに来たんだよ」
言われてみればその手にはベースケース。
最初から付属していた薄っぺらい奴。
俺が初めて買ったアリアプロのベース。
「それ、まだ使ってたのか」
「もう二個程は使う気にはならなかったからね」
で、何しに来たの?
腕を組んで冷やかな目でこっちをみるレイン。
いつの間にこんな仲になっちまったかな。
「いや、俺も預けてた物取りに来ただけだよ」
僅かに身動ぎするレイン。
「サンダーバードかい?」
「ああ」
ギブソンサンダーバード。
プレべと並びルックスもサウンドもロックには最高のベースだと俺は思っている。
勝手知ったるなんとやらで部屋に入ってベースを出す。
「……アティテュードは?」
玄関からレインが声をかける。
「……お前ん所のベースにでもやってくれ」
「ふざけるな……」
低く、唸るような声だった。
「お前の所のベースもなかなか悪く……」
「出てってくれ」
レインは呟くように言う。
「貴方の話は聞きたくない」
色んな感情が撹拌され、混じりあった声。
「ああ、分かった」
俺にはこれ以外の言葉があっただろうか?
俺の居場所は今やここでは無いようだ。
フェイスレス、今のレインのベーシストはあの少年なのだろう。
勝手な願いだが、彼にはレインを裏切って欲しく無いと、そう思った。
フェイスレスなんて名前をつけたのに、な。