地獄の底で後悔しな
「猿飛……」
その空間に誰がが進入してきた。
それは由利。頭にはぐるぐると包帯が巻かれている。
「なんだカマキリ、サルの骨、拾いに来たか?」
淡々と言い放つシュウ。
「冗談だよね、シュウ。ボクがキミに負けるとでも思ってる?」
その眼前、猿飛が言った。
「普通の人間相手なら、このシュウ様が負ける訳ねーだろ」
それをシュウが右手をかざして煽る。
「普通ね」
対する猿飛。切り刻まれた蜘蛛の巣を覚めたように見つめる。
これでは上空に逃げるのは困難だろう。彼女は本当の猿じゃない、普通に飛んでもせいぜい1メートルが限界。
「仕方ないな」
言って足首に着けた装置を取り外す。
ガシャがシャと音を立てて床に落ちる装置。察するに高く飛ぶための装置だろう。
「征四朗、悪いけどイチゴを頼むね」
そしてイチゴを由利に託して、再びシュウと向き直る。
「ボクを本気にさせたこと、地獄の底で後悔するんだね」
「冗談、俺様が負ける訳ねーだろ」
一瞬の沈黙。
すかさず飛び出すシュウ。
猿飛目掛けて拳を繰り出す。
しかしそれを猿飛は身を低くして搔い潜る。
くるりと回転し、シュウに足払いを仕掛ける。
「くっ」
それを上空に飛び退いて回避するシュウ。
そのまま飛び蹴りを放つ。
「甘いね!」
だがそれを猿飛はバク宙で回避した。
とんとんと床の上を回転して、いきなりシュウ目掛けて突っ込んでくる。
「ぐっ!」
すかさず両腕を盾にしてガード態勢を取るシュウ。
狂音を響かせて、猿飛の拳が突き刺さった。それでも小柄な猿飛のこと、さほどダメージはない。
「そんなもん効くか!」
体勢を変えて、攻撃に転じようとする。
「だよね!」
だがその眼前、いまだ猿飛の姿があるのに気づいた。
「そもそもこれが本命だから!」
言って猿飛はくるりと回転して、シュウの鼻頭に頭突きを叩き込んだ。
「くそっ!」
流石にそれはシュウにも効いたようだ。よろよろと後ずさり、間合いを取る。
「成る程、甘く見てたのは俺の方かもしれねーな」
体力、腕力、スタミナ、耐久力で、大いに猿飛を凌駕するシュウだが、猿飛の圧倒的スピード、及びトリッキーな攻撃に手を焼いていた。
その正体を現したこと、それに今まで取り付けていた装置を外したことで、その能力を百パーセント解放した結果だろう。
この少女、本当に強い。おそらくそうとう場慣れしている。百戦錬磨の強者のそれだ。
流石のシュウも、本気で行かなければヤバイと思っていた。




