共闘する面々
既に闇夜が訪れていた。
街並みはネオンの光で包まれ、美しく点滅している。
雑踏は人混みで溢れ、和やかな時間が支配していた。
その一角のファミレスに、数人のオーク生徒が集結していた。
メンバーは大野朝陽、玉木仁、湯田淳也、古谷祐、その他数人。
そしてその後方の壁際には、彼らの配下らしい男たちが剣呑な雰囲気で立ち尽くしていた。
「ヘヘッ、これだけのメンバーが揃うと、痛快って感じだな」
それぞれの表情を窺う湯田。
ひどく昂揚したようで、終始笑いっぱなしだ。
「大瀬良の奴にも声を掛けたんだがな、今日は予定があるってさ」
古谷が言い放つ。
「大瀬良、大瀬良拓未か?」
金髪をハリネズミのように逆立てた男が訊ねた。
それは鳳仙了。湯田にそのケンカの非情さを買われて、この場に召集されたていた。
「ああ、あの開清中学にひとりでブッ込んだってつわものさ」
「だけどあいつ、族との付き合いあるだろ? 暴走族同士のケンカで、ガッコーの争いに力を入れられねーんじゃねぇ?」
「そん時はそん時さ。ウチはひとりでも多いに越したことはねー」
「単なる頭数合わせってことかよ」
彼らの会話は、妙にチグハグしたものだ。
これから一致団結して、オークと言うステージに立つものとは思えぬもの。
「ヘッヘッヘ、そんなんで大丈夫なのかよ。こんな烏合の衆じゃ、葛城とかに横っ腹喰らい付かれてお終いだぜ?」
玉木が吐き捨てた。
ソファーにゆったりと背を預けて、ひどくリラックスムードだ。
「確かにそうだ。葛城と山崎が手を組んだのは面倒だ。3年のほとんどが山崎の手の内だからな」
「奴を信頼し、多くの猛者が集結してる」
「問題はそれだけじゃねーぞ。今年の他の新入生、見たか。ナイトオペラの沖田一弥、同じく浅郷龍馬。更に新開アンディ、櫻井敦司、東雲斗馬。名前は知らないが、東京から来た2人も厄介だ」
「一筋縄じゃ行かない連中だな」
「それにもうひとり、ヤバい奴がいる。黒瀬修司。……魔王シュウ」
その台詞に、大野の表情が強張った。
「魔王。……今日の入学式にいたか?」
「さあ、ここ数ヶ月、顔さえ見たことないから」
「噂じゃ昼間引き篭もって、夜中だけ徘徊してたらしいからな」
「夜中に徘徊して、沖田たちとケンカしてるんだろ?」
「コエーよな。見境なくケンカ売るってんだから」
「でも、今日の式典で見たって奴もいたぜ。壁際から、獲物を探すように睨んでたとか」
「しかしどういう心境なんだろな。通り魔に刺されてから、中学もほとんど行かなくて、突然オークに入学だもんな」
「知らねー。だけど、そのせいでオークに続々と入学者が続出したんだけどな」
後方で男達が口々に話し合う。
そして湯田が、その会話を静かに聞き入っている。
「なあ朝陽、シュウの奴を俺達の仲間に引き込むこと、出来ねーのか?」
大野に向かって切り出した。
「確かに奴がいれば、オークの覇権争いなんか、容易いな」
その意見に、古谷も同意する。
場の面々の視線が、大野に注がれた。
「ムダだ」
大野が答えた。
「奴は“死んだ”。あいつは俺たちが見守る中で、死んでいった。……いま生きてるのは“黒瀬修司”であって、“魔王シュウ”じゃない。あいつを当てにすることは出来ない」
それは苦渋にまみれた複雑な台詞だった。
大切な存在だから受け入れ難く、大切な存在だからそう言わざる得ない……
そんな漠然とした台詞。
「だけどな、朝陽」
「訊いてみろよ? あいつだってガッコーに入学したんだろ。少しはやる気になったってことじゃんよ」
それでも湯田たちは引き下がらない。
彼らにとって“魔王シュウ”のビックネームは、是が非でも欲しい存在らしい。
「おいおい、奴の名がなきゃ、なんも出来ないってのか?」
堪らず言い放つ玉木。
「馬鹿を言え。俺はそんなつもりで言ったんじゃない」
慌てて反論する湯田。
「そうさ、これだけのメンバーだぜ。シュウなどおらんでも無敵よ」
同じく古谷も言い放つ。
そして包み込む沈黙。
口にするのは簡単だ。だが現実は厳しいもの。これから起こり得る様々な予感が、彼らの口を閉ざしていた。
その面々の表情を、玉木が静かに見回す。
「なぁ、あんたはどう思う? この戦争勝てると思うか?」
そして大野に振った。
それで全ての視線が、大野に注がれた。
腕を組み、じっとテーブルに視線を落とす大野。
「確かにこの高校に入学した、多くの奴らは脅威の存在だ」
そして静かに言い出した。
湯田を始めとした、多くの面々がうんうんと頷き聞き入る。
「葛城誠、東雲斗馬、沖田一弥、浅郷龍馬。……その他大勢。まさに戦国乱世という有様だ。その誰もが、この学校を支配する資質を秘めてる。今の俺なんかじゃ、太刀打ち出来ないだろ」
「へぇー、冷静な判断力だな。自らの非力を認め、敵を判断出来るなんざ、そうそう出来る芸当じゃねー」
玉木が嘲るように言い放った。
「だがそれは、個人としての意見だ。これは戦争、個人の力で敵わぬとしても、多くの仲間がひとつにまとまれば、崩せることもある。例え今は烏合の衆だとしても、その見据える方向がひとつだとすれば、この乱世も凌いで生きてゆける。巧く融合すれば、奴らだって叩き潰すことさえ叶えられる」
堂々と言い放つ大野。
「そうさ、そうなりゃ俺達は最強だ。連合を組んで向かってくる敵を返り討ちにあわせる」
湯田が言い切った。
「沖田や浅郷は、当分は動かないだろ、なんせ自分らの足元を固めるので必死だ。今一番怖いのは東雲と葛城」
古谷も同意した。
「だな。まずはあの2人に対抗する体力を付けようぜ」
「それからでもてっぺん目指すのは遅くないしな」
「乗るわ、その連合」
他の面々も、呼応して言い放つ。
だがやはり、玉木だけは覚めた態度だ。
ファーッと大欠伸を掻き立ち上がる。
「おい玉木、どこに行くつもりだ?」
堪らず鳳仙が投げ掛けた。
「お仕事だ、お仕事。こういう遮断空間に、やろーどうしで籠もってちゃ、気が滅入るったらありゃしねーかんな」
「話は終わっちゃいねーんだぜ。どうするんだ、この話、乗るのか乗らないのか?」
その湯田の台詞を、背中で聞き入る玉木。
「乗るさ。あんなクソガッコー、ひとりでいるのは俺だってキツイ。どんなくせ者だろうと、孤立無援でいるよりナンボかマシだかんな」
やがてその姿を、室外に消していった。
残された面々、覚めた空気が漂う。
「あいつ、この情況を理解してんのかよ?」
「マジだわ。ホントふざけた野郎だ」
「仕事って、どうせ“ナンパ”だろ。相当の好きモンだからな」
やがて呆れたような空気が包み込んだ。
玉木の異名は“ナンパ師玉木”。綺麗なおねーさんを口だけで落とし込む。相当な好きモノだ。
「とにかくこれで連合結成だ。明日から葛城たちは、長期の停学。その間が勝負だと思ってくれや」
湯田が言い放った。




